仕事や家事・育児で忙しい現代の女性たち。ランドリーボックスでは、特集「がんばりすぎちゃうあなたへ」を1カ月にわたってお届けしています。第2回はライター・中島英摩さんによるコラムです。

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私、山を走っています。

「あ、なんかテレビとかでやっているやつ?」

最近はそんなふうにいわれることが増えた。テレビで取材されているような人たちは私の何百倍もすごい人なのだけど、ジャンルは同じようなもの。トレイルランニングという山を中心とした不整地を走るスポーツだ。食べ物や飲み物を背負って、走りながら食べたりして、ときにはライトを点けて夜通し動き続ける。

ちょっと普通じゃないな、ということがわかりやすいからトレイルランニングを挙げたけれど、どちらかというと山を歩く専門だ。5年ほど前に会社を辞めて、PRの仕事をしながらアウトドアライターをしている。年間100日以上は山にいる。

Photo by Ema Nakajima

学生時代に運動経験はほぼなく、体育会系の部活にも入ったことがない。つらい練習の記憶がないためか、大人になってからスポーツにどっぶりハマってしまった。ごくごく普通のOLだった時代から、スポーツをするようになってカラダにいろんな変化があった。また、女性が少ない業界ならではの難しさにも気づくことに。そんなエピソードなどを紹介していきたいと思う。

初回は、「トレイルランニングレースでの生理」について。

3日間かかる160kmのレースの2日目、生理になった。

「あれ?もしかして?」

「うわっ!マジで!がーん!」

「そうか、腰が痛かったのはこれか・・・・・・」

レース3日前に自宅でどでかい本棚を1人で組み立てたら、坐骨神経痛が悪化したようで、腰が痛くてレースに不安を抱えていた。当日、腰にテーピングを施してスタート。急な登りでやっぱり腰が痛いなぁと思っていたけれど、その原因に気付いたのが2日目の昼下がり。トイレに行ったら便器の中が真っ赤に染まった。

レースでは脱水で血尿や血便が出ることがあるけれど、その違いは女ならすぐにわかる。あぁ“なってしまった”と。おかげで二晩目はいつも以上に眠く、カラダもだるくて、気持ちが落ち込んだりもした。生理中は肌が荒れやすくなるので、休憩時には全身を拭いて、アンダーウェアを着替えた。それでもまったく納得のいくレースができなかった。

「もう行きたくない」

ふてくされていじけるわたしを周りが励まして背中を押してくれて、完走だけは死守したものの、男性だらけの場で「生理でしんどい」「生理で気分が落ちる」とはいえなかった。内臓に悪影響を及ぼすため、鎮痛剤も飲めない。眠気覚ましのカフェインも摂れなかった。もやもやした気持ちを拭えず悔しかった。

Photo by Ema Nakajima

女性は月に1回生理になる。これはもうそういうものだ。脱水やハンガーノック(激しい運動時の低血糖状態)、怪我、故障なんかはある程度対策すればいくらでも回避できる。だけど、こればっかりはどうしようもない。

トークイベントに登壇したとき、毎回必ずこっそり聞かれる質問は「生理はどうしているんですか?」ということ。男性参加者が気まずいだろうと気を遣って、あるいはみんなの前ではいいにくいから、質疑応答とは別に女性がそばに寄って話しかけてくれることがたびたびある。小さい声で。そう、これはなぜだかとても語りにくい話題なのだ。

ピルを服用してずらす?

わたしの子宮は物分かりがいいほうだと思う。長距離レースが好きなので2日、3日、過去最長で1週間レースにチャレンジしてきたのだけど、なぜだか自分にとって大事なレースのときは生理がかぶらなかった。もともとあまり正確に「毎月◯日頃」「◯日周期」でこないもので、本当はそれはあんまり良くないことだけど、なぜかレースが月初だろうが月末だろうが、うまくズレてくれた。

これはどういう身体のメカニズムなんだかよくわからない。ただ偶然が続いているだけだと思う。5年も、ね。

そして、スポーツをしている人ならピルを服用して早めたり遅らせたりする、という選択肢もある。一度だけ、(“低容量”を削除)ピルを飲んで時期をずらしたことがあった。ピルは副作用もある。私は頭痛などを起こさなかったけど、激しいスポーツをする身体に影響がないのだろうかとやけに気になってしまって精神的によくなかった。そして、日頃から生理不順ぎみだったり、ちゃんと記録していないものぐさだったりするので、いきなり産婦人科に行ってもなかなか処方してもらえなかった。

年に1~2回の海外旅行だから時期をずらす、というならまだしも、山好きやランナーにとっては月に何度でも山に行くし、何度でも走る。短い夏山シーズンに登山の予定を詰め込んだりもする。それを全部ずらすなんてとうてい無理だ。たまたま大事なレースでは被らなかったけど、普段の練習や登山ではそういうわけじゃない。

山のスポーツと生理はとことん相性がわるい

生理用品というのはめちゃくちゃかさばる。足りなくなっても途中の山小屋でカップラーメンのように買えることはほとんどない。だから多めに持っていくしかない。トレイルランニングは小さなバックパックに荷物を詰め込んで走るが、荷物が多いと煩わしくて負担にもなる。けれど、途中で買える場所もないため、突然生理になったら大慌てだ。

さらに水分を吸えば重くなる。山のトイレの多くが水洗ではなく処理が難しいため「トイレットペーパーは便器の中ではなく横の箱に捨ててください」と注意書きがある。でもそこに入れて良いのはトイレットペーパーだけで、生理用品を入れていいわけではない。

山では、「ゴミは持ち帰る」のがマナーなのだ。結局ずっしり重くなって臭いもする生理用品を厳重に密閉して持ち帰るほかない。この煩わしさはとんでもなくつらい。生理ってカラダに備わっている自然なことなのに、自然との相性がわるい。

3日間の山岳レースに出た時の装備。いつもよりやや持ち物は厳選しているけれど、山歩きの時もだいたいこのくらい。エマージェンシー(救急)セットなども大事。生理の時は、これに加えて、生理用品や大量のティッシュ、ウエットティッシュ、密閉袋、ビニール袋などかなりかさばる。

3日間の山岳レースに出た時の装備。いつもよりやや持ち物は厳選しているけれど、山歩きの時もだいたいこのくらい。エマージェンシー(救急)セットなども大事。生理の時は、これに加えて、生理用品や大量のティッシュ、ウエットティッシュ、密閉袋、ビニール袋などかなりかさばる。
Photo by Ema Nakajima

布ナプキンとタンポンでしのぐ

私は肌荒れしやすく普段から生理用ナプキンを使えない。だからタンポン派。ちなみに、最近話題のカップタイプはまだ使ったことがない。慣れれば便利だと聞くけれど、山やレースでは清潔な状態を維持できないことが心配で使っていない。

知人がオーガニックコットンの優しい素材の布ナプキンをおすすめしてくれて、それ以来、布ナプキンを中心に使い、激しい運動のときと量が多いときはタンポンという使い分け。これでずいぶん山行きがラクになった。

“私たち”が、レース前に逆算すること

ロングレースの1〜2カ月前になると、逆算をはじめる。1番に考えるのは生理周期だ。どんなにトレーニングや体調を整えても、そんな努力を一瞬で地獄まで引き摺り下ろすのが生理ってやつだ。生理にともなう症状は人によって差があるけど、ホルモンバランスは否応なく乱れるし、ただ経血が出るだけじゃない不調がたくさんある。

朝カラダを起こせないくらいだるいのも、とにかく四六時中眠くてフラフラするのも、集中力が続かないのも、やる気が起きないのも、食欲が止まらないのも、お通じが悪いのも、ひどい浮腫みも、ぜんぶ生理のあるあるだ。もう何年もそれと付き合っていても、なんだか自分が怠けているだけのように感じてしまうことがある。あーそうか、そろそろだったと気付いてホッとするという繰り返しだ。毎月のことなのにね。

トレイルランニングというスポーツでは、とくに長距離になればなるほど、何年もかけていくつものレースに挑戦し、力を付けてきて、やっと憧れのレースに出る。だからなんとかして完走したい!という人がほとんどだ。そんな大事なレースに月経日が被るだなんてこんなに悲しいことはない。ベストパフォーマンスを出したい。でももう、どうしようもないから、脚の痛みとか内臓トラブルとかそういうのに加えて、生理と闘って完走を目指すのが女性トレイルランナーの性(さが)だ。

Photo by Ema Nakajima

運動強度が激しくなればなるほど生理が止まる

山スポーツにおいて、生理用品まわりは厄介だし、生理痛はつらい。でも、生理が止まってしまうことが1番つらいんじゃないだろうか。アスリートほど練習をしない私でも、レースが続いたり、高所登山で縦走が続いたりすると2~3カ月止まることがある。少し休めばまた再開するけれど、明らかにホルモンバランスに不調をきたしている。もっと走りたい、もっと登りたい、そう思っていてもカラダのことを考えると怖くなることもある。

これは、ほんの一例にすぎない。そして、トレイルランニングだけの話ではないはずだ。スポーツを楽しむ女性たちはきっと、みんな悩んでいるんじゃないかと思うけれど、ほとんど話題に上がらないのが実情だ。女性が少ないスポーツだけれど、女性のカラダの悩みへの理解が少しでも広がるように、トレイルランニングや登山を通して少しずつ声をあげていきたい。

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