「このサプリを飲んだら痩せた」
「このアイテムを試したら生理痛がなくなった」
「コロナワクチンで不妊になるというニュースをみた」
信頼できる情報から、信憑性があやしい情報まで溢れかえっているインターネット。
新しい情報を知ったとき、多くの人に広めたいと拡散する。
でもそれがウソだったとしたらーー?
「この情報って本当に正しいの?」
嘘にまどわされないために、膨大な情報の中から本当に必要な情報にたどりつくためにはどんな力を身に付けるべきでしょうか?
ランドリーボックスは7月に、ネットと通信制高校の制度を活用した「ネットの高校」である学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校(以下、N高)とS高等学校(以下、S高)、教育機会確保法の趣旨を鑑みた新しいコンセプトの「プログレッシブスクール」であるN中等部とのコラボ企画として、N/S高・N中等部の生徒を対象に3日間のオンラインイベント『どうググる?気になるカラダの悩み〜医師と一緒に色んな角度で情報を見比べてみよう〜』を開催しました。
参加したのは、N/S高・N中等部の男女30名。1日目と3日目には産婦人科医の竹元葉先生を迎え、正しい医療や健康情報の取捨選択の方法を学びました。
本イベントの内容をレポートします。
健康情報に惑わされてきた高校生。身に付けたい『健康情報のググり力』とは
生徒にこのイベントを通して身につけてもらいたい「ヘルスリテラシー力」。国別のヘルシリテラシー力においては日本は世界で最下部に属しているという調査も。
また、米国の調査*によると、ヘルスリテラシーが「不十分」な人は、そうでない人に比べて、年間医療費は最大で85万円余分にかかってるという調査結果も紹介されました。
ヘルスリテラシーは、自分の健康や生活に直結することが分かったところで、各グループ5人の計6グループに分かれて、自己紹介とワークタイムに。
グループワークのお題は「実際に今までに健康情報で困った経験はないか」
ある生徒からの「自分の不調を検索してみると、怖い病気が表示されていた。でも病院に行ったら大したことがなくて安心した」という声に、「あるある!」と多くの共感の声が。
他にも、「背を伸ばすために〜がいいと書いてあったから実践したけど効果がなかった」「広告でダイエットやスキンケアの情報が多く惑わされる」といった声が挙がり、盛り上がる生徒たち。多くの生徒がこれまでに健康や医療情報に悩んだ経験があると意見を出し合いました。
*Eichler K, Wieser S, Brugger U. The costs of limited health literacy: a systematic review. Int J Public Health, 2009;54:313-24.
1ドル=110円として、7,798米ドル=857,780円と計算。
悪意がなく広まるデマもある
グループワークの後は、なぜ世の中に嘘の情報が流れるのかを考えてみることに。
「愉快犯・悪ふざけ・政治目的・お金目的」など、明確な悪意で嘘の情報を流している場合を解説した後に紹介されたのが、こちらの絵です。
「絵に描かれた生き物が『食べるもの』は?」という質問に対し、「アヒルだから魚?」「ウサギだからにんじん!」「木の実」「にんじんもしくは魚」など次々に生徒からコメントが飛び交います。
この絵は、1892年に心理学者のジャストローが発表した「ウサギアヒル錯視」に使用されたもの。ある人には、右を向くアヒルに見え、ある人にとっては左を向くウサギに見えます。
本イベントファシリテーターである角川ドワンゴ学園の殿村さんは「同じ絵でも、人によって見方が変わることもあります。情報も見方が変わると、認識や捉え方も異なり、主張が違ってくることも」と説明。
また、伝言ゲームのように、ある人が「〜っていう噂あるらしいよ」と伝えたら、次の人が「〜なんだって!」というように断定表現として広めてしまい、明確な情報源がないまま嘘の情報が広がる例があることも紹介されました。
悪意がなくとも発生したデマ情報が広まってしまった場合、私たちはどのようにして信頼できる情報を見分ければいいのでしょうか?
そこで、産婦人科医の竹元葉先生医師をお招きして、医師は日々どんな情報を信頼していて、どんな調べ方をしているのかについて説明していただきました。
信頼できる医療情報ってどんな情報?
「医学の中では、システマティックレビューが一番科学的根拠があるもの、信頼できる情報といわれています」
竹元先生が曰く、信頼できる究極の医療情報は「システマティックレビュー」されたもの。
システマティックレビューとは、選ばれたテーマに関して現存する論文・文献を世界中から集め、それに対して医者や研究者が信頼基準に達しているかを、データの偏りを除く手段を用いて、厳しく精査、分析することをいいます。
システマティックレビューはWHOや専門家が非営利で立ち上げている団体Cochranをはじめとして様々な形でまとめられています。
英語でまとめられたものも多いですが、日本語に訳されているものもあるので、もし詳しく調べたい場合はGoogle Scholarなどで調べてみてもいいかもしれません。
竹元先生が医療情報を調べる際は、調べたいテーマでシステマティックレビューされているものがあるかを確認し、なければ論文を読み、情報の信頼度を確認しているといいます。
その他にも、一人しか言っていない情報はむやみに信じず、複数人が発言していることなのかを調べてみることも重要だと説明。
そして、肩書きで信頼してしまうことにも注意が必要だといいます。医師の中でも知識差はあるため、「医者が話しているから正しい」と信じ込む前に、情報の信憑性を見極めていくことが大事だと語りました。
「情報のソースが信頼できるものなのかを確認する」「断定表現はまず疑う」など、情報を取捨選択する上で大事な考え方を学んだ生徒たちから「これからは複数のサイトを調べて共通しているものを取り入れるようにする」といった発言もありました。
先入観を疑うことが大事
2日目は、嘘や不確かな情報を信じてしまう背景や実際のリサーチ方法について学びあいました。例として挙げられたのが「確証バイアス」と「ウィンザー効果」。
「確証バイアス」とは、自分の信じたい情報ばかりを取り入れ、反対の情報を無視してしまう傾向にある、どんな人も持っている先入観のこと。
「ウィンザー効果」は、体験談や友人の感想など、第三者の口コミで情報の信憑性が増すことを指します。
この「確証バイアス」と「ウィンザー効果」により、自分が信じている情報も偏っている可能性があるということを知っておくことが重要です。
この偏りを避けるために、自分の信じている情報が絶対だという思い込みを無くし、自分とはあえて真逆の意見を調べたり、似たようなコンテンツのリコメンドを避けるために検索履歴を削除したり、情報の発信者が信頼できる専門家かどうかを調べてみることが良いとされています。
また、情報を発信している目的が、商品のPRや営利目的でないかを調べたり、悪い口コミをあえて調べてみることも大事です。
生理について僕も知っておきたい
情報に対するバイアスを排除していくために、「ググる(検索する)」グループワークも実施しました。グループワークの課題は、「架空の広告を選んで気になるポイントをまとめ、信憑性があるかを調べる」というもの。
あるグループが選んだ「布ナプキンは生理痛が100倍楽に!」という広告。
男子生徒も「生理を経験したことがないけど、僕もちゃんと生理を知っておきたい」とチームに参加し、実際に生理のある生徒の意見を交えながらこの広告に書かれている情報の信憑性を調べてみることに。
まずは個人で、広告をみて事実がどうか気になったポイントをまとめてもらい、その後シェアタイム。
「100倍っていう数字はどこからでてきたの?」
「『温かくなるような気がする』って本当に温まっているの?」
「知名度No.1があやしい」と、各々の厳しい目でチェックしていきます。
その後、それぞれ気になった点を分担して、その情報についての賛成・反対・両方に関わる意見を検索し調べてもらいました。
「情報を調べてみたが、掲載されているサイトのドメインが信憑性がないかもしれないので正しいかどうかの判断は保留にした」という意見が生徒から出るなど、一人一人が学んだ知識を活かして検索していることがわかる場面も。
各々が確証バイアスに気をつけ、自分が信じたい情報だけを見るのではなく、反対意見も調べ、結論を出そうとしている姿が印象的でした。
わかりきったことはあえて書いてないことも
最終日は、生徒一人一人が気になっていた医療や健康情報の記事や広告を調べ、その情報に信憑性があるかどうかを自分の力で判断していくワークショップ。
「起立性調整障害は水を飲むとよくなるのか?」
「生理痛は温めるとよくなる?」
「カカオニブの健康効果はあるの?」
など、各々が気になっていた情報を続々とワークシートに書き込みます。
「個人の体験談だけで判断しないように医療機関のものを調べてみる」「発信者は信頼できる人なのか注意する」「数字が出ていたら根拠となるデータはあるのか一次情報を確認する」など、2日間で学んだ知識を取り入れながら反対・賛成意見の両意見を調べ始めました。
リサーチを終えシェアタイムに移ると、起立時にめまいや動悸、失神などが起きる自律神経の病気「起立性調節障害」について調べた生徒から「大体のサイトで水を飲むといいと言われていたけど、どこにも詳しい理由が書いていなかったので怪しいと思った」という感想が。
生徒からの意見に対して、竹元先生は「医療情報も、すでにわかりきったことは詳しくは説明されていない可能性があります。今回の場合、水分をとること自体に害はないので、害がないものは試してみていいと思います。
理由が書かれていない場合でも、ほとんどの人が同じことを言っている時は疑ってかかる必要はないかもしれません。いろいろ調べてわからなかったら専門家に聞いてみてもいいと思う」と返答。
その他にも、「製薬会社などのホームページで生理痛の時はお腹を温めると良いという情報をみたけれど、子宮は臓器だから温めることはできないと言っている医者の意見もあり、どちらを信じればいいかわからない」という質問が。
「子宮は臓器なので直接温めることはできません。ですが、体を温めていた方が血管が拡張し血流がよくなります。臓器の周りの血流を改善することは体に良いというのは教科書にも載っています。冷えているよりは温めていたほうがいいです。でも、何事もバランスが大事です。やりすぎには気をつけて」と竹元先生が説明。
3日間にわたるワークショップを終え、生徒たちからは
「ヘルスリテラシー力が上がった気がする」
「怪しい情報を噂話として広めないようにしたい」
「情報の裏付けをしっかりしていきたい」
「コロナワクチン接種についての情報を調べる時にも役立てたい」
といった感想が寄せられました。
生徒も含め、多くの人が情報の取捨選択に戸惑ったコロナ禍。ヘルスリテラシー力を身に付けることは、自分はもちろん、大切な誰かを守ることに繋がります。
大人ですら数多くの情報から判断するのが難しい健康情報。参加した生徒の皆さんには、今回学んだ知識を取り入れ、デマ情報に惑わされず、正しい情報を選び取れるようになってほしいと願うばかりです。
参加した生徒の皆さん、角川ドワンゴ学園スタッフの皆様、竹元先生、ありがとうございました!
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