ホルモン補充療法(HRT)は女性ホルモンを補充する治療法で、女性ホルモンの減少を緩やかにして、更年期の症状を和らげます。
エストロゲンという女性ホルモンを補充しますが、エストロゲンには子宮内膜を増殖させる作用があるため、エストロゲンとプロゲステロンの両方を併用することが多いです。病気などなんらかの理由で子宮を摘出した場合は、エストロゲンだけが処方されます。
ホルモン補充療法(HRT)の効果
ホルモン補充療法(HRT)の効果は、更年期障害の緩和です。
更年期とは、閉経の前5年、後5年の10年間のことです。更年期になると女性ホルモンの分泌が減少することで、さまざまな心身の不調が起こります。これらを更年期症状と呼び、日常生活に支障があるほど症状が重い場合は、更年期障害と診断されます。
主な症状は以下の通りです。
・首や肩のこりがひどくなる
・疲れやすくなる
・頭痛
・ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり・発汗)
・腰痛、関節痛
・不眠
・イライラ
・動悸・息切れ
・気分の落ち込み
・めまい
ホルモン補充療法(HRT)はこうした症状のうち、ホットフラッシュや動悸・関節痛、気分の落ち込みなどの症状を改善します。
また、不眠や尿もれ、性交痛の症状の改善に役立ち、骨粗しょう症や動脈硬化などの病気を予防する効果も期待できます。
閉経後に気をつけたい病気については、「閉経後に気をつけたい病気。女性ホルモンの変化で身体には何が起きる?(医師監修)」の記事でくわしく解説しています。
ただし、不眠や気分の落ち込みなどの症状は、ホルモン補充療法を始めても緩和されない場合も。更年期障害は生活環境や個人の性格なども影響しているといわれています。ホルモン補充療法(HRT)を行っても精神的な症状が改善されない場合は、漢方薬や抗うつ・抗不安薬と併用する場合もありますので、婦人科の医師に相談してみましょう。
ホルモン補充療法(HRT)を始める時期と種類、費用について
ホルモン補充療法(HRT)は閉経前後から50代くらいでスタートすることが多いです。もし閉経前で更年期障害が重くて治療を受けたい場合は、婦人科の医師に相談してみましょう。
ホルモン補充療法(HRT)は、状況に応じて使用する薬や使用期間が異なります。どういった治療方針にするかを、婦人科の医師と相談して決めていきましょう。
費用は病院によって異なりますが、保険適用されますので自己負担は少ないです。
エストロゲン・黄体ホルモン併用療法
子宮がある方には、エストロゲン・黄体ホルモン併用療法が行われます。
閉経前後の場合は、周期的併用投与法が多く用いられます。エストロゲン製剤(貼り薬、塗り薬、錠剤など)と黄体ホルモン製剤(錠剤、貼り薬)を使用し、合間に薬の使用を止める休薬期間があります。
閉経後数年たっている場合は、持続的併用法が用いられます。エストロゲン製剤(貼り薬、塗り薬、錠剤など)と黄体ホルモン製剤(錠剤)を使用し続ける方法と、エストロゲン・黄体ホルモン配合剤(貼り薬)を使用し続ける方法があります。
エストロゲン単独療法
子宮を摘出した方は、エストロゲン単独療法が行われます。エストロゲン製剤(錠剤や貼り薬、塗り薬など)を使用し続ける持続的投与法と、休薬期間を設ける間欠的投与法があります。
ホルモン補充療法(HRT)の副作用
ホルモン補充療法(HRT)を始めると、不正出血や胸がはるなどの症状が出ることが多いですが、治療を続けていくうちに緩和していきます。なかなか症状がおさまらない場合は婦人科医に相談してみましょう。状況に応じて、投与方法やホルモン量を変更することもあります。
ガンのリスクについては、エストロゲンだけを使用すると子宮体がんの発症率は高まります。しかし、現在は黄体ホルモン(プロゲステロン)を併用し、子宮体がんの発症率を高めない治療が行われています。
乳がんはホルモン補充療法(HRT)を5年以上受けていた人の発症率は少し高まりますが、死亡率は変わらないと言われています。ホルモン補充療法(HRT)の治療期間に決まりはありませんが、目安は5年前後とされています。
ホルモン補充療法(HRT)を受けられない人もいる
以下のような疾患や症状のある方は、ホルモン補充療法(HRT)が受けられませんので、注意してください。
・乳がんの治療中、なったことがある
・子宮体がんの治療中
・血栓症や塞栓症になったことがある
・重い肝臓の病気がある
・原因不明の不正出血がある
・妊娠の可能性がある
ホルモン補充療法(HRT)という選択肢を知っておこう
ホルモン補充療法(HRT)はホルモンを補充する治療法で、女性ホルモンの減少をゆるやかにして、更年期の身体や心の症状を減らします。更年期で心身の不調に悩まれている方は、一度婦人科の医師に相談してみるといいでしょう。
監修者プロフィール
淀川キリスト教病院 産婦人科専門医
柴田綾子
2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から女性や母親を支援する職業になりたいと産婦人科医を専攻する。 総合医療雑誌J-COSMO編集委員を務め、主な著者に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)。産婦人科ポケットガイド(金芳堂、2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社、2021)。明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社、2022)。