ランドリーボックスではこれまで主に女性の体の悩みや健康をテーマに情報を発信してきました。
セクシャルウェルネス(性の健康)においては、性別を問わず体のことを知る必要があります。私たちとともに学んでいきましょう。
今回は、「プライベートケアクリニック東京」東京院 院長で泌尿器科医の小堀善友(こぼりよしとも)先生に射精障害のひとつである「遅漏」の原因や治療法について教えてもらいました。
「遅漏」とは
「遅漏」とは、マスターベーションでは射精が可能であるにもかかわらず、性行為時に射精ができない状態のことを言います。
近年増加傾向であり、厚生労働省の調査では、遅漏が男性不妊症の原因の7%を超えることがわかっています 。
遅漏の原因① 不適切なマスターベーション
遅漏は思春期からの不適切なマスターベーションが主な原因と考えられています。具体的には次のようなケースがあります。
・床オナ(非用手的マスターベーション)
床にペニスを押しつけるなど、手を使わずにマスターベーションをすること。 このケースは勃起しないまま射精していることも多くあります。 床以外にも、枕などを陰部に挟み込む、ペニスを大腿に挟み込むなどの刺激方法があります。
・強グリップ
手を使ってマスターベーションを行う際に、刺激が強すぎる場合です。 強く握りすぎてしまったり、ものすごい速さで手を動かしたりすると、実際の性行為よりもペニスに与える刺激が強くなります。
・足ピン
仰向けで足を伸ばしていないと射精できない、または特定の体勢でないと射精できない状態です。
上記のように、多くは「マスターベーションの方法が、腟の中の刺激とは異なる」状態が多いです。 また、普段から刺激が強いマスターベーションを行なっている場合が多いため、腟の中にペニスを挿入しても何も感じない状態になってしまいます。
対処法:マスターベーションの修正
マスターベーション方法を修正し、適切な刺激で射精できるように訓練していきます。具体的には、以下の方法を勧めています。
・リラックスした姿勢で行う
・できるだけ手に力を加えずに
・スラスト運動(手を上下に動かす方法)で射精に導く
・実際の性行為に近い姿勢と環境でマスターベーションを行う(TENGAなどの器具を勧める場合も)
話を聞いて原因を探りながら、カウンセリングや射精のリハビリを進めていきます。 上手に射精をしていくためには、コツを掴むことが重要です。
遅漏の原因② 心因性の腟内射精障害
パートナーとの関係性の問題や、アダルトビデオを見ながらでないと射精できないといった性癖の問題、トラウマなど、心理的なものとしてはさまざまな状況が考えられます。
・厳格な家庭に育ち、性行為が悪いものと教えられた
・腟内射精をすることや、子どもを作ることへの恐怖感
・特殊な性癖がある(AVを見ながらでないと射精できない、または自分自身が性行為に参加していると射精できない、というケースも)
・1人でないと射精できない
・パートナーから「セックスが下手」と言われてから射精できなくなった
・セックス時にどのように動いたら良いかわからない
上記のように、さまざまなきっかけで射精ができなくなってしまうことがあります。
対処法:セックスカウンセリング
心因性の場合は、すぐに改善することは少なく、パートナーと一緒にじっくり治療を進めていく必要があります。性行為は一人で行うものではありません。パートナーの協力があってできるものです。
そこでパートナーと一緒に、カウンセリングを受けることをお勧めしています。まずは、射精障害というものが一般的な病気であり、治療を受けることで症状が改善する可能性があることをご理解いただきます。
パートナーの方からすると、「なんで私の中で射精してくれないんだろう?」と傷ついている人も数多くいます。 お互いに、状況を理解し合うことが重要です。
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遅漏は早漏に比べて、簡単に治るものではありません。妊活を目的にした場合、膣内の射精にこだわらなければ、スポイトを用いて行う方法もあります。
射精が目的なのか、妊娠が目的なのか、クリニックではゴールをどこに置くのかをお聞きしたうえで治療の提案をしています。
ご自身とパートナーが満足していれば、必ずしも射精にこだわる必要はないと考えています。お互いに理解を深めるためにも、やはりじっくりと話をすることが大事です。
<監修>
小堀善友(こぼりよしとも)
泌尿器科医、生殖医療専門医、性機能学会専門医
プライベートケアクリニック東京東京院院長。男性不妊症・射精障害など、男性の性の健康に関する診療を担当。1975年生まれ。金沢大学医学部卒業。主な著書に『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)『妊活カップルのためのオトコ学』(メディカルトリビューン)『泌尿器科医が教える正しいマスターベーション』(インプレス)などがある。