藤田医科大学(愛知県豊明市)が10月28日、子宮移植の臨床研究の実施計画を、学内の審査委員会に申請したと発表した。

実現すれば、国内初の子宮移植になる。ただし、現在は申請の段階で、承認されたわけではない。

共同通信によると、今回の申請では、子宮移植の対象が、生まれつき子宮がない「ロキタンスキー症候群」の患者ら3人程度で、子宮の提供者(ドナー)には母親など親族の女性を想定している。会見で、木須伊織教授は来年中の実施を目指す考えを示したという。

藤田医科大の解説ページによると、子宮移植については、2026年6月に臨床研究に向けたワーキンググループを発足したとしている。

子宮移植とは、どのような医療なのか。誰が対象で、日本では何が議論になっているのか。子宮がない人の現状とあわせて整理する。

子宮移植とは、どのような医療か?

子宮移植の流れ(解説図)

子宮移植は、ほかの人から提供された子宮を、子宮がない女性に移植し、妊娠・出産をめざす医療だ。

藤田医科大の解説ページによると、あらかじめ凍結保存した夫婦の受精卵を移植した子宮に戻して妊娠をめざす。出産は帝王切開で、出産を終えたあとは、免疫抑制剤をやめるために移植した子宮を摘出する。

日本医学会の報告書(2021年7月)は、生体ドナーからの子宮移植の流れを次のようにまとめている。

  1. 受精胚をつくり、凍結保存する
  2. ドナーから提供された子宮を移植する。免疫抑制薬を飲みながら、子宮の生着と月経の再開を待つ
  3. 月経が再開したら、凍結しておいた受精胚を移植した子宮に戻す
  4. 妊娠が成立したら、免疫抑制薬を続けながら妊娠を管理し、帝王切開で出産する
  5. 第2子以降を望まない場合は、移植した子宮を摘出し、免疫抑制薬をやめる

今回の臨床研究は誰が対象なのか?

窓辺に立つ女性の後ろ姿(イメージ)

今回申請された臨床研究の主な対象は、ロキタンスキー症候群の女性だ。

藤田医科大の解説ページによると、ロキタンスキー症候群は、生まれつき子宮や腟がない、またはわずかに形だけが残っている状態をいう。

女性の4,500〜5,000人に1人の割合でみられ、国内では毎年110〜120人ほどが新しく診断されている。

卵巣の機能に問題はなく、女性ホルモンも分泌されるため、外見に違いはない。15〜16歳ごろになっても初めての生理が来ないことをきっかけに、見つかることが多い。

日本医学会の報告書は、レシピエント(移植を受ける人)に、病気で子宮を摘出した人も含めている。生殖年齢でがんなどにより子宮を摘出する人は、年に約2,500人と推定されている。

ただし、後天的に子宮を失った人をどう扱うかは、臨床研究の内容を具体的に検討するときの課題とされた。

報告書が示すレシピエントの条件は、次のとおりだ。

  • 体外受精で、妊娠できる受精胚が得られること
  • おおむね40歳以下であること
  • 法律上の婚姻関係か、安定した事実婚の関係にあるパートナーがいて、理解と協力が続くこと

子宮がない人には、いまどんな選択肢があるのか?

相談デスクのパンフレットとメモ(イメージ)

日本では、子宮がない人が自分の子どもを妊娠・出産できる医療的な選択肢は、これまでなかった。

代理出産(代理懐胎)は、日本産科婦人科学会の倫理指針で認められていない。日本医学会の報告書によると、国内の議論では、女性を生殖の道具として用いる点などから、否定的な意見が強かった。

日本学術会議は2008年に、代理懐胎を原則禁止としたうえで、子宮を持たない女性に限った厳重な管理下での試行は考慮してよいとした。しかしその後、この報告に沿った試行は行われていない。

法律上の問題もある。女性が自分以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療で産んだ場合は、産んだ女性がその子の母とされる。代理懐胎では、依頼した夫婦と子どもとの親子関係は当然にはできず、養子縁組が必要になる。

養子縁組には、特別養子縁組がある。報告書によると、成立件数は年に500件程度で、2019年の民法改正で要件が緩和され、2020年4月に施行された。

一方、報告書は、特別養子縁組は子どもの福祉のための制度であり、不妊治療の代わりとみられることを子どもたちは望んでいない、という専門家の見解も紹介している。

子宮移植と養子縁組は、どちらが良いかを比べるものではなく、どちらを選ぶかはそれぞれの考え方による、という結論だ。

そのうえで報告書は、現状では子宮移植が、子宮性不妊の人が妊娠・出産し、国内で法律上の実子をもうけられる唯一の方法だと考えられる、としている。

海外ではどうなっているのか?

世界地図とピン(イメージ)

世界初の子宮移植は2000年にサウジアラビアで行われたが、子宮は生着しなかった。出産に至った最初の例は、2014年のスウェーデンだ。

藤田医科大の解説ページによると、現在は20カ国以上で160例以上が実施され、80人以上の赤ちゃんが生まれている。日本医学会の報告書が集計した2021年3月時点では、16カ国で85例、出産は40例だった。

結果を詳しく報告した例として、米国の臨床試験「DUETS試験」がある。論文(JAMA、2024年)によると、2016〜2019年に20人が移植を受けた。ドナーは生体18人と脳死2人だ。

  • 14人(70%)で子宮が生着し、14人全員が少なくとも1回出産した
  • 20人のうち11人に、少なくとも1件の合併症があった
  • 成功した妊娠の50%で、母体や産科の合併症があった。妊娠高血圧、子宮頸管無力症、早産が各2人(14%)
  • 生まれた子ども16人に、先天性の奇形はなかった
  • 生体ドナー18人のうち4人に、グレード3の合併症があった

論文は、移植は技術的に可能で、生着すれば出産率は高いとする一方、合併症はドナーにもレシピエントにも多くみられたとまとめている。

日本では、どんな議論がされているのか?

日本医学会の検討委員会は2021年7月、生体ドナーからの子宮移植を、症例数を少数に限った臨床研究として容認する報告書をまとめた。

専門家14名が13回の会合を重ねた結果だ。

条件として、関係者全員のインフォームド・コンセント、ドナーの自由意思と無償の提供、専門学会が許容した施設での実施、術後の長期のモニタリングなどを挙げた。

ただし、全員一致ではなかった。2名の委員は、現時点では子宮移植を実施する環境にないという意見を示し、許容するとしても、臨床研究の段階では脳死ドナーからの移植に限るべきだとした。

報告書は、脳死ドナーからの子宮移植を可能にする法令改正も提言している。

2021年時点で、臓器移植法令は移植の対象臓器に子宮を含んでいない。報告書は、この改正が臓器売買の抑止のためにも必要だとしている。

子宮移植で指摘されている懸念とは?

同意書に署名する手元(イメージ)

ドナーの負担

生体からの臓器移植は、子宮に限らず、健康な提供者に侵襲を与えるため、厚生労働省の運用指針で「やむを得ない場合に例外として実施されるもの」とされている。

子宮は生命の維持に必須の臓器ではない。報告書によると、移植用の子宮の摘出は、通常の子宮全摘術より出血が多く、手術時間も長い。

日本では実施例がないが、海外ではすでに生体ドナーからの移植が行われている。2021年3月時点の海外報告の集計では、生体ドナーの平均手術時間は8時間42分、平均出血量は499mL、平均入院日数は6.5日だった。

63例で報告された合併症には、尿路感染(7例)、尿路損傷(4例)、膀胱腟瘻(2例)などがある。子宮を失うことや、提供しても妊娠・出産に至らなかったことによる、精神面への影響の可能性も指摘されている。

レシピエントと子どもへの影響

子宮移植倫理に関する検討委員会 報告書によると、2021年3月時点の海外報告の集計で、レシピエントの手術も平均5時間45分、入院9.7日の大きな手術だった。子宮が生着しない可能性があり、生着しているあいだは免疫抑制薬を飲み続ける。

拒絶反応が抑えられなければ、妊娠していても継続を断念し、子宮を摘出する可能性がある。妊娠中の免疫抑制薬は胎盤を通して胎児に影響しうるが、生まれた子どもの長期的な影響は、現段階では十分なデータがない。

家族のなかの圧力

報告書は、子宮移植が認められると、子宮を持たない女性に対して、何としても子どもを産むべきだとする家族内の圧力や、産むことを女性の必須の役割とみなす社会的な圧力が強まる可能性を指摘している。

ドナーについても、女性がドナーにならざるを得ないことや、ジェンダー規範の影響から、自由意思の確保に一層慎重な配慮が必要だとした。

診断と支援の不足

報告書は、ロキタンスキー症候群の診断の告知や、その後の相談・心理的な支援が足りていない現状を挙げた。

子宮移植だけを切り離して考えるのではなく、告知のあり方や支援の体制を、関係学会が早急に整えるよう求めている。

当事者や一般の人の意見は?

日本医学会の報告書によると、委員会はロキタンスキー症候群の当事者の会2団体の代表者から意見を聴いた。子宮移植が可能になればぜひ受けて子どもを持ちたいという人もいれば、自分は受けるつもりはないという人もいた。

受けるつもりのない人も、子宮移植が生き方の選択肢の一つになるとして、検討が進むことを望んでいたという。

2017年10月に、東京大学医学部附属病院が、20〜59歳の男女1,600人を対象に行った子宮移植への意識調査では、以下のような回答があった。

  • 子宮移植を社会的に「認めてよい」は36.5%、「認めるべきでない」は17.0%
  • 否定的な理由で最も多かったのは「手術自体のリスクが高いから」(52.6%)
  • 多くの質問で、30%以上が「わからない」と答えた

女性に「自分の娘夫婦が子宮性不妊だったら、娘のためにドナーになりたいか」と尋ねた質問では、答えが割れた。

  • 「ドナーになりたい」:15.9%
  • 「ほかにドナーがいなければ自分がなりたい」:16.4%
  • 「子宮移植はよいが、ドナーにはなりたくない」:7.1%
  • 「娘に子宮移植をしてもらいたくない」:19.5%
  • 「わからない」:41.1%

なお本調査は、9年前の調査であり、今回の計画への賛否を尋ねたものではない。

子宮移植にはどんな可能性が?

朝の光と観葉植物(イメージ)

一つは、自分の体で妊娠・出産するという選択肢が生まれることだ。藤田医科大は解説ページで、子宮移植を「自身のお腹で赤ちゃんを育てるための選択肢」として期待されていると説明している。

日本医学会の報告書は、子宮移植では、遺伝学的な母と生物学的な母が一致することを利点に挙げた。出産後の母子関係について、代理懐胎のような法的な問題も生じない。

ドナーの負担については、報告書は、摘出の術式の改良で手術時間と出血量が改善されつつあるとしている。脳死ドナーからの移植が可能になれば、生体ドナーに関わる医学的・倫理的な課題は解消される。

ただし、レシピエントと子どものリスクは、生体の場合と同等かそれ以上とみられる。わが国では脳死ドナーからの臓器提供そのものが少なく、体制の整備には相当な期間が必要だという。

一方、報告書は、子宮移植を「未知のリスクを含むさまざまな重大リスクが想定される未完成の医療技術」とも位置づけている。臨床研究の結果によっては、結論を見直す可能性もあるとした。


藤田医科大の計画は、これから審査される。

審査では、報告書が求めたドナーの自由意思の確認や、術後の長期のフォローアップ、心理的な支援の体制が、どう整えられるかが問われる。今後の議論や動きに注目したい。

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