「避妊は、女の子が自分の夢を叶えるための必需品」ーーそんな思いで、若者の性に関する健康を守るための活動をしている女性がいる。

「#なんでないの」プロジェクト代表で、スウェーデンの大学院に留学している福田和子さん。「日本の避妊はないものだらけ」。そう訴える彼女の活動はいま、少しずつ広がろうとしている。

Photo by Misa Nishimoto

<福田和子さんプロフィール>

1995生まれ、東京都出身。国際基督教大学卒。大学では日本の性産業の歴史を学んだ後、女性の健康や権利、公共政策の在り方に興味を持ち、スウェーデンに1年留学。

その傍ら「#なんでないの」プロジェクトを始めた。現在は再びスウェーデンに戻り、ヨーテボリ大学大学院で公衆衛生を学んでいる。

「#なんでないの」を合言葉に

「#なんでないの」プロジェクトは、福田さんが2018年5月に立ち上げた。Webサイトでは、世界で当たり前のように使われている避妊法、避妊グッズが、日本で認可されていなかったり、高価だったりする現状を紹介。

ハッシュタグ「#なんでないの」を合言葉に一人ひとりの声を届け、自分たちのいまを変えようと呼びかけている。

「#なんでないの」公式サイトより

2018年には、アフターピルの市販化などアクセス改善を求める署名をNPO法人ピルコン代表・染矢明日香さんと実施し、4万件を超える署名を集めた。

また、今年3月には署名サイト「Change.org」で「日本でも女性が使えるより確実な避妊法を承認してください!」と訴える署名活動をはじめた。インプラントや皮膚に貼るシールなどによる避妊法を認可し、若者にも入手可能な価格で提供することを求めている。

4月27日時点で約3500人が賛同しており、「もっと女性が避妊法を自分で選べるべき」「これらの避妊具が日本になく、泣きたかった。そんな日本を終わりにしたい」などのコメントが寄せられている。

スウェーデンに留学、感じた「不条理」

福田さんがプロジェクトを始めたきっかけは、大学生のとき、留学先スウェーデンでの経験だ。クリニックに低用量ピルをもらいにいった際「その他の方法も考えた?」と選択肢を提示された。

「他の方法は聞いたことがなかった。帰って調べてみたら、スウェーデンだけにあるのではなく、日本にはないという感じ。日本語で検索してもほとんど出てこなくて、すごくビックリしました」。

福田さんによれば、スウェーデンでは13~25歳が通う「ユースクリニック」で避妊に関するカウンセリングを無料で受けることができ、若者は自分の好みや価格などを踏まえながら避妊方法を相談できるという。

「日本では女性が避妊をするならピルが一般的です。ピルもいろいろな種類があるのに、クリニックでは種類が提示されないことも多いので、自分の体を考えるきっかけにならないんですよね。

スウェーデンでは、本人が選ぶのが一般的で、日本のように“受け身”ではないんだと感じました」。

もうひとつ驚いたことがある。スウェーデンの薬局で緊急避妊薬(アフターピル)が売られていたことだ。

アフターピルは妊娠を避けるために排卵を遅らせる薬で、コンドームが破れた、性被害を受けたなどの場合に緊急措置として行う避妊方法。性交後72時間以内に服用する必要がある。

日本では医師の処方箋が必要で、欧米のように薬局で手軽に購入することはできない。福田さんは、アフターピルが手軽に手に入るスウェーデンと日本の環境の違いを知り、「ショックを受けた」と振り返る。

スウェーデンのユースクリニック(本人提供)

「日本人、守られてなくない……?」ーー福田さんの中に膨れ上がった、避妊をはじめとする性の健康に関する素朴な疑問。

それが「#なんでないの」プロジェクトにつながっていった。

「どんな状況であっても最低限健康を守れるとか、想定外の妊娠をしないとか。それってすごくユニバーサルで、全ての人に大事なことだと感じました」

「#なんでないの」プロジェクトのサイトによると、アフターピルには日本では1〜3万円ほどかかる一方(現在ではジェネリック医薬品が発売されたことで、6000円程度で手に入るクリニックもある)、欧米では薬局でも1000~5000円程度、アジアでは数百円で手に入る国もある。

また、イギリスのように病院で処方してもらうと誰でも無料という国も。

「ずっと日本で育ってきたから、病院で1、2万円するのは当たり前だと思って疑問視してこなった。でも、いろんな国の事例を調べてみると、全然そうじゃないのかもと思いました」。

「いまはスウェーデンにいるから、手を伸ばせばすぐアフターピルが買えるし、お金も心配しなくていい。

でもこの瞬間も、日本では、72時間に間に合わなかったり、病院に行きたかったけど行けなかったり、お金がなかったり、そういう理由でアフターピルを諦めている人がきっといる。

生理こないなあ、どうしようって不安に思っている子がいる。すごく不条理だと思ったんです」。

夜な夜なWebサイトを作った日々

「#なんでないの」のWebサイトを夜な夜な自分で作ることから始めた福田さん。今では、実体験を含めた当事者の声などが100件以上寄せられている。

そして、様々な媒体でも緊急避妊を含む避妊へのアクセス改善を求める声が届けられるようになり、少しずつ手応えを感じている。

「できるところまでやってみようと始めたプロジェクトですが、何にもなかったところからこうやって取り上げてもらえるようになって嬉しいです。始めた当初は、こんなにいろいろなことが起こるとは、思っていませんでした」。

Webサイトに寄せられるメッセージからは「本当に切実な思いが伝わってくる」という。「頑張らなきゃって励まされます」。

福田さんは現在、スウェーデンの大学院で公衆衛生や医療政策を学んでいる。

「(性の健康のため)どういうサービスが若者に届くのか興味があるんです。いまは、他の国のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)を日本の若者に紹介したり、日本の状況を調査し、国際会議で発表したりしています。これからもっと社会を巻き込んで、伝わるものにしていきたいと思っています」。

2019年11月 ケニアのナイロビで開催された国際人口開発会議(ICPD)で登壇した様子(本人提供)

オンライン診療の解禁へ

そして、2020年4月。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、厚生労働省は緊急措置として初診からオンライン診療を許容した。

予期せぬ展開ではあるが、病院に行くことができず不安な思いをしている女性たちが低用量ピル、アフターピルをはじめとした避妊薬をオンラインで処方してもらうことが可能になった。

「WHO(世界保健機関)も、避妊を含む性と生殖にかかわる医療はCOVID-19下においても守られるべき重要な医療とし、緊急避妊薬は薬局で販売するようにとの声明を出しています。

この流れは歓迎しますし、ぜひ諦める前に、病院に行く必要のないオンライン診療にトライしてみてほしいと思います」

オンライン診療の使い方がわからない若者に向けて、4月29日(水)20時から「#なんでないの」プロジェクトのインスタグラムアカウントにて、丸の内の森レディースクリニック院長宋美玄先生とオンライン診療の仕組みなどをインスタライブで配信する。

より多くの若者に情報が届くように活動している彼女だが、2020年春には、25カ国25名の活躍する若手アクティビストらが集い、あらゆる女性が自ら選択できる社会を目指すグローバルムーブメント「SheDecides」の一人に選ばれた。

「各国の若手アクティビストたちとも連携し、日本でも当たり前に誰もが性の健康を守れる社会を実現したい」

どのような状況下でも誰もが自分らしく安心して暮らせる社会へ。彼女は今日も活動を続けている。

Photo by Misa Nishimoto

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