30代半ばで数年ぶりのパートナーができ、20代の頃は経験したことがなかった「彼が最後までイけない」という悩みに直面したSさん(30代)。
戸惑いながらも、「この人とは身体の相性が悪い」と切り捨てるのではなく、お互いが満足できる着地点を見つけようと模索してきました。
セックスは相手と自分の問題なのに、世間の「完璧な」セックスのイメージに振り回されてしまい、「これって私が原因なのかな?」「私たちってセックスレスなのかな?」と不安な気持ちになったことがある人も多いのではないでしょうか。
付き合って1年、不安や疑問をひとつひとつ対話を重ねることで解決し、現在は身体の満足度だけを求めるのではなく、心も満たされるセックスができるようになったというSさんに話を聞きました。
久しぶりにできたパートナーと、セックスの悩みに初めて直面した
ーーまず、現在のパートナーについて教えてください。
彼とはマッチングアプリで知り合いました。30代になってからは初めての恋人です。
5つ年上で、付き合いだしてもうすぐ1年になります。
20代後半からこれまではずっと仕事が忙しくて、適当に友達以上恋人未満の相手を作ったりしていたんですが、今お付き合いしている彼は私にとって心の底から大事にしたいと思える相手です。
ーー久しぶりにできたパートナーなんですね。これまでの関係性とは違ったセックスの悩みはありますか?
はい。彼が最後までイけないときがあって……。付き合い始めた当初は結構悩みました。
私は、これまでそれなりに交際していた人がいましたし、性的なことにオープンなほうで、パートナーがいない時期もいわゆる体の関係だけの人がいたんです。
一方、彼は恋愛経験や性的な経験がそんなに多くないんだろうなとなんとなく感じていました。
ーーその違いを感じて、Sさんはどう思いましたか?
こういう人もいるんだ!と衝撃でした。
20代の頃の私だったら、「体の相性が悪い」というだけで切り捨てて別れてしまっていたかもしれません。
でも、彼に対しては「めんどくさいな」とはならなかったんです。
これから先、長く付き合っていく上で、お互いが満足する着地点を模索しようと思いました。
ーーSさんがそう感じたことは、パートナーには伝えましたか?
いえ、これは自分の中で決めたことです。
最後までイけないのは、体質や年齢のせいかもしれない、食生活のせいかもしれない。本人の気持ちやシチュエーションのせいかも。
いろんな可能性があるけれど、どれもセンシティブなことだし、私があれこれ口を出すのは違うなと思って。
相手のプライドもあるだろうから、自然に誘導することにしました。
ーーなるほど。具体的にはどう誘導したんですか?
私は猫を飼っているので、寝室に猫が入ってきて気が散っちゃうことがあるんです。
場所が悪いのかも?と思い、旅行先でセックスしてみるなど、環境を変えました。下着の雰囲気を変えてみたり、潤滑剤を使ってみたりもしました。
それから、二人の力量だけに頼るのはやめようと思ってアイテムを試してみたり。
ーーアイテムの導入はSさんから?
そうです。ちょうど彼と付き合い始めた頃、友人がお祝いの気持ちも込めてバイブをくれたんです。
自分で買ったと言うと彼に「満足していないのかな」と思われてしまうかもしれないので、そのまま「友達に、彼氏ができたって話したらこんなのくれたんだ。あんまり使ったことないからどうしたらいいかわからなくて。とりあえず棚にしまっとくね」と、さりげなく彼に話しました。
ーーパートナーの反応はどうでしたか?
その日の夜に、彼のほうから「あれ試してみない?」と言ってくれたんです。そして、せっかくだから試してみようか、と自然な流れで使うことができました。
彼は興味がないと思っていたので、「意外と覚えてたんだ」と驚きました。
そうして工夫をしながら新しいことを試すことで、最後までイけなくても、結果を責めるのではなくて、二人で新しいことができたね、楽しかったね、という気持ちの満足感のほうが大事だなと思うようになってきました。
「最後まで」って何?世の中が勝手に決めた定義に振り回されるのはもうやめた
ーー「最後までイく」ためにしていった工夫によって、むしろ「最後までイかないといけない」というプレッシャーから解放されたんですね。
そもそも、「最後まで」ってなんなんでしょうね?
セックスはお互いがイけないと成立しないわけじゃないのに、なぜかイくことが「完璧なセックスだ」という意識が勝手に植えつけられている。
だけど、あくまで身体と身体のコミュニケーションだから、お互いが「私たちはこれでいいよね」と納得できる方法を模索してくことが大事な気がします。
そうやって気持ちを切り替えたことで逆に彼が最後までイけるようになったんですよ。
ーー気持ちの変化が、身体の変化に。
1年かかりましたけどね。
そもそも、私たちはセックスをする頻度もそんなに高くないんです。
いろいろ試してみたいけれど、無理に頻度を上げることでプレッシャーになってもよくないなと。多くて2週に1回、2−3カ月に1回のときもあります。
お互いが「したい」と思ったら、委ねる。
付き合いたての頃は、これってセックスレスなのかな?と思ったこともあったけれど、それは世の中が勝手に決めた定義。
世の中の枠にはめて考えるのではなく、私と彼のセックスは二人のものだから、変に周りを気にしないでマイペースに進めることにしたんです。
ーーセックスの悩みって、実際は当事者間それぞれの話なのに、「周りと比べてどうなのかな?」「これっておかしいのかな?」と不安になってしまいますよね。
そうなんです。私も、今でこそ「自分たちのペースで」と言えるようになりましたが、始めの頃は「セックス 途中で終わってしまう」「セックス 頻度 セックスレス」と検索しては、ネットで出てくる情報に振り回されていました。
調べれば調べるほど、他人の意見が入ってきてしまって、肝心の自分と相手の考えが見えなくなってしまいます。それって怖いことですよね。
目の前に本人がいるなら、本人に聞くしかない。二人の間で答えを出していくしかないんです。
全てを馬鹿正直に伝えなくてもいい。明るい時間に、さっぱりとセックスの話をしよう
ーーあらためてセックスの話をするのは、はじめは緊張してしまうと思うのですが、パートナーと話すうえでSさんが気をつけていたことはありますか?
明るい時間に話すことです。
暗い時間に話すよりオープンマインドになりますし、夜だと「じゃあこのあとどうする?」ってなんとなくお互いプレッシャーがかかってしまう。
あえて、朝ごはんを食べながらとか、並んで歯磨きをしながら、重苦しい雰囲気を出さずにかるーく話しかけてみるようにしています。
ーー「彼が最後までイけない」ことはSさんからは触れないと決めたとのことですが、セックスの頻度などそれ以外のことはパートナーとオープンに話すのですか?
はい。「回数控えめだけど、もっと増やしたいとか少ないほうがいいとかある?」と聞いてみました。
そしたら、彼も「僕も聞こうと思ってたんだ」と言ってくれて、話し合えたんです。
ーーどういった話し合いをしたか教えていただけますか?
まず、お互いの優先したいことを話しました。
私も彼も、現状は仕事が最優先。
仕事で疲れていたらしっかり休みたいし、翌日の仕事に響くなら無理して夜にしたくない。じゃあ、お互いが休みの日の朝にするのがいいかもね、と。
それから、お互い正直にいこうねとも話しました。
「今日どう?」と誘われても、したくないならちゃんと断る。
でも、ただ「したくない」じゃなくて、「今日は疲れてるから」とか理由を伝えたほうが安心するよね、というところまで話し合いました。
そうして少しずつ話し合いを重ねていくうちに、彼のほうから「どうして最後までイけないんだろう」と話してくれたんです。
ーーSさんはそれにどう反応したんですか?
裏でいろいろ考えたり誘導していたことは一切口に出さず、「どうしてだろうね。でも私はなにも不満は感じていないよ。ゆっくり、できることをしていこうよ」と伝えました。
お互い、腹を割って話せる関係性を築いてこれたのが嬉しかったですね。
全部を馬鹿正直に伝えなくてもいいから、何を伝えて、何を伝えないのかを考えることが大事だと思います。
身体の相性だけを重視する価値観は、20代に置いてきた
ーー対話ができる関係性であることは大事ですね。
そうですね。今まで性の話もしたことがなかったであろう人だし、応えてくれなかったらどうしようと内心は不安でした。
これで応えてくれなかったら、それこそ付き合っていくのは難しいと思って。
セックスって、長く付き合っていくうえでどうしても避けては通れない話題だと思うんです。心の内を喋ろうと思ってくれる人でよかったです。
ーー大事な人だからこそ、自分が話したくても、相手が応えてくれるかなという不安はありますよね。
正直、自分がパートナーとのセックスで頭を悩ます日がくるとは思ってなかったんです。
今までお付き合いしてきた人も、体の関係になった人も、セックスが好きでアグレッシブなタイプが多かったんです。
「あの人、体の相性全然ダメだった〜」って友達と話をすることはあっても、「相手が最後までイけない」なんてことはなくて。
だから、20代の頃とは自分の体形も変わっているし、私に魅力を感じていないのかな?私のせいなのかな?と悩んでしまって。
ーー初めて直面した悩みだったんですね。
悩みました。でも、仮に今セックスの相性が抜群な相手であっても、年を重ねてできなくなったらどうなるんだろう?自分も相手も30代だから、遅かれ早かれ今後直面する課題ではあるよな、と考え直しました。
ポジティブに考えたら、このタイミングで課題が出てきてよかったです。
結局、パートナーと一緒に過ごすうえで、何を大事にしたいかですよね。
今の私は、性欲よりも仕事のパフォーマンスを落とさないほうが大事だし、なによりパートナーとの関係性を大事にしたかったんです。そう考えたら、ご飯を食べるとか、たまにスキンシップがあるほうが大事だと気づきました。
ーーセックスの相性の優先順位はそこまで高くないと。
そうですね、肉体の満足度優先の価値観は20代に置いてきました。
いろんな経験を経て、どれだけセックスがうまくても、自分が心に傷やモヤモヤを抱えるような相手ではだめだって分かったし、中身がだめでも、彼氏じゃないからどうでもいいやって思っていました。
でも、自分の中で、30代になってから付き合う人とは身を固める前提でという感覚があったので、あらためて自分が「付き合う」相手に求めることを洗い出してみたんです。
そしたら、「セックスの良さ=パートナーの価値」じゃないかもしれないって意識のアップデートができました。
「ありがとう」の気持ちを積み重ねていくうちに、セックスの満足度は上がっていく
ーー「セックスの良さ」というよりは、「肉体の満足度」だけでなく「気持ちの満足度」を求めるようになった感じがしました。今のSさんが、セックスにおいて「満足したな」と感じるのはどういうときですか?
そもそも、ファーストステップは「ありがとう」だと思うんです。
同じ相手を何回も抱こうと思ってくれてありがとう。それだけでひとつ満足できます。
それから、好きな人と肌が触れ合うだけで満足感がありますね。
こないだ、久しぶりに自宅で最後までできたとき、彼がすごく喜んでいたんです。
最後までできたことより、彼が嬉しそうな姿を見るのが私は嬉しかったです。
ーー好きな人と触れ合うこと、好きな人が喜ぶ姿に満足できると。
そして、最後までイけなくても、お互いにトライしたいという気持ちを持っていること、「気持ちよかった?大丈夫だった?」と相手を思いやる気持ちに感謝、それで充分満足ですね。
最後までイかなくて残念だったねじゃなくて、「楽しかったよね」「あれよかったよ、ありがとう」って言葉で感想を伝える。
お互いを認めて肯定し合うことで、あったかい気持ちになります。
ーー「ありがとう」の気持ちって、セックスにおいて案外忘れてしまいがちかもしれませんね。
大事ですよね。相手が自分を想ってしてくれたことへの「ありがとう」を重ねていく。それだけで、気持ちの満足度はかなり満たされる気がします。
逆に、セックスの相性はすごくいいけどずっと付き合ってくれない相手だったら、身体の満足度は100点だけど、気持ちは0点だから「ありがとう」の気持ちは湧いてこないと思うんです。
身体が満点かはさておき、私がパートナーと連れ添う理由は、お互いの存在を肯定するために、違いを認め合うこと。
それに、結局気持ちが満足していくにつれて身体の満足感もあとからついてきますから。
ーー身体の相性が100点の人を求めるのではなく、大事にしたい相手と向き合うことで満足度を上げていく。
良し悪しの話ではないので、気持ちの満足度より身体の快感のほうが大事な人は、そこを満たせる相手を探せばいい。
でも、今の私の優先順位はそこじゃない。
気持ちと身体、両方満点に越したことはないけど、身体の状態や悩みは尽きないですから、どちらも満足できるのがそもそも奇跡。
そう考えたら、お互いのためにどうしたらいいか考えられるようになるんじゃないかな。
ーー自分に向き合って、そして相手に向き合うことで、世間の作り上げたありもしない「理想のセックス像」ではなく、「お互いが満足できるセックス」に近づけたんですね。
自分にとって何が大事かを知っておくと生きやすいですね。
彼とは付き合って1年経ちますが、まだまだ知らないことがたくさんあります。
疑問や知りたいことは、関係性を深めるためにどんどん聞いて、腹割って話していきたいです。彼が得意なことも、苦手なことも、まるごとリスペクトして受け入れる。
そして、相手のことが好きな自分を受け入れていきたいです。
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