職場での女性活躍を推進するなかで、女性特有の疾患や体の不調に対してどのようにケアするのか、企業にとって課題のひとつといえます。これから更年期を迎える人も増えつつあるなか、ある企業の取り組みをご紹介します。
オンラインで診療・薬の処方を受けることができる産婦人科向けオンライン診療システム『ルナルナ オンライン診療』を活用した『オンライン更年期外来プログラム』を大手商社の丸紅とエムティーアイが試験導入を開始しました。
『オンライン更年期外来プログラム』は、更年期症状に悩む女性に向け、オンライン診療システムを運営するカラダメディカと丸紅が共同で開発・提供。スマートフォンなどのタブレット端末から産婦人科の受診と更年期治療に関する漢方薬などの服薬を支援するサービスです。
丸紅は、生理痛やPMS、妊活や不妊治療に悩む社員を対象に、『ルナルナ オンライン診療』を活用した施策を4月から試験導入しており、女性の健康についての取り組みを進めています。
2021年9月10日には、更年期プログラムの開始に先立ち「産婦人科医による更年期講座」を丸紅とエムティーアイの全従業員に向けてオンラインにて開催しました。講師は女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道の副院長で、産婦人科専門医・医学博士・婦人科スポーツドクターの高尾美穂さんが務めました。
講師
女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道の副院長/産婦人科専門医/医学博士/婦人科スポーツドクター
高尾美穂
更年期・閉経とは?
更年期とは生理が終わる「閉経」前後の約10年間のこと。閉経は、生理が12カ月間来なくなることで判断します。日本人が閉経をむかえる平均年齢は約50歳のため、40代後半から50代前半が更年期の目安となります。
更年期には卵巣機能が低下し、卵巣がエストロゲンを永久に作れなくなるため、女性ホルモンのバランスが不安定になります。しかし、50歳で閉経した人は45〜55歳が更年期にあたりますが、閉経するまでは更年期のスタート地点がわからないのです。
約4割の人は生理が来なくなるだけで特に困ることなく過ごせますが、約6割の人には女性ホルモンの低下が原因で起きる「更年期症状」があらわれます。また、生活や仕事に支障がでるほど症状が重く、治療を要する「更年期障害」と呼ばれる人はそのうち3割弱と言われています。
また「更年期」という言葉だけで「更年期障害」をイメージしてしまう人が多いのが現状ですが、「更年期」と「更年期症状」と「更年期障害」は明確に違うものだと認識することが大切だといいます。
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更年期症状に有効な治療法
更年期症状の治療法は、主に「漢方」「植物性エストロゲン」「ホルモン補充療法」の3つです。
1. 漢方
漢方は処方薬としてだけでなく、薬局で購入可能なOTC医薬品としても知られています。
それぞれの身体に合う漢方を取り入れれば、さまざまな症状が解決できる可能性が高いのが特徴です。しかし、少なくとも2カ月くらい使うことが必要とされます。
また、漢方とはいえど副作用もあります。会社などで定期的な健康診断を受け、異常値があればかかりつけ医で相談することが必要です。
2. 植物性エストロゲン
近頃よく聞く「植物性エストロゲン」とは、内分泌系により産生されたものではなく、外因性の物質が内分泌され女性ホルモンのように機能することを意味する、外因性エストロゲンのことです。
女性に有効と言われていて有名な「大豆イソフラボン」は、大豆、特に大豆胚芽に多く含まれる成分。大豆イソフラボンを腸の中で代謝して作る「エクオール」という成分がエストロゲンに似た作用を持つため、更年期症状にプラスの作用があるということが報告されています。
しかし、エクオールを産生するために必要な腸内細菌を持っている日本人女性の割合は2人に1人と言われています。そのため、大豆イソフラボンを摂取していても更年期症状の改善が見られる人と見られない人がいるのです。この腸内細菌の有無については、尿検査のキットを使用することで確認が可能です。
エクオールを産生できる人は、納豆や豆乳を摂取することで更年期症状の改善につながると言われていますが、産生できない人は成分を抽出したサプリ錠のエクオールを取ることで十分な効果が得られるそうです。
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3. ホルモン補充療法
ホルモン補充療法とは、エストロゲンの減少によって発症した更年期症状の改善のため、通常時に分泌されるエストロゲンの3分の1程度のエストロゲンを足すものです。メンタル面での変化はもちろん、肌荒れの改善など美容的な観点でも改善が期待されます。
欧米諸国においては、既に4〜5割の女性がこのホルモン補充療法を利用して更年期症状と向き合っています。しかし、日本においてはホルモン補充療法は約2%の女性しか使用していないのが現状です。
乳がんと血栓症のリスクがあるため、その2つに気をつけながら療養していく必要があることも日本での使用率が低迷している一因かもしれません。ただ、皮膚からホルモンを補充することで、経口薬と比べてリスクが下がるという報告も出てきているそうで、今後はリスクを抑えながら療養していくことができるようになるかもしれません。
番外編:運動習慣
以上の3つに加えて、スポーツドクターである高尾先生は、運動習慣があることも更年期症状の改善につながると言います。
「運動習慣がある人」とは、1回に30分以上、かつ週に2回以上を1年継続している人のことです。現状、40代では16%しか運動習慣のある人はいないと言われています。
運動をすることで、ほてりなどの更年期症状の改善が期待されるほか、鬱のリスクも下がるとされています。また、普段運動をあまりしない人が運動習慣を取り入れることで鬱のリスクが低下することもあるそう。
「運動習慣を持ったうえで、更年期に突入することも大事かもしれない」と高尾先生は話しました。
女性が元気に働くために、自分自身と周囲ができること
女性が元気に働いていくために、女性自身がすべきことと、周囲の人たちがすべきこともセミナーでは紹介されていました。
「この3つのことが出来ていけば、私達女性にとって働き続けるということが前向きに考えられる社会になっていくのではないかと思っています」(高尾先生)
1. 働く女性自身のホルモンについての前向きな理解
まずは、自分の身体やホルモンについて自分自身が理解することが大事だといいます。女性はエストロゲンによる大きな変化の中で生きていて、それがライフステージに影響します。
その事実を受け止めて、女性自身が前向きに自分の体やホルモンについて理解することや、自分なりに対策をすることが欠かせません。
2. 男性の女性の不調に対する理解=想像力
女性が元気に働き続けるためには、周囲の男性がある程度の知識をつけておくことも大事です。体調が悪い人に対して想像力を働かせて共感することで、体調が優れない女性もそのことを表に出しやすくなると言います。
女性自身は更年期による不調を認められないこともあるといいます。しかし本人も周囲も不調は不調として捉えて、「なにかできることない?」と声をかけてあげることが大切です。
3. 社会側の、女性の不調に対する理解やサポート
女性はエストロゲンに1カ月、また年単位で揺さぶられ続ける人生を送っています。高尾先生によると、社会が成熟していくことやそれにともなって環境整備をしていくことが大切だそうです。
しかし、2021年のジェンダーギャップ指数で調査対象となった世界156カ国のうち、日本は120位と今年もG7では最下位をキープしています。現在の日本社会では女性の不調に対する理解やサポート体制が成熟していないのが現状ではないでしょうか。
そのため、2. のようにそれぞれを理解する取り組みから始めることが大事だそうです。
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セミナー中、高尾先生は閉経前後それぞれ5年を更年期と呼ぶため、更年期のスタート地点がわからないことから「40代に入ったら、更年期かもしれないと思って対処することはアリ」だと話していました。
更年期の女性はもちろん、その周囲の人やこれから更年期を迎える女性も事前に更年期についての知識を持っているとよさそうです。