台湾人の母と日本人の父を持ち、両親の離婚を機にアメリカへ移住したナディア・オカモトさん。彼女は16歳で生理用品を無料配布する非営利団体「Period.」を設立し、世界中から注目を集めました。現在は米ハーバード大学に通う22歳です。

2020年11月には、パートナーと共同で生理についてオープンに話せるコミュニティ作りにフォーカスした社会的企業「August」を新たにスタートさせました。

(2018年の「ピリオド・キャンペーン」より/写真:本人提供)

貧困にあえぐ人の気持ちが分かるからこそ、「私が変えなきゃ」と思った

アメリカ移住後、母親の失業を機に生活が困窮し、家族でホームレス生活を余儀なくされた時期があったというナディアさん。貧困の問題を身近に感じていた子ども時代の経験は、2014年にわずか16歳でPeriod.の設立に結びつきました。

「生理の時に(生理用品を買うことができず)トイレットペーパーや靴下、茶色い包装紙、段ボールなどを使っている人の存在を知り、衝撃を受けたんです。月経が原因で起きている社会の不平等や生理の貧困問題についてもっと学びたいと思ったのが最初のきっかけでした」

(母と、妹たちと。/写真:本人提供)

デジタルネイティブ世代の彼女は、すぐに世界中の女子学生たちにとっての月経の壁や、アメリカにおける経済的に恵まれない層への月経がもたらす影響、そして適切な健康管理を妨げる制度的な障害についてインターネットで調べて学びました。

「調べれば調べるほど生理の貧困問題について取り組んでいく必要性を切実に感じました。そこで、タンポン税の取り下げなど具体的なアプローチをおこなうために非営利団体『Period.』を共同設立しました」

(写真:本人提供)

非営利団体を通じた活動で見えてきた、光と陰

今や日本でも、学業の傍ら起業する学生は多く存在します。ビジネスではなく非営利の団体を設立しようと思ったのは、ナディアさんが当時「社会に変化をもたらすこと=非営利の活動でしかあり得ない」と考えていたからだと言います。

「2014年当時、『生理の貧困』問題に注目して活動している非営利団体をほかに知りませんでした。なのでまずは非営利団体を立ち上げることから始めるべきことだと感じたんです。共同設立者と私は当初、もちろん設立や運営について何も知らなかったので、手助けをしてくれる大人を見つけることから始めました」

写真:本人提供(O Magazine, Sioux Nesi photographs)

しかし活動を広げるうちに、非営利組織の運営上の課題や限度に気づいていったというナディアさん。

「非営利セクターで働いていて一番もどかしかったのは、何か実際の仕事をする前に必ず資金調達をしなければいけないことです。ある時、仕事に取り組んでいる時間のほとんどをこの資金調達のプロセスに使ってしまっていると気がついたんです」

「そして、その資金調達先がしばしば、私たちが懸命に変えようとしている相手そのもの、なんてこともありました。非営利産業というのは社会に変化をもたらす反面で、世界中の不公平な構造を再生産している側面があると気づき、脱構築化する必要があると思い至りました」

「Period.」設立から6年近く非営利の世界で走り続けカリスマ大学生として注目を浴び続けてきた彼女は、どうすればより強い影響を社会に与えることができ、また自分自身が向かうべき方向を考えた結果、社会的企業の設立という答えにたどり着きました。

「私がしたいのは、一人で注目されることじゃない」組織としての持続可能性に着目した社会的企業「August」

2020年11月、パートナーと共同で新たに生理についてオープンに話せるコミュニティ作りにフォーカスした企業「August」をスタート。

ナディアさんはAugustを、「月経に対するイメージを変えるために設立されたライフスタイル・ブランド」だと称します。この会社の取り組みは全て、「Inner Cycle」と呼ばれるコミュニティのメンバーたちによって意見交換から構想、フィードバックまでがおこなわれます。

「製品は来年にローンチする予定で、メンバーと共同で作業を重ねています。なので今は、このコミュニティの育成に力を入れているところです」

(「Period.」活動時代のナディアさん/写真:本人提供)

ナディアさんは「August」のプレスリリースで、こう綴っています。

「年齢的な若さや活動の斬新さから今までの活動では自身の言動にばかりスポットライトが当てられ、称賛されたかと思えば“パフォーマティブな(見せかけの)目立ちたがり屋の活動家”という批判の声も上がるなど、注目が集まれば集まるほど伝えたい肝心なメッセージが社会に届かずもどかしい想いをした」

「August」のコンセプトからは、自分ひとりが輪の中心に立ちグループを引っ張っていくというこれまでの姿勢とは異なり、男性も女性も、人種も年齢も関係なく生理を自然なものとして受け入れてフラットに話し合える安全な場所を作ることから、社会を変えていきたいという強い想いが伝わります。

(写真:本人提供)

ナディア的「リーダーシップ」と母のアドバイス

これまで一部のフェミニストグループに限られていた生理や女性の健康をめぐる対話をより広い層に開かれたものにし、コミュニティの一員として全員が仲間と歩幅を合わせて一緒に歩んでいくことを応援する。

来年夏に大学を卒業した後も長期的に取り組んでいきたいと彼女が意気込む「August」起業に至る原動力とは一体何だったのでしょうか。

ナディアさんは、2014年の「Period.」設立から著書「Period Power」の出版、CEO引退から今回の「August」設立に至るまで、ずっと身近でロールモデルとしていつも支え引っ張ってきてくれたのは、非営利活動の経験もあるお母さんの存在だったと振り返ります。

「今までで一番、私の支えになったアドバイスは母からのものでした。『本当のリーダーとは、周りの人をエンパワーして皆をそれぞれの形でリーダーに変えてしまう人』というものです」

周囲の人々をエンパワーし、コミュニティにいる全員がリーダーになれるよう手助けし、社会のために共に歩んでいく彼女の姿は、お母さんの言う「真のリーダー像」を忠実に追いかけているように見えました。

ナディアさんが仲間と描いていく未来に、これからも目が離せません。

幼少期のナディアさん(左)と母のソフィアさん(右)/写真:本人提供

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