生理のときに胃痛や胃のむかつきや吐き気を感じる場合、「プロスタグランジン」という物質の過剰分泌が影響している可能性があります。なぜ生理時に胃が痛くなるのか、病院を受診する目安、治療法を解説します。

生理中に胃痛が起こる原因

「プロスタグランジン」を知っていただくために、まずは生理の仕組みを簡単に説明します。

生理の経血は、妊娠に備えて分厚くなった子宮内膜が、妊娠が起こらず不要になったときに排出されたものです。子宮内膜を排出するときに分泌されるのが「プロスタグランジン」です。プロスタグランジンは子宮を収縮させることで、子宮内の経血を排出します。

プロスタグランジンはさまざまな臓器の平滑筋という筋肉を収縮させ、子宮だけでなく、胃や腸にも作用し、胃痛や胃のむかつきや吐き気につながることがあるのです。こうした身体の不調が強い場合、「月経困難症」と呼ばれます。

月経困難症は原因によって、器質性と機能性に分類される

月経困難症の原因は、大きく以下ふたつに分類されます。

機能性月経困難症

機能性月経困難症は、プロスタグランジンの過剰な分泌が原因となって胃痛や吐き気、下腹部痛、腰痛などが引き起こされている状態です。また、年齢が若くて子宮の入口が狭いことが原因で、経血が外に出にくいことが原因で痛みが起きていることもあります。

器質性月経困難症

器質性月経困難症とは、子宮に関連した病気などが原因となっているものです。以下のような原因が考えられます。

子宮筋腫

子宮筋腫とは、子宮にできる良性の腫瘍のことです。子宮筋腫ができる箇所によって違いがありますが、経血量が多くなったり、生理痛がひどくなったりします。

子宮筋腫の症状や原因については、「子宮筋腫は30歳以上の20~30%にある。症状や原因、治療法を解説(医師監修)」の記事でくわしく説明しています。

子宮内膜症

子宮内膜症は、本来子宮内にあるはずの子宮内膜組織が、卵巣や腹膜などにも発生してしまう病気のことです。毎月の生理のたびに炎症を起こし、症状が少しずつ進行していくので痛みが増していきます。

子宮内膜症の症状や原因については、「子宮内膜症の原因と症状、治療法について。生理痛が重い人は要チェック(医師監修)」の記事でくわしく説明しています。

子宮腺筋症

子宮腺筋症とは、子宮の壁である筋肉(子宮平滑筋)に、子宮内膜に似た組織ができてしまう病気です。本来あるべきではない場所で増殖と剥離を繰り返し、どんどん分厚くなるため、通常の生理よりも経血量が増え、生理痛が重くなります。

子宮腺筋症の詳細は、「生理痛が重い、月経量が多い人は「子宮腺筋症」の可能性も。症状や治療法(医師監修)」の記事でくわしく説明しています。

子宮形態異常

子宮形態異常とは、子宮の形が正常とは違っていたり、膣や機能できる子宮そのものがなかったりする状態のことです。

子宮形態異常の原因については、「子宮の奇形と月経不順や重い生理痛など。原因や妊娠への影響(医師監修)」の記事でくわしく説明しています。

生理時の胃痛への対処や婦人科での治療

生理時の下腹部痛や腰痛に対する痛み止めは我慢せずに使ってください。痛み止めは飲んでから効果がでるまでに約30分かかるため、痛みを感じる前に飲んでおきましょう。痛み止めを飲んでも症状が改善しない場合は、婦人科を受診してください。

痛み止めのロキソニンやボルタレンは、たくさん使うと胃に負担をかけ、胃痛や胃潰瘍の原因になります。胃痛がある場合、アセトアミノフェンなど胃に負担をかけない痛み止めを使うのもおすすめです。

生理のたびに胃痛がする場合は、痛み止めに加えて胃薬も一緒に使っても大丈夫です。もし、食事がとれなかったり、横にならないとつらいほど痛みが強かったりする場合は、婦人科を受診しましょう。

婦人科では、問診や検査によって胃痛の原因を医師が診断します。胃痛の原因がプロスタグランジンの過剰分泌による機能性月経困難症だった場合は、以下のような治療が行われます。

1.薬物治療

非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)を服用することで、痛みや吐き気を引き起こすプロスタグランジンの分泌をおさえます。すでにNSAIDをたくさん飲んでいる場合は、胃に負担がかかっている可能性があるため、胃の粘膜を保護する薬を一緒に使ったり、胃にやさしいアセトアミノフェンを使うようにします。

2.低用量ピルを服用する

月経困難症の治療薬として使われるLEP(低エストロゲン・プロゲスチン配合薬)というピルを服用することもあります。ピル(LEP)を使うと、月経痛や月経量を減らせます。(月経困難症の治療を目的とした場合は保険が適用されます)ピルを使うと子宮の内膜が薄くなるため、プロスタグランジンの分泌量も少なくなることが多いです。

毎月の生理時に、胃痛や胃のむかつきなどの強い不調を感じている場合は、婦人科を受診しましょう。また、ロキソニンやボルタレンなどを沢山飲んでいる場合は、胃潰瘍などの可能性もあります。生理以外のときも胃痛や胃のむかつきが続くときは内科の先生にも相談してください。

また、胃腸は精神的な負担による不調が出やすい臓器でもあります。普段からストレスをため込まないようにいたわってあげましょう。

監修者プロフィール

淀川キリスト教病院 産婦人科専門医

柴田綾子

2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から女性や母親を支援する職業になりたいと産婦人科医を専攻する。 総合医療雑誌J-COSMO編集委員を務め、主な著者に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)。産婦人科ポケットガイド(金芳堂、2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社、2021)。明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社、2022)。

https://twitter.com/ayako700

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