子宮筋腫や子宮内膜症、子宮頸がんなど婦人科疾患の手術を受けたあと、いつからセックスやセルフプレジャーを再開していいのか、注意すべきことはあるのか?
性行為に関する悩みは医師に相談しづらいと感じ、1人で悩んでいる方も多いと思います。
今回は、術後のセックスや妊娠中・産後の性行為について、産婦人科医師・池田裕美枝先生にお話を聞きました。
前編:妊娠中のセックスや産後のセックス、気をつけるポイントは?いつから再開していいの?医師が解説
ーー 婦人科系疾患の手術を受けたあと、いつから性行為を再開していいのでしょうか?
手術後は、手術を受けた病院でフォローアップの診察があるので、少なくともその診察を受けるまでは性交渉を控えましょう。
病院や手術内容にもよりますが、子宮全摘術後の場合、控える期間はおおよそ1カ月程度です。術後の診察で傷が塞がっていることが確認できれば、基本的には再開して問題ありません。
ーー 手術内容によっても異なるかと思いますが、子宮全摘出手術をした場合は性行為にどのような影響があるのでしょうか?
子宮全摘出術は、卵巣が温存されているかどうかによっても異なります。
卵巣から分泌されるエストロゲンは、膣粘膜を潤して厚く丈夫に保ちます。卵巣を摘出したり、閉経後だったりするとエストロゲンが分泌されなくなるため膣壁が薄くなり、卵巣がある人と比べて膣粘膜が弱く、炎症が起こりやすくなってしまいます。
ーー 子宮頸がんの放射線治療におけるセックスへの影響はどうでしょうか?
子宮頸がんや子宮体がんに対する放射線治療は、膣粘膜が炎症を起こしたり、女性ホルモンが減少することで、膣内の乾燥による痛みや不快感が生じることもあります。
また、放射線治療に伴って、放射線宿酔(悪心・食欲低下・嘔吐など)、腸炎、頻尿などの症状がある場合も、性欲は落ちると思います。
ですので、放射線治療中は、一時的に性行為を控えなくてはなりません。主治医に確認のうえ、治療後、しばらく期間を空けてから再開するようにしましょう。
術後のセックス。気をつけるべきことは?
ーー 術後の性行為で、注意すべきことはありますか?
手術を終えてから、3~4ヶ月ほど経過すればとくに気をつける必要はありません。
手術後1〜3カ月の間は、勢いよく深く膣内へ挿入するのは控えましょう。
例えば、子宮全摘出術では、前の膣壁と後ろの膣壁の先端を縫い合わせています。最近では技術が向上しているので稀ではありますが、手術後の性行為で、縫い合わせ部分が裂けてしまうと、裂け目から腸が出てしてしまう可能性もあります。
わたしも患者さんの縫い直しの手術を担当した経験があります。
ですので、1カ月後検診で医師に相談して、性行為の許可がおりれば性交渉をして問題ありませんが、縫い口が定着する3カ月間は、強い挿入は控えてください。
なお、性感染症のリスクは手術前と手術後で変わりませんので、通常通りコンドームを使用するようにしましょう。
術後にセックスが痛くなった。原因は?
ーー 手術後にセックスが痛くなったという方もいます。どのような原因や対策方法があるのでしょうか?
セックスの痛みにもいろいろあり、膣口部分の痛み、骨盤底筋の痛み、さらに奥の方に痛みを感じる人もいます。
卵巣摘出などによって生じたエストロゲン低下による腟前庭部の萎縮や膣壁萎縮が原因で性行為の最中に痛みがある場合は、保湿クリームと局所エストロゲン療法が有効になります。
術後にセックスの痛みや不快感があるときは、無理に性交渉をせず、医師に相談するようにしましょう。
ーー 術後に骨盤底筋が痛むことがあるんですね。
すべての人に当てはまるわけではありませんが、術後に骨盤底筋が痛くなることがあります。
子宮がなくなるために、骨盤に流れる血流が減ってしまったり、腹腔鏡下手術の場合はお腹を炭酸ガスで膨らましているため、骨盤底筋への血流が一時的に阻まれたりすることなどが原因です。
また、骨盤底筋には薄い筋肉が複雑に入り乱れているので、腹部や背中、足など、他の部位に痛みを感じることもあります。
ーー 骨盤底筋がゆるむという話は聞きますが、痛みについてはあまり聞いたことがなかったです。
そうですよね、日本では、認知も少なく、骨盤底筋痛を診れる医師がまだ少ないのが現状です。諸外国では、骨盤底筋による痛みについてもエビデンスがあり、ヨーロッパやアメリカでは骨盤底筋専門の理学療法士がいます。
膣の中に指を入れて筋肉にアプローチしたり、筋電図をつけて筋肉の動きを自分で見ながら痛みを治していくようなセラピーがあります。
日本では専門でしている人がすくないです。
ーー なぜ日本では増えないのでしょうか?
制度ですね。理学療法士の数は世界一多いのですが、稼働することができないんです。また、高齢者の理学療法をすることが前提になっています。
医者の処方下でしか働けません。医者がリハビリをオーダーしないと稼働することができないんです。
アメリカは理学療法士が開業できるので、「痛い」ことがあれば誰でもきます。そこから診療の幅が拡がっていきますが、日本の場合は、医師が必要だと思わない限りはリハビリをオーダーできません。
また、膣の中に指を入れるような内診ができるのは、国内では医者と助産師だけです。
フランスでは経膣分娩をした方すべてに保険でリハビリがつきますが、経膣分娩後の骨盤底筋の損傷について、リハの先生が膣の中に指を入れて、ここを治していこうと話ながら痛みを処置してくれます。
術後のセックスが怖い。不安はどう取り除く?
ーー 術後の性行為が怖いという方もいます。緊張感や不安感を解消する方法はありますか?
大学病院で勤務していたときに、たくさん質問してくれる人がいました。その人に、絵を描きながら膣のつくりや術後の状況を説明すると、自分の体がどんなことになっているのか実感を持って安心してくれたんです。
たとえば、先ほども説明したように「膣を縫って閉じる」と聞くと、なんとなく端切れを縫い合わせて、ずっと縫い目が残ってしまうようなイメージを持つ方も多いですが、実際に残るのは、傷跡であって縫い目ではありません。
傷跡は太くて固く、膣の奥にできます。縫い目と思うと、血が縫い目から出てきそうで怖くなるかもしれませんが、滑らかにつながる人がほとんどなので、ひっぱっても簡単に破れるものでもありません。
女性器は直接自分の目では確認しづらいので、どうなっているのかわからないこともありますよね。だからこそ、仕組みがわかると、安心できることも多いんじゃないかなと思います。
ーー 確かに、膣の中は外からは見えないので、ちょっとしたことが怖く感じたりします。実際に、性行為中に出血があった場合は、すぐに中断した方がいいですよね?
出血には大きく分けて2パターンあります。
ひとつが、手術の傷が治っておらず、膿んでしまっているとき。
細菌感染が起こって血が溜まり、ばい菌が繁殖してしまうと傷口が塞がりません。この場合は早急な処置が必要です。
ふたつめは、膣壁の縫い目にできたポリープ。
傷が開いてしまっているのではなく、ポリープを刺激し続けると出血の恐れがあります。ポリープは自然と消失するので、「気づいたら治っていた」ということもあります。
可能性は低いですが、ひとつめのパターンだった場合は、急を要します。
本来、血が出るものではないので、焦る気持ちもあると思いますが、「血が出る=すべて危険」というわけではないので、まずは落ち着いて病院へ行きましょう。
ーー パートナー側ができることはありますか?
先ほどの通り、深く強く挿入するのは避けてもらえたらと。あとは、乳がんの手術後や、創部が目立つような手術後だと、女性側が自分の体がセクシーではなくなってしまったと不安になっている場合もあるので、コミュニケーションでカバーできることも多いと思います。
術後のセックスは変わる?膣の中の変化
ーー 子宮全摘などの手術後に、膣の長さが短くなると聞いたことがあります。
子宮全摘出で膣の長さが短くなるのは、子宮頸がんなど、がんにおける子宮全摘出手術の場合だけです。ガンの広がりに応じて、切除範囲が異なります。
でも、膣壁は赤ちゃんが出てこられるくらい、すごく伸縮性のある臓器で、横だけではなく、縦にも伸びます。
先天疾患で生まれつき膣がない人も、少しでも膣があれば伸ばしていく治療方針をとることもあります。
なので、仮にガンの治療で膣が短くなってしまった人も使い続けていれば膣は少しずつ伸びていきます。医療的にも相談があれば、専用の器具を使った膣壁を伸ばすリハビリを行います。
手術における性行為の悩み。医師にどう相談すればいい?
ーー 治療についてわからないことは主治医に聞けるが、治療に伴うセックスに関する相談はしにくいという方もいます。
がん治療を行うような大きな病院だと、どうしても、がんを治すことに注力するため、それに伴う性行為については語られにくいですよね。
性生活の不安で寂しい思いをしていたり、パートナーとの関係性がギクシャクしたり、いろんな影響があるので気になる方も多いですが、「いつから再開していいですか」と自分から聞きにくいと感じるのはわかります。
でも、気にせず医師に聞いてくれていいんです。それでも、相談しづらいと感じるなら、頼ってみてほしいのが看護師です。
主治医に聞きにくいなら、看護師に話してみてください。実は、術後のセックスを悩んでいる患者さん多いのでは?と気にしている看護師さんもたくさんいます。
看護師からその場ですぐに明確な回答が得られないかもしれませんが、「こういうことで悩んでいるんですね。先生たちと話し合っておきますね」と患者と医師の良い通訳になってくれるんです。
ーー 術後のセックスは不安なことも多いですが、わからないことは相談しながら、性生活と向き合うことが大切ですね。
そうですね。子宮の良性疾患の手術をしたあと、卵巣を残す形での子宮全摘出は、痛みの原因が改善されているので、怖がらずに性交渉を楽しんでいただきたい。
婦人科系のがんの手術を受けたあと、性行為をしたくなくなる人も多いみたいです。病気のことを思い出してしまい、性的な欲求が湧かない人もいるかもしれません。
反対に、術後の体を気遣う温かいセックスによって、さまざまなトラウマが癒やされていく人もいます。
困ったときやモヤモヤとした不安があるときも、医療者に伝えていただきたいです。私たちはチームですので、医師じゃなくても、病院の中で相談しやすい人に伝えてもらえたら大丈夫です。
みなさんが声に出してくれることで研究も進むし、わたしたちもよりディスカッションをするようになります。
性の悩みは、最初は言語化できなくても大丈夫。それが当たり前です。うまく伝えなきゃと考えずに、まずはセクシュアリティに対する不安を何かしらの形で医療者に伝えていただいたら、わたしたちはそれを大事にします。
ーー
前編:妊娠中のセックスや産後のセックス、気をつけるポイントは?いつから再開していいの?医師が解説
執筆:nana 聞き手:Misa Nishimoto
**
ランドリーボックスでは、定期的なアンケートを実施しています。
現在は、「子宮の治療」をテーマにアンケートを実施中。みなさんのご意見をお聞かせください。