特定のパートナーとしか性行為をしていなくても、性感染症に絶対にかからないとは言いきれません。自覚症状がないまま、お互いにうつしてしまう可能性があるからです。この記事では、主な性感染症と症状について説明します。
性感染症とは
性感染症とは、性行為(アナルセックスやオーラルセックスなども含む)で感染する病気のことで、昔は「性病」と呼ばれていました。症状の出ない潜伏期間がある場合もあり、感染に気づかないまま病気が進行したり、知らずに他の人にうつしたりする可能性があります。
*性感染症は英語ではSTI(sexually transmitted infections)やSTD(Sexually Transmitted Diseases)と呼ばれます。
主な性感染症と症状
今回は代表的な性感染症とその症状を説明します。これらの症状に当てはまる場合は感染の疑いがありますので、早めに病院(女性は婦人科、男性は泌尿器科)を受診しましょう。
クラミジア感染症
クラミジア感染症は、性器および喉の粘膜にクラミジア・トラコマティスという病原菌が感染する病気です。男女ともに症状がほとんどないため、感染を知らずにうつしてしまう可能性があります。
クラミジア感染症の症状
女性はおりものの増加、不正出血、下腹部の痛みや性交痛などの症状が出ることがありますが、まったく症状がないことも多いです。男性は尿道のかゆみや排尿痛、尿道からの膿、精巣上体の腫れ、発熱などの症状が出ることがあります。
感染に気づかず放置していると、子宮から卵巣や卵管、骨盤などに感染が進行し、卵巣炎や卵管炎、骨盤内炎症性疾患を発症する可能性があります。これらの疾患は子宮外妊娠や不妊症の原因になることもあります。
クラミジア感染症のくわしい症状や感染経路、治療法については「クラミジア感染症」の記事を確認してみてください。
腟カンジダ
腟カンジダは、膣内にいる常在菌であるカンジダが異常に増えてしまった状態です。女性の役20%が経験していて、再発しやすいことが特徴です。
腟カンジダは性感染症ではなく、女性であれば誰もがなりやすい病気です。性行為による感染もありますが、性行為に関係なく風邪や疲労、ストレスなどで身体の抵抗力が弱まったり、妊娠や出産、生理などで常在菌のバランスが崩れたりすることで発症することもあります。
腟カンジダの症状
女性は性器周辺の強いかゆみ、白いカッテージチーズのようなおりものが出る、性交痛や排尿痛などの症状が現れます。男性は症状が出ることが少ないですが、亀頭が赤くただれる、かゆみなどの症状が出る人もいます。
腟カンジダのくわしい症状や感染経路、治療法については「腟カンジダ」の記事を確認してみてください。
性器ヘルペス
性器ヘルペスとは、単純ヘルペスウイルスに感染することで、性器やその周辺に小さな潰瘍や水泡ができる病気です。性行為を経験している人なら誰でも感染の可能性があり、過去に感染したものがあとになってぶり返すこもあります。女性の30~50代や高齢の患者さんが増加傾向です。
性器ヘルペスの症状
性器やその周辺に痛みを伴う小さなポツポツができたあと、水泡のようなものが多数できます。そのほか、38度以上の発熱や足の付け根のリンパが腫れる、強い排尿痛などの症状が出ることも。
はじめての感染では、男女ともに激痛にみまわれることがあります。男性より女性の発症率が高く、症状も重くなりやすいです。
ヘルペスウイルスが一度体内に入ると、完全に排除することができません。症状を抑えることはできますが、免疫力が弱った時などに再発を繰り返しやすいです。性器ヘルペスのくわしい症状や感染経路、治療法については「性器ヘルペス」の記事を確認してみてください。
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルスに感染することで発症します。ヒトパピローマウイルスは100種類以上が確認されていて、尖圭コンジローマを引き起こすウイルスは低リスク型です。
尖圭コンジローマの症状
痛みやかゆみなどはなく、性器や肛門周辺にトゲトゲしたイボのような腫瘍ができます。腫瘍の色は白、ピンク、茶色、黒などさまざまで、2~3ミリ程度の大きさです。鶏のとさかやカリフラワー、乳頭のような形をしています。
そのほかには、性器の違和感、おりものの増加などがありますが、症状が軽いため感染に気づかない人もいます。尖圭コンジローマのくわしい症状や感染経路、治療法については「尖圭コンジローマ」の記事を確認してみてください。
腟トリコモナス症
腟トリコモナス症とは、腟や子宮頸管、尿路、前立腺などに、膣トリコモナス原虫という微生物が入り込むことで感染する病気です。性行為以外でも、下着・タオル・便器・浴槽などからでも感染することがあります。
腟トリコモナス症の症状
男性は症状が軽く、女性は20~50%が自覚症状を感じないため、感染に気づきにくいです。女性に症状が現れる場合は、悪臭が強いあわ状のおりものが増加したり、性器に強いかゆみや痛みを感じます。
淋病
淋病は性器および喉の粘膜に淋菌とよばれる菌が感染する病気です。症状がないことも多いですが、放置しておくと子宮や卵管に炎症を引き起こし、不妊の原因になることもあります。
淋病の症状
男性は排尿痛や膿が出るなど重い症状が出る一方、女性はほとんど症状が出ないことが特徴です。淋病のくわしい症状や感染経路、治療法については「淋病」の記事を確認してみてください。
梅毒
梅毒は、梅毒トレポネーマという病原菌が感染して起こります。性行為やオーラルセックスだけでなく、口に病変部があればキスでも感染します。
梅毒の症状
症状は感染から数週間後、数カ月後、数年後で変化します。梅毒はほかの病気と症状が似ているため、検査をしないと診断が難しいといわれています。最初は皮膚疾患のような症状から始まり、重症化すると死に至る危険性もあります。梅毒のくわしい症状や感染経路、治療法については「梅毒」の記事を確認してみましょう。
エイズ
エイズは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染することで免疫機能が低下してしまい、細菌やカビ、ウイルス感染症や悪性腫瘍などの病気にかかってしまった状態のことを指します。
エイズは、昔は不治の病として恐れられていましたが、医療の発展や治療薬の普及によって命を落とす人は減っています。
HIV感染症の症状
HIVに感染したからといってすぐにエイズを発症するわけではなく、急性期、無症候期、エイズ発症期の3段階があります。詳しい症状については「HIV感染症」の記事で説明していますので、気になる方は確認してみましょう。
性感染症の予防と対策
多くの性感染症は、コンドームを着用することで感染のリスクを減らせます。そして、不特定多数の人や感染の可能性がある人との性交渉に注意しましょう。
また、女性は性感染症になったときに、おりものの色やにおいに変化が見られることがあります。おりものの様子がいつもと違うなと感じている人は、「性感染症が心配なおりものとは」の記事をチェックして、該当するものがないか確認してみましょう。
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性感染症は他人に知られたくない、病院へ行くのが恥ずかしいと思う人もいるでしょう。しかし、早期に治療することが症状の悪化を防ぎ、感染が広がることを防止できます。症状に心当たりがある場合は早めに病院を受診しましょう。
監修者プロフィール
淀川キリスト教病院 産婦人科専門医
柴田綾子
2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から女性や母親を支援する職業になりたいと産婦人科医を専攻する。 総合医療雑誌J-COSMO編集委員を務め、主な著者に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)。産婦人科ポケットガイド(金芳堂、2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社、2021)。明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社、2022)。