女性が働き方やキャリアを考えるとき、からだの話は切っても切れないもの。毎月の生理、妊娠や出産をめぐるライフステージの変化、女性特有の病気や更年期障害──一体どう乗り越えたらいいの?
国際女性デーをきっかけに「女性のキャリアとからだ」について世代を超えて対話する連載企画、第1回のテーマは「生理」です。
株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢さん、ワーク・ライフバランスコンサルタントの小山佐知子さん、株式会社GoodMorning代表取締役の酒向萌実さんの3名に話を聞きました。
からだの不調を伝え合う文化
──みなさんは職場で生理にまつわる対話などされますか?
酒向さん(以下、酒向):私、生理痛がかなりひどいんです。最近は自分に合うピルが見つかり改善してきたのですが、以前は朝起きてベッドから一歩も動けないくらいでした。毎月必ず体調が悪くなるとわかっているから、その期間に大事な会議を入れたくなくて、2年前からGoogleカレンダーに生理予定日を入れてメンバーに共有することにしました。生理をオープンにするかどうかはそれぞれの価値観によると思いますが、私はオープンにしてラクになりました。
チームメンバーも予定を配慮してくれますし、ほかの女性社員も「今日は生理痛なのでフルパワー出せません」と表明してくれるようになりました。生理だけではなく、男性社員も誰でも、調子が悪いときに伝え合う文化になっているような気がします。
小巻さん(以下、小巻):それは理想的な職場ですね。生理で体調が悪いのに言えなくて苦しんでいる人や、「そんなこと言われても…」と困惑してしまう男性がまだまだ多いですから。痛みって伝わらないし、人によっても違うから、相互理解するのが大変。だからこそ対話が大事なんですよね。
酒向さんがオープンにしたことで、生理に限らず、体調が悪い人が口に出しやすい文化になっているのは、本当に素敵だと思います。自分の弱みを出すことで、言いやすい環境をつくり、みんなが無理なく働けるようになる。企業文化としてコミュニケーションがうまくいっている、いい例ですよね。
小山さん(以下、小山):マネジメント側も、生理や体調不良など個人差があることを理解して接することが大事ですよね。私は新卒で入った会社が男性の多い職場で総合職の女性は「男のように働いてナンボ」という感じでした。
私個人は生理痛はそこまでひどくはなかったんですけど、たまに生理痛があると、慣れていないぶん、余計につらくて。「こいつはいつも元気だから大丈夫だ」と思われていると逆にマズイなと思ったことはあります。なので体調が悪いときは男性の上司であっても口に出すようにしていましたね。
酒向:以前、上司が持病のある方だったのですが、体調が悪くなる前兆があると「明日出られないかも」と言ってくれました。事前に対応できるので、助かったんですよね。自分の状態をはっきり伝えれば、周りも予定を変更するとかの対応ができますし、チーム全体のパフォーマンスも下がらないと思います。
体調が悪いと表情や対応にも出てしまう。なんとなくレスポンスが遅くなったり、笑顔が少なくなったり……。そんなときメンバーが「怒ってるのかな」って思ってしまう懸念を、先に払拭しておきたい気持ちもありました。みんなが不安にならないように、「生理の前後の時期は語気が強くなるかもしれないけど、怒っているわけじゃないからね」と伝えたりしています。
小山:周囲にどのように話すかという点は、産休・育休明けの女性の働き方においても、似たような課題があると思います。復帰後の働き方というのは、そのときの状況や体調、周囲のサポート環境によっても変わるので、個人差がとても大きいです。
なので復帰の際には、当事者と上司が密なコミュニケーションをとることが大事。どんなサポートがあるといいか、リスクや対応の想定はもちろん、当事者の「〜したい」という気持ちを受け止めることも重要です。「大丈夫?」など、良かれと思って声をかけたことが相手のモチベーションを下げるきっかけになるのはもったいないですから、一般的なデータではなく、「目の前の当事者がどう感じているか」を互いにすり合わせるといいですね。
生理によるパフォーマンス低下に配慮した評価制度を
──就労女性2000名へのヘルスリテラシー調査によると、約半数が「PMSや月経時にパフォーマンスが低下する」と回答したそうです。女性が働くことが当たり前になっている社会で、こうした課題を解決し、働きやすい環境を整えるには、どうすればいいでしょう?
小巻:経営者としては、社員の平等性と公平性を大事にしなければならないので、あっちを立てたらこっちが立たない、というような制度は作れない。
その前提でふと思ったのですが、企業の評価制度において、生理の体調不良って考慮されていないですよね。毎月不調になるのに、その前提がない状態です。「月経時にパフォーマンスが低下する」と約半数もの女性が答えているのは、まさに「生理で下駄を外されている」ということ。大きな社会課題だと思います。
酒向:私は先ほどもお伝えした通り生理が重い体質なので、コンスタントに同じパフォーマンスを出し続けるのが難しいんです。1カ月のなかで必ず生産性の低い週があって、自分はほかの人と比べて劣っていると思ってしまう。そう考えたとき、会社の仕組みや評価制度って「コンスタントに同じパフォーマンスを出し続けられる」ことが前提でできていると思ったんです。
でもこれからは、そうじゃない前提──つまり、誰にでもパフォーマンス低下が起こり得る想定で制度を組み直していく必要があると思うんです。生理だけじゃなく、介護や病気療養も同じことですし、それらは誰にでも起こり得ること。そのときに離職する必要がないように、企業側もポートフォリオを考えるといいですよね。
小巻:総じて、これからは多様な状況を想定して制度をつくっていく必要がありますよね。一方、ハイパフォーマンス前提でできている組織や評価制度を、いきなり変えることも難しい。
まずは部署やチームなど小さな単位で対話を始めてみたり、とにかく小さくてもアクションを起こしてみるのも重要だと思います。そうして可視化された課題を、企業間を越えて共有していくようなこともやっていきたいですね。
「オープンにしたくない」の声にも配慮しながら、まずは対話を始めよう
小山:「難しいから」で終わらせない、というのは大事ですよね。多様性の観点からいうと、上が決めてみんなが倣うというのも違うと思うので、現場の人たちがテーマを設けて話してみるのもいいですよね。
対話をするときに、話したい人と話したくない人がいるという前提共有も重要。例えば生理の話もオープンにしたい人もいれば、したくない人もいます。それぞれの意見を尊重して、配慮しながら新しい制度や組織をつくっていく。そんな発想も求められていると思います。
小巻:私も先日、社内で「生理に関して職場で話せるか」というアンケートをとったのですが、やっぱりまだまだ「言えない」「悟られたくない」という答えが多かったですね。でも「少人数なら話せる」や、「声に出せなくてもポストイットに書いたり、意見フォームに送ることはできる」、という声も。
さまざまな方法を試しながら、強制的ではなく少人数で、まずは社内の対話をスタートしようと思っています。
一方で「生理について口にしたくない」という人が、なぜそうなったのか、根源的なところまで紐解いていくと、嫌な思いをした経験があるとか、トラウマ的な原体験があったりする。そこには日本の性教育の問題や構造的な課題も見えてきます。そこまで深ぼって考え、対話を続けて、解決していきたいですね。
お話を聞いた方
株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長、サンリオピューロランド館長
小巻亜矢
1983年株式会社サンリオ入社。結婚を機に退社。出産などを経て、サンリオ関連会社にて仕事復帰。2013年東京大学大学院教育学研究科修了。2014年よりサンリオピューロランド館長に赴任。 NPO法人ハロードリーム実行委員会代表理事、子宮頸がん予防啓発プロジェクトハロースマイル副代表。
ワーク・ライフバランスコンサルタント、共働き未来大学ファウンダー
小山佐知子
1981年生まれ、札幌出身。大学卒業後、株式会社マイナビに入社し広告営業、メディア編集に従事。30歳で“不妊治療と仕事の両立”という壁にぶつかり、不妊離職を経験。フリーランスとして総合職女性向けの妊活コミュニティの立ち上げや執筆、講師業に従事したのちリクルートメディアの営業を経て2016年に独立。現在は事業を行う傍ら、週3正社員としてママメディアの編集長業務にも従事している。
株式会社GoodMorning代表取締役
酒向萌実
1994年2月生まれ、東京出身。2017年1月より株式会社CAMPFIREに参画。ソーシャルグッド特化型クラウドファンディング『GoodMorning』立ち上げメンバーとしてプロジェクトサ ポートに従事。事業責任者を経て、2019年4月に事業を分社化、株式会社GoodMorning代表に就任。一人ひとりが連帯し合える社会を目指し、クラウドファンディングを活用した社会 課題解決や認知拡大などに取り組む。