スイス西部のジュネーブ州で2026年9月27日、避妊にかかる費用を州が負担することを求める住民発議(イニシアチブ)の住民投票が行われた。

スイスの公共放送RTSなどの報道によると、賛成58.46%で可決され、避妊を州の負担で無料にする方針が決まった。イニシアチブは、ピルやアフターピル(緊急避妊薬)、コンドームだけでなく、IUD(子宮内避妊具)、インプラント、注射、パッチ、膣リングまで、効果が証明された避妊法すべての費用を州が負担するよう求めている。

イニシアチブの原文には、所得や年齢といった対象者の条件は書かれていない。

ただし決まったのは原則で、実際にどこまでを対象にし、いつから始めるかは、これから州の法律で決める。報道によると、スイスの州で避妊の全面的な無償化の方針を決めたのは、ジュネーブ州が初めてだという。

何が無料になるのか

住民投票にかけられたのは、イニシアチブ第198号「避妊の無償化のために(Pour une contraception gratuite)」。

イニシアチブの原文では、避妊にかかる費用すべてを州が負担する仕組みをつくるよう求めている。対象は効果が証明された避妊法で、具体的には次のようなものが挙げられている。

  • ピル(アフターピルを含む)
  • インプラント(腕に埋め込むタイプ)
  • 注射
  • パッチ
  • 膣リング
  • 子宮内避妊具(IUD)
  • コンドーム

また、対象者を限定していないことも記されている。発議したのはジュネーブ州の社会民主党で、報道によると投票率は約44%だった。

背景には、スイスの公的な基礎健康保険が、避妊を目的とする避妊薬や避妊具をカバーしていないという事情がある。

発議した社会民主党は、イニシアチブの理由として、効果の高い避妊法ほど最初にかかる費用が高く、IUDでは診察代とは別に最大400スイスフラン(約7万6,000円)かかることもあると主張している。

また、避妊の費用と責任が女性に偏っている状況を変えるべきだと訴えている。

州政府は反対

州政府は、費用が避妊の妨げになってはいけないという目的には理解を示しつつも、所得や年齢で区別しない一律の無償化は「適切ではない」という立場だった。

代わりに、費用が本当に壁になっている人に支援を絞り、病院の相談窓口や地域の支援団体、学校での予防教育といった今ある仕組みを活かす考えを示していた。

最後に決めるのは住民——スイスの直接民主制

州政府が反対していたのに、なぜ無償化の方針が決まったのか。

スイスでは、住民自身が憲法や法律の改正を提案でき、一定数の署名を集めればその提案は住民投票にかけられる。政府や議会は投票の前に賛成・反対の立場を示すことはできるが、最後に決めるのは住民だ。

この仕組みは州にもある。

今回のイニシアチブは「このような法律をつくってほしい」と大まかな方向を示すタイプで、ジュネーブ州の手続きでは、可決された場合、州議会が具体的な法律をつくることになっている。

つまり、政府や議会が反対していても、「避妊を無料にする」という原則に沿って制度をつくる必要がある。ただし、どこまでを無料にするかといった中身は、これからの議論で決まる。

実施は2028年の見込み

住民投票の結果を受けて、反対していた州政府がこれから制度づくりを担う。今回決まったのは「避妊を無料にする」という原則で、具体的にどこまでを対象にし、どう仕組みをつくるのかは、これから州の法律で決めることになる。

現地紙Blickらの報道によると、州政府は2027年春に実施のための法案を州議会へ出したい考えで、2028年1月の施行を目指している。

州の保健担当閣僚ピエール・モーデ氏は、婦人科医や薬剤師、関係団体をすぐに集め、対象範囲や進め方を話し合う考えを示したという。

費用について、州政府は年間最大2,000万スイスフラン(約38億円)と試算していた。

またBlickによると、発議の中心となった社会民主党の議員は、ほかの州への広がりや、将来的に国の基礎保険で避妊がカバーされることにも期待を寄せている。

ヨーロッパで広がる「避妊は公費」の流れ

避妊の費用を公費で負担する動きは、ヨーロッパで少しずつ広がっている。

隣国フランスでは、25歳までならIUDやインプラント、一部のピルなどを自己負担なしで使える(パッチや膣リングは対象外)。

イタリア北部のボルツァーノ自治県(南チロル)でも、2026年9月から14〜25歳を対象に、カウンセリングとセットで避妊を無料で提供する試行事業が始まった。

日本では「全額自己負担」が基本

一方、日本では避妊目的の低用量ピルに健康保険が使えず、全額が自己負担になる。

2026年2月からは薬局で処方箋なしにアフターピルを買えるようになった。ただし、メーカー希望小売価格はノルレボが税込7,480円、同じ有効成分(レボノルゲストレル)を含むレソエル72が税込6,930円で、薬剤師の前で服用する必要もある。

避妊は、妊娠するかどうか、いつ産むかを自分で決めるための手段だ。それが「お金を払える人のもの」になっていないか。

ジュネーブの人たちが投票で出した答えをもとに、制度がどう実行されていくのか。日本で暮らす私たちにとっても、考えるきっかけになるのではないだろうか。

New Article
新着記事

Item Review
アイテムレビュー

新着アイテム

おすすめ特集