生理期間じゃなくても私たちを悩ませる存在「おりもの」。おりものが出るたびに下着が汚れて不快に感じた経験がある人は多いのではないだろうか。
そんな、おりものの不快感を世に知らしめたのが、1988年に日本で初めておりもの専用シートとして発売された小林製薬の「サラサーティ」だ。
今では当たり前となっている「おりものシート」だが、どのような声が届いていたのか、サラサーティのブランドマネージャー 白石千夏さんに話を聞いた。
日本初の「おりものシート」ができるまで
ーー おりものシート開発のきっかけを教えてください。
最初は社員の声からです。弊社の製品は「働く女性」がターゲットのものも多く、従業員がその層です。
当時、生理用ナプキンは複数の大手メーカーが販売し、当たり前の商品になっていましたが、おりものの処理は生理用ナプキンで代用したり、ティッシュを丸めて下着に挟んだり、頻繁にトイレでおりものを拭くという人が多い状況でした。
私たちはまず身近な人のお困りごとから商品開発が始まることが多く、その中で「わかる、わかる!!」と共感できる課題を見つけたら、次は一般の方にも調査して商品開発をスタートします。
調査をしてみたら約8割の方がおりものに困っていました。
ーー女性社員の声から生まれたんですね。
発売された1988年は、今よりもっと、おりもので困っているということを友達にも話せない状況だったと思います。
ですが、弊社ではアイディア会議で体のことなども赤裸々に語りあっているので、声があがりやすい社風であることが、困りごとから商品化に至る理由として大きいかもしれません。
現在は男性社員もサラサーティの会議に参加しています。発売当時、サラサーティのブランドマネージャーは男性でしたが、女性の不快感がなかなかわからず、おりものシートに水分をつけて、1日装着して生活するなど試行錯誤していたようです。
女性の不快感を女性だけでなく、男性にも共有し理解しあえるように意識しています。
おりもののタブーをぶち壊せ
ーーおりものについてユーザー調査をする中で印象的だったことはありますか?
当時の資料が残っているんですが、1988年の発売から使ってくださった方々にインタビューをした記録には、
「私だけが、こんなにおりものが出ると思ってた」
「こんなに何回もパンツを替えないといけないのは恥ずかしいと思っていた」
「母親から『パンツを洗うのは女性のたしなみ』と言われていた。おりものシートを使い始めて、そのストレスから解放された」
という声が記されていました。
女性には生理の1週間だけでなく、他の期間もおりものによるストレスがある。その期間を快適に過ごすということは、物理的な部分だけではなく、精神面の負担を減らす効果もあるのかもしれません。
「8割の女性が自分と同じだったと聞いて安心した」という声も印象的でした。
ーー商品自体が、悩んでいたのは自分だけじゃないと知るきっかけになったんですね。
そうですね。発売時にサラサーティのテレビCMを放映しましたが、CM自体が「おりものによる下着の不快感に悩んでいるのは自分だけなんて思ってません?」という投げかけから入り、「実は健康な女性の80%が悩んでいるんです。このシートなら解決できます」という内容で、おりものをタブー視せずに、わかりやすく発信しました。結果的に視聴者から強く共感いただきました。
最近のフェムテックもそうなのかもしれませんが、まずはタブーを誰かがぶち壊してあげないと、当事者が語れないと思っています。
そう考えると、弊社は当時おりものに関するタブーをぶち壊せたのかもしれません。
「2枚重ね」「ちょっと大きいサイズ」「Tバック専用」おりものシートができること
ーー今では、おりものシートだけでもかなり種類がありますよね。
初代のおりものシートは、真っ直ぐの形状でしたが、持ち歩きできるようにとの声から現在の三つ折りになり、肌がかぶれてしまうという声から表面の素材をコットン100%にしたりと日々進化しています。
現在は、働く女性も増え、替えを持ち歩くのが面倒と思う人のために、シートを剥がして1枚で2枚分使える「2枚重ね」のシートや、1日中さらっと過ごしたい方のための「サラリエ」シリーズを展開しています。
体型の変化や周期、おりものの量も人によってかなり違います。
「通常のおりものシートだとはみ出てしまう」という意見があり、2019年にひとまわりサイズが大きい「サラサーティコットン100 ワイド&ロング」を発売し好評を得ています。
私たちは他社のナプキンブランドと違い「おりもの」に特化しているので、おりものの不調や要望については多くのデータを持っています。
その時代の女性のライフスタイルに合わせておりものシートも進化させています。Tバック専用ライナーの誕生は、その最たる例ですね。
ーーTバック専用ライナーも社内の声から生まれたんですか?
そうです。会社の女性たちは、社会の流れの中に生きていますが、Tバック専用ライナーが誕生した2002年は、ちょうどファッションの多様化が進みタイトなズボンやパンツスーツが流行っていて、それに伴いTバックショーツも人気でした。
しかし、Tバックに普通のおりものシートをつけると、はみ出てしまいますし、シートを折り返さなきゃいけなくて、「せっかくすっきりした下着をつけているのにシートでごわつく」という声があり、それを解消するためにTバック専用ライナーを作りました。ただ、まだまだ改良の余地があると思っています。
1988年の発売当初は、おりものシートは、とにかくおりものをキャッチすればよかった。けれど、本当は体や周期によって量も匂いも人それぞれ全然違います。
今は「量が多い私」「かぶれにくいものが欲しい私」などお客様が自分に1番合うものを探していらっしゃるので、その声に応えていきたいと思っています。
n=1の声が商品作りの起点になる
ーーニーズを把握するためにご自宅を訪問して声を聞くこともあるとか?
今はコロナで難しいところもありますが、弊社では「家庭訪問」と呼んでいて、その調査手法は今でも行っています。
ご本人の口から本音を語ってくれるとは限りませんし、ご本人すら自分の本音に気づいていないこともあります。
ですが、生活している部屋を見せていただくことで、その人の生活が見えてきます。言葉だけでなく、リアルの現場で調査できるのは他に変えがたいと思っています。
弊社では、「n=1」と呼びますが、この1人のお客様の課題を解決するために商品を作るので、具体的なお客様像を思い浮かべられるかどうか、お客様の声を聞く活動が重要になります。
特に女性の悩みは人に打ち明けたり相談したりできないことも多いため、もっとわかって欲しいという気持ちで調査を受けてくださる方も多いように感じます。
だからこそ、私たちは、メーカー目線になったら終わりだとも思っています。常にお客様と一緒の気持ちになれるかどうかが、ニーズを汲んだ商品開発のポイントです。
ーーお客様調査でこれまでのやり方を変えなければいけないと気付かされることなどありましたか?
以前、私は「命の母」のブランドマネージャーをしていました。
「命の母ホワイト」というアイテムは、女性ホルモンを整えることで生理前の心と体の症状や生理中の症状どちらも改善できる錠剤のお薬ですが、ずっと「生理前のイライラと生理中の生理痛」にフォーカスした広告を出していたんです。
ですが、色んな声を聞いていくと、生理中ではなく、とにかく生理前にイライラして人に当たって落ち込んだり、自分を責めてしまうのが辛いという声が多かった。
生理痛には鎮痛剤もあるけれども、生理前の、自分をコントロールできないことが1番辛いと。なので、それに対処することこそが命の母ホワイトの役割だと感じ、「生理前のイライラ、そのココロの症状はあなたのせいじゃない」と生理前に特化した広告へシフトしました。
ーー女性同士でも辛さの共有が難しいこともあるので、どのような発信をするかの選定は本当に難しいですよね。
常に気付かされることばかりなんですが、私は生理前って、どちらかというと落ち込むタイプなんです。
だから、生理前にイライラして人に当たってしまう場合の被害者は、イライラを当てられた相手だと思い込んでました。
でも同じように辛いのは、当たってしまう自分自身で、イライラした後に自分をすごく責めてしまっている。自分を責めすぎて、もう何もできなくなってしまうことが辛いということをお客様の声で初めて知りました。
ーー サラサーティが目指す社会について教えてください。
おりものって、昔から邪魔で要らないものというイメージがあると思うんですが、そもそも膣内のうるおいを保って粘膜を守ったり、汚れを排出したり、細菌などが子宮内に侵入するのを防ぐ役割があります。
加えて、おりものの変化は健康のバロメーターでもあると思います。
おりものを知ることで、もっと女性の健康を守れるのではないかと思いますし、そんな世界になるといいなと思っています。
その上で私たちサラサーティに何ができるかを考えた際に「パンツを汚さないただの紙」ではなく、「おりものシートをつけていることでリラックスできたり、余計な心配せずに、安心して好きなように過ごせる」というようなブランドになりたいと思っています。
これからも、個々の悩みを解決できるような意味のある製品を作っていきたいと思っています。
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