“性教育の当たり前を変えたい”と感じている人たちから支援を募り、1万個の「びわこんどーむ」を製作し、高校の先生・外部講師・PTAから全国各地の高校生に届けるクラウドファンディング「滋賀発!全国高校生10,000人に届け!びわこんどーむくんプロジェクト」が開始された。
日本一の琵琶湖に生息するビワコオオナマズとコンドームが奇跡のコラボを果たし、「びわこんどーむ」のキャラクターが誕生したという。講演会では中高生にも大人気で、ファンクラブ会員も増加中とのこと。
『学校で”は”教えてくれない性教育』から『学校で”も”教えてくれる性教育』へ
今回制作する「びわこんどーむ」の生徒配布パッケージにはコンドームが2個入っており、ひとつは自主練用だそうだ。本番からいきなり使うのではなく、まずは自分の手で触って、どんな物なのか知ってほしいという思いからだという。
男子が本番を想定して自主練するのはもちろん、女子が自分の指にかぶせてみたり、ペアでお互いの指にかぶせてみたり、 伸ばしてみたり、ふくらましてみたり、破ってみたりして、まずは構造を理解して欲しいとし、「習うより、触って慣れよう、コンドーム」と本プロジェクトの主催者である清水美春さんは語る。
清水さんによると「性」の文字通り、誰もが“心のままに生きられる”社会の土台づくりを、このプロジェクトの達成によってスタートさせたいという。
目標金額やリターンなどプロジェクトの詳細は、こちら。
高校は、一斉に学校教育を受ける最後の機会
本プロジェクト主催者の清水美春さんは、約20年間滋賀県の公立高校で保健体育の教員をしながら、ライフワークとして滋賀県内の中学校や高校で「エイズを通じて”性”と”生”を考える講演会」の外部講師としても活動してきた。また、2010〜2012年の2年間、青年海外協力隊(ケニア・エイズ対策隊員)として活動した経歴ももつ。
ランドリーボックスは、配布先のターゲットを高校生に絞った理由について清水さんに聞いた。
「日本の高校進学率は97%を超えており、高校が一斉に学校教育を受ける最後の機会となります。コンドームを知らずに使えないのと、知ってて使わないのでは違うので、せめて進学や就職で生活環境が変わる前の最後の砦となる場所に届けたいと思ったからです」(清水さん)
清水さんは担当する保健の授業内でも、ペニスモデル(透明の試験管)にコンドームを装着するというデモンストレーションを行い、生徒同士がコンドームを指に付け合うペアワークも取り入れているという。
「コンドーム自体がどんなものかも知らない生徒たちに対して、保健の教科書に載っている性感染症予防や家族計画などを説明しても理解につながらない。学習効果を高め、彼らのその後の人生に活かせるように、実物を見せることが大事だと考えます」(清水さん)
実際にコンドームを使ったペアワークを実施した生徒たちは、コンドームのにおいやぬめりに驚き、1回目の装着では約3~4割が失敗するものの、復習した2回目はすぐに上達し、積極的にその構造を確かめたりするという。
また「コンドーム」と言葉を発することが自然になり「単なるゴムなのだから失敗も大いにありうる。今はセックスしないでおこう」とコメントする生徒もいたそうで、「包茎や勃起、パートナーにどう交渉したらいいのか?」など当事者意識のある質問が一気に増えたのも印象的だったという。
一方で「コンドームは単なるツールのひとつでしかない」と清水さんはいう。講演会ではセックスに対して嫌悪感がある人もいて、セックスに対する捉え方には個人差があること、パートナーとの関係性において相手を尊重しつつ、自分の身体のことは自分が決めていいことなどを伝えていて、コンドームはメインではないと語った。
「使い方すら教えずに世に送り出していく方がよほど不適切な教育に思える」
コンドームを授業内で取り扱うことによって、性行動が活発になる可能性があるため、性交や避妊について授業で取り上げるのは不適切であるという声が学校現場ではよく聞かれる。
「マスターベーションは個人の意志だけで活発になれますが、パートナーを要する行為については活発になりようがありません。他人からの評価が直接文字で発信される時代、大人以上に他人の視線を気にしますし、高校生はそこまでアホではありません。また、若年期から正しい知識を学ぶことで性行動はより慎重になるという海外の研究結果もあります。実際に高校生810名にもアンケートをとっていますが、性教育について学校で学習する必要がないと回答したのはたったの15名(1.8%)でした」(清水さん)
実際にコンドーム装着法ペアワークを行った高校生186名に、コンドームの装着法を学び、配布された場合に、性行動が活発になるかを問うたアンケートでは「いいえ」が大多数を占めている。
「最終的に、コンドームを使うも使わないも選択するのは本人。他人の性なんてコントロールできないし、したいとも思っていません。しかし、アイテムの存在や使い方すら教えずに世に送り出していく方がよほど不適切な教育のように思えてなりません」(清水さん)
また、「月経への無理解」や性暴力の問題について議論されるとき、日本の性教育の「遅れ」や「足りなさ」を指摘する声が上がることもある。これについて清水さんは、「学校教育のタイミングは確かに遅いです。しかし足りないのは、時間をただ増やすだけでは解決しない」と考えている。
「短時間でも当事者意識が生まれるきっかけを作れるかが大事です。そのため授業では、なるべく生徒同士の対話になる時間を設けています。月経期間で女子が身体的、精神的に体感していること、性的同意に対する価値観など、性別に関係なく話し合う。そこで生徒たちは自分の身体に無関心で無理解であることに気づきます」
「同意のない性的接触はすべて「性暴力」であることなどを周囲の反応から学びとります。そのような経験を通して、自分の本音を知り他者に伝えることの難しさ、価値観の違う他者と折り合いをつけることの難しさをモヤモヤと体感できればそれは“足りない”どころか、一生学び続ける材料になります」(清水さん)
講演後の生徒の反応を見て、広がる好循環
「コンドームを配ると性行動が活発になる」と学校や保護者が懸念し、「学校での性教育ではストップがかかってしまう」ケースも見聞きする。そんな中、清水さんの活動には「ストップをかける人が誰ひとりとして現れない」という。その理由について清水さんは、学校側との信頼関係に尽きると話す。
「もともとは前任校で同僚だった先輩方から、講演依頼を受けて始めた活動です。講演会の場を丸ごと任せてくださるのですが、お互い同じ教員として学校の内情や勝手がわかっているのは大きいと思います。また保護者の方々にはゴムアレルギー調査等の文書で事前に承諾をとっていただいてます。例えアレルギーがある場合でも、別の素材で対応しています」
「講演会を終えたときの生徒たちの反応を見て、その場に居合わせた先生がほかの学校に呼んでくださることもあります。ストップをかける先生たちも、すべては生徒たちのためを思ってのこと。ですから、講演後の生徒の反応を見たあと味方になってくれる好循環もあります。素晴らしい教員仲間との縁に恵まれて活動させていただいてます」(清水さん)