年間約2800人の命を奪っている子宮頸がん。子宮頸がんの95%以上はHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染とされており、適切な時期にHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)を接種することで、30歳までに子宮頸がんになるリスクを88%以上予防することができる。

日本で、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の定期接種が始まったのは2013年のこと。その頃、ワクチン接種後に痙攣などの症状が出た事例をメディアが報道しました。そして、厚労省はHPVワクチンの定期接種を積極的に勧めないことを決定します。

その後の研究によって、HPVワクチンは特別危険性が高いわけではないことが確認されました。そして、2021年8月31日には厚生労働大臣が、HPVワクチンの積極的勧奨に向けて、専門家と審議を進めていくという方針も示しています。

しかし、過去の経緯から「HPVワクチンは副作用(副反応)が特別に多い」というイメージをもっている人がまだまだ多いのが現状です。

そこで、HPVワクチンを啓発するプロジェクト「みんパピ!」の代表理事である産婦人科医の稲葉 可奈子さんに、HPVワクチンに関する最新の状況や、HPVワクチンに関するさまざまな質問に答えてもらいました。

みんパピが、4月9日子宮頸がんを予防する日(子宮の日)に掲載した新聞広告。

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)とは

ーーHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)について教えてください。

稲葉さん(以下、稲葉):HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)とは、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を予防するワクチンです。HPVにはさまざまな型がありますが、HPVワクチンは特にリスクの高い型のHPVの感染を防ぎ、子宮頸がんなどの病気を予防します。

現在日本では、小学校6年生~高校1年生の女子が、HPVワクチンの予防接種を無料で受けられます。この年齢層が対象である理由は、初交前のワクチン接種がもっとも効果が高いからです。

HPVワクチンは期間を空けて、3回接種します。高校1年生の3月までにすべての接種を終えるためには、1回目の接種を遅くとも高校1年生の9月までに接種しておく必要があります。

ーー対象年齢を過ぎてしまうと、有料になるのでしょうか?

稲葉:対象年齢を過ぎてからHPVワクチンを接種する場合は自己負担となり、4万円以上の費用がかかってしまいます。

そのため、とくに高校1年生の女の子や保護者の方には、HPVワクチンに関する正確な情報を知った上で、接種を受けるべきかという判断をしていただけたらと思います。

また、期限が過ぎてしまった場合でも、高校2年生以上の女の子を対象に定期接種の期限を延長している自治体もあります。一度お住まいの市区町村に問い合わせてみてください。

ーー対象年齢を過ぎると、接種したときに効果がないのでしょうか?

稲葉:高校2年生以上であっても、また、すでに性交渉の経験があっても、HPVワクチンは有効です。費用と効果を加味すると、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の接種が推奨されているのは26歳までです。

厚労省がHPVワクチンの積極的推奨を取りやめている影響で、接種の通知が届かずに接種できなかった年代の人たちがいます。こうした方々にも補助が出るようになればと思っていますが、現状はカバーされていない状況です。

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)は副作用(副反応)が多いといわれた理由

ーーなぜ、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)は副反応が多いと言われたのでしょうか?

稲葉:「HPVワクチンは副反応が多い」と言われたのは、ワクチン接種後に歩けなくなった、痙攣がおきたという訴えが複数あったからです。

本来、「副反応」と呼ばれるのは、ワクチンと因果関係があると認められた症状だけです。副反応であるかを調べるためには、ワクチンを接種した人とそうでない人を比較したり、一人の人の接種前・接種後・接種数年後を比較します。そのうえで、明らかにワクチンを接種した場合に発症頻度が高いと認められると副反応となります。

しかし、HPVワクチンの場合は、少女たちに起きた症状がワクチンの副反応だと証明されていない段階で、まるで副反応であるかのように報道されてしまったのです。

もちろん、重い症状となった少女の症状自体を否定するものではありませんし、回復を願っています。しかし、それらの症状とHPVワクチンとに因果関係は示されていないので、ワクチンとは分けて考えてもらいたいです。

ーー「HPVワクチンはほかの予防接種と比較して、危険性が高いわけではない」ということでしょうか?

稲葉:そうです。その後の研究によりHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)が特別に重い副反応を起こしやすいわけではないとわかっています。(*1234)

そのため、HPVワクチンは、ほかの予防接種と同様に考えていただいて問題ありません。

現在は、日本産科婦人科学会やHPVワクチンに関連する17の学会が「HPVワクチンと接種後のさまざまな症状の間に因果関係は認められない」ため、HPVワクチンの接種を勧めています。

ーーなぜ、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の副反応だけが非常に注目されたのでしょうか?

稲葉:HPVワクチンの接種対象が、中高生の女子だけであったことも関係しているといわれています。多感な時期でストレスを感じやすく、それらが身体の症状として出やすい時期でもあります。思春期の時期というのは、HPVワクチンの接種に関係なく、いろいろなストレスが身体症状として現れることがあるといわれています。これはHPVワクチンが登場する以前から知られていたことです。

日本や外国のHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の接種状況について

ーー日本以外の国では、副反応などの懸念は起きなかったのでしょうか?

稲葉:副反応の懸念は日本だけではなく外国でもありました。日本と同様に副反応への懸念が報道されたものの、国や行政などの公的機関が即座に反論声明を出すなど、毅然とした姿勢で対応しました。

一時的に接種率が下がったものの、その後は回復していきました。現在世界的には、ごく当たり前のものとしてHPVワクチンの接種が行われています。

ーー日本のHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の接種率はどのように変化していますか?

稲葉:2020年10月に、厚労省が自治体に対して「HPVワクチン接種の個別通知を送るように」という通達を出しました。そこから少しずつですが、接種を受けに来る人の数が増えてきていると感じています。

しかし、「接種の通知は届いたけど、HPVワクチンは危ないと聞いたことがある」と懸念して接種しない人がまだまだいます。ですので、1人でも多くの人にちゃんと正確な情報を知ってもらいたいと思います。

また、約四分の一の自治体ではまだ通知が送られていません。知らなかったがために予防の機会を逃してしまっている、情報格差が健康格差につながってしまっている現状を見過ごすことはできません。

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の効果、新型コロナワクチンを接種する場合の間隔

ーーHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)は、どのくらい効果が持続しますか?

稲葉:HPVワクチンの効果は約15年持続することが確認されています。HPVワクチンが実用化されてからまだ15年ほどなので、現状で確認できている期間は15年ですが、推定では20年以上続くのではと言われています。

ーー効果が20年だとして、20年後に再度接種したほうがいいのでしょうか?

稲葉:15歳で接種した人のワクチンの効果が20年持続したとすると、30代半ばですよね。その年齢で再度接種するかどうかは個人の判断になります。

これから複数の恋人と付き合う可能性がある人は再度接種する選択肢もありますし、結婚して出産している人は接種しないという選択肢もあるでしょう。

20年でまったく効果がなくなるわけではないですし、もしかしたら20年以上効果が持続するかもしれません。今後の研究結果を待ちましょう。

ーー新型コロナワクチンの接種の時期が近い場合、どのくらい期間をあけて接種したらよいでしょうか?

稲葉:厚労省は、新型コロナワクチンとそれ以外のワクチンを接種する場合は、前後2週間を空けるという方針を示しています。(※2021年8月現在 新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省

両方のワクチン接種を検討していてスケジュールに悩んでいる場合は、産婦人科もしくは小児科の医師に相談してみましょう。

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)は男性も接種したほうがいい理由

ーーHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)は男性も接種したほうがよいのでしょうか?

稲葉:HPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がん以外にも性感染症である尖圭(せんけい)コンジローマ、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどの原因にもなります。

そのため、男性へのHPVワクチンが推奨されている国もあり、オーストラリアでは88%、アメリカでは65%という高い確率で男性がHPVワクチンを接種(*5)しています。

現在日本で定期接種が受けられるのは女性だけですが、女性への積極的勧奨が再開した次には、男性への定期接種が実現してほしいですね。

「みんパピ!」を立ち上げた経緯と活動内容

ーー他国と比べるとまだまだ低い状況ですが、少しずつワクチン接種率が上がってきている。さらなる普及のために必要なことは?

稲葉:定期接種は経済的な格差とは関係なく、誰もが受けられるものです。HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)も本来なら対象者全員が接種できて、子宮頸がんを予防できるものです。

しかし、現在はHPVワクチンについて知識のある人しか接種できていない状況が続いています。それを見過ごすことはできないと考えていました。そんなときに、公衆衛生の専門である副代表の木下先生から声がけをいただき、「みんパピ!」を立ち上げました。

「みんパピ!」は日本で唯一の、国際HPV学会の公式なパートナー団体としても活動しています。国際HPV学会は、世界中の啓発団体とパートナーシップを結んでいる学術団体です。国際HPV学会において、重点的な啓発が必要な国のひとつとして、日本の名前が挙がっています。

ーー「みんパピ」の活動内容を教えてください。

稲葉:医学情報をそのまま発信しても、一般の人には理解が難しい部分があります。そのため、興味をもってもらえるよう、マンガやアニメ、ドキュメンタリー風の動画、クイズ謎解きなどのコンテンツを制作しています。

稲葉:ただ、こうしたコンテンツをSNSでシェアしていますが、すでに情報を知っている人たちにしかリーチできていないという課題も感じています。

また、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の接種率の低さに危機感を覚える産婦人科医は多いですが、HPVワクチンの接種を受ける年代の子どもたちは産婦人科に来ることがほとんどありません。

そのため、小児科の先生にも協力をあおぎたいと考えていて、小児科の先生方に理解を深めてもらうよう、小児科学会などで説明する機会を作っています。加えて、健康な中高生が行く場所である歯医者さんなど、他科の先生たちへの啓発活動も進めています。

学校などの教育機関に対しては、校内に貼れるポスターを作成したり、「リクエストがあれば無料で教育資材を送ります」という案内を出したりしています。

ーー教育現場の先生からの反応はいかがですか?

稲葉:学校によって温度差がありますね。もともとHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)に関心のある先生がいる学校では生徒にきちんと伝えていたり、「厚労省が積極的に薦めていないので」と気にしている学校もあったりします。

最近は自治体から個別通知が届くようになり、保護者から学校への質問も多くなっているようです。「わかりやすく伝えられる資料やコンテンツがあって助かる」という声もいただいています。

資料はこちらからダウンロードできますので、ぜひ確認してみてください。

ーー最後に、中高生の娘さんをおもちの保護者の方へのメッセージをお願いします。

稲葉:子宮頸がんはHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)と検診をきちんと受けておけば、予防できる病気です。HPVワクチンについて知っていただき、娘さんの定期接種を検討してみてください。そして、お母さん方も子宮頸がんの検診を受けておいてくださいね。

また、みんパピ!ではHPVワクチンの積極的接種勧奨の再開を求める署名活動を行っています。ご賛同頂ける方は、ぜひご協力をお願いします。

みんパピが公開したドキュメンタリー動画「子宮頸がんで妻を亡くした男性がみなさんに知って欲しいこと」。

大切な人、そして自分自身を守るために、一人でも多くの人が正確な情報を手にできるように。

監修者プロフィール

医師・医学博士・産婦人科専門医

稲葉可奈子

京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、大学病院や市中病院での研修を経て、現在は関東中央病院産婦人科勤務、四児の母。子宮頸がんの予防や性教育など、正確な医学情報の効果的な発信を模索中。みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 / コロワくんサポーターズ / メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表 / 予防医療普及協会 顧問 / NewsPicksプロピッカー

参考文献

1.Cochrane Database Syst Rev. 2018;9;5:CD009069.

2.JAMA. 2009;302:750-7.

3.Pediatrics. 2019;144:e20191791.

4.Pediatrics. 2019;144:e20191808.

5.World Health Organization. Immunization, Vaccines and Biologicals.

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