ランニングや登山が大好き。でも生理中や生理前は思い切って楽しめない…。そんな「スポーツと生理」の悩みに向き合うウェビナー、「自分とカラダに向き合う保健室番外編〜スポーツと生理(トレイルランニング編)」が2020年7月15日に開催されました。
後半では、産婦人科医の竹元葉先生も加わりゲストのお二人と参加者の方々からの質問に答えていきました。Q&Aでお届けします。
——ピルで生理をコントロールしたいけどしてもいいの?
「生理の日程をコントロールしたいアスリートの方や月経困難症、PMSがつらい方はピルを飲むメリットのほうが大きいかなと思います。その際、1回だけの中用量ピルよりも副作用が少ない低用量ピルをおすすめします。欧米のトップアスリートは80%がピルを飲んでいるというデータもあります。自分で生理をコントロールするというのも大事なのではないかと思います」(葉先生)
——学生さんなど、若年層でも害はない?
「昔は成長への悪影響があると言われていましたが、今はないと言われています。初潮が始まって以降はピルを飲めるので、高校生でも症状に困っている場合、ピルを飲んでいる子もいます。
ただ注意が必要なのが血栓のリスク。アスリートの方はピルでコントロールをしている中でも怪我などで長期安静・手術をしなければならないときに血栓のリスクがあがるので主治医との相談が必要になります。また、目的としている試合の直前に始めるのはあまりおすすめしません。ずらしたい試合などがある場合、最低2〜3カ月。副作用がないか、体調を慣らしたうえで試合を迎えるのがいいと思います」(葉先生)
「ピルを飲むことは体に悪い」というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、若年層でもピルを飲んでいる人がいる、メリットと副作用のリスクを考えた上で安全に使用すれば良い薬であると聞いて安心できます。
さらに葉先生は「ひどい生理痛などを放っておくよりはいいと思う。競技を続ける上でパフォーマンスをコントロールするという意味でピルを飲むのはいいと思います」と続けます。
偏頭痛持ちの英摩さんは「偏頭痛持ちなので、昔ピルを検討したときは、低用量ピルは合わないのではと言われたことがあります」と葉先生に相談しました。
「なにが要因で起きている偏頭痛なのかの診断が重要」と答えます。「生理に伴う頭痛は逆にピルを飲むことでよくなる方もいる。前兆を伴う頭痛がある方は慎重に適応を検討する必要がありますが、血圧や、そのほかのメディカルチェックを受けた上で、大丈夫であれば絶対飲めないというわけではないですよ」とのこと。偏頭痛もちの方は頭痛の原因を探るとともに、一度主治医に相談してみるのがよさそうですね。
——ピルの選び方は?
「自分にあったピルを見つけることが重要です。飲み始めて3カ月以内は副作用がもっとも多い時期なので、様子を見たほうがいいですね」(葉先生)
——スポーツのしすぎで生理不順。将来妊娠を希望している場合に気をつけることは?
「根底はエネルギーが足りていないんです。利用可能なエネルギーをスポーツの方に使っているので生理に使うエネルギーが不足し、排卵が止まり生理がこなくなる。ホルモンバランスも崩しやすくなり、それが長く続くと、骨粗鬆症や疲労骨折になりやすくなります。そのため十分なエネルギー、目安として1日2000kcalほどをとるとよいです。月経不順、無月経の方は現在の食事に加えて300〜600kcalを加えるとよいと言われています」(葉先生)
自身も「骨粗鬆症予備軍」だという喜美乃さんは学生陸上における体重管理の問題を指摘します。フィギュアや陸上のような競技は体重が軽いと負荷が減るので体重を減らしがち。結果として生理が止まっている子が多いのだそうです。
「無月経が年単位で長期間続くと子宮が萎縮し、将来の妊娠に影響する可能性があります。3カ月以上無月経が続く方、女性ホルモンの値が低い方、骨密度が下がっている人はホルモン剤を使って管理をしたほうがいい」と葉先生は話します。
——妊活したいときの上手なピルの使い方は?
「明日にでも子どもがほしい場合は、ピルをやめる。そして速攻で基礎体温をつける。その状態で症状を抑えたい場合は、痛み止めや漢方を使います。逆に言うと具体的に妊娠を考えるまでは、ピルを飲み続けたほうがいいと思います」(葉先生)
——生理中、運動したほうがいいの?休んだほうがいいの?
「つらくなければ運動しても大丈夫ですよ。いつパフォーマンスが上がって下がるかは体質にもよります。また股関節に力が入らないという人もいます。黄体期は心拍数があがりやすいのでトレーニングがきつく感じる方もいます。個人差があるので大事なことは、生理の周期に合わせて自分がどうなるか記録しておくこと。 この時期はこういう症状が出やすい、ということを把握してトレーナーに相談するのがいいと思います」(葉先生)
記録については、トレイルランナーのお二人も賛同。「アプリだと症状 をチェックするだけなので記録しやすい。これは生理によるものという認識が大事」と喜美乃さん。「一般ランナーは自分で練習するかしないかを決めないといけない。記録していれば、やる気がないわけじゃなくて生理によるものだとわかるようになりますよね」と英摩さん。
ちなみに喜美乃さんが使っているアプリは「ケアミー」。英摩さんは「ルナルナ」。「ケアミー」はむくみ・張りなどのカラダの症状 、イライラなど心の状態の項目が豊富にあって簡単に記録できるのだとか。同じような生理管理ツールとして、LINE上で記録がつけられる「Illuminate」も便利なようです。
ウェビナー終盤は、参加者からの質問タイム。
「吸収型ショーツを履いていても、漏れちゃったことはないですか?タンポンと併用していますか?」という質問に対し、英摩さんは「汗びっしょりにならない程度の登山や日常使いで吸収型ショーツを使っていますが、私は全然漏れないです。ただ、トイレに行ったときにさらさらしていない血は拭き取るようにしています」と答えました。ちなみにおすすめの吸収型ショーツは「THINX」だそうです。
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最後の質問は「若い時にもっと知っておけばよかった、ということは ありますか ?」という質問。ゲストのお二人はこう答えました。
喜美乃さんは「もともと誰にも相談できなかったタイプなので、少し違うかもしれませんが、自分の子どもと生理の会話ができるようになっておかないといけないと思いました。パートナーにわかってもらえるかも大事だと思います。スポーツしている人同士で情報共有できるのもいいですね」と、周囲と生理の会話ができること、理解してもらえることの大切さに気づかれました。
英摩さんは、10代からPMSと生理痛に悩んできたにもかかわらず、ピルの選択肢を持つことがなく過ごしてきたと明かしました。今回、ピルの安全性や使うことのメリットが明確になったようです。
「今日のお話を聞いて、体に悪影響のあるものじゃない、むしろ症状がひどければピルを飲んでコントロールしたほうがいいと聞いたことは、10〜20年前に知りたかったこと。また産婦人科と言うネーミングだから10〜20代は行きにくいのではないかとも思いました。実際はそうではないということを発信していきたい」(英摩さん)
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なかなか話す機会がない生理の話題。それがスポーツとなるとなおのこと。 今回は貴重な「スポーツ×生理」について話せる時間になり、盛り上がりを見せたウェビナーとなりました。
ご参加いただいたみなさん、ゲストの喜美乃さん・英摩さん、葉先生、ありがとうございました!
お話を聞いた方
宮﨑 喜美乃(みやざき きみの)
1988年生まれ。山口県出身。小学1年生から陸上を始め大学生まで駅伝を中心に活躍。25歳の時に現所属チームのTHE NORTH FACEから誘いを受け、トレイルランニングをスタートし1年も立たずSTY(50mile)にて優勝を果たした。現在は100mileを中心に、大学院で学んだ登山の運動生理学の知識とランニングの経験を元に国内外のレースに挑んでいる。直近のレースは2019年Oman by UTMB(100mile)にて女性3位。
中島 英摩(なかじま えま)
ライター。テント泊縦走から雪山登山まで1年を通じて山に通う。 趣味が高じてライターとなり、トレイルランニングの取材・執筆をメインに、国内外の長距離レースにも出場している。ヨーロッパ・ ピレネー山 脈1000kmのひとり旅をはじめ、国内のロングトレイルも踏破。特技は走りながら取材すること。
竹元 葉(たけもと よう)
産婦人科専門医/医学博士/ 女性ヘルスケアアドバイザー/妊産婦食アドバイザー/ガスケアプローチ認定アドバイザー。順天堂大学医学部卒 、sowaka women’s health clinic院長。現代女性の健康意識改善に注力。気軽に相談できる医師をモットーに活動中。