性教育パペット「ばあばるば」では、<Ba-Vulva Friend>と題して、国内外のセクシュアルヘルスにまつわる専門家にインタビューをしています。

今回は、熊本で性教育事業を行うNPO法人せいしとらんし熊本の理事長 中村さんに、なぜ性教育を始めたのか、性教育で何を大切にしているのかを聞きました。

「これは、私が伝えないといけない」。一人の母親としての出発点

―― NPO法人せいしとらんし熊本を立ち上げた背景や、性教育に携わることになったきっかけを教えてください。

私は特別な資格や肩書きからではなく、一人の母親として性教育活動を始めました。

子育てをする中で、子どもの様子の変化をきっかけに、「子どもとどう関わっていくか」を学び直す必要があると感じた時期があって。

最初は子育てについて学び始めましたが、関わり方を考えるきっかけは性に関わることでもあったので、自然と性教育についても学ぶようになったんです。

性教育を学んでいくと、大人である自分も知れてよかったと思うことも多くて、純粋に感動したんです。だから、これを周りの人にも伝えたいと思ったのが最初の一歩でした。

「怖い」だけじゃない。実践を通して学んだ性のこと

――  学び始めた当初と今で変わってきたことはありますか?

最初は「子どもたちが性被害に遭わないように」という強い思いが原動力でした。

でも、その思いだけで活動していると、いつの間にか「怖いよ、気をつけてね」「あなたにもその可能性があるよ」というメッセージばかりを伝えている自分に気づき、違和感を覚えるようになったんです。

性は、本来もっと広く、豊かな意味を持つものです。それなのに、私自身も「セックスは危ないもの、怖いもの」という一面的な伝え方になってしまっていました。

学びを深める中で、「性」は被害を防ぐためだけに学ぶものではなく、自分や相手を大切にし、幸せに生きるためのものでもあると考えるようになりました。

もちろん、性被害を防ぐ視点はとても大切です。

でも、それだけではなく、セックスは新しい命を育むことにもつながる、とても大切で温かいコミュニケーションの一つでもあります。だからこそ、その両方を伝えられる性教育でありたいと思うようになりました。


当時、看護学校で学びながら、大人向けの性について学ぶ講座にも参加し、身体の仕組みだけでなく、心地よさやパートナーとの関係性についても学びました。その経験が、今の私の性教育の土台になっています。

「誰一人、性被害者にも性加害者にもさせない」という強い言葉の理由

――  一方で、NPO法人せいしとらんし熊本のホームページには、「誰一人性被害者にも性加害者にもさせない」というコンセプトが掲げられています。

そうですね。

社会の目に届けるためには、それくらいインパクトのある言葉を投げかけないと見てもらえないという側面もあり、そのような発信をしています。

ただ、実際に性教育でお伝えしているのは、それだけではありません。

被害を防ぐという視点はもちろん大切なコンセプトの一つですが、何より大事なのは対人関係、つまりコミュニケーションです。

人間関係が成り立っている上に、性的な行為があります。

性教育というと、生殖や性感染症、避妊といった方向で考える人が多いですし、もちろんそれも大切な要素の一つです。

でも、その土台にあるコミュニケーションの部分は、講師をする人だけでなく、みんなが学ぶ必要があると思っています。

自分の意見が言える。相手の意見も聞くことができる。そういう対話の場が増えること自体が、性教育の一部だと考えています。

―― 個人間の対話スキルですね。それらも踏まえた「包括的性教育」ですね。

2022年頃から「包括的性教育」という言葉を耳にするようになりましたが、団体を立ち上げた2019年頃は、まだその言葉自体はあまり浸透していませんでした。

でも、活動を振り返ってみても、包括的じゃないと性教育なんてできないんです。

性教育は専門職だけが行うものではなく、子どもに関わるすべての大人が日々の生活の中で伝えていくものです。だからこそ、私のように母親として活動を始めた人にも伝えられることがあり、それが包括的性教育の大きな魅力だと思っています。

「怖がらせない」「安心してもらう」講演で一番大事にしていること

―― 性教育の講義で気をつけていることはありますか?

「怖がらせないこと」と「安心してもらうこと」です。

以前、ある学校の先生から相談を受けたことがありました。

性犯罪についての講演を聞いた男の子が「僕は男に生まれて、本当に後悔しています。なんで男に生まれたんだろう。こんなに男の人は悪者にされないといけないんでしょうか」という感想を持ってしまった、というお話でした。

「あなたは大切だよ」ということを伝えたくて性教育をするはずなのに、その子は自分のことを否定されたように受け取ってしまった。これは、とても残念な結果だと思うんです。

「こんな事例がありました」という伝え方は、防犯について話すなら必要かもしれませんが、性教育とは少し違う気がしています。

性教育はどこまでも、「あなたはとても大切だ」「私が私として生まれてきてよかった」と思える人を増やすためにあるものだと思っています。

安心してもらえないと話は入ってきません。子どもたちが緊張した状態で身構えてしまうと、伝えたいことは伝わらないと思っています。

レジリエンス(回復力)という視点

―― 公式サイトで「レジリエンス(回復力)」という視点も大切にしていると拝見しました

はい。私は、レジリエンスとは、つらい出来事や思いどおりにならないことがあっても、自分や周りの人を信頼しながら、また自分らしく歩んでいく力だと思っています。

レジリエンスと聞くと難しいかも知れませんが、私自身の話で言うと、過去にとても落ち込んだ出来事がありました。

「正しい知識を身につけよう」と思って取り組んでいた中で、間違った知識を、自信を持って正しい知識として伝えてしまったことがあったんです。

例えば、「卵子が排卵されて、子宮に着床しなかったときに、それを外に出すために生理の血が出る」という説明は、実はよくある誤解なんです。

排卵された卵子の寿命は24時間ほどで、生理が来るころにはすでに体に吸収されてなくなっているので、この情報は解剖生理学的には正しくありません。

それを堂々と伝えてしまったことがあって、後から気づいたときはすごく落ち込みました。

でも、間違ったことを伝えてしまったときは、「ごめんなさい、間違っていました」と謝ればいい。本当にシンプルなことなんです。

失敗をしない人はいません。だからこそ、失敗を認め、学び直すことが成長につながるのだと思っています。

―― なるほど。そのレジリエンスを高めるにはどうしたらいいんでしょうか?

私は、「失敗しても大丈夫」と思えることが、レジリエンスの土台だと思っています。

考えても答えが出ないことについて、ずっと悩み続けるのは時間がもったいない。

そういうときは、山や海に行って自然を感じる。そうやって自分を客観的に見る力をつけていく必要があるんです。

思春期の子どもたちと話すときも、「人と比べて、自分のことが嫌だなと思うとき、みんなはどうしてる?」と聞いたり、グループでシェアしてもらったりします。

そして最後に「背伸びをして、深呼吸しよう」と伝えるんです。

一人ひとり、かけがえのない存在なのに、自分のことを嫌いになっている時間はもったいないですよね。
生きていれば、誰にでもつらい出来事や、思いどおりにならないことがあります。


でも、その出来事だけで人生が決まるわけではありません。
自分を大切に思い、必要なときには周りの人を頼りながら、また自分らしく歩んでいく。

その力こそが、レジリエンスだと思っています。


だから私は、性教育は知識を身につけるだけの学びではないと考えています。

困難な出来事があっても、「私が私でよかった」と思いながら生きていく力を育むこと。

それもまた、性教育の大切な役割だと思っています。

熊本の性教育、今とこれから

―― 学校や保護者、先生方向けの講演もされていますが、現場の反応はいかがですか?

養護教諭研修などで呼ばれることが多いです。学校という場所では、先生方は指示・指導という立ち位置にいることが多いので、私たちのような外部の人間が、教科を教える先生とは違う立ち位置でいられることが大事だと思っています。

性教育に関しても、「これはしないでね」「あれはダメだよ」という注意がいろんな人から重なると、子どもは「相談してはいけないんだ」と思ってしまう。

だからこそ、学校の中に、お母さん、お姉さん的な、家族的な関わりをする存在が必要なんだと思います。

せいしとらんし熊本が制作した「ナプキンのとりかえかた」ポスター

―― 熊本の性教育を取り巻く環境について、設立当初と比べて変化を感じますか?

NPOを立ち上げた7年前は、性教育のコミュニティや講師養成の仕組みが少なかったですが、
今は、性教育が大切だという声自体は、全国的にも増えていると感じます。

ただ、熊本県からの依頼で高校などに行くこともありますが、性教育専門で行っている団体は、熊本にはほとんどありませんし、私たちもみんな、それぞれ他の仕事と兼業しながら活動している状況です。

――  性教育が必要とは言われているが、実際に専業とするにはハードルが高いんですね。現在、取り組まれている活動について教えてください。

今、私自身は、熊本市子どもの性被害防止条例(仮称)の検討委員会に、公募委員として参加しています。

先生方や弁護士、警察関係、児童福祉施設関係、学校関係など、さまざまな分野の方が集まる場に、一般のお母さんとしての視点で意見を伝えていきたいと思っています。

机上の議論だけでは見えてこないことを、現場に近い立場から伝えることが必要だと思っているので、この機会をしっかり活かしていきたいです。

―― せいしとらんし熊本が目指すものについて教えてください。

私が私として生まれてきてよかったなと思える人たちを増やしていきたいです。

私たち大人も子どもでしたが、子どもが「私って大切にされてるな。 だから、自分のことをちゃんと大事にしよう。自分を守ろう」って思えるようにしたい。

子どもが大人との関わりの中で、そう感じとれるような社会にしていきたいですし、そのために、子どもたち向けの性教育をこれからも頑張っていきたいです。

ばあばるばは、にこにこ和やかな空間で語り合える

――私たちは性教育パペット「ばあばるば」を制作しています。このような取り組みについてどう思いますか?

この色合いが、実際の色に似通っていないところがいいなと思いました。実際の色に似ていると、「私は、もっと色が濃い」「もっと薄い」だったり、悩みにつながってしまうこともあります。

―― 外陰部に限らず、や性器の構造を知ることは大切だと感じますか?

とても大切だと思います。 私たちは顔や、手足は知ろうと思わなくても、情報が入りますが、隠れている部分は、見えなかったり、よく分からなかったり。

でも、こうやって見ることができれば、自身のかたちと同じでなくても、このあたりが小陰唇だな、クリトリスだなとわかるのでいいですよね。とても大事なことだと思います。

―― ばあばるばは、どんなふうに使えると思いますか?

名前を知らないっていう子どもたちに使うのもいいですが、大人も自分の体の場所や部位の名前を、まだまだ知らない方も多いです。

ばあばるばは、とてもかわいらしく、親しみやすいので、真剣さも必要ですが、それよりも、にこやかに穏やかな空間で、ガハハって笑いながら一緒に学べるツールとしても、とてもいいんじゃないかなと思いました。


中村さん、貴重なお話をありがとうございました!

ご自身の経験から、学びを積み重ね、コミュニケーションに落とし込みながら、熊本の性教育現場に向き合っている中村さん。

子どもたちを怖がらせず、対話しながら、失敗を恐れないことを届けていく。

「ばあばるば」も、安心して自分のからだや考えについて話せる、対話のきっかけをつくっていきたいと思います。

 Ba-Vulva(ばあばるば)は、私たちが企画制作している性教育パペットです。

体にまつわる適切な情報を楽しく学べるようにという想いを込めて、おばあちゃんたちと手作りで作っています。

体の名前や仕組みを知ることは、自分の体を大切にすることへとつながります。

ばあばるばに込めた想いやプロダクト詳細はこちらをご確認ください。
https://laundrybox.co.jp/BA-VULVA_jp

本記事はランドリーボックスが制作している性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の公式サイトの記事を一部編集の上、転載しています。

https://laundrybox.co.jp/Ba-Vulva/npo_seishitoranshi

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