2012年、互いに39歳になる年に僕ら夫婦は不妊治療を開始した。結婚して7年、子宝に恵まれなかったため、専門のクリニックに通うことにしたのだ。

クリニック選びは妻のりえちゃんに任せた。彼女は「通いやすいところがいい」と、会社の近くにあるクリニックをネットで探し、そこに通うこととなった。名前は仮に、Gクリニック(以下、Gクリ)としよう。

クリニック選びを妻任せにし、決め手となる理由「近所で通いやすいから」という安直な選択をもって決めてしまったことは、39歳という遅すぎる不妊治療のスタートにおいて、あまりにも愚かな選択だったと今ならわかる。その理由は、後で述べる。

「タイミング法」が苦手な男性たち

さてGクリに通い、最初に施された治療法が「タイミング法」だった。排卵日に合わせて性行為を行うという、いわば不妊治療の「いろはのい」である。

しかしこのタイミング法が苦手という男性は、意外と多い。当時不妊治療中だった後輩編集者も「タイミング法、だるいっすね」と、こぼしていた。彼の主張はこうだ。

「やっぱ妻に『きょう、するよ』って言われてやるのが、萎えるんすよ。やっぱ自分からいかんと。もうね、向こうが基礎体温表とかつけてるの見るだけで、萎えるんすよ。で、“その日”が入稿で忙しい時期だったりするんですよ。もちろん徹夜作業になるわけで……。そんななかいったん家に帰ると『さあ、してください』と言わんばかりに嫁が寝ている。そんなもん、勃つもんも勃ちませんよ!」

Photo by Ben White on Unsplash

不妊治療中の女性たちは日がなせっせと基礎体温表をつけているのに、そんな勝手な理屈で「萎える」と言われても腹が立つだろう。しかし、ある一部ではあるが、それが男の本音なのだ。

「渡りに船」のようなタイミング法に歓喜

さて、僕の場合は違った。タイミング法は、大ウエルカムだったのだ。だってさ、当時僕ら夫婦はセックスレスで、そんななかお医者様がタイミング法という名のもと「YOU、やっちゃいなよ!」と言ってくれるのだ。

ちょっと待てよ。お前ら不妊治療はじめたのにセックスレス!?どういうこと?

と大半の読者は思っただろう。これには深いワケがある。くわしくは前回の記事を読んでもらえたらと思うが、ざっと説明する。僕ら夫婦は、付きあって間もない頃、りえちゃんからから言われた「あなたの子どもが産みたいの」という言葉をきっかけにお互い32歳のときに結婚した。

僕はその言葉に固執して子どもを望んだが、数年経っても子どもができなかった。ここで僕の気持ちに変化が起きた。

いくら行為を重ねても子どもができないのに、また僕は彼女の体を求める。体を求め続ける変態男と思われて、彼女に嫌われるのではないか?——そんな疑念にかられ、怖くて自分から行為に誘えなくなってしまったのだ。

それでも打席に立ち続けなければホームランも三振もない。そんな理屈はわかっていたが、嫌われたくない一心で誘えない。先ほどの後輩編集者も僕も、方向性は違うが、男というものは厄介なほどに繊細なのだろう。

そんな渦中にあって、やってきたのが「タイミング法」だ。これは、したくてもできなかった僕にとって渡りに船、セックスレスにタイミング法だった。

だって医療の名のもと、お医者様が「やりなさい」って言ってくれたんだもん!

そしてこのとき助けられたのが、りえちゃんの気遣いだった。排卵日に合わせての行為なのに、わざわざ「したくなちゃった」というテイで僕を誘ってくれたからだ。彼女の思いやりに救われた。

クリニック選びは「妻任せ」、「なんとなく」はNG

医師の指導通り3カ月間タイミング法に挑んだが、やはり子どもができることはなかった。

すると、医師はこう言った。「次のステップに進みましょう」

Photo by AC

今考えれば、Gクリはおかしなクリニックだった。当時は何も知らなかったが、35歳を超えるとマルコー、つまり高齢出産といわれるくくりとなる。しかもクリニックに通い出したときりえちゃんはすでに39歳で、自然妊娠率は10%ほど。

毎日新たに生み出される精子と違い、卵子は加齢とともに数が減り、妊娠する力も衰えていく。そんななか門を叩いてきたアラフォー患者に対し、杓子定規に「タイミング法から始めましょう」って……。もっと高度な不妊治療法からすすめてくれよ。

しかしそんな粗いクリニックを選んだのも自分自身だ。「妻任せ」にし「何となく」選んでしまった代償にすぎない。

僕も含め男というのは、専門クリニックに妻を通わせたらそこで役目を果たした、という意識がどこかにある。しかしそれはもちろん間違いで、不妊治療のスタートに立ったにすぎない。

今ならわかるが、すべてを医師に委ねるしかない立場ゆえ僕らにできることは「いいクリニックを選ぶ」ことしかない。不妊治療を経験した身からすれば、子どもができる・できないは、すべてはクリニックにかかっていると言っても過言ではないと思う。

それだけに最初に訪れる「クリニックのチョイス」は妻任せにせず、ふたりごととして慎重に協議することが重要なのだ。

僕らは当時すでに39歳。妻の卵子は日ごとに減少し、質が低下し、妊孕力(にんようりょく)が衰えていく。不妊治療とは時間との戦いだ。それなのに呑気にタイミング法から勧めてきたGクリ。

そしてそれを呑気に受け入れ、3カ月連続で失敗に終わった僕ら。無知は罪。

妊活の本を開くと「3~6回のタイミング法で妊娠しなかった場合、次のステップに進みましょう」と書いてある。その杓子定規なGクリは3回試しても授からなかった僕らに対して、「そろそろ次のステップに……」とやはり言ってきたのだ。

次のステップとは、人工授精のこと。僕らの不妊治療アドベンチャーは、いまだ一匹の敵を倒すことなく次のステージに進んでいった。

・これまでにかかった費用 3万7000円(初診、基本検査、通院3回)
・これまでにかかった時間 3カ月

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