男女一緒に生きているのに、まだまだお互いのことを理解しきれず性やカラダの正しい理解が「秘めごと」にカテゴライズされる社会。子どもに伝える前に、まずは私たち大人が理解を深め、オープンに話せる環境づくりをしていくことが大切です。今回は「不妊・妊孕性」についてデータから考えてみます。

生殖補助医療による出生児の割合は約16人に1人

2020年、コロナ禍の暗いニュースが続く中で、2022年4月から不妊治療に公的医療保険を適用するとした政府のニュースが話題になりました。日本では不妊治療を受ける夫婦の数は年々増加しており、日本産婦人科学会の発表によれば2018年の時点で16人に一人が生殖補助医療(ART)による妊娠・出産をしているという結果が明らかになっています。

画像=日本産科婦人科学会ARTデータブック2018年

また、国立社会保障・人口問題研究所の2015年度の調査によると「不妊を心配したことがある」と回答した夫婦は35%であり、一定数の夫婦が不妊治療への深い関心を持っていることが伺えます。しかしその一方で、実際の治療となると高額な費用や長期戦を要する治療を前に立ちすくむ夫妻も少なくないのが現実です。

不妊の原因は男女半々

まず第一に、不妊の原因とは何なのでしょうか?

「不妊治療」というと婦人科系の疾患や女性側の加齢の問題などが想起されがちですが、その原因は男女半々であることが近年の研究で明らかになってきました。

ここでいう不妊とは「避妊なしの性交を1年間行った際の妊娠の不在」と定義されます。日本生殖医学会の調査によると、不妊の原因は「女性のみ」が41%、「男性のみ」が24%、「男女両方」が24%となっており、48%(約半数)が男性にも原因があるとされています。

画像=Laundry Box

女性の不妊症の原因には、「排卵因子(排卵障害)」、「卵管因子(閉塞、狭窄、癒着)」、「子宮因子(一部の子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど)」、「頸管因子(子宮頸管炎、子宮頸管からの粘液分泌異常など)」、「免疫因子(抗精子抗体など)」などさまざまなものがあります。

日本生殖医学会によればこの「排卵因子」、「卵管因子」に「男性不因子」つまり男性の不妊症を加えた3つが不妊症の3大原因と言われています。男性の不妊症の原因は主に、(1)「造精機能障害」、(2)「性機能障害」、または(3)「精路通過障害」に分類されます。

恵比寿つじクリニックの辻祐治院長は、こうした男性不妊原因のうち約8割は精子をつくる機能に問題がある「造精機能障害」だと説明します。分かっているうち最多の原因は精巣の静脈に血液が逆流して陰嚢部にこぶのようなものができる「精索静脈瘤」で、これは手術により改善が見込まれます。

さらに、女性側の加齢にともなう卵子の質の低下と同時に、デンマークの研究結果によれば30歳男性と45歳男性を比べた場合では妊娠率が20%も低下することが証明されており、加齢とともに高まる不妊のリスクは男女どちらにも共通していると言えます。

参考:https://dual.nikkei.com/article/034/27/?P=3

画像=Laundry Box

仕事と両立ができずに一方を諦めた人は約3割

厚生労働省の調査結果によると、仕事と不妊治療の両立が困難を極め、不妊治療をしたことがあるもしくは予定している労働者のなかで「仕事と両立している(または、両立を考えている)」と回答した人の割合は53.2%ですが、「両立できず仕事をやめた」「両立できず不妊治療をやめた」「両立できず雇用形態を変えた」と答えた人の合計は34.7%となっています。またこのうち、実際に離職を経験した患者は16%にのぼりました。離職の直接的な原因としては精神的な負担の増加、そして頻繁に通院する必要性などが挙げられています。

画像=不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック

また「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」によると、企業側や同僚の不妊治療に関する認識や理解が深まっていないために、支援の体制整備自体が進んでいないという問題も指摘されています。

画像=不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック

日本では生殖補助医療で生まれる子どもが年々増加の一途をたどる一方で、不妊や不妊治療の実態については未だ認知が十分に広まっていないのが現状です。女性がキャリアを犠牲にすることなく妊娠・出産できる社会・制度づくりも大切ですが、同時に男性が不妊症だと判明した場合にも、度重なる治療と仕事とを両立できるよう支援していくことも欠かせません。

2012年からのWHOの調査グループが行った研究結果を元に2017年に発表されたオックスフォード学術雑誌の報告書によると、現状改善のためには男性・女性ともに不妊を疾患として認知し、企業や政府、市民が一体となって社会全体で取り組んでいく必要があると提言がされています。

社会の取り組みが不足しているためにファミリープランニングと仕事との両立が難しく、どちらかを諦めざるを得ない人を生み出してしまう状況にあるといえます。男性も女性も、1人1人が希望する選択を叶えられる社会の実現が望ましいです。

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