学生競技からアスリートまで、スポーツ競技に関わる選手にとって、いちばんに望むことはコンディションの維持・管理。そして、結果を残すこと。そのためには日頃のトレーニングだけでなく、大事な試合の日に、いかにベストコンディションで臨めるかが重要です。

しかし、女性選手にとって「月経」はパフォーマンスを左右する悩みの種と言わざるを得ません。女子スポーツ選手の抱える月経問題は、日本だけでなく世界で起こっています。

コンディション可視化ツール「ONE TAP SPORTS」を運営する株式会社ユーフォリアと婦人体温計を展開するオムロン ヘルスケアは、現役選手、コーチ、専門家を招いて「#ThinkFemaleAthlete 女子スポーツ選手のコンディション管理を考える」と題したオンライン講座を開催。今回はその様子についてレポートします。

TORCHイベントレポート(アーカイブ動画公開中)

「生理について困っている」が8割、「婦人科の受診経験なし」が約9割

株式会社ユーフォリアとオムロン ヘルスケアが共同で行った月経管理の実態調査によると、「月経に関して困っていることはありますか?」という質問には8割が「はい」と回答。

しかし、婦人科を受診したことがあるかという問いに「はい」と答えたのはわずか11.5%と、9割近い人が悩みを抱えながらも婦人科を受診した経験がないという結果に。

画像=当日のイベントより

また約7割弱が「競技のためには、月経がない方がいいと思ったことがある」と答えており、月経による競技への影響に頭を悩ませている選手が多いことが明らかです。

指導者もまた「月経に関する関わり方が難しい」「選手の月経について誰かに相談はしていない」という回答が半数を占めるなど、女子スポーツ選手の月経管理の難しさやもどかしさを感じていることがうかがえます。

そんななか、ひとりの現役アスリートのSNSでの発言に注目が集まりました。

現役選手とコーチが語る、今「生理は必要」を発信する理由

2020年、アスリート・オブ・ザ・イヤーに輝いた陸上女子長距離選手の新谷仁美さん。昨年1月にハーフマラソンで日本新記録を樹立、12月の日本選手権10000mで優勝し東京五輪代表に内定するなど、注目の的です。彼女に注目が集まる理由はもうひとつ。歯に衣着せぬ、新谷節。そのきっかけとなったTwitterがこちら

https://twitter.com/iam_hitominiiya/status/1223105078254432257
画像=当日のイベントより

ライブ配信で行われたトークセッションでは、新谷さんが生理について発信する理由、そして彼女のコーチであるTWOLAPS TRACK CLUB代表の横田真人さんによる指導者からの視点が語られました。

かつての世界陸上での活躍は“消したい過去”。自分の経験が誰かのためになれば

中学から陸上を始め、いまや人生の半分くらいはスポーツをしているという新谷さん。高校時代から偉業とも言われる好成績を残し、実業団では多くの大会に出場したものの一度現役を引退して一般会社員を経験。その後再び現役に復帰するという経歴の持ち主。

トップアスリートとして、一般女性として、両方の立場から周りの女性達の生理の悩みを耳にしてきたといいます。

新谷さんは、生理について「保健体育の授業や親からの話で知り、生きていく上で自然なこと、あって当たり前という感覚だった」という。

Photo by Chau Cédric on Unsplash

しかし、引退前の実業団時代は「生理と言えばなんとなくスポーツ関係者にとっては良くないイメージ、隠そうとしている様子で、女性選手にとって気疲れしやすい環境だったのではないか」と振り返ります。

一方で、25歳の頃に無月経を経験。本人曰く「結果を求めるあまり病的なほどのガリガリ体型だった」。そのときは痩せすぎが原因だと思っていたけれど、それは違っていたといいます。

「生理のある・なしは体型で判断されがちですが、体重は関係ありません。本当の理由は、メンタルの崩壊だとあとから気付きました。無月経は心身のSOS、それに耳を傾けるべきでした」

でも、当時はそれに気付けなかった。

「間違った方法で、大会に挑んでしまったのです。もちろんその結果が現役復帰や今の競技生活に繋がっているものの、わたしにとっては、消したい過去です」

https://twitter.com/iam_hitominiiya/status/1343414950786596864

半年間月経が来なくなり、悩んだ過去。心を病みながらも、結果を出すことだけに救いを求めてしまったことへの後悔。だからこそ、間違っていた経験と共にメッセージを発信することでだれかの参考になるなら……。

ハーフマラソンの日本記録を出し、世間の注目が集まったタイミングで発信したことで、大きな反響を呼びました。女性達から「言ってくれてありがとう!」の声も寄せられたと言います。

「言いたいけど言えない人もいると思います。でも、周りや指導者だけが悪いわけじゃないと思うんです。当事者もコミュニケーションを取ってほしい。そして、とにかく知ることが大事。生理は自然なことで必要なものだというものを男女共に知っておいてほしいのです」

月経マネジメントだけじゃない!もっと根本的な問題に目を向けて

Photo by Jonathan Chng on Unsplash

現役復帰後、新谷さんのコーチを任されたTWOLAPS TRACK CLUB代表で陸上競技指を指導する横田 真人さん。女性アスリートの指導において、いまは多くの指導者が生理について基本的な知識を理解はしていると感じつつも、スポーツ界はもっと根深い問題があると警鐘を鳴らします。

「例えば小、中、高と学生スポーツは学生時代のわずかな期間に結果を出そうとします。生理痛などが激しい子にとって、コンディションを合わせるのは難しい。でもコーチは指導者であり、生活もかかっています」

「結果を出そうとするのは人間の心理として仕方がないものです。選手に短期的に結果や勝ちを求めるのか、あるいは長期的にみて幸せになってほしいのか。もっと大きな視野で考えないと、生理の問題は解決しないんじゃないでしょうか」

ジュニア期は特にコンディションの維持が難しく、自分のことがわかっていると本人が考えていても、本当は思っている以上に理解ができていないことも。そんなときに指導者と選手の関係性が大切になるのです。

「言える関係性」と「伝える意志」を持つ

「コンディションに関しては最初からコーチに伝えていました。これはわたしの性格だから」という新谷さん。

画像=当日のイベントより

横田コーチ流の選手のコンディション管理はというと、「日誌はつけていません。毎日、調子はどう?と選手みんなに声をかけて回りますが、たいてい選手は不調を隠したがるものです。選手自身が知ってほしいこと、言いたくないことは自分で考えてほしい。選手が自分の意志で、選択する余地を与える。それは月経マネジメントに限らず、どのコンディションの指標も同じようにしています」

「頼れる部分は頼って、自分でできることは自分でやる。指導するというより一緒に作っていく関係でありたい」と語る横田さん。

新谷さんもまた、指導者と選手の関係について、「強いものの価値観を弱いものに押し付けてしまうことだけは気をつけてほしい。生理の問題も言えなくなってしまわないように、信頼関係が大事」と話しました。

選手と指導者の価値観の合致と良い距離感が信頼関係に繋がり、“言える”関係性をともに作る。ひとりで歩むのではなく一緒に歩む。選手、指導者ともにそう思えることが月経問題の解決の一歩なのかもしれません。

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