妊娠だって病気だって、病院にかかるのは大変です。それでも出産のときは、自分がどんなお産をしたいかを少しずつ思い描きながら、より自分に合った病院を選ぶ余裕がありました。そうはいかないのが病気です。
子宮、卵巣、乳房……女性特有の病気にはさまざまなものがあります。私は37歳のときに子宮頸がんにかかりました。セックスレスで避妊の用意がないまま予定外の妊娠→人口妊娠中絶→IUD(子宮内避妊用具)を入れる→不正出血が続いて「念のために検査を」となり、子宮頸がんが見つかったのです。
子宮頸がんにかかりやすくなるのは20代後半から
ほかに自覚症状もなく、検診は毎年受けていたのがたまたま1年空いた程度なのに、すでにステージⅠ-bと言われて驚きました。すぐに大学病院を紹介されて入院、子宮全摘手術と決まりました。
紹介された病院は当時としては最新の、お腹を切らずに膣側から摘出する術式。術後回復がラクで傷も小さくてよかったのですが、もしそうでなかったとしても病院を変える余裕はなかったと思います。考えている間にも進行してしまう、と焦っていました。
当時は専業主婦でしたが、転移や再発があったらどうしよう、もし死んだら子ども2人はどうなるんだろう、子宮を失ったらもう女性ではなくなってしまうような気がしてしまう—悩みは尽きませんでした。
子宮頸がんは20代後半から増加して40代がピークと言われています。現代では、この年代の女性のほとんどが仕事をしていると思います。
急な入院や手術が決まったとき、まず心配なのは収入がストップしてしまうことではないでしょうか。そこで、働く女性と入院について調べてたことをまとめました。キーワードは3つ、「限度額適用認定証」「治療計画」「傷病手当金」です。
まず「限度額適用認定証」をゲットする
たとえば子宮頸がんの場合、入院前後にも検査費がかかりますし、手術後に化学療法がはじまる可能性もあります。治療の総額をあらかじめ見積もって準備しておくことはできないでしょう。いくらかかるかわからない治療費について、個人が支払う1カ月の限度額を決めて、それ以上の金額は健保組合が負担しますよ、というのが高額療養費制度です。
でも、「こんなにかかりました」という申請をしてから療養費を受け取るまで3カ月ほどかかるため、いったん個人で立て替えて支払いをしなければなりません。そこで、医療費が高額になりそうな月は、病院にかかる前に『限度額適用認定証』を取得しておき、健康保険証とともに病院に提出しておけば自己負担限度額以上の(立て替え)支払いをしなくてすむようになっています。
入院・手術が必要な病気にかかったら、まずは『限度額適用認定証』の申請をする、と覚えておいてください。
会社で厚生年金と健康保険に加入している人は、総務など社会保険の担当部署で、国民健康保険の人は市区町村の健康保険窓口で、「入院するので限度額適用認定証をください」と伝えましょう。
入院前後の診療費も月ごとに合算されるので、入院が決まったらすぐに手続きしておくと安心です。
担当医から「治療計画」を聞いて書き留めておく
企業に勤めている人は、会社に対して休職や復帰の予定を説明することになると思います。しかし、総務や上司から「何日入院するの?」と聞かれてもその時点では答えられないこともあります。上司が「好きなだけ休んでいい」と言ってくれて安心していたのに、会社の就業規則で定められた休職日数を超えると賃金が支払われないというケースも少なくありません。
そんな精神的ストレスになる問題はあらかじめクリアにしておきましょう
ここですべての基本になるのが医師による『治療計画』です。とはいえ、そのような書類を渡してくれるわけではなく、医師は口頭で説明することがほとんどです。「がんです」と告げられたショックで医師の話を何もおぼえていなかったり、医師がせかせかと話すため質問できないまま終わってしまったり、ということもよく聞きます。
まず、医師に必ず伝えなければいけないのが、「自分は仕事をしていて、治療後も復帰して働きたい」という意志です。そう聞くと、医師もより具体的な説明ができるようになります。
治療のためのノートを用意していったり、厚生労働省ホームページの『事業場における治療と職業生活両立のためのガイドライン』で様式を探して、コピーして持参するのもいいと思います。
医師から聞いた治療計画を文字にしておくと、会社の上司や総務との話し合いもスムーズです。「この日数は休みます、復帰後はこういう形で働きたいです」という予定表を提出しましょう。そうすることで、何より自分自身の気持ちが安定して、落ち着いて治療に専念できます。
企業健保最大のメリット「傷病手当金」
いざ入院が決まり、総務で会社の就業規則を調べてもらったら、会社を休んでいる間の給与はもらえないことがわかり、がくぜんとすることがあります。でも、会社の健康保険(社会保険)に加入している人は『傷病手当金』という生活保障を受けることができます。
□病気やけがによる療養中で働くことができず、連続して4日以上会社を休んでいる人が対象
□過去12ヶ月間の給与(手取りではなく控除前の標準報酬月額)の平均を出し、その2/3の金額
□最長1年6カ月分まで支給
万が一、予定どおりに復職できず退職した場合でも、傷病手当金は打ち切りにならず受け取ることができます。
毎月の給与から引かれる健康保険料を「高いなあ」と感じている方も少なくないと思いますが、このようなピンチのときの救済制度でもあるので、ぜひ活用してください。
国民健康保険の人は対策をプラスして
傷病手当金がもらえるのは健康保険の本人だけで、配偶者や子どもは含まれません。また、国民健康保険には傷病手当金の制度がありません。ただし、国民健康保険の人も高額療養費に対する限度額適用認定証はありますので、自治体の健康保険窓口で申請しましょう。
フリーランスの人、自営業の人は医療保険に加入する、翌年の確定申告で医療費控除を受けるなど、自身での対策を考えておきましょう。私は治療計画では3週間程度の入院だったのに、術後に低たんぱく症を起こして入院が50日に及びました。それでも、がん保険に入っていたので診断給付金100万円と日数分の保険金を受け取ることができました。
医療保険が受け取れるのは退院してからです。ただでさえ、がんの不安や悩みにさいなまれがちな入院中に、お金の心配はしたくないもの。そこで、入院前の準備が大切になってきます。
□役所で限度額適用認定証をもらっておく
□医療保険会社から請求書と診断書の様式を取り寄せておき、治療が終わったら病院の文書課に診断書の作成を申し込む
□医療保険は請求から受け取りまでにどれくらい日数がかかるか確認しておく
□確定申告で必要になるので病院の領収書を保管しておく
動けるうちにこれだけの準備をしておくことで、不安が解消され、安心して治療に取り組めると思います。
がんになって意識した自分の命の大切さ
最後に個人的な「がんを経験して思ったこと」を少しだけ。女性特有のがんにかかって、「なんで私だけこんな罰ゲームを受けないといけないの!?」と悲痛な気持ちになりました。
「これまで真面目に妻や母をやってきたのに、セックスレスのあげく子宮とるとかあんまりだよ!」と荒ぶり、「もう私はなにも我慢しないぞ!」と入院中に離婚を決めてしまいました。
当時の夫からは「大病しているのに離婚なんて!どうかしている」と留められましたが、「無事に退院できたら、好きな仕事を探したい。女としてもう一度恋愛したい」と言い張り、退院してすぐに派遣の面接を受けに行きました。
50日も病室で寝ていたので、面接の帰りには足がフラフラでしたが、診断給付金の100万円のおかげで子ども2人を連れて婚家を出ることができたのです。
病気はしないに越したことはありません。しかし、私の場合は「死ぬかもしれない病気」になったことが、それまでうやむやにしていた夫婦間の問題に(かなり乱暴なやり方ではありますが)取り組むきっかけになりました。自分の命は1つしかないんだなあと、初めて意識した50日間の入院でした。
今回あらためて調べてみて、「こういう制度がある」と知っておくだけで、治療中のストレスはかなり軽減されると思いました。
今回は病気とお金について書きましたが、もし少しでも不安に感じたり、1年以上、検診を受けていない方は、ぜひ婦人科検診や乳がん検診を受けてください。
生きていれば病気になる可能性は避けられません。でも、「健康なカラダ」のディレクターはあなた自身で、あなたしかいないのです。