女性が働き方やキャリアを考えるとき、からだの話は切っても切れないもの。そして働き盛りの女性にとっては、妊娠や出産、育児によるライフステージの変化と、キャリア形成の兼ね合いは大きなテーマです。

株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢さん、ワーク・ライフバランスコンサルタントの小山佐知子さん、株式会社GoodMorning代表取締役の酒向萌実さんの3名をお迎えして、「女性のキャリアとからだ」について対話する国際女性デーの特別企画。

今回は、不妊治療で離職された経験のある小山さんのお話を中心に、女性のキャリアと妊娠・出産について考えます。

国際女性デー特別企画(1/3)はこちら

管理職になったら「産めない」の?

──妊娠や出産のライフステージは、キャリア形成にも大きく影響しますよね。

酒向さん(以下、酒向):私、いまの会社で代表取締役を打診されたとき、親会社の代表から「子どもを産みたいと思ってる?」と聞かれたんです。彼としては何かサポートできればという気持ちだったようなのですが、私は瞬時に「え! 社長になったら産めないの?」と思ってしまったんですよね。

配慮の発言だったとはわからず、会社の代表になるなら私は出産を諦めないといけないのかなと困惑してしまいました。

株式会社GoodMorning代表取締役の酒向萌実さん / Photo by Laundry Box

小山さん(以下、小山):30歳前後でキャリアとライフの選択に揺れるのは当然ですよね。私も28歳で管理職に任命されたとき、男性の上司から、管理職をつとめることと私生活の充実は両立が難しいという話をされ、衝撃を受けました。でもそんなのはナンセンス。辞令は辞令であって、私生活とのトレードオフではないですよね。

酒向:そうなんですよね。一方で、自分自身でもその類の思い込みがあったのも事実で。

社長を引き受けるにあたり最後まで悩んだのは、妊娠・出産をどう考えるか、ということでした。大きなチャレンジをするときはそれなりの責任を負うことになりますし、代表を引き受けてすぐに妊娠したら、がっかりされてしまうのかなと思ってしまった。なにより、「産まない選択をしたことを、あとになって後悔するんじゃないか」という不安がありました。

本当は子どもを産みたいと思っているのに、今は仕事が大事だからとその気持ちにフタをして、10年後に「あのときの自分の気持ちを無視したからだ」と後悔してしまったら…と。その怖さがありました。今もまだちょっと不安はあります。

小巻さん(以下、小巻):そういう意味でも、企業側は産休や育休の制度だけでなく、復帰してからのキャリアを一緒に考える仕組みが必要ですよね。遠回りになっても、着実にキャリアを積み重ねていけるようなロールモデルをつくっていく。そういう流れが徐々にできているし、変化や希望もたくさんあると思います。

経営者としても、女性のキャリア形成にどのような支援が必要かしっかり考えて、方向性が違っていたら正したり、話し合える状況をつくっていきたいですね。

働きながらの妊活、「不妊離職」の増加

──働きながらの妊娠・出産・育児も大変ですが、妊娠するまでにもいろいろな壁があると思います。小山さんは働きながら妊活・不妊治療をされたご経験があるそうですね。

小山:はい。29歳から妊活を始めて、妊娠まで約4年かかりました。不妊治療をしていたとき、総合職女性のための妊活コミュニティを立ち上げ運営していたのですが、集まった方たちが口をそろえて「妊娠て、こんなに難しいことだったのか」と言っていたんです。排卵日は月に1回で、ピンポイントで夫婦生活をもってをも妊娠できるのは20%程度の確率と言われています。その事実をもっと早くに知っておけばよかった、と。

ワーク・ライフバランスコンサルタントの小山佐知子さん / Photo by Laundry Box

それから不妊の原因は女性側だけでなく、半数は男性側にもあります。ですから最初から2人で一緒に検査が受けられると時間のロスも少なくて済みます。最近はカップルで受診しやすい不妊治療専門のクリニックも多いので自分たちに合った病院やクリニックを探して欲しいです。

ただ、不妊治療はその患者さんの多さもあり待ち時間が長いところがほとんどのようです。私が治療していたときもホルモン注射を打つだけの診察に3〜4時間待つこともありました。

酒向:時間のコントロールができないのは、働き方にもダイレクトにつながる問題ですよね。

小山:そうなんです。当時はクリニックに行くために時間を調整したり休暇を取らなければならなくて、どうにも回しきれなくなった結果、限界がきて離職しました。最近はデスクやWifi設備が整ってリモートワーク対応しているクリニックもあるので、多少状況は違うかもしれません。

ですが、不妊治療で離職する人の割合は未だに16%と高水準。今や5.5組に1組が不妊に悩んでいるといわれるなかで、この数字は依然、高すぎます。それに水面下で悩んでいる人たちを含めればもっといるはずです。だから企業側の理解がもっと深まってほしい。そう思う反面、私自身は不妊治療をオープンにすることにとても悩みました。

特に男性の管理職知識がないテーマだったりもするので、伝え方を間違えると相手も対応がわからずにおかしな励まし方になってしまう。職場の上司以外の男性からの言葉にショックを受けたこともありました。

小巻さん(以下、小巻):企業側としては、公平性や平等性の観点ですぐに制度化するのは難しくても、企業文化を変えることはできますよね。職場での言いやすい雰囲気づくり、通院の時間調整に合わせた有給のとり方を一緒に考えるなど。甘いと言われるかもしれませんが、そういうところから変えるだけでも違うはず。

小山:そうですね。ある企業で、月に1日の妊活休暇が整備されたと話題になっていましたが、治療している身からすると、1日単位で休暇を取るより、時間単位でコントロールできる休みのほうがありがたかったりします。

治療内容によって時間も体力も変わりますし、まるまる1日の休暇を使わないときもあるからです。経験者の意見を取り入れながら、制度や企業文化に反映されていくといいですよね。

キャリアは「ジャングルジム」型の発想で

──妊娠や出産を考える年代は、働き盛りで仕事が楽しい年代でもあります。妊娠・出産でキャリアにマイナスの影響が出るかもと、不安を抱える人も多い。

小山:Facebook社のCOOシェリル・サンドバーグが、『LEAN IN(リーンイン ) 』という本の中で、「女性のキャリアはハシゴではなく、ジャングルジム」と言っているのですが、まさにそうだなと思っています。

上下にしか行けないハシゴは男性的で、妊娠や出産、子育て、病気療養や介護など、ライフイベントの影響を受けやすい女性はキャリアの選択肢が必要です。斜めや左右に行き来しながらも、中長期的には確実に上にあがっていくという発想が女性的でいいなと思います。

ただ上にだけ登っていくのではなく、左右に行ったり立ち止まったりする経験が、のちに生きてくることもある。ジャングルジムのなかで右往左往して得た情報や人脈、アイデンティティは貴重なもの。私の場合、仕事と妊活の両立というつらい体験も、キャリアを俯瞰したり新しい働き方にチャレンジするいいきっかけになりました。

酒向:ジャングルジム、いいですよね。止まってもいいし、斜め左右にジグザグいってもいい。

小巻:そうですよね。子どもを産む・産まないの選択肢もあるし、産んでからの選択肢も多様で、いろんな生き方と働き方があっていい。だから企業としてはただただ、その多様な選択肢を認めていかなければいけないし、少なくとも話ができる企業風土にしておかなければいけない。それだけは明確です。

酒向:「仕事をしたいなら産めない」とか「産んだら仕事ができない」とか、そういう刷り込みはどんどんなくしていきたいですよね。

小巻:私が出産したときは、まだ男女雇用均等法が制定される前でした。結婚しても働く女性はいたけど、しばらくたって妊娠するとみんな辞めるのが当たり前だったんです。私はまだ20代のときに結婚を機に退職しましたが、当時は自分も周囲も疑問に思いませんでしたし、「なぜ女性が辞めなければいけないのか」という発想がそもそもなかった。

株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢さん / Photo by Laundry Box

でも、いまは違う。産む、産まないもそうですし、産んだ後の働き方も、いろんな選択肢があっていい。すぐ復帰してバリバリ働きたいと話していた人が、いざ子どもを産んだら「子どもとの時間をつくりたい」という気持ちに変わることもあります。それぞれを尊重しながら働ける職場をつくることはできます。

妊娠や出産がテーマとなると「いつ産めばいいか」「キャリアはどうなるか」など悩みの部分がフィーチャーされがちです。でも好きな仕事ができることと同じように、妊娠や出産で得られる幸せもあります。仕事はまたいつでも始められますが、産めるからだの年齢にはリミットがあるから、いつか産みたいと思っている人には、出産経験も代えがたい貴重な宝物だよと、ポジティブに伝えていけたらいいですね。

お話を聞いた方

株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長、サンリオピューロランド館長

小巻亜矢

1983年株式会社サンリオ入社。結婚を機に退社。出産などを経て、サンリオ関連会社にて仕事復帰。2013年東京大学大学院教育学研究科修了。2014年よりサンリオピューロランド館長に赴任。 NPO法人ハロードリーム実行委員会代表理事、子宮頸がん予防啓発プロジェクトハロースマイル副代表。

ワーク・ライフバランスコンサルタント、共働き未来大学ファウンダー

小山佐知子

1981年生まれ、札幌出身。大学卒業後、株式会社マイナビに入社し広告営業、メディア編集に従事。30歳で“不妊治療と仕事の両立”という壁にぶつかり、不妊離職を経験。フリーランスとして総合職女性向けの妊活コミュニティの立ち上げや執筆、講師業に従事したのちリクルートメディアの営業を経て2016年に独立。現在は事業を行う傍ら、週3正社員としてママメディアの編集長業務にも従事している。

株式会社GoodMorning代表取締役

酒向萌実

1994年2月生まれ、東京出身。2017年1月より株式会社CAMPFIREに参画。ソーシャルグッド特化型クラウドファンディング『GoodMorning』立ち上げメンバーとしてプロジェクトサ ポートに従事。事業責任者を経て、2019年4月に事業を分社化、株式会社GoodMorning代表に就任。一人ひとりが連帯し合える社会を目指し、クラウドファンディングを活用した社会 課題解決や認知拡大などに取り組む。

New Article
新着記事

Item Review
アイテムレビュー

新着アイテム

おすすめ特集