性教育パペット「ばあばるば」では、国内外で活動するセクシュアルヘルスの専門家のもとを訪れ、インタビューをしています。
今回お話を伺ったのは、ドクター・Tの愛称で親しまれている、南アフリカのトラレン・モフォケン医師(Dr. Tlaleng Mofokeng)です。
南アフリカでは、テレビやラジオに出演し、性の健康と快楽について語る医師として知られています。
そして、先日まで国連「最高水準の身体的及び精神的健康を享受する権利(健康の権利)」特別報告者を務めた彼女に、自身の体について知ることの重要性、適切な言葉をどう取り戻すのかについて話を聞きました。
※本インタビューは、公益財団法人ジョイセフ「SRHR for ALL」主催のメディア向け勉強会における個別インタビューならびに、イベント中の講演内容より抜粋しています。
関連記事:
その言葉はスティグマを根付かせていませんか?元国連特別報告者 ドクターTが伝えたいこと
皮肉とユーモアを「(UN)tamed」わたしは飼い慣らされない ドクターT×谷口真由美

―― 私たちは、体について適切な知識をもち、楽しく対話するために性教育パペット「ばあばるば」をおばあちゃんたちと作っています。
ドクター・Tは、基調講演の中でも、言葉を取り戻す重要性を説いていました。
たとえば、体の名称において、日本では、子どもが自分の性器を呼ぶ愛称として、男の子には「おちんちん」という愛称があるのに、女の子の愛称は「おまた」です。
おまたは「股」という広範囲な言葉で、部位を区別しません。このような状況についてどのようにお感じになられますか?
まず、はじめにネガティブな要素からお伝えします。
正確な情報を伝えずにいると、人々が自分の身体について理解するレベルがさがります。それでは、いつ助けを求めればいいのかもわからなくなります。
それだけではありません。心地よい経験をしたいと思ったときにも、パートナーにどこを触ってほしいか、どこを触ってほしくないか、といったことが分からなくなる。状況を言い表す言葉がないのです。
それに、性教育の授業が行われる場合でも、多くは男子と女子が分けられてしまいます。
でもジェンダーの観点から言えば、私たちは誰もが、他の人の身体の仕組みを知っておいてほしいと思っています。なぜなら、この先の人生で誰と関わることになるか分からないからです。
私は、先ほどの講演でも話しましたが、私は息子の話をよくします。
息子が7、8歳の頃、彼の姉である娘の初潮がくるかどうかの時期でした。家族でそのタイミングを待っていたのですが、息子は、2年間リュックに生理用ナプキンと鎮痛剤をいれて持ち歩いていました。
学校でそれが起きた場合に備えていたんです。
やがて他の女の子たちもそれを知って、休み時間に彼のところへ来るようになりました。
「ちょっとアクシデントがあって。ナプキン持ってる?」「もちろん持ってるよ。何の問題もないよ」
彼は今11歳です。今では家族で12時間のフライトに乗るとき「ママ、準備できてる? 大丈夫?」と聞いてくるんです。
大げさにすることもない。ただ、これは一緒にやることなんだ、という理解があるのです。
息子は自分が男の子だと知っています。彼の周りでは彼がナプキンを持っていても何か言われる可能性は非常に低いですが、クラスの多くの女の子は生理があるというだけで恥をかかされます。
だから互いの身体の働きを知ることは、思いやりを持つ人を育てることなのです。
全員が思いやりを持ち、気配りができるようになったとき、得るものしかありません。そしてそれが、そのままスティグマに向き合うことにもつながります。
本来ごく当たり前のことを当たり前だと示すこと、それがまるで恥ずべき秘密、あるいはふしだらなことであるかのように扱われてきたことを正していくことなんです。
TVで「ヴァギナ」を連呼した

―― 素敵な息子さんですね。誰にどう情報を届けるのがいいのか。
どうやって一般の人々、そしてとりわけヴァルヴァ(外陰部)を持つ人々に情報を届けるのかは重要です。それは女性に限らずトランス男性も含めてです。
彼らは情報提供されているものからさえ、しばしば排除されています。だからこそ、本当の意味で包括的に考えることが重要です。
―― ドクター・Tは、どのような方法で伝えたのですか?
私は5年前くらいにテレビ番組に出演していたのですが、一番最初のエピソードで、私の顔だけが映るなか、「ヴァギナ、ヴァギナ、ヴァギナ」と言いました。
手には自分のヴァルヴァパペットを持っていました。
これが重要だったのは、それが衝撃的だったからです。国中が話し始めました。「なんてこと、彼女はテレビで何て言ったの?」と。
でも、狙いはもうひとつありました。人々は外陰部全体を「ヴァギナ」と呼びます。でも、それは間違いです。これはヴァギナではありません。ヴァルヴァです。
だからその回では、パペットを使って、部位をひとつずつ説明していきました。
私が、ばあばるばをみて、クリトリスの神経が正しく表現されていることに注目したのもそのためです。
私の国では、クリトリスを「豆(bean)」と呼びます。それは、人々はこの小さな突起の部分だけがクリトリスだと思っているからです。
年配の女性が「たまには豆をくすぐってもらったほうがいいわよ」なんて言ったりもします。
でも、陰唇や、その周りのことも知っていると、助けになります。適切な情報を持てば、自分が思い込んでいたことについて、「悪いことをした」と感じずに、少し自分を笑えるようになるから。 だから、ユーモアを使うのもいいんです。
そしてもうひとつ。
これらは全部が同じ見た目ではない、と正直に言うことです。
本を置いて、鏡を持ってください
―― ご著書の冒頭に、印象的な一文がありました。
私が書いた本では、第1章の最初の一文でこう言っています。
「この本を置いて、鏡を持って、自分のヴァルヴァを見に行ってください」
だって、実際に自分のヴァルヴァがどんな見た目なのか知っている人が、どれだけいるでしょうか。
でもそれは全部、私たちから力を奪い、恥を感じさせたがる同じシステムの一部なんです。「なんでそんなことに興味があるの?」と。私たちは毎月タンポンやナプキンを使っているのに。
膣に指を入れることは悪いことだと思ってしまうために、タンポンすらほとんど使えない人もいます。
そして、そのすべてが、性的な快楽をパートナーの手に委ねてしまうことに行き着きます。その大多数は、いまだに男性です。
これは非常に家父長制的なあり方です。
あなたに触れることも、あなたを見ることも許されているのは、あなたの身体におけるあなたの経験を承認する男性だけ、ということになるのだから。
そして、多くの誤情報が、そもそも包括的性教育の場にいたことのない男性たちによって与えられているのです。
「あなたの膣が乾いているのは、風邪薬のせいです」
―― 誤情報が男性から与えられているとは?
私のクリニックではカップル向けのカウンセリングもしています。
女性が来て「私の膣はおかしい、濡れすぎている」、あるいは「乾きすぎている」と言います。
「濡れすぎている膣、乾きすぎている膣って、どういうことですか?」と聞くと、「夫が言うんです」「パートナーがそう言うんです」と答える。
だから私は「次の予約を取って、そのパートナーを連れてきてください。彼が膣について何を知っているのかを本人から聞きたい」と伝えます。
彼らは、包括的性教育を受けていないから、生理学も解剖学も知りません。
排卵のときには分泌物が変わります。月経のあとにも変わる。抗生物質を飲んでも変わる。
そして、鼻づまりを乾かすための風邪薬は、膣も乾かします。同じ粘膜だからです。
薬は「これは口、これは鼻」なんて区別しません。全部を乾かすんです。
だけど冬の風邪の季節に、咳をして具合の悪い状態で来て、「夫が、私の膣が乾いていることに不満なんです」と言う。
私は言います。
「あなたの膣が乾いているのは、風邪薬を飲んでいるからです」と。
そして、潤滑剤を使いたがらないのも、同じ夫やパートナーです。 彼らにとっては「自分の男らしさが、相手を興奮させるのに十分でなければならない」から。
いいえ、そういうものではありません。
女性の身体が、男性が自分のエゴのために使うものとしても見られている。そして、そういう関係から多くの暴力が始まります。
だから、カップルや患者から、そういう話が出たとき私はすぐに止めます。
その話し方や理解、「膣がどう働くか」を「男性のエゴにおいて何を意味するか」と結びつける関わりは、とても危険だと知っているからです。
だから二人に来てもらいます。男性には読んできてもらう宿題を出します。
そして、女性は自己肯定感が完全に削られてしまっているため、自己肯定感を支える必要があります。
どんな種類のセックスをしていますか?
―― 知識がないことで、言葉の捉え方が歪んでしまう。
これらは体が異なる人同士のコミュニケーションにも重要ですが、違う種類のセックスをしているカップルにとっても重要です。
たとえばヴァルヴァを持つ二人がセックスをしている場合、欲しい情報を見つけに行く場所も、「パートナーもヴァルヴァがあり、ただ良いセックスがしたいだけなんです」と伝えられる医師もいないことも多い。
医師は「どんな避妊をしていますか」と聞きます。「必要ありません」と答えると、「必要ないってどういうこと?」と聞かれ、レズビアンであることを説明することになる。
そのようにして医師は患者について知る。
だから、私はいつも患者に「どんな種類のセックスをしていますか」と聞きます。 政府があなたの関係を結婚だと見なすかどうかには、私は関心がありません。
私が知りたいのはただ、あなたの身体で、あなたがどこに快楽を見出しているのか。
そして、あなたが最高の快楽を得るために、私がどう手助けできるか。それだけです。
だから、そういう意味で言葉と名づけが重要なんです。私たちのセックスが「同性愛のセックス」であるかのように扱われるのを、脱スティグマ化するために。
だから言葉が重要なのです。
ばあばるばは、最良の教育メディアです
―― 私たちは外陰部の構造を理解し対話するための性教育パペット「ばあばるば」を作っています。メッセージをいただけますか?
南アフリカのドクター・Tです。私は、ばあばるば(ヴァルヴァパペット)を信じています。世の中にある最良の教育メディアです。人々が自分の身体をよりよく理解する助けになります。
そして、これはヴァルヴァ、ヴァルヴァ、ヴァルヴァ、ヴァルヴァです
――――
そう、これはヴァギナではありません、ヴァルヴァです笑!
ドクター・Tのユーモア溢れるメッセージ、ありがとうございます!
正しい名前で呼ぶことは、細かい話でも、堅苦しい話でもありません。自分の身体を、自分のものとして認識するための、いちばん最初の一歩です。
ばあばるばでも、ユーモアを携えながら、スティグマをなくし笑い合える社会をつくる活動をしていきたいと思います。
*本記事はランドリーボックスが制作している性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の公式サイトの記事を一部編集の上、転載しています。














