日本人女性が閉経する年齢は、48〜52歳が多いそうだ。その前後5年(つまり10年)程度の期間を「更年期」と呼び、さまざまな心身の不調をともなう。

(参考:【医師監修】更年期障害ってどんな症状?原因と対処法を解説します

当事者である女性でも、まだまだ認識の浅い更年期。男性であればなおさらだ。今回、ライターの村橋ゴローさんが、男性パートナーの立場で知っておきたい、更年期障害について学ぶ。

どんな症状があるの?
対策は?
家族はどう寄り添えばいい?

今回は、クレアージュ東京 レディースドッククリニック総院長の浜中聡子先生に、更年期障害やそのほかの疾患について、村橋ゴローさんがインタビューしました。

大きな病気が隠れているケースも。不調を感じたら、病院へ

―― 更年期にはたくさんの症状があると聞きます。具体的には?

浜中聡子先生(以下、同):人によって症状は異なりますが、疲れが取れない、記憶力が落ちたなどのベースがあるなかで、ほてり、発汗、めまい、耳鳴り、動悸、ひどい頭痛、関節や指のこわばりなどの症状が見られます。他にも落ち込みや、やる気が出ない、など精神的な症状も多く、本当にさまざまです。

――「やる気が出ない」なんて感情の誤差だし、これを本人が「更年期の症状だ」ととらえるのは難しいのでは?

そうなんですよ。これらの症状は、「歳のせい」で済ませてしまいがちです。ですが「更年期かもしれない」と気づくことで、病院に行く選択肢がでてきます。更年期症状ではなく、病気が潜んでいる場合もありますから。

―― 更年期ではなく病気?

更年期と思いきや、リウマチや、メニエール病などが見つかるケースもあります。何らかの症状が出たら、「歳のせい」で片づけず、まずは該当症状の科で検査してもらいたいです。そこで大きな問題がなければ「更年期なのかな?」と安心したうえで、対策をするといいと思います。

―― まずは病院へ。

そう、まずは病院で医師に相談してほしいです。間違っても占い師とかに行かないで(笑)。弱ったらそちらに行きたくなる気持ちもわかりますが、まずは病院です。

更年期障害の治療は?

――実際にクリニックの診察はどのように行うんですか?

女性ホルモンのバランスを診るために、血液検査をします。その数値を見て、生理周期や体重、症状など、あらゆるお話を聞いたうえで診断します。

―― 更年期障害の治療はどのように行うんですか?

ホルモン補充療法(HRT)でエストロゲンを補い、更年期障害を改善する治療法が一般的です。HRTに使用される薬には内服薬と経皮薬(貼り薬、塗り薬)があります。

(参考:【医師監修】ホルモン補充療法(HRT)とは?効果と副作用、開始時期について

当院では、肝臓や腎臓に負担をかけないよう、内服薬ではなくゲルで塗るタイプを採用しています。ピルもそうですが、女性ホルモンの投与は血栓症のリスクがあります。当院ではリスクの少ない投与法をご用意しています。

―― 不調の原因が更年期のせいだと認識したり、治療法がわかると、心の負担も軽くなりそうです。

そう。大きな病気でないことがわかれば「更年期なんだ!それなら上手く乗り越えていこう」という気持ちになれると思います。自分だけじゃなく、ほかにも同じような症状の人がいるんだ、と思えるだけでも全然、気持ちが違います。

子宮がポロンと落ちてくる、「子宮脱」の対策は?

――あと聞いた話では、ある日突然、子宮がポロンと落ちてきちゃう恐ろしい病気があるとか……。

それは「子宮脱」ですね。出産や加齢で骨盤底筋群にある筋肉が衰えると、子宮が下がってきてしまいます。お風呂に入ってるときに何か違和感を感じて膣のあたりを触ってみたら、子宮に触れちゃった、なんて話も聞きます。

骨盤底筋も筋肉なので、放っておくと緩んでいく一方なんですよ。子宮脱で手術に至るのは4人に1人くらいの割合ですが、筋肉が衰えて、子宮が下がってきている人はもっと多いです。

――こわっ!何か対策はあるんでしょうか。

骨盤底筋群を鍛える体操があります。いわゆる「膣トレ」と呼ばれているものです。コツを覚えるまでは大変ですが、日頃から鍛えておく必要があります。

――膣トレって、そんなマジなやつだったんですね……。

子宮脱のほかにも、頻尿や尿もれなどの症状も出てきますので、骨盤底筋を鍛えることはとても大事です。

(参考:【医師監修】骨盤底筋が弱まると尿もれしやすい?弱まる原因とトレーニング

仕事が続けられないほど、追い詰められる更年期

―― 共働き家庭も増えて、今は働く女性たちが活躍している社会です。ただ、更年期障害が原因で、仕事を辞める人もいると聞きます。

40代、50代はとくに自身の更年期と、親の介護などが重なる年齢です。人間ひとつのストレスなら何とかなるかもしれないけれど、同時に2つも3つも重なると、それは抱えきれないよね。それで「仕事を辞めました」という方もおられました。

体調が悪いからといって本当に仕事を辞めてしまっていいのか? そこは冷静な判断が必要です。更年期にかかる年齢で仕事を辞めたら、復職するのも簡単ではありません。ひとりで抱え込まず、パートナーなり第三者に話してみて、そこから風穴を開けてほしいと思います。

放っておくと、家庭不和に陥るケースも

――仕事もそうですが、更年期が原因で家庭環境が悪化してしまうこともある?

更年期そのものが原因というより、更年期によって、今まで我慢できたものへのストレス耐性が落ちて、家庭内の問題として顕在化した。そう表現する人もいますね。

家族を優先して自分を後回しにしたり、長年我慢をしている女性は多いと思います。更年期に入って妻が爆発したとしても、夫はキョトンとしている。子どもに聞いてみたら、「お母さんは今までずっと我慢してたよ。知らなかったのはお父さんだけ」みたいな。

―― 更年期にうつっぽくなるなど精神的な症状もあるとか。でも「私がしっかりしなきゃ」と精神的にさらに追い詰められることもありそうです。

家族が「お母さんは性格に波がある。そういうもの」、と片付けてしまうと、躁うつの気があるのに、本人も家族も気づかないまま症状が悪化してしまうことがあります。

家族はどう寄り添う?

―― パートナーである僕ら男性は、妻の更年期にどう寄り添えばいいのでしょう? 

度を越して不安定だと感じたら、異変に気づいてあげて、病院に行くように背中を押してあげてほしいですね。あとは「ふんふん」と相づちを打って、相手の話をしっかり聞いてあげること。いちいち意見など入れずにね。でもそれはそれで、男の人もしんどいと思います。

―― 妻に対して、付き合いたての頃はできてたと思いますが……。

パートナーの話をちゃんと聞いてあげることって結構大変なんですよね。人間関係は上手く距離を取ることも大事なので、お互いに自分だけの時間を持つことも意識するといいと思います。そして互いに心に余裕が生まれると、きちんと向き合えるようになるかもしれない。夫婦といえど、お互いにとってちょうどいい距離感があると思います。

――更年期について聞きに来たら、夫婦のありかたについてまで話が及んだ。深いですね。

結局、コミュニケーションなんですよね。女の人はよく「察してよ」と言うけれど、相手も疲れていたら、常に察するなんて無理なんです。夫婦間でも「今日は疲れているから夕飯作りたくないな」「そうだね。じゃあコンビニのお弁当にしようか」みたいに話せたらいいですよね。

――今回、浜中先生のお話でわかったのは「まずは病院へ」。でもやっぱりこれが難しいんですよね。忙しさを理由に後回しにしてしまう。

体調管理は、忙しい・忙しくないで考えるレベルのものではありません。自分がいっぱいいっぱいのとき、自分がそういう状況であることすらわからなくなるんです。でもそれが燃え尽きたときに、「やばいことになってる」と初めて気づく。それじゃ遅いです。

腹八分目じゃないですが、パートナーは八分目あたりに「少し休んだほうがいいんじゃない?」と声をかけてあげられたら理想的ですね。家事育児の分担も大事ですし、病院に行く後押しもしてあげてくださいね。

浜中聡子 クレアージュ東京 レディースドッククリニック総院長、医学博士。

更年期は家族とシェアする時代へ (取材を終えて)

女性の更年期障害。この言葉は、男性の理解からもっとも遠いものだった。何しろ男性には生理がないし、ホルモンバランスのゆらぎによる精神的な波も、女性ほどではないからだ。

しかし今回、浜中先生に話を聞いて、更年期と思ったら大病が潜んでいる場合があることを初めて知った。そうなるともう、問題は家族ごとだ。結婚・出産・更年期など、ライフステージを経ていく中でも仕事を続ける女性が多い今、更年期は、家族やパートナーと共有する時代なのだと感じた。

アラフォー以上になると、家事育児のバランスを見直してみる。男性は今まで以上に積極的に、パートナーの負担を減らすように心がけた方がいいだろう。日頃からパートナーの様子を気にかけて、もしも心身の不調を察したら、受診をすすめる。更年期は家族ごとの問題である —— そんな意識のアップデートが男女ともに必要だ。

(次回は、「男性更年期」について学びます)

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