HPVワクチンを接種した世代が20〜24歳に達した2020〜2024年の5年間、イングランドのこの年齢層で子宮頸がんによる死亡者数がゼロになったと、2026年6月、医学誌ランセットに掲載された研究が明らかにした。
ワクチン接種がなかった場合の予測死亡者数は約23人とされており、HPVワクチンが実際に命を救う効果を持つことが、長期の死亡データによって確認された形だ。
子宮頸がんの99%はHPV感染が原因
子宮頸がんは、発生原因が特定されている数少ないがんの一つだ。世界保健機構(WHO)によると、子宮頸がんのほぼすべて(約99%)は、発がん性HPV(ヒトパピローマウイルス)の持続感染が原因とされる。
HPVは皮膚や粘膜の接触を通じて広がるウイルスだ。感染しても多くは自然消失するが、一部が排除されずに残ると、数年から数十年かけてがんへと進行することがある。
WHOは2020年、子宮頸がん撲滅に向けた世界戦略として「90-70-90目標」を打ち出した。
- 90:15歳までに90%以上の女子がHPVワクチンを接種する
- 70:35歳と45歳の2回、70%以上の女性が適切な検診を受ける
- 90:病変が見つかった90%以上の女性が適切な治療を受ける
その効果を示す実際のデータとして、今回のランセット誌の研究が注目される。
イングランドのHPV接種世代で死亡者ゼロに
今回発表されたイングランドの研究は英ロンドン大学クイーン・メアリー校のピーター・サシエニ教授らのチームが主導した。
イングランドでHPVワクチンの接種が始まった2008年以降に接種を受けた世代が成人年齢に達したことで、接種の効果が実際の死亡データとして初めて確認できるようになった。
- 2020〜2024年の5年間、イングランドの20〜24歳女性における子宮頸がん死亡者数:0
- ワクチン接種がなかった場合の予測死亡者数:約23人
- 12〜13歳でワクチン接種を受けた場合、30歳以前に子宮頸がんで死亡するリスク:ほぼ0
- 接種キャンペーン開始以降に救われた命の推計:約200人
研究チームは、接種世代がさらに年齢を重ねるにつれ、救われる命の数は今後も増加すると予測している。
日本のHPVワクチン接種、「空白の9年間」を経て回復傾向に
日本でHPVワクチンが定期接種に追加されたのは2013年。しかし同年、接種後の症状をめぐる報道などを受け、厚生労働省は同年6月から積極的勧奨を差し控えた。
その後の研究で、他の予防接種と比べて特に重い副反応を起こしやすいわけではないことが確認されたが、停止は約9年間続いた。
大阪大学の研究によると、積極的勧奨の停止期にあたる2000〜2003年度生まれの累積初回接種率は4.62%にとどまった。一方、日本対がん協会が2025年に実施した調査では、2009年度生まれの接種経験率は66.2%となり、接種率は回復傾向にあることが示された。
ただし、前者は行政データを基に算出した累積初回接種率、後者はアンケートによる自己申告の接種経験率であり、単純な比較はできない。それでも、積極的勧奨の再開後、接種が広がりつつある可能性がうかがえる。
参考記事:HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)って安全なの?副反応が多いといわれた理由は?産婦人科医に聞きました
日本対がん協会の調査では、ワクチンのイメージにも変化が表れているという。
前年まで最多だった「副反応が多い・多そう」というイメージが後退し、2025年度は「予防効果がある・ありそう」(21.1%)がトップになった。一方で、非接種の理由として「副反応が不安」を挙げる人は依然として52.6%にのぼる。
参考記事:HPVワクチンを公費で接種できることを「知っている」が34% 接種を迷う理由は?
ワクチンと検診はセットで
HPVワクチンは、子宮頸がんの主な原因となるHPVへの感染を予防するが、すべてのHPV型を防げるわけではなく、すでに感染している場合に治療効果はない。
ワクチン接種の有無にかかわらず、定期的な検診を受けることが推奨されている。
現在の定期接種対象(2026年時点)
- 小学校6年生〜高校1年生相当の女性(公費で接種可能)
- 男性は現在任意接種(全額自己負担)。2025年8月に9価ワクチンの男性への適応が拡大され、尖圭コンジローマ・肛門がん・口腔咽頭がんの予防が期待できる。国の定期接種化は検討中で、一部自治体では費用助成が始まっている
子宮頸がん検診
- 20歳以上の女性を対象に、2年に1度の受診を推奨
- 多くの自治体で無料または低額のクーポンを配布
英国では、HPVワクチンを接種した世代が成人となり、子宮頸がんによる死亡を防ぐという成果が実際の人口データとして示され始めた。
日本でも接種率は回復傾向にあるものの、子宮頸がんの予防にはワクチン接種だけでなく、20歳以降の定期的な子宮頸がん検診を受けることが重要だ。














