ランドリーボックスではこれまで主に女性の体の悩みや健康をテーマに情報を発信してきました。
セクシャルウェルネス(性の健康)においては、性別を問わず体のことを知る必要があります。私たちとともに学んでいきましょう。
今回は、「プライベートケアクリニック東京」東京院 院長で泌尿器科医の小堀善友(こぼりよしとも)先生に、多くの男性が悩むという「勃起障害」について教えてもらいました。
勃起障害「ED」とは
勃起障害(ED:Erectile Dysfunction)とは、勃起が満足にできず、セックスを完遂することができない状態のことです。正確には「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が続く、または再発すること」と定義されています。
勃起障害は、加齢とともに増加することがわかっており、日本においては約1000万人がED患者であると推測されています。
不妊症の原因の6.1%が勃起障害であり、高齢者のみならず若者においても大きな問題となっています(2014年の厚生労働省の調査)。
EDの原因は?
EDの原因は、大きく分けて「心因性ED」と「器質性ED」があります。 心理的な問題や精神的な問題が原因となる「心因性(機能性)」のものと、糖尿病などの基礎疾患があり、血管や神経・内分泌環境に異常がある「器質性」があります。
心因性ED
特に病気がないのにもかかわらず、勃起しなくなる場合は心因性のEDです。 不安、緊張、ストレスなどの心理的な問題や、うつ病や神経症など精神的な問題が原因で起こります。
妊活のタイミング法のときのEDは、心因性の場合が多いです。勃起はリラックスしている状態のときに起きます。「排卵日だから失敗できない」といったプレッシャーを感じると、勃起しなくなるケースがあります。
器質性ED
血管、神経、内分泌環境などに原因するEDです。 糖尿病、心不全、高血圧、動脈硬化などの病気や、喫煙や肥満などの生活習慣もEDの発生に関与します。
前立腺癌や直腸癌の手術によっても高率にEDが起こります。 その他、降圧剤、抗精神病薬などの薬が原因で起こることがあります。
クリニックでは問診でED診断をしますが、下記の「国際勃起機能スコアIIEF5」を用いてセルフチェックができます。そのほか、原因を探るためホルモン検査や身体所見聴取も行っています。
EDの治療法
PDE5阻害薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)の服用
第一選択となる治療法は、PDE5阻害薬と呼ばれる薬の服用です。
現在日本ではバイアグラ、レビトラ、シアリスの3種類が販売されています。これらは飲み方(タイミングや飲み合せ)や持続性などそれぞれ特徴があるため、用途に合わせて使用することをお勧めします。
心因性、器質性ともに有効性は80%と非常に高いですが、糖尿病などの基礎疾患が重篤な場合、効果が得られないこともあります。
頭痛、筋肉痛、火照り、鼻づまりなどの副作用がみられることがありますが、そこまで大きな副作用はありません。
「バイアグラは心臓に悪い」といった誤った認識をしている方もいますが、もともとは血圧を下げるために血管を拡張させ、心筋梗塞を防ぐ薬です。
ED治療薬(PDE5阻害薬)は、ほとんどの患者さんが安心して内服できる極めて安全性が高い薬剤です。かつ有効性が高い薬なので、副作用を気にするより服用した方がいいと思います。
ただし、硝酸剤(狭心症の薬)との併用で血圧低下が起こるため、ニトロを内服している方はPDE5阻害薬を使用することができませんので注意が必要です。
なお、これらの薬は内服をしただけで勃起するわけではなく、性的刺激を受けないと勃起しません。 また媚薬というわけではないので、性欲が高まるということもありません。参考になさってください。
漢方薬
PDE5阻害薬は有効性、安全性が高いことが知られていますが、その作用機序から硝酸剤(狭心症の薬)との併用することができません。
そのため次の選択肢として、ED・射精障害治療に対する漢方薬「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」があげられます。
この漢方薬は、精神不安、不眠、イライラなどの精神症状がある場合に使用され、種々のストレスによるEDに対して処方されます。
漢方薬は長く飲まないと効かない、もしくは副作用がないとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、それは大きな間違いです。
柴胡加竜骨牡蛎湯などの漢方薬は即効性があり、副作用が出ることもあります。
オウゴンという生薬が配合されているため、肝機能障害の副作用が出る可能性がある点は注意が必要です。
陰茎海綿体自己注射(ICI)
ガイドラインではPDE5阻害薬の効果がない場合、プロスタグランジンE1(PGE1)を陰茎自己注射する方法が勧められています。痛みが出ないように細い針を用いた注射器で、陰茎の根本に薬を注入します。
ただ日本ではこの薬を患者自身で陰茎に自己注射する方法は認められていません(80カ国以上の諸外国では承認されている)。 日本性機能学会による試験によると有効性は、70%ほどと報告されています。
陰茎プロステーシス手術
この治療法も日本では未承認ですが、陰茎にプロステーシスという人工的に勃起を起こすための器具を埋め込む手術があります。
プロステーシスを作っている会社の、患者教育用のビデオをご紹介します。
大丈夫なのかと心配な方もいらっしゃるかもしれませんが、患者とそのパートナーの満足度は高く、オーガズムも感じるそうです。 アメリカでは、30万人を超える人がこの手術を受けています。
さまざまな治療法をご紹介しましたが、(条件が問題なければ)バイアグラなどのPDE5阻害薬をまずは試していただきたいです。有効性が高く、すぐに改善される方がほとんどです。お気軽にご相談ください。
中折れってどうして起きるの?
勃起が持続せず、セックスを完遂できない状態について「中折れ」と呼ばれていますが、これはEDとまったく同じです。
ランドリーボックス編集部から「女性の中には、パートナーが中折れすることは自分に原因があると落ち込んだり、自分を責めてしまう人もいる」、「膣の締まりが悪いのでは?と悩んでいる方もいらっしゃる」と聞いて驚きました。
先述した通り、EDの原因は「心因性ED」と「器質性ED」の2種類があり勃起が持続しないEDと同じしくみです。そのため「膣の締まり」など、女性側に原因があるとは言いにくいです。
<監修>
小堀善友(こぼりよしとも)
泌尿器科医、生殖医療専門医、性機能学会専門医
プライベートケアクリニック東京東京院院長。男性不妊症・射精障害など、男性の性の健康に関する診療を担当。1975年生まれ。金沢大学医学部卒業。主な著書に『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)『妊活カップルのためのオトコ学』(メディカルトリビューン)『泌尿器科医が教える正しいマスターベーション』(インプレス)などがある。