女性にとって「防犯」は、意識せざるをえないものです。

女性に限らず性被害や性暴力に遭ってしまったとき、なかなか人に言えない現状があります。

もちろん自己防衛だけではなく、社会全体で取り組むべきことですが、現実に起きている・起ころうとしている問題に対処するものが必要です。

今回は、自分を守るための防犯サービスや、被害に遭ってしまったときに使えるものなど当事者の女性たちによって作られた海外の多様なプロダクトをご紹介します。

注意:この記事は性暴力についての言及が含まれています。

さまざまな性被害と防犯

多くの女性にとって「防犯」とは、成長する過程で常に意識させられながら身につけるものかもしれません。

服装、歩く道、電車で乗る車両、帰る時間など、「隙」を作らず被害に遭わないよう家族から自衛を教え込まれてきた人も少なくないでしょう。

女性が遭遇する暴力は性犯罪・性暴力や夫・パートナーからのDV、デートレイプ、ストーキングなどさまざまなものがあります。これらは男性が被害者になる場合もありますが、女性が被害を受けることが多いのが現状です。

国連は女性と女児に対する暴力は、世界で最もよく見られる人権侵害の1つとして、「ジェンダーに基づく暴力(Gender-based violence: GBV)」と定義し、暴力撤廃に向けて取り組んでいます。

日本でも2022年4月に警視庁防犯アプリ「Digi Police」(デジポリス)が活用され、JRの車内で行われた痴漢の容疑者逮捕につながりました。

参考:「痴漢です 助けてください」被害女性がアプリ使い 容疑者逮捕(NHKニュース記事)

画像=警視庁防犯アプリ「Digi Police」(デジポリス)のアプリストアより

最近では、被害を経験したことのある女性が考案した多様なサービスが出てきています。

事前に自助や自己防衛するサービス・プロダクトと、被害に遭った人が自責の念に駆られることなく、安心して使えるサービスがあります。

デートレイプから身を守る口紅型デバイス

デートレイプの犯罪も深刻化しています。恋人同士の間柄でも性行為を無理強いすることは許されることではありません。

デートレイプの中でも、飲料に睡眠薬などを混入し、意識や抵抗力が弱まった状態で性行為に及ぶというレイプドラッグも横行しています。

デートレイプやドメスティック・バイオレンスから女性を守るために、アメリカのEsoes Cosmeticsはユニークな口紅型デバイスを開発しました。

口紅のケースには小さな試験紙が入っており、デート中に飲み物にレイプドラッグが混入されていないかこっそり調べることができます。

異常がわかった場合、口紅型デバイスのボタンを押すと友人に自分のいる場所を通知したり、スマホアプリと連携して会話を録音したり、緊急通報の911に電話をかけることができます。

画像=Esoes Cosmetics Instagramより

集合知で安全なルートをナビゲート

ロンドンのSafe & the Cityは、過去の警察の事件データベースを元に、近道ではなく安全なルートをナビゲートし、他のユーザーと安全に関する情報共有ができるサービスです。

アプリを使って通行中に緊急事態が起きた場合は、2クリックですぐに緊急サービスにアクセスが可能。また、ユーザーがルート上で身の危険を感じた場合に、「Report(報告)」で他のユーザーに共有できます。

画像=Safe & the City Instagramより

イギリスでは、路上で女性に対してセクハラ的な野次を飛ばす「キャットコール」が問題視され、法律で規制するように呼びかける動きが出ています

政府は女性や少女への虐待を根絶する”ENOUGH”キャンペーンを実施し、街でキャットコールを目撃した場合や、ハラスメントに遭遇した場合、傍観者にならずに止める方法を指南しています

画像=ENOUGH Campaign Resources(Social media)より

路上にキャットコールを可視化

NYでは、キャットコールをされた場所に、投げかけられた言葉をチョークで記し、被害の可視化を投稿するインスタグラムアカウントがあります。

NY在住の女性が19歳のときに始めたこのインスタグラムのプロジェクトは、16.7万人のフォロワーを持ち、世界の150以上の都市で実践されています。

一瞬の出来事でも被害に遭った側の心に残ってしまうキャットコールを、チョークアートにすることで見落とせないものとして残すことができることから、静かな抗議運動として広がりました。

画像=catcallsofnyc Instagramより

ブロックチェーン(暗号化技術)で性被害を匿名で告発できるサービス

キャンパス内で性被害を受けた大学生が届け出をせず泣き寝入りしてしまう実態がアメリカで社会問題になっています。

この問題に対して、ブロックチェーン(暗号化技術)という技術を使い、性被害を匿名で告発できるサービスCallistoが活用されています。

女子学生の4人に1人、男子学生の15人に1人、トランスジェンダー、ノンバイナリー、またはジェンダークィアの学生の5人に1人が大学時代に性被害を受けた経験があるものの、被害の届け出をするのは10%未満という状況を解決するために作られたものです。

性暴力の加害者を逮捕するために、すぐに通報すべきと思いがちですが、被害者にとって被害に遭った直後に行動を起こすことは容易ではありません。

Callistoは、被害を受けた人が加害者のSNSアカウントや電話番号などの情報を入力し、複数の被害者から同じ加害者の情報が登録されると弁護士に連絡が行くという仕組みです。

全ての情報は暗号化されていて、匿名が確保されているので安心して情報を登録することができます。

また、被害を受けた際の自分の体験の記録を作成することもできるため、自分が表に出していい情報と内面に留めたい体験を自己管理できる点が特徴です。

Callistoの調査では、キャンパス内での性暴力の大半が繰り返し加害を繰り返す人によって起こされていることから、複数のユーザーが同じ加害者を報告した場合、弁護士に通知がいく仕組みにしています。弁護士から被害者に連絡があっても、届け出をするかどうかは被害者の判断が尊重されます。

サバイバーにとって負荷が大きい「届け出」という行動の新しい選択肢を示し、現在、アメリカの38のキャンパスで、50万人を超える学生に提供されています。

画像=Callisto Instagramより

参考:Can a new form of cryptography solve the internet’s privacy problem?(The Guardian記事)

経験者が考案したレイプキット

アメリカのLeda Healthのレイプキット(性犯罪証拠採集キット)は、サバイバー(性被害経験者)であるCEOの原体験を元に、サバイバーにとって精神的負担の少ない証拠収集の方法として考案されました。

性犯罪・性暴力の被害に遭った際、被害に遭ったときに着ていた衣服や下着は洗わずそのままにして、なるべくシャワーやお風呂で体を洗わず病院や警察に行くことが推奨されています。

しかし、多くの被害者にとって、被害を届け出ることは困難なことです。また、刑事手続の過程では起こった出来事を詳細に伝える必要があるため、精神的負担は大きいものになります。

画像=ledahealth Instagramより

Leda HealthのCEO、マディソン・キャンベル氏は留学中に性暴力の被害に遭い、届け出をすることで起こる更なる困難を考えて起こったことを内に留めました。

その後、2017年から始まった#MeTooムーブメントをきっかけに、自分自身の体験を振り返り、性犯罪・性暴力の被害に遭った人が自宅で自分自身で証拠採取を行える「MeToo Kits」の販売をスタートしました。

サバイバーがサバイバーのために作った製品としてメディアでも話題になりましたが、同時に議論を起こすものとなりました。

法的に認定されていない商用キットであり、犯罪の立証となる有効性はないとして、販売前からアメリカのニューヨーク州、ミシガン州などで業務停止命令を受けました。

その後、「MeToo Kits」から「Early Evidence Kit」に名前を変えてサービスを継続しました。ワシントン大学のKappa Delta(女子学生クラブ)とパートナーシップを組み、キットだけではなく、​​緊急避妊薬、24 時間年中無休のケアチーム提供を行っていましたが、キットの有効性に対する疑問の声があがり、ワシントン州でも業務停止命令が通告されました。

Leda Healthのキットは当事者本位で開発されたものではありますが、法廷で証拠にならない可能性があるため、現時点ではキットを信用することへの危うさがあります。

一方で、性犯罪・性暴力の被害に遭った人が証拠を残すために、大変な負担を負わされていることに気付かされます。

日本ではワンストップ支援センターや警察への相談を通じて医療機関で緊急避妊や加害者の体液などの証拠採取を受けることができます。

参考:性犯罪・性暴力とは(内閣府男女共同参画局Webサイト)

ワンストップ支援センターのサイトにある通り、一人で病院等で検査を受けることが不安な人に対して、一緒に考えてサポートしたり、同行してくれる場合がある取り組みはありますが、語られにくい話題であるためあまり知られていません。

女性はいつまで防犯し続けるべきなのか

今回ご紹介したテクノロジーを活用した事例は、性犯罪・性暴力への新たな対策につながりますが、テクノロジーだけでできることは限られます。

そのため、オープンな議論による社会の変化が必要です。

性犯罪・性暴力で被害に遭う側が自己防衛をしなくてはならない現状は納得しがたいことです。なんの落ち度もない立場の人が自分の身を守らねばならないという矛盾があります。

駅に貼り出される痴漢防止ポスターも「混雑した車両や、扉付近は避けましょう」といった自己防衛に焦点を当てたものは、被害に遭う方に落ち度があるような思いを抱かせます。

都市地理学者が男性を基準にして作られた都市に問題提起した『フェミニスト・シティ』では、女性にとって都市が安心・安全ではないことを明らかにしています。

女性がどのような不安を抱えて通る道を選択しているのか、ベビーカーを押して移動しているのか、女性専用車両に乗るのか、暮らす街を決めているのか、女性たちが飲み込んできた我慢が不条理であることがわかります。

女性が出歩く時間帯も、服装も、言動も、容姿も被害に遭うことと関係ありません。

被害者を出さないことより、加害者を生まないために社会全体で取り組むべきなのです。その取り組みには、死角を作らないまちづくりや人権を尊重する教育など多岐にわたります。

参考:性犯罪・性暴力の相談窓口

性暴力被害ワンストップ支援センター

性暴力の被害相談に対して、医療、心のケア、法的支援などを一つの窓口で総合的に支援する相談窓口です。

全国のセンターの一覧は、上記のリンクよりご覧いただけます。

チャットによる相談窓口「Cure tiime(内閣府)」。

年齢・性別・セクシャリティは問いません。匿名です。外国語でも相談できます。毎日、午後5時から午後9時まで。

性犯罪被害相談電話全国共通番号「#8103(ハートさん)」

#8103(局番なし)にかけると、最寄りの警察の性犯罪被害相談窓口につながります。

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