5月28日は、月経衛生デー(Menstrual Hygiene Day)
月経衛生デーとは、生理にまつわる沈黙やタブーをなくして社会的な意識の変化を促すことを目的とした日である。2013年に、衛生や人権問題に取り組むドイツのNGO団体「WASH United」によって提唱された。
生理を経験する人は、生理前・生理中の体調不良や経血量、そして生まれ育った家庭の経済状況によって、個人差はあれど一定の制限や我慢をして過ごしている。また、途上国では生理に対する固定概念などによって、子どもたちの教育機会の損失も生じている。
当事者が、生理を理由にすることなく学業や仕事において力を発揮できることは大切。ただしこれは、「生理でつらいときは休めること・適切な医療にアクセスできること」と両輪であることが必要だ。
この記事では、生理にまつわる各国の慣習や「生理の貧困」をはじめとして、生理休暇、低用量ピルといったトピックから生理をとりまく社会課題を取り上げていきたい。
世界にある生理にまつわるタブーや慣習
途上国における、生理をめぐる問題は複雑である。
例えば、アフリカ・ザンビア共和国のとあるスラム街では、生理用品に不衛生な代替品が使われたり、生理中は少女たちが学校を休まざるを得ないこと、そして学校にトイレが備わっていないといった実態がある。
そのほかにも、国際NGO組織「プラン・インターナショナル」の報告によると、諸外国では以下のような生理にまつわる慣習や独自の考えがあるという。
・ネパール
生理中の女の子は「不浄」で災いをもたらす
・エチオピア
生理中の女の子は学校に行かなくていい
・南スーダン
生理が始まったら結婚適齢期とみなされる
その国独自の生理の捉え方が伝統となっている一方で、格差が生まれてしまったり教育機会が失われているのも事実だ。生理へのタブーは世界各国にあるが、生理によって当事者の活動の制限や、教育の機会が失われる状況に声を上げ少しずつ変えていくことが必要だ。
「生理の貧困」がもたらす影響と各国の支援策
途上国のみならず、世界には「生理の貧困(Period Poverty)」と呼ばれるような困難を強いられている人たちがいる。
「生理の貧困」とは、経済的・家庭的な理由で生理用品を購入できない・または入手できない環境下にある状態のこと。これはただ単に「生理用品を買うお金がない」といった経済的困窮だけではなく、生理への知識不足やネグレクトといった複数の要因が絡んだ問題である。
衛生的な生理用品にアクセスできない「生理の貧困」は、その健康被害も深刻だ。
日本で報告された例だと、厚労省が今年2月に行ったインターネットでの調査では、生理用品が手に入れられなかった場合の対処法として「交換する回数を減らす」「トイレットペーパーなどで代用する」とした人たちの多くが、肌の「かゆみ」や「かぶれ」などの不快感を経験していることが分かった。
また、「生理の貧困」が、メンタルヘルスに深刻な悪影響を及ぼしている可能性があることも同調査でわかった。精神面の不調をはかる「K6※」を尺度として用いたところ、生理用品が手に入りづらかった人はそうでない人に比べて得点が高かったという。
※うつ病や不安障害などのスクリーニングに用いる尺度。詳しくは、厚生労働省の調査報告を参照。
ただし、ここ数年では「生理の貧困」を社会全体の問題ととらえて、生理用品の無料提供や軽減税率といった形で解消しようという動きが、世界各国で起こっている。
例えばスコットランドでは、2017年の時点で教育機関での生理用品の無料配布を開始し、2020年11月には世界で初めて「生理用品の無料提供を義務付ける」法案を制定した。
また、全国的な署名運動が起こったのち、2016年から生理用品の税率を軽減しているフランスでは、昨年の2月に政府がすべての学生に生理用品を無償配布することを決定した。
アジア圏では韓国が、国家行政機関である女性家族部で2016年「保健衛生物品」サポート事業を開始し、低所得階層や、一部の地域の女性青少年を対象にして生理用品の購入費が支援されている。
こうした動きは日本も例外ではない。
昨年には全国で約20の自治体が生理用品の無料配布を行った。これらはいずれも、災害備蓄用の生理用品の入れ替えにともない行われたもの。一方、より継続的な支援策としては、昨年、東京都が都立学校全校の女子トイレに生理用品を配備することを決定し、神奈川県では全県立校で生理用品を常備すると発表された。
ここ数年で大きなうねりとなっている「生理の貧困」解消へ向けた動き。ひとつ解決策を打ち出せば、それにともなった問題が発生する。
たとえば、経済的に困窮しているのであれば無料配布場所に行くまでの時間や交通費などの負担があり、提供を受けると申し出るときは精神的なストレスもある。金銭面、家族、学校…など、当事者には生理用品にアクセスするまでにいくつも越えなければいけないハードルがある。
「生理の貧困」を解消するためには、一過性のものに終わらず継続的な支援のフェーズに進むことはもちろんのこと、当事者のニーズを適切に汲みとっていくことが今後より求められるだろう。
健康的に働くため・生きるための生理休暇
生理にまつわる社会のタブーは、生理がある人たちの、人生や生きていく過程の重要な分岐点を左右している。学校の成績や就職、キャリア形成、そもそも健康的に生きていくということ。
それらを支えるための社会の制度・仕組みはさまざまあるが、ひとつに「生理休暇」が挙げられるだろう。
「生理休暇」とは、生理時に働けないほどひどい体調不良の場合に請求できる、労働基準法で定められている休暇のこと。しかし、認知度の低さや、「仕事を休めない」「男性が多い職場では言いづらい」といった問題から、取得率はかなり低い状況がある。
実際、日本での取得率は、厚労省が行った2016年の調査によると、2014年4月~2015年3月末に生理休暇を1日でも請求した人がいた従業員の割合はわずか0.9%だったという。
一方、ビジネスの場に限らず、学業の面でも「生理休暇」の普及をすすめようという動きもある。
生理による不平等をなくすことを目指す団体「#みんなの生理」と、「日本若者協議会」は、昨年12月、生理休暇にあたる制度を学校にも導入することを求めた要望書を文部科学省に提出。事前に学生(小・中・高校、専門学校、大学など)を対象にして行ったアンケートで、「生理がつらくても学校を休めない」という声が多かったことから、要望書を提出するにいたったという。
生理には、重大な病気が隠れている可能性もあり、ときには医療機関で治療を受けなければいけない人もいる。「生理休暇」が、健康的に働くため・生きるための制度として、当たり前に利用できる社会になるように、認識がアップデートされていくことが必要だ。
生理の悩みを解決してくれるピル
では、毎月訪れ、何十年と向き合わなければいけない生理をコントロールするのに有効な「ピル」に関する、世界と日本の状況はどうだろうか。
低用量ピルの効用は、避妊効果の高さだけではなく、生理痛の改善が期待できること、PMSの緩和、子宮内膜症の進行の予防、生理をコントロールできることなどがある※。
※詳しい効用や副作用については、医師監修のこちらの記事を参照。
海外ではピルは一般的な薬として知られており、たとえば各国の服用率は、国連が発行している「避妊法2019」のデータによると、英国26.1%、フランス33.1%、米国13.7%、中国2.4%、香港6.2%、韓国3.3%、タイ19.6%、ベトナム10.5%となっている。その一方、日本の服用率は2.9%と極めて少なく、世界と比べるとピル後進国とも言える。
そもそも日本における低用量ピルの承認は、数十年の働きかけの末に実現したものであり、承認されたのはアメリカに遅れること40年の1999年だった。これは、国連加盟国の中でももっとも遅かったという。そして、低用量ピルが承認されて以降、日本においてピルの利用意向がある女性は20%前後いるのに対して、実際に利用している女性は少ない。
ピルにアクセスするまでの海外と日本の違いのひとつに、市販となっているか否かが挙げられる。現状、日本では、ピルを購入するためには婦人科を受診して処方箋をもらうことが必要であるのに対して、海外では薬局で購入することができる。
ただし、新型コロナウィルス感染症の拡大によって、最近ではオンライン診療での処方もはじまっている。どのような状況下でも、生きやすくなるための手段が必要なひとに届くための議論はこれからも必要だろう。
生理は、当事者の「人権」や「尊厳」に関わること
生理を経験する人にとっては、生理の問題は、そのひとの人生や健康と切り離せない。しかし、「生理の貧困」にみられるように、社会的なタブーや偏見によって1人の人間に対して困難な状況が再生産されている現状がある。
生理に関する世界のニュースや当事者の声を知ること。まわりの人と話し合ってみること。
「月経衛生デー」が、生理における不平等・不均衡を社会全体で問い直すきっかけの日になることを願う。