性や体に対する正しい理解があまり進んでいない現代の日本社会。子どもに伝える前に、まずは大人が理解を深め、オープンに話せる環境づくりをしていくことが大切だ。今回は「女性の健康と生産効率」についてデータから読み取る。
婦人科系疾患を持つ働く女性の医療費支出と生産性損失の合計は年間6.37兆円
2004年に設立された医療政策シンクタンクである日本医療政策機構が2016年1月に発表した「働く女性の健康増進に関する調査結果」では、正規雇用者の2,091名(平均年齢42.1歳、婦人科系疾患あり596名、疾患なし1,495名)を対象に研究を実施した。
この研究で女性の健康増進が社会にもたらす影響について社会経済的側面から検証するとともに、女性の活躍推進や健康増進に関する施策の国際比較から日本の現状と課題を明らかにした。
「婦人科系疾患あり」と回答した人のうち、63.4%に医療費が発生している。働く女性の人数と婦人科系疾患有病率、1人当たりの医療費と生産性損失から算出した全体の損失額は少なくとも6.37兆円。
そのうち、医療費は1.42兆円、生産性損失は4.95兆円という内訳になっており、特に子宮内膜症にかかったことのある人の月経中の生産性損失率は、かかったことのない人に比べて著しく高いことがわかった。
働く女性の「ウェルビーイング実感値」平均は55点
HER-SELF女性の健康プロジェクトは2020年11月、20歳から65歳の有職女性1,000人と20歳から65歳の現職で人事部担当の男女400人を対象に「働く女性のウェルビーイング」および健康経営における「人事担当者の”女性の健康”への意識」調査の結果を発表した。
本記事では「働く女性のウェルビーイング」調査の結果を取り扱う。
肉体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態にあることを指す「ウェルビーイング」の実感値の平均は55点という結果になった。
その点数をつけた理由を回答する中で言及されたワードを分析した結果、「お金」に関連したワードが約14%、「健康」に関連したワードが約10%、「コロナ」に関連したワードが約10%出現。働く女性にとって、「お金」「健康」「コロナ」というトピックスがウェルビーイングを左右している要因にもなっていることがわかった。
健康が原因で収入が下がった人は21%、仕事を休職した人・仕事を辞めた人は20%
同調査で「健康に関する理由で仕事に支障をきたしたり、キャリアに影響を与えた」と感じたことがあると答えた人に、具体的にどんな影響があったのかも調査している。「収入がさがった(21.2%)」「休職した(10.2%)」「仕事を辞めた(10.0%)」と、少なからず影響を受けていることがうかがえる。
また、「健康で働き続けることに関して、不安に感じていること」の質問に対して、「年齢を重ねても長期的に働き続けられるかどうか」と回答した人が40.5%でもっとも多い結果となった。
「健康状態に合わせた柔軟な働き方ができるかどうか」が24.6%、「健康状態が収入に影響を及ぼすかどうか」が23.6%と続き、仕事と健康維持の両立や収入などの経済的要素を不安に思う人が多いことがわかった。
ヘルスリテラシーが高い人は仕事のパフォーマンスも高い
前出の日本医療政策機構が2018年3月に発表した「働く女性の健康増進に関する調査2018」では、女性に関するヘルスリテラシーと女性の健康行動や労働生産性、必要な医療へのアクセスとの関連性を調査した。
調査によると、PMS(月経前症候群)や月経随伴症状といった月経周期にともなう心身の変化による仕事のパフォーマンスは、元気な状態に比べて半分以下になると回答した人が約半数という結果になった。
調査対象者をヘルスリテラシーが高い群、低い群に分類したところ、ヘルスリテラシーが高い人のほうがPMSや月経随伴症状によって仕事のパフォーマンスが下がる割合が低いということも同時にわかった。
上場企業の女性役員数は増えてきたが、世界基準では未だ低水準
2013年4月、安倍首相(当時)は経済界に対して「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待」する「2020年30%」の政府目標の達成に向け「役員に1人は女性を登用」するよう要請した。
しかし政府は2020年7月、2030年代に指導的地位にある男女の比率が同水準になることを目指すとする新たな目標を掲げる方針を固め、指導的地位の女性割合30%程度目標を先送りにした。
2012年から2019年の7年間で、上場企業の女性役員数は約3.4倍に増えている。しかし全体を見るとその割合は2019年時点でも依然として5.2%と低い。
アメリカやイギリスをはじめとした諸外国の女性役員割合と比較しても日本は低い水準にとどまっている。上記のグラフでもっとも低い数値を記録しているアメリカでも2017年の女性役員割合は22%を記録しており、日本の2017年時点の3.7%からは大きく差をつけている。
各調査データから、日頃から健康へアンテナを張っている人やヘルスケアを意識している人の存在を一定数確認できた。また女性の健康が経済への影響を大いに及ぼすことや、ヘルスリテラシーの高さが仕事のパフォーマンスに関連することも明らかになった。男女問わず、女性の体に関する知識を身につけることや、「健康経営」の視点が、経済的にも重要であるといえるだろう。
*
ランドリーボックス では、特集「#データから考える大人の性教育」をはじめました。
親しい間柄でもなかなか理解しづらい男女の身体の違い。
大人から子どもに伝える「性教育」もいいけれど、まずは大人のわたしたちが男女の違いをしっかり理解してみることからはじめてみませんか。
「大人の性教育」の第一歩は、お互いを知ることから。
ついつい感情的に訴えてしまいがちなわたしたちの身体の不調を、データでじっくりと見てみました。