性教育パペット「ばあばるば」ならびにランドリーボックスでは、「女性器の呼び名がない」ことについて調査企画を実施している。

女性器に呼びやすい名前がない問題。いつからそこはNGワードになったのか?

今回は、女性器の呼び名の変遷を辿るべく、春画愛好家・春画ールさんを尋ねることに。

春画ールさんが開いてくれた書物には、女性器を示す言葉が、さまざまな表記で、ごく自然な顔で登場していた。

「玉門」「ぼぼ」「つび」—— 今とは異なる「名前」が江戸時代にはどのように描かれていたのだろう。

「玉門」と書いてなんと読む?自由な呼び名でさあどうぞ

「近世・江戸時代の春画、つまり艶本(えほん)とか『笑い絵』と呼ばれるものには、女性器の呼び名がいくつも出てきます。一番多いのが『つび』とか『ぼぼ』と呼ばれるものです。でも書き方はバラバラで、同じ漢字でも、読み方は好きなように読んでいたんですよ」

春画ールさんが持ってきてくれた1825年頃の艶本『和合淫質録(わごういんしつろく)』には、女性器を示す漢字の横にルビが振られていた。

「玉門」と書いて「つび」と読んだり、「ぼぼ」と読んだり。読み方は本によって、ページによって異なる。ちなみに男性器は「辺野古(へのこ)」と表記されていた。

「江戸時代の出版物は、読み方の自由度がとても高いです。恋人たちの赤い糸を『赤縄』と書いて『えんのいと』とルビをふったりしている書物もありました。」

ひらがなでも漢字でも、振り仮名があってもなくても、誰もがそれとなく理解できる言葉が、「正しい呼び名」に縛られることなく使われていた。

どうして「玉門」?女性の中には、3つの玉がある

ところで艶本の漢字表記においてなぜ女性器は「玉門」なのだろう。「門」はなんとなくわかるけれど「玉」がわからない。

その語源をひもとくと、江戸時代にやってきた中国の「房中術(ぼうちゅうじゅつ)」の影響が見えてくるという。

房中術は、古代中国において、男女の性交を健康長寿や病気の治療、予防に役立てるという養生術である。

「当時の日本の性的な情報の多くは、古代中国の房中術、つまり性行為を通じて女性からエネルギーをもらって不老不死になり神通力を得るという宗教的な考え方にもとづく書物から伝わっています。

そして、日本では女性の体の中には3つの玉がある、という考えがありました。」

寛文三年刊行の『業平たわむれ草』や渓斎英泉(けいさいえいせん)の『和合淫質録』など複数の文献に、その記述が確認できるという。

寛文三年刊行の『業平たわむれ草』に描かれている女性器のなかの3つの玉

3つの玉は書物により呼び名が異なるが、「天玉(てんぎょく)」「陽玉(ようぎょく)」「陰玉(いんぎょく)」などと呼ばれ、女性器のなかのこの玉の配置で女性器がランク付けされると考えられていた。

この玉はそれぞれが女性の臓器(心臓、肺など)に通じているとされており、男性はこの3つの玉の配置がよろしい女性と交わることにより良いエネルギーを体内に取り込めるという考えがあった。

性行為自体が、男性が女性から氣をもらうという考えで、挿入に限らず、口や乳首、愛液などからも良い気を取り込むとされ、良い氣をもつのは、若くて健康で美しい女性ともいわれていたそう。

「江戸時代の書物には最上位の女性は玉の配置がこうなっています、という図解もあって。逆に下の格の女性は玉が3つ揃っていない、という表現まであります(笑)」

寛文三年刊行の『業平たわむれ草』より。3つの玉の位置を品評している
寛文三年刊行の『業平たわむれ草』より。玉が3つ揃っていない図

存在しない玉の配置で「格」があるというのは、すごい世界である。ドラ⚪︎ンボールのごとく、玉を集める旅が始まりそうである。謎深まる…。

ちなみに、男性側は、射精をするとエネルギーが排出されるため、むやみに排出しない方がいいとされていたり、首が太いと男性器が大きいというような男性器のランクも記載されていたそう。

さらに、江戸時代からあった「りんの玉」と呼ばれる性具の存在も、このイメージがリンクしていたのではないかと春画ールさんは推測する。

「女性の中には玉がある」という概念から考えられたかもしれない性玩具「りんの玉」

「玉門」の言葉には、多くの意味が含まれていた。私たちには「玉」があるのかもしれない…。

男女和合の縁起物——江戸時代、女性器はタブーじゃなかった

そして、春画や艶本において、女性器、男性器は一貫して「男女和合」の視点から語られるという。

「イザナギとイザナミの交わりによって日本が生まれたという神話もですが、男女が交わることで万物が創造される、という考え方があります。

だから男性器も女性器も、どちらもおめでたいもの、縁起物として扱われていました。欠けてはならないものとして、両方が平等に語られています」

また、玉門のような概念の話はあれど、性にまつわる書物の中で男性器が女性器より優位に置かれているような表現は見当たらず、むしろ女性をいかに喜ばせるかというハウツー情報が豊富だったという。

「女性が快楽を得て絶頂に達した時に子宮口が開き、それによって子どもを授かれるという考え方があったので、女性を気持ちよくさせることが重要視されていたんだと思います。

江戸期に出版されたハウツー本に女性を快楽へ導くための情報が多いのもそのためだと思います」

では、女性器は、日常的にはどのように呼ばれていたのか。

天保期に記された『桑名日記』という日記には、書き手の渡部平太夫政通(わたなべへいだゆうまさみち)というおじいさんが書いている記録で

「孫が、おめこ、おかんこ、へのこ、ちんぽ、が口癖になって困っているので、灸を据えてやるぞとおどかすと、孫はごめん、ごめんと謝ってきた」

というような微笑ましいエピソードも残されているという。

しかし、それはタブーというより「人前では控えなさい」という程度のしつけだったのではないかと春画ールさんは言う。

江戸時代は性におおらかだったというような表現も目にするが、日常的な感覚は、今と大きく変わってはいないのかもしれない。

「たしかに江戸時代においては、改革はあったものの表現において全面的な規制や、政治が絡むような大きな締め付けが全国的にあったわけではありません。

けれど、随筆の中には、旅の道中に男性器の大きな像があって「よい男性に出会えますように」と手を合わせる女性がいる、一方でそれを見て『なんてものが道中に』と驚く人がいる、という記録もあります。

今の私たちの感覚とそう変わらない部分もあるかもしれません」

「おまんこ」は、かわいい幼児語だった?

現在、日常的に使いづらい女性器の名称としてあげられる「まんこ」。この言葉も、春画や艶本にはごく自然に登場する。

「若い女性の性器をさして『おまんこ』という書き方がされていたり、銭湯で子どもがお母さんに向かって『おっかあ、おまんこに毛がたんとある』と言うような場面があったり。かわいらしい、日常的な使われ方が多いです」

「おまんこ」という表現には、幼さやあどけなさを表すニュアンスがあったようだ、と春画ールさんは推測する。

「立派な大人の男性がいやらしい意味で、おまんこと言った記録は日記や書物から見たことはありません。使われているシーンから考えると、どちらかというと幼い印象を与える言葉だったのではないかと。今のような周りが戦慄するような言葉ではないですね」

むしろ子どもたちの愛称として使われていた「まんこ」。

それが今のように「はばかられる言葉」になっていったのは、女性が性的に消費される歴史の中で、言葉の意味合いが変化していったからなのか。

「私が見た江戸時代の書物の中には、女性を蔑むような悪意を帯びた呼び方というのは見当たりません。侮蔑的な価値観が生まれたのは、おそらく明治以降なのではないかと思っています」

「ぼぼ」「つび」をもう一度——かわいくて言いやすい言葉たち

話を聞きながら、改めて「今、なんて呼べばいいんだろう」という想いが深まってくる。むしろ昔の言葉の方が使いやすいのではないか?

「『ぼぼ』は今でも全然、卑猥なイメージがないですよね。SNSでも、おばあさんが普通に『ぼぼ』という言葉を使っていたというコメントも結構あります。

地方で最近まで使われていた言葉だと思います。今は、全国的には使われていないけれど、卑猥なイメージのないまま廃れていった言葉というか」

そして、当時を知る人にとって忘れられない、ひとつの”事件”がある。「ボボブラジル」というアメリカ人プロレスラーの存在だ。

「子どもの頃に大人たちが普通に『ぼぼ』という言葉を使っていたのに、お茶の間でボボブラジルが映ると急に恥ずかしくなった、言葉が使いづらくなったというエピソードをよく聞きます。

笑えるような話なんですけど、そういう感じで廃れていった呼び名なのかもしれないですね」

「ぼぼ」以外にも、さかのぼれば女性器の呼び名は豊かに存在していた。

平安時代には「ほと」「みほと」「くぼ」という言葉も使われていたそう。

「音の重なりで言いやすくする、という工夫は昔からあって。おちんちんがそうであるように、日常的に使う言葉だからこそ、言いやすい音になっていくのかもしれないですね」

確かに多様で、どれも発話しやすい。なんだか、江戸時代の自由な読み方の文化が、少し羨ましくなる。

江戸時代の大ヒット「性の百科全書」とは?

ところで、江戸時代に性教育本はあったのか?

「子ども向けの性教育本はないですが、春画本『枕文庫』では、生理が遅れた時に飲むと良いもののレシピや、避妊法など医学的な情報も書かれています。

いわゆる男性目線の春画が多いですが、枕文庫は、女性読者も獲得し大ベストセラーになりました」

生理や避妊、からだにまつわることから、惚れ薬の作り方や潤滑剤の作り方まで詳細な情報が載っているという。

体の名前や仕組みを知ることは、自分の体を大切にすることへとつながる。インタビューの終わりに、私たちが企画制作している性教育パペット「ばあばるば」についても話を聞いた。

「春画や艶本の中には、尿道や子宮の断面図、それからクリトリスにあたる箇所を指す言葉も出てきます。

小陰唇が『実(さね)』とされ、特記の部分が『実頭(さねがしら)』と呼ばれていて、女性の快楽のポイントとして認識されています。今ほど細かくはないですが、ちゃんと名前も記載され、機能としても理解されていたんです」

MRIなどの撮影機器がない中でも、構造を理解し、感覚も含めて図解していたなんてすごいことである。

春画ールさん、貴重なお話ありがとうございました!

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2018年から春画にまつわる発信をしている春画ールさん。少しずつ春画の捉えられ方が変わり、今では展示も増えたという。

今回の取材を経て、江戸時代の言葉の大らかさや、フラットさは、「名前」に対して感じる過剰な重さを、少しゆるくしてくれた気がした。

明日から、「ぼぼ」「つび」っていうのもいいですね。

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<お話を伺った人>
春画ール

1990年、愛媛県生まれ。学生時代に見た、葛飾北斎の「蛸と海女」で春画に目覚める。市井の春画ウォッチャーの視線で、春画の魅力や楽しみ方を模索する。2018年より「春画ール」の名で活動をスタートし、「現代人が見る春画」をコンセプトに、国内外への発信を続けている。著書に『春画にハマりまして。』(CCCメディアハウス)、『江戸の女性たちはどうしてましたか? 春画と性典物からジェンダー史をゆるゆる読み解く』(晶文社)、『春画の穴―あなたの知らない「奥の奥」―』(新潮社)

女性器の愛称について調査をしています。

みなさんは、どんな思い出がありますか?ぜひ、以下アンケートで教えてもらえたら嬉しいです。

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 Ba-Vulva(ばあばるば)は、体にまつわる適切な情報を楽しく学べるようにという想いを込めて、おばあちゃんたちと手作りで作っています。

ばあばるばに込めた想いやプロダクト詳細はこちらをご確認ください。 https://laundrybox.co.jp/BA-VULVA_jp

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