日本ではピルの使用率は低いが、使用者の満足度は高い
ピルに興味はあるけど、副作用があると聞いて心配。そんな方もいるでしょう。
日本のピルの使用率は2.9%。米国13.7%、英国26.1%、カナダ28.5%、フランス33.1%などと比べると、使用率がかなり低いです。(※Contraceptive Use by Method 2019より)
そのため、ピルをくわしく知らない人が多く、実はピル使用者の満足度が高いこともあまり知られていません。
この記事では、ピルを使用するメリット、服用方法、知っておくべき副作用などのピルに関する基礎知識をお伝えします!
(一般的に使用されているピルは低用量ピルが多いため、本記事ではピル=低用量ピルとしてお話しします)
ピルを使用する8つのメリット
ピルのメリットは多く、広く知られている避妊効果以外に、いくつもメリットがあります。
1. 避妊効果が高い
ピルは正しく服用していれば、避妊効果は99.7%です。(※望まない妊娠を繰り返さないために)
2.生理痛の改善が期待できる
ピルは、生理痛に対する効果がとくに高いです。ピルに含まれる女性ホルモンの働きによって、子宮内膜が厚くならないため、経血量が減り、痛みが緩和されます。
3.ニキビの改善が期待できる
ニキビの原因のひとつに、アンドロゲンという男性ホルモンによる皮脂分泌の過剰や女性ホルモンが不安定になることがあげられます。
低用量ピルには、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンが含まれていて、エストロゲンにはアンドロゲンの活性を抑える働きがあります。そのため、ニキビが改善が期待できるのです。
4.PMSの緩和
PMSの原因は、生理前に女性ホルモンのバランスが急激に変化することといわれています。ピルを服用していると、ホルモンバランスが整うため、PMSの症状が緩和されます。
5.子宮内膜症の進行の予防
手術を必要としない程度の子宮内膜症がある場合、病気の進行予防や症状のコントロールのために、ピルを服用することが推奨されています。
6.排卵を止めることで、卵巣を休ませることができる
ピルは排卵を抑えるので、卵巣機能を休ませることができます。そのため、卵巣がん、卵巣嚢腫の予防にもつながると考えられています。なお、ピルで排卵を抑えたことで、閉経の時期が遅くなることはありません。
7.生理の時期をコントロールできる
旅行や大事なイベントや仕事のスケジュールに合わせて、生理の時期を調整できます。生理痛やPMSの症状が重い人は、とくにメリットを感じられます。
8.妊娠したい時期になったら、すぐにやめられる
ピルは服用を中止すれば、3カ月以内に排卵するケースがほとんどです。服用をやめた後の妊娠率もピルを使用していない女性と変わりません。(※女と男のディクショナリー 日本産科婦人科学会編集より)
このように、ピルは避妊以外にも、多くのメリットがあります。低用量ピルで生理痛やPMSが緩和された体験談も紹介していますので、興味のある方は下記のリンクからご覧ください。
ピルを服用することの副作用(デメリット)
ピルの服用を考えたときに、気になるのは副作用です。
ピルがアメリカで初めて認可された1960年代はピルに含まれる女性ホルモンの量が多く、副作用が多かったとのことです。しかし、最近のピルは女性ホルモンの量が少ないため、副作用になる確率は下がっています。
ピルの副作用のおもな症状
おもな症状は、吐き気、胸のはり、頭痛などです。これらの症状はホルモン環境の変化が原因の一次的なもので、副作用が出たとしても、ほとんどが3カ月以内におさまります。
副作用がでたときは、ピルを処方されたクリニックに相談してみましょう。
ピルの副作用による病気のリスク
血液が固まりやすくなるため、血栓症や心筋梗塞や脳卒中などのリスクが、低用量ピルを服用していない人と比べると2〜4倍になると言われています。
ただし、発症の確率は1万人に対して6〜9人程度であるため、確率は決して高くはありません。(※女と男のディクショナリー 日本産科婦人科学会編集より)
また、血栓症の発症はピルの飲みはじめから3カ月以内が一番発症確率が高いとされているため、それ以降は発症率が下がります。
その他、血栓症は40歳以上の方や、肥満体質、喫煙者の方のリスクが高くなるため、ピルの処方を控えた方がいい場合もありますのでクリニックと相談して処方してもらうようにしてください。
また、長期の服用により子宮頸がんのリスクが少し上がりますが、ピル服用有無にかかわらず、子宮頸がん検診は定期的に受けましょう。
定期的な血液検査により、ピルの副作用がでていないか確認することも大事です。定期的な検診をすることで、自分の身体の状態を知る機会が増えることをメリットと考える人もいます。
卵巣がんや子宮体がん、大腸がんは、むしろピル服用者のほうが発症率は低いです。
40歳を超えてピルを処方したいと思った方は、「人生の1/3を損していたのでIUS(ミレーナ)を挿れた話」の記事をご確認ください。
ピルの種類
一般的に使用されているピルは、有効成分の配分量や服用方法によって分類されます。
・一相性ピル
一相性ピルは、21日間飲む実薬に、女性ホルモンが一定比率で入っています。
・三相性ピル
三相性ピルは、女性ホルモンの配合の割合が三段階で変わるピルのことです。生理の周期に合わせて、女性ホルモンが配合されているため、決まった順序で飲んでいきます。
・LEP(低エストロゲン・プロゲスチン配合薬)
LEPとは、月経困難症や子宮内膜症の治療薬として使われる、保険が適用されるピルです。PMSの症状が重くて、LEPであるヤーズフレックスを服用した人の体験談を下記の記事で紹介しています。ご興味のある方はご覧ください。
ピルで避妊できるのはなぜ?
ピルは、3つの部位に作用して、避妊効果を発揮します。
・排卵をうながすホルモンの分泌を抑えて、排卵が起こらないようにする
・着床しづらくなるよう、子宮内膜の増殖を抑える
・子宮頚管の粘液を変化させるので、精子が子宮へ入りにくくなる
年齢やライフスタイルに合わせて、ピルを活用しよう
・10代や学生
妊娠を絶対に避けたい年齢の女性には、避妊効果の高いピルはおすすめです。ただし、感染症の予防のためにもコンドームの使用も忘れないようにしましょう。
思春期の不安定なホルモンバランスを整える効果も期待できます。
・働く女性
重要な仕事があるときに、ピルの実薬を飲み続ければ生理を遅らせることができます。逆に早めたいときは、ピルの服用を止めるという形でコントロールできます。
ピルの服用方法
ピルを服用する場合は、飲む時間帯を決めること、服用をはじめるタイミングが重要です。
・ピルを飲む時間帯
ピルは、1日1回1錠を同じ時間帯に飲みます。時間帯は何時でも大丈夫ですが、朝に歯を磨いたら飲むなど、習慣化しやすい時間帯がいいでしょう。飲み忘れないようにタイマーをかけておくと安心です。
・ピルの服用をはじめるタイミング
ピルの服用をはじめるタイミングは生理の1~3日目です。ピルを飲み始めて卵巣が完全に休むまでは7日ほどかかります。
ピルのシートは、21錠と28錠の2種類があります。
・21錠…実薬を21日飲んだら、服薬を7日間休みます。
・28錠…実薬を21日飲んだ後、ホルモン剤が入っていない偽薬(プラセボ)を7日間飲みます。休薬をせず毎日飲み続けるため、ピルの飲み忘れを防げます。
・24+4錠…最長120日間、連続服用が可能な超低用量ピル(ヤーズフレックス)。120日間の連続服用と4日間の休薬を繰り返す服用法と、24日の服用と4日間の休薬を繰り返す服用法があります。
休薬したり、偽薬を飲み始めたりすると、3〜4日目に生理がきます。
・ピルを飲み忘れてしまった場合の対処法
もし、ピルを飲み忘れてしまった場合、24時間以内に気づいたときはすぐに飲み、次の服薬時間にいつも通り1錠飲んでください。
2日以上飲み忘れた場合は、気づいた時点で前日分の1錠を飲み、当日の1錠はいつもの時間に飲んでください。
4日以上たってから飲み忘れに気づいた場合は、いったんピルの服用を停止します。生理がきた後に、新しい薬剤シートのピルを飲み始めて再スタートです。
(ピルの種類により多少異なりますので、パンフレットなどでご確認下さい)
ピル服用時の注意点
ピルの服用期間は、禁煙しましょう。ピルの副作用に、血栓症のリスクがありますが、煙草を吸っているとさらに高まります。
また、ピルを飲んでいるとコンドームを使用しなくなる人が多いのですが、ピルで性感染症は防げないので、コンドームは必ず併用しましょう。
ピルを処方してもらう方法
ピルを処方してほしい人は、婦人科へ行きましょう。
ピルを避妊目的で服用する場合は、自由診療となり保険適用外です。そのため、クリニックによって値段が変わります。平均すると1シート(1カ月分)で2,000円~3,000円ほどです。ただし、生理痛緩和のために処方する場合は保険診療となり、1シート3,000円前後です。
初診の際は初診料、検査をした場合は検査費用が別途かかります。
クリニックを訪れたら、診察の前に問診表に記入した後、医師との問診があるので、ピルの使用目的を伝えましょう。その後、必要に応じて、血圧検査、血液検査、尿検査などが行われます。
ここまで、一般的に使用されている低用量ピルについてお伝えしてきました。最後に、望まない妊娠を避けるために、性行為のあとに使用するピルを紹介します。
アフターピル(緊急避妊薬)は、望まない妊娠を防ぐ
アフターピル(緊急避妊薬)とは、コンドームが破れた、避妊をしなかった、同意のない性行為を無理やりされたなど、望まない妊娠を防ぐ緊急措置として使用するピルです。
服用のタイミングは、性交後72時間以内(3日以内)。受診時に医師の前で服用するケースが多いです。費用は、病院により異なりますが、1万円前後です(ジェネリック薬品だとより安価になります)。
アフターピルを飲んだ後、生理が予定より7日以上遅れたり、3週間以内に出血がなかったり、いつもより経血の量が少なかったりする場合は、婦人科へ相談してください。
また、ピル以外の避妊率の高い方法に、「IUS(ミレーナ)」があります。IUSとはIntrauterine Contraceptive Systemの略で、黄体ホルモンを放出し続ける器具で、子宮内に装着します。
ミレーナについては、「低用量ピルと月経カップで「人生変わった」と思ったけど、IUSはそれを超えてきた」の記事で体験談を紹介していますので、気になる方はチェックしてみてください。
避妊方法として一般的なのはコンドームですが、あくまで男性主導の避妊法。女性が、自分の意志で避妊を決められる「ピル」について知ることは、女性にとってとても大切なことです。ピルについて、くわしく知りたいときは婦人科で相談してみましょう。
監修者プロフィール
医師・医学博士・産婦人科専門医
稲葉可奈子
京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、大学病院や市中病院での研修を経て、現在は関東中央病院産婦人科勤務、四児の母。子宮頸がんの予防や性教育など、正確な医学情報の効果的な発信を模索中。みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 / コロワくんサポーターズ / メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表 / 予防医療普及協会 顧問 / NewsPicksプロピッカー