性教育パペット「ばあばるば」では、<Ba-Vulva Friend>と題して、国内外のセクシュアルヘルスにまつわる専門家にインタビューをしています。

今回は、韓国ソウルの性教育センター「市立Aha!青少年性文化センター」を訪問。センター長 イ・ミョンファさんと、ソン・チェヨンさんに話をききました。

Aha!センターは2000年に設立され、24年にわたり包括的な性教育を実践しています。前編では、Aha!センターでの取り組みについて、後編ではAha!センターの施設内をレポートします。

センター長 イ・ミョンファさん(左)、ソン・チェヨンさん(右)

女性器だけが汚されていった。鏡の部屋が教えてくれたこと

―― 「市立Aha!青少年性文化センター」を立ち上げるきっかけは何だったのでしょうか?

性文化センターを作る前、青少年を対象とした相談業務を行っていました。その時、とても印象的だったのが、思春期前後の男の子たちから「女性の性器はどんな形をしているんだろう」という相談が非常に多かったことです。

誰にも見せてもらえないから、家で妹が寝ている時にこっそり見てしまったという子もいました。

隠されているから余計に気になるんですよね。言葉だけで説明するには限界があると感じ、体験型の性教育が必要だと痛感しました。

海外の性教育のエビデンスも参考にしながらプログラムを構築しました。

―― どのような教材を使っているのですか?

かつては鏡を使った部屋がありました。

シリコン製の性器を模した教材を使い、男性用と女性用で2つの部屋を作って、鏡で自分の身長に合わせて模型を動かして、自分では見えない性器の部分を見られるようにして。「私にもこれと同じものがついているんだ」とわかるようにしていました。

男の子の部屋には、韓国の有名な標語をヒントにしたメッセージを書いていました。「幸せは成績順ではない」という言葉から着想を得て、「幸せは大きさ順ではない」と。

男性の性器も大きさや形がそれぞれ違うし、勃起している時としていない時でも違います。そのような違いを部屋で鏡越しに自分の身体を見て学べるようにしていました。

また完全に男女を分離するのではなく、それぞれが学べるようにしていました。

鏡の部屋について説明をするイ・ミョンファさん

―― 鏡で自分を見ながら学ぶという発想がすごいです。「かつては」ということは、今はもうないのですか?

ええ、なくしました。理由は、男の子たちが女の子の部屋に入っていたずらをするようになったからです。

落書きをしたり、破ったりして。

それも女性器の教材だけが汚くなっていくんです。男性器の方はきれいなままなのに、女性器だけがどんどん損壊されていきました。

女の子たちがそれを見た時、すごく気分が悪いと言いました。

そのときに、なぜ女性の性器だけが損壊されるのか、なぜ男性は性をおもちゃのように扱ってしまうのか、なぜ女性は逃げるしかできないのか、どうして性に接する態度が男女でこんなに違うのか、深く考えさせられました。

―― その経験を経て、教育内容も変えていかれたんですね。

はい。当初は生物学的な知識、妊娠、出産、避妊、精子、卵子といった内容や、思春期の男の子のマスターベーション、性器の大きさの悩み、性行為のエチケットなどを中心に教える「第1世代」のバージョンでした。

でも鏡の部屋での出来事を通じて、生物学的な知識だけでなく、その背景にある哲学や考え方を変えていかなければいけないと感じました。

なぜ女性の性器だけが損壊されるのか、なぜ男性は女性を人として扱わず性的な対象として見てしまうのか。これは根本的な問題です。

そこから恋愛や男女の平等性、男女の関係について教えるようになり、バージョンアップを重ねて、今は第5世代のバージョンです。

25年かけて、ここまできました。

―― 第5世代のバージョン…!現在はどのような教材になっているのでしょうか?

今一番人気なのは「私だけの恋愛レシピ」というピザ型の教材です。

プログラム名が「恋愛レシピ」で、ピザのトッピングを選ぶように、自分の価値観を自由に選べるようにしています。

「恋愛レシピ」プログラムで使用するピザ型のツール

―― かわいいですね!なぜピザ型に?

自分の好きにトッピングして作れる食べ物で、子どもたちが一番親しみやすいものを考えた時、ピザが一番だと思ったんです。

「タコスのトッピングを選ぼう!」と言われても、ちょっと違和感があるでしょう?ビビンバも面白いけど、やっぱりピザが一番しっくりきました(笑)

他にも、5つのカバンを使って、性別や年齢、職業、障害についての固定観念や偏見、無意識の差別について考えるプログラムもあります。

カバンの中身を見て、持ち主が何歳で、性別は何で、どんな職業かを推理するんです。

ウィッグや化粧品が入っていれば「これは女性だな」と思いますよね。でも実際は違うかもしれない。

そういうことから、固定観念について学んでいきます。

バイアスに気付くきっかけになるプログラムで使うツール

―― 参加型プログラムが多いですよね。プログラムで気をつけていることはありますか?

プログラムでは匿名性を重視しています。たとえば、恋愛の話でも、自分の名前だけでなく友達の名前を出してしまうこともある。それを防ぐために、名前は出さないルールにしています。

自分や友達のことも守りながら、自分の悩みを安心して話せる環境を作っています。

「見るな」はきかない。デジタル性暴力とどう向き合う?

―― 韓国ではK-POPをはじめ多くのアイドルが人気です。美容整形も盛んですが、ルッキズムについてはどうでしょうか?

私たちは「Yes My Body」というキャンペーンをしています。

韓国は特に外見重視の傾向が強く、メディアでもアイドルなどを見ると、女性は痩せていなければならない、男性は背が高くなければならないという圧力があります。

女の子たちは早いうちから摂食障害になったり、男の子は身長が伸びないことが悩みになったりします。

特に女性の方がこの問題はデリケートで大変です。整形もやはり女性の方が多いですし、今では医療産業化してしまっている部分もあります。

大人なら自己判断できますが、青少年には副作用もあります。

簡単な問題ではないですが「自分の身体は私のもの」ということ、どんな形でもいろんなものがあって多様なんだということを教えていきたいです。当たり前のことのようですが、若い子たちには難しいんです。

―― 日本も同じ状況だと思います。

性教育で一番大切なのは、身体を肯定してあげることです。性器だけでなく、自分の身体全体を肯定する。それが「Yes My Body」の一番のメッセージです。

―― AIをはじめ社会環境が大きく変わっています。デジタル性犯罪についてはどうでしょうか。

韓国では「n番部屋事件」やディープフェイクの問題が大きな社会問題になっています。

テレグラムで匿名の部屋を作って、性搾取の動画を共有したり、知っている人の顔を成人向けコンテンツに合成して脅迫したりする犯罪です。AIで自分の知らないところで顔が合成されてしまいます。

インスタグラムなどに上げた写真を使ってポルノを作り、「お前の家を知っている」「お前の学校を知っている」「裸の写真を送れ」と脅迫する。

フェイク動画だけでなく、実際にその人に被害を与えるんです。被害者は精神的に病んでしまいます。

女性団体が加害者を捕まえる運動をしていて、新聞に告発したり警察に通報したりしていますが、1年以上かけて追跡しないと捕まえられない状況です。

主犯格は42年の刑期を言い渡されていますが、アメリカだと150年、400年という判決もあるので、まだ軽いと思っています。

―― さきほどの鏡の部屋での経験とつながりますね。

まさにそうです。女性を人として扱わず、性的な対象として見ているという根本的な問題があります。

厳しく罰しても、そういう文化がある限り続いてしまうでしょう。最近では年齢も下がり10代の男の子たちがしてしまうのではないかと心配しています。

―― デジタル性暴力について、子どもたちにはどう教えていますか?

「見るな」と言っても見てしまうので、「見るな」という教育ではありません。デジタルリテラシー、Digital Citizenship(デジタルシチズンシップ)*という概念で、根本的なことを教えています。

子どもたちに無条件に「これはダメ」と言っても聞くわけがないので、「どんなものがあるかな?みんなで話してみましょうか」というところから始めます。

自分がそういうのを見て嫌な思いをした経験を話し合ったり、実際にあった事例を説明したりします。

どこでどういうことが起きたのか、あなたならどうするか、なぜ写真を送ってしまうのか、もし写真を受け取った立場ならどうするか。

どこからどこまでが犯罪になるのか、自分から話し合いを始めなければいけないのか。最近の事例を出しながら、みんなで考えていくんです。

*デジタルシチズンシップ:デジタル社会の一員として、責任・倫理・権利を理解し、健全に参加する力

―― 本当に難しい問題ですよね。誰を対象に教育すべきなのか。

男性にも教育が必要です。日本も同じだと思いますが、性教育に関心がある男性や、社会問題だと感じている人は学ぼうとします。

でも、本当に犯罪をしてしまいそうな、全く知識がない人たちにどう教育するか、それが私たちの重要なテーマです。

ある程度年齢を重ねてしまうと、教育しても聞き入れません。

小さいうちに、子どものうちに教える必要があります。男の子が「性器は大きい方がいいのか」「女の子のあそこはどうなってるんだ」と疑問を持ち始めた時に、きちんと説明してあげる。

自分の身体を大事にすることと同じように、そこで出た疑問も大事にしてあげたいんです。最近の子どもたちは、そういう教育を受けないまま、ポルノで女性を知ってしまいます。

画一化された女性像、性的な刺激だけを受けて、実際の女性と男性が分かっている女性像にアンバランスが生まれてしまう。だから、男性にも性教育が必要です。

―― 男性向けのプログラムもあるのですか?

男性向けの性教育キャンプなどをしています。

2023年に「ナムダルン性教育研究所(他とは違う性教育研究所)」という専門団体を作りました。ソウル市のセンターですが、必要な議論や活動を進めています。ディープフェイク事件が起きたので、それに対応するためでもあります。

すべての人のための性教育というキャンペーンも、9月4日を「性教育の日」として行っています。

フェイクニュース、誹謗中傷——24年間の性教育の闘い

―― 長年、性教育に携わられています。センター設立以降、政治的圧力などはありましたか?

「このセンターは性に対してあまりにも行き過ぎた教育をしているんじゃないか」「小さい子どもたちに刺激が強すぎる」「性的な乱れを支持しているんじゃないか」「こういう性教育をするからエイズ患者が増えるんだ」といった攻撃をしてくる人もいます。

フェイクニュースを作られたり、講演先でそのような人が来て誹謗中傷をいわれたりすることもあります。

―― 政治も影響しているのでしょうか?

そうです。このセンターはソウル市から委託をうけているので、「税金の無駄遣いだ」という声もあります。

けれど、続けてほしいという声もたくさんいただいています。

24年以上続けているので、教育してきた子どもたちが、ちゃんと学び立派に成長してくれている人も多い。そういう姿を見ると、やっぱり続けなければと思います。

――  貴重な学びの場ですよね。

子どもたちには正しい情報が必要です。ここで教育を受けた子どもたちは「学んで良かった」と言ってくれます。

思春期の子たちとよく会うんですが、最初は拒否感を持っていても、終わった後には「自分の身体がなぜこう変わるのか分かった」「生理が怖かったけど、怖くなくなった」と安心してくれます。

エビデンスに基づいた情報を知ることで、おおよその悩みは解決できます。教育を通して、子どもたちの悩みや不安が解消できるのは嬉しいですね。

韓国における学校での性教育は?

―― 学校での性教育はどうですか?

韓国では、学校で年間15時間、性教育をすることになっています。教科書には、体育や保健の科目に性教育の内容が少しずつ入っています。

小学4年生くらいから生理や思春期の体の変化、中学生になると避妊や意思決定、性の文化なども書かれてはいます。

保健、科学、生物、体育などの授業で行いますが、その中の何時間かは外部講師を招いてするのが良いとされています。

性教育を大事にしている学校は、私たちのような団体と計画を立て、専門的な教育をしています。でも、大多数の学校は「一応やりました」という感じです。

性教育を大事に考えている先生もいれば、必要ないと考えている先生もいます。

どの学校でどの先生に出会うかが、子どもたちの将来を左右してしまう。ガチャみたいで嫌ですよね。

―― それでも性教育は良い方向に向かっていると感じますか?

はい、性教育を続けることにやりがいを感じています。「学べて良かった」という声を聞くと、続けなければと思います。

学校の先生たちも、そういう気持ちになってくれる人が増えればいいなと思います。

ばあばるばは、親しみやすく使いやすい。

―― わたしたちは、おばあちゃんたちと一緒に、性教育パペット「ばあばるば」をつくっています。このような取り組みについてはどう思いますか?

95歳の女性も手伝って作っているんですよね。本当に素晴らしいと思います。このような高齢女性たちの活動は、これから高齢化を迎える韓国にとっても大きな励みになります。

ーー ばあばるばは、どのように活用できると思いますか?

イ・ミョンファさん:実物は思っていたよりも大きいですね。触れてみると柔らかくて、触り心地がいいです。外陰部の模型としては3Dプリンタで制作したものもありますが少し硬いので、ばあばるばは親しみやすさがあります。

ソン・チェヨンさん:青少年の子たちが触るのにも親しみやすく、使いやすい教材になると思います。

イ・ミョンファさん:体の構造を知る際に、小陰唇や大陰唇、肛門。尿道があってそこからおしっこが出る、赤ちゃんはここ(膣口)から出てくるという説明もできますね。

ーー クリトリスの形状を知るために、パペットから取り出すこともできます。

イ・ミョンファさん:そうそう。クリトリスは性器で一番感覚が強いし、小さく見えても実は後までつながっていて性的興奮を感じることができる。

男性と同じように女性もここを触ることで性的快感を感じることができる。ばあばるばでは、こういうことも学べますね。

ーー 最後に、今後Aha!センターではどのような活動を?

あらゆる人のために性教育をしていきたいです。

あらゆる人というのは、マイノリティや弱者、移民など性教育から阻害されている、十分な機会を得られない青少年に対してもです。

AIやデジタルから誤った教育を受けている青少年に対して、より親しみやすく、当然のこととして自分の体の主権を持ち、相手も尊重できる文化が広まることを願っています。

やるべきことは、たくさんあります。

ーー ありがとうございました!

Aha!センターの取り組みやこれまでの軌跡を伺う中で、日本国内で起きていることと類似している点も多いと感じました。

決して楽観視できない状況下において、24年以上、若者たちにエビデンスベースの適切な情報、そして学び合える環境を提供し続けてきたAha!センター。

数多くの困難の中で、「学べてよかった」という子どもたちの声を活力に前に進み続けている姿、そして、めまぐるしいスピードで変わり続ける社会に対応し、子どもたちが「今」知る必要があることを、子どもたちが「知りたい」と思えるかたちで提供することの大切さ。

とても多くの気づきと学びをありがとうございました。

ばあばるば」でも社会変容に合わせた対話の大切さを提供できるようにがんばります。

ーー

後編では、施設内のプログラムについてレポートしています。

後編:韓国の性教育施設Aha!センターに潜入!ピザを使った恋愛レシピとは?

本記事はランドリーボックスが制作している性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の公式サイトの記事を一部編集の上、転載しています。

https://laundrybox.co.jp/Ba-Vulva/AhaCenter_interview1

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