憂鬱な生理の期間。皆さんはどのようにお過ごしですか?

花王株式会社が2019年に実施した調査によると、生理の日の理想の過ごし方は「普段通り過ごしたい」(81.7%)、「無理したくない」(71.0%)、「いつも以上に自分自身を気にかけたい」(56.0%)が上位にあがりました。

しかし現実はどうでしょう?

同調査によると「生理中も普段通り過ごしている」はわずか16.7%、「生理中は無理しない」は22.0%、「生理中はいつも以上に自分自身を気にかけている」は18.3%にとどまりました。

2019年に花王が20代女性300人を対象に実施した「生理の意識・実態調査」より

理想と現実に大きなギャップが生じていることがわかります。みんな、よく見るテレビCMのように「生理中も明るくハッピー」とはいかないのが現実です。

この調査を実施した花王「ロリエ」は今春ブランドメッセージを一新し、新たなテレビCMを公開しました。

ここに至るには、生理に対する捉えられかたの社会的な変化や、「生理を隠す」ことへの違和感など意識の変化が背景にあるといいます。花王株式会社で、ロリエの商品企画を担当している石川雄一さんと、羽田有沙さんに話を聞きました。

「不浄なもの」から「隠すことに違和感」へ変化

——ロリエが誕生した44年前から現在まで、生理に対するイメージや、社会的な捉えられ方は変わってきたと感じますか?

石川雄一さん(以下、石川):ロリエは『生理による不快・不安から解放され、自分らしく過ごしてほしい』という想いから誕生したブランドです。女性のライフスタイルに寄り添い、技術革新で女性のニーズに応えてきました。

これまでの先輩方から受け継いだ、ブランド誕生時のエピソードにこんな話がありました。

昔は生理用品は人目につきにくいお店の一番奥の棚に置かれていて、その売り場だけ蛍光灯が1本外されて暗かった。生理は「不浄なもの」、「隠すもの」として不当に扱われてきました。それは今もまだ少し残っていると思います。例えば、購入時には紙袋にくるまれて、中身が分からない状態で渡されることがありますよね。また、サニタリーボックスは「汚物入れ」と呼ばれていたり。

そのほか、生理用品は広告についてもさまざまな規制があります。今でも家族が一緒に過ごすことの多い、食事の時間帯にはテレビCMを流すことができません。以前はナプキンの実物を映像で映すことも規制していました。

——生理用品のCMが不快という声は、今もありますか。

石川:ありますね。私たちは生理をオープンにすることを目指しているわけではありません。「生理のことをオープンにしたくない」という方もいますので配慮することが大事です。

それでも生理のある方が少しでも過ごしやすい世の中に変えていきたいと思います。ロリエだけではなく、他社も含めた業界全体として、「生理は隠さなければならないものではない」という意識に変わってきていると感じます。

羽田有沙さん(以下、羽田):ロリエは生理用ナプキンのメーカーとして、「固定観念に囚われない」ことを伝えてきましたが、それはメーカーや個人にとどまらず今や“社会ごと”になっている。いろんな人たちが社会と生理との関係を良くしようとしています。私がロリエの部署に異動したのが2019年でしたが、この3年ほどで生理の捉えられ方が変わってきていて、過渡期を生きているんだなと肌で感じます。

「生理をとりまく環境をより良く」ロリエのブランドメッセージ

——ロリエは今春ブランドメッセージを新たにしました。その背景を教えてください。 

石川:これまでは、ロリエの商品を使うことで「快適に」「いつも通りに」「明るく」過ごせるというような描き方をしてきました。ですが、いろんな方から話を聞くと「いい生理ナプキンを使ったからといって、明るくなるわけじゃないし、いつも通りになんか絶対に過ごせません」という声が寄せられました。

そうした声を受けて「実情と離れすぎていることを生活者の方々に発信してしまっているのではないか」という迷いが出てきました。

そこで、重い生理で悩んでいる方や、生理で不快に感じている多くの方々により深く話を聞いて「少しでもみなさんの心を軽くするにはどうしたらいいのか?」と社内で何度も議論を重ねてきました。2年かけて、今春に発信させていただく新しいブランドメッセージにたどり着きました。

2022年3月にブランドメッセージを一新したロリエ。ブランド誕生時より、ロリエは寄り添う2枚のローリエ(月桂樹)の葉をモチーフにしている。月桂樹の葉は昔から冠に用いられてきたもので、「生理の煩わしさから解放され、自分らしく過ごしてほしい」という想いが込められている。

羽田:生理を隠さないといけない風潮って、つい最近まではありました。生理のときも、本当は無理をしないで自分のペースで過ごしたい、という本音の部分は、これまではなかなか露呈されてこなかったと思います。

SNSなどで生理にまつわる発信をする方が増えて、これまで生理を隠すことの違和感に気付いてはいたけれども、自分の中だけに留めていた人が話してくれるようになった。私たちも、多くの人の声を聞く中で、徐々に意識の変化を感じ取っていきました。

世の中の雰囲気も変わり、ロリエも皆さんと一緒に変わっていこうとしています。メーカーの「独り善がり」にならないように、同じ歩幅で少しでも前に進んで行けたらと、担当一同が思っています。

—— 生理にまつわる発信が増えているなか、企業に対しては厳しい目が向けられることもあります。 

羽田:生理はデリケートな話題でもあるので、メーカーとして何をどう伝えれば伝わるのか、日々悩み、学びながらコンテンツ作りに取り組んでいます。自分たちで考えても気が付かないこともあって、意図していない方向に捉えられてしまうこともあります。お客様からいただく声に真摯に耳を傾け、第三者を通して意見を伺って、慎重に言葉を選び、都度修正していくように心がけています。

石川:それでも、受け手側であるお客様からしたら「いやいや、私の声、全然届いてない」と思われる方もいると思います。だから「もしこういう状況に置かれている人がいるとして、このメッセージを聞いたら、どう思うかな?」と自問自答を繰り返しています。

「生理を我慢して、無理してしまっている人がすぐ隣にいるかもしれない」

—— 石川さんは生理がない立場なので、わからないこともあるのではないでしょうか。

石川:それは本当、その通りなんです。わからなくて悔しい思いをすることもあります。例えばコスメだったら、普段メイクをしない人でも、しようと思えばできますよね。生理だけは、自分が生きてきた体に存在していないので、何かに置き換えて考えることが非常に難しく、今でも苦戦しているところです。

ただ、マーケティングという仕事は本来そういうものですよね。たとえ自分がターゲットになる商品を担当していなくても、常に生活者のことを考える。生理がない立場だからこそ、お客様のさまざまな声を客観的に受け入れて、反映させることもできるのではないか。その感覚も大事にしています。

ロリエの商品企画を担当する石川雄一さん。現在、ロリエのチームは6名。「チームメンバーは、私以外は女性です。生理用品を男性が作っていると不安に思われる方もいらっしゃると思うんですけど…そこは安心していただきたいです」と石川さん。

——男性の立場から、生理を取り巻く社会がどうなっていけばいいと思いますか?

石川:生理の経験はありませんが、生理はしんどいことだと思います。だから、我慢して無理してしまっている人が、すぐ隣にいるかもしれないと、多くの人に知ってもらいたいです。

男性にありがちなのは「無関心」です。でもそれは、今まで隠されてきたことだから、きっとわからないんですよね。まずは生理の存在を知ってもらうだけでも、男性も、その周りの女性も、みんなが少しでも過ごしやすくなるんじゃないかなと思っています。

まだ具現化できていませんが、男性メディアで生理について発信していくことも、今後ロリエとしてチャレンジしていきたいです。

——生理のことを理解すれば、男性も過ごしやすくなると思うのはなぜですか?

石川:相手を思いやれば、コミュニケーションが取りやすくなったり、助けられることもあると思います。同僚が調子悪そうにしているとき、「なぜだろう?」と想像すると思いますが、そのときの答えの1つに「生理」を加えるだけでもいいと思うんです。

性別の「壁」みたいなものがどうしてもあると思いますが、その壁を取っ払うというより、低くすることができるといいなと個人的には思っています。性別をふたつに分けて考えるような時代ではないです。生理は人それぞれ違いますし考え方も違う。それはもはや、「男・女だから」という話ではないですよね。

生理を「隠す・隠さない」の選択肢が、自由で心地いい

――羽田さんはメーカーの担当者でありながら、生理用品の1ユーザーでもある立場だと思います。これまで生理とどう向き合ってきましたか?

羽田:私は中高が女子校だったこともあり、オープンな環境で過ごしてきました。生理でスカートが汚れたら、ジャージに履き替えて、窓際に洗ったスカートを干す。学校ではそんな光景が当たり前でした(笑)。その後、共学の大学に進み「生理はオープンに話さないほうがいいのかな」と少し戸惑いました。

職場は「生理です」とも言えるし、生理を隠して「体調不良です」と言える選択肢もある。窮屈さがなく、自由で心地いい環境だと感じます。生理用品を担当する立場としても、私個人としても、隠す・隠さないのそれぞれの選択肢の幅がある環境が理想ですね。

—— 生理によって生活に支障があるほど、悩んでいる人も多いです。羽田さんは生理に対してどんな印象を持っていますか?

羽田:私自身も経血量が多くて、正直「なんで生理なんてあるの!」と言いたくなるときもあります。ですが、生理が健康状態を知るバロメーターのひとつにもなっています。現代の女性たちは、仕事の忙しさやストレスで生理不順や婦人科疾患のある方も多く、自分では気付けていないこともあります。生理が止まったら身体に何か起きている可能性があることに気付く、きっかけのひとつになるのではないでしょうか。

「生理が最近遅れている」と言ってる友人には「すぐ婦人科に行ってね」と伝えます。ロリエとしても婦人科検診の啓発をはじめ、ピンクリボン活動の支援や子宮頸がんの予防など、健康啓発に取り組んでいます。

ロリエの商品企画を担当する羽田有沙さん。

—— 新しいブランドメッセージにもある「生理をとりまく環境をより良く」するために、どんなアクションをしていきますか。

石川:やるべきことはたくさんありますが、まずは「職場のロリエ」を開始します。「職場のロリエ」は働く女性のニーズに合わせ、生理用品の備品化を目指すプロジェクトです。 生理を取り巻くストレスを少しでも改善するために、企業にはたらきかけて、オフィスのトイレに生理用品を常備する提案をしていきます。

企業の方のご協力を得て実証実験を進めているところです。ご協力いただいた方たちの声を集めて、ブラッシュアップしていきたいと思っています。

写真提供:ロリエ

——「職場のロリエ」には、どのような狙いがありますか?

石川:調査をすると「生理で一番困るシーン」として「職場」と答えられる方が非常に多かったんです。ナプキンの持ち合わせがなくて慌てて買いに行ったり、買いに行く時間もなかったり、と多くの人が職場で困った経験をされています。

生理にまつわる不安や心配ごとをひとつでも少なくすることができないか、と常々考えている中で「職場に生理用品を置く」というのが、解決策のひとつになるのではないかと。

羽田:私たちがご提案をするのは企業の総務の方たちですが、男性の管理職の方が多く、理解が得られにくいという課題も見えてきました。もっとも生理から遠い人に、理解と必要性を伝えていくことも、この活動の意義だと思っています。

40年続く、初経教育のサポート事業

—— 生理に関する理解を広めるという意味では、性教育も重要です。ロリエは初経教育にも力を入れていますね。

羽田:子どもたちや家族、学校側が、安心して初経を迎える準備ができるように、教材となるコンテンツと生理用品の試供品のセットを配布しています。ロリエの発売当初、1978年から続いています。学校の授業で習うとはいえ、生理や初経についての情報源は、当時はまだ少なかったと思います。

思春期のからだの変化や月経の仕組みなどをまとめた、『からだのノート「おとなになるということ」』をナプキン・パンティライナーの試供品とともに無償で配布。希望のあった小学校の授業で役立ててもらっている。

—— 続けることも大事ですし、すごく意義深い取り組みですね。開始当初と現在でコンテンツ内容に変化はありますか?

羽田:内容は時流に合わせて改訂しています。昨年、全編において適切な表現かどうかを話し合い、リバイスしました。産婦人科医など、第三者にも監修いただきました。 

例えば、保護者向けのページには「女性のからだの素晴らしさを伝えましょう」と書かれていたのですが、ニュートラルに「月経の大切さを伝えましょう」と変更しました。全編を通して月経が身体に起こる現象として、事実をフラットに伝えるような方向性にシフトチェンジしています。

また、リバイスのタイミングで「男女のからだ、それぞれの違いを知ろう」という項目を追加しました。男の子が女の子の身体のしくみを知ることも大事だし、女の子が男の子の身体を知るのも大事。お互いの違いを正しく知って、尊重するためです。

「からだのノート 大人になるということ」はロリエのサイトからも無料でダウンロードできる。A4サイズ27枚分という充実の情報量。また教員向けに授業用資料も別途提供している。

—— 学校や家庭での教育方針もバラバラななか、本人だけで完結する情報量が良いですね。かなり力を入れていることがわかります。 

羽田:ロリエとして初経教育は、ブランド誕生時より長年続けている事業ですが、本当に必要なことだと思っていますので、継続して取り組んでいます。思い入れもありますし、これはロリエの財産だと胸をはって言えますね。

生理のある方が少しでも生活しやすく。0.1を積み重ねていく

——あらためて生理や性に関する事柄は、広告や教材などあらゆるコンテンツにおいて、伝えることの難しさと、問い続ける必要性を感じました。

石川:ロリエはどんな過ごし方も選びやすい世の中になるように、生理現象をとりまく環境をより良くしていこうと考えているので、そのためにはしっかり踏み込んでいく必要があります。ときには批判を浴びることもありますが、生理用品に関わっているからには、一緒に取り組んでいきたい気持ちがあります。

私たちが発信するメッセージによって、もしも誰かを傷つけてしまったら、きちんと謝って、お客様からの声に真摯に耳を傾け、考えをあらためていくしかないと思います。

—— 踏み込まなければ、批判されるリスクも少ないのでは?

羽田:お客様も、以前は「満足できる商品を提供してくれたらそれで充分」と思う方が多かったと思います。今は生理用品メーカーに求められるものが、商品だけではなくて、過ごしやすさや、生活環境に対しても幅広く「何をしてくれるの?」ということが問われています。

だから踏み込むことがリスクにもなりますし、踏み込まないこともおそらくリスクになる。まずは、生理用品で解決できることを真摯にやり切ったうえで、さらにできることは何か、模索していきたいです。

生理の不快感に対して、私たちにできることは本当に小さいです。「快適」が100だとすると、マイナスからスタートしてほんの「0.1プラス」くらいでしょうか……。ですが、0.1が積み重なれば、生理のある方が少しでも生活しやすくなるかもしれない。その希望を持って、日々さまざまな商品開発や啓発活動に取り組んでいます。 

ロリエ独自の瞬間吸収や通気性、肌にやさしいつけ心地など、改良を重ねてつくられたさまざまな生理用品。デリケートゾーン泡ウォッシュやランジェリー泡洗剤など、ナプキン以外のアイテムも幅広く展開している。

石川:まずは、いい商品を一人でも多くの人に届けることがベースで、そこは揺るぎません。 私たちのできることは、少しでも心配や不安を軽くするサポートをすること。そこはおごらず、真摯に向き合って取り組んでいきたいと思います。  

(写真:川しまゆうこ)

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