「不妊治療にはどのくらいお金がかかる?」「不妊治療はどんなステップで進んでいく?」多くの方がもっている疑問です。不妊治療にはステップがあり、治療を受けるカップルの年齢や身体の状態などで判断し、段階的に治療が進んでいきます。この記事では、タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精について紹介します。
不妊症とその原因
不妊症とは、健康な男女が避妊をせずに性交渉しているにも関わらず、妊娠しない状態が1年以上続いていることを指します。不妊カップルは約10組に1組といわれていて、近年はさらに増加傾向です。
不妊の原因は、男性と女性どちらかや双方に原因があることもあれば、何も原因がないこともあります。
男性が原因の不妊
男性側が原因の不妊は、以下のような要因が考えられます。
・精子形成障害
精子の数がない、少ない、運動性が悪い場合は、妊娠しにくくなります。精巣静脈瘤(陰のうに血管のコブができる病気)、無精子症、男性ホルモンの異常、染色体異常などがあります。
・精路通過障害
精路(精子が通る道)がつまっていると、射精していても精子が排出されません。
・性機能障害
精神的なストレスや環境的なプレッシャーなどによって、勃起障害、膣内射精障害などが起こり、射精が難しくなっている状態です。
・加齢
男性は、35歳頃から徐々に精子の質が低下すると言われています。
女性が原因の不妊
女性側が原因の不妊は、以下のような要因が考えられます。
・排卵障害
多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症、女性ホルモンのバランス異常など、なんらかの原因で排卵がうまく行っていない状態です。
・卵管狭窄・卵管閉塞
クラミジアや性感染症などの炎症や子宮内膜症などが原因で卵管がつまり、精子や受精卵が通りにくい状態です。
・頸管因子
精子が子宮の入り口を通りやすくする頸管粘液の分泌量が少なかったりしてと、精子が子宮内に入りにくくなっている状態です。
・免疫因子
何らかの原因で女性の体のなかで精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)がつくられてしまい、精子がうまく卵子に到達できない状態です。
・子宮因子
子宮筋腫・子宮腺筋症・子宮内ポリープなどにより、受精卵が子宮内膜に着床しにくくなっている状態です。
このように、不妊にはさまざまな原因の可能性があります。不妊治療を始める際には、不妊の原因を調べる検査などを行いますが、原因がわからないことも少なくありません。
不妊治療のステップ
不妊治療には大きく4つのステップがあるので、治療の流れや費用の目安を紹介します。妊活を開始した年齢が高い場合や検査の結果によっては、人工授精から始めることを医師から勧められることもあります。
1.タイミング法
タイミング法は、排卵に合わせて性交渉をします。排卵の1~2日前が妊娠しやすいと言われているので、エコー等で排卵の時期を予測して性行為をおこないます。
・タイミング法の流れ
男性側は精子検査を行い、精子に異常がないか検査します。
女性側は基礎体温やホルモンの基準値などを測定し、きちんと排卵が行われているのかを確認。超音波検査等を行い、卵胞の大きさをチェックし、卵胞が十分に大きくなったところで、性交渉を行います。
・タイミング法の費用目安
病院により違いますが、タイミング法の費用の目安は2,000~3,000円/回ほどです。ただし、超音波検査などを1カ月に複数回行うこともあり、排卵を促す排卵誘発剤の一部は保険適用外だったりするため、1万~2万円ほどかかります。
2.人工授精
人工授精は、排卵に合わせて、受精場所である子宮内に精子を注入する方法です。
・人工授精の流れ
女性側は超音波検査等を行い、卵胞の大きさをチェックします。排卵日に運動能力が高い精子を選んで子宮内に注入します。
精子を子宮内に戻す際は、内診台でおこないますが、子宮の入り口に痛みを感じる人も多いです。多くの病院やクリニックではオプションで麻酔をしてもらえますので、痛みに弱い人は相談してみましょう。
精子は空気に触れる時間が長いと運動能力が下がっていくため、精子の採取は受診する2~3時間以内が望ましいとされています。
・人工授精の費用目安
病院により違いますが、タイミング法の費用の目安は2万~3万円/回です。人工授精のステップから保険適応外となります。
3.体外受精
体外受精は、体内から取り出した卵子を、体外で精子と受精させる方法です。
・体外受精の流れ
排卵誘発剤などを使用して、卵巣のなかで卵胞の発育をうながし卵巣から卵子を採取します。次に、受精卵がより着床しやすいように、子宮内膜を整える女性ホルモン剤の投与を行うこともあります。
男性側の精子を卵子にかけて、受精卵にします。受精卵を子宮内に戻し、着床を待ちます。
卵巣から卵子を採取するときに痛みを感じる人が多いです。多くの病院やクリニックでは麻酔をしてもらえますので、痛みに弱い方は相談してみましょう。
・体外受精の費用目安
病院により違いますが、体外受精の費用目安は20万~30万円/回です。体外受精からは、高度不妊治療に該当し保険適用外のため、高額になります。
4.顕微授精
顕微授精は体外受精のひとつで、卵子に直接精子を注入して受精卵にします。体外受精よりも受精の確率が上がるため、精子の数が少ない場合にも有効な方法です。
・顕微授精の流れ
体外受精と流れは同じです。
・顕微授精の費用目安
病院により違いますが、顕微授精の費用目安は30万~60万円/回です。
不妊治療にはさまざまな治療法やステップがあります。内容や費用もいろいろなので、パートナーと相談しながら進めていきましょう。
また、条件に当てはまる人が申請すれば、不妊治療の助成金を受け取れます。「不妊治療の助成金をもらう条件は?助成内容や自治体独自の制度を紹介」の記事で紹介していますので、気になる方は確認してみてください。
「プレコンセプションケア」、「ブライダルチェック」と言って、妊活前に、まずは性感染症や子宮筋腫がないか産婦人科で調べることも可能です。不妊症が気になっている場合は、まず1度診察に行くことをおすすめします。
監修者プロフィール
淀川キリスト教病院 産婦人科専門医
柴田綾子
2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から女性や母親を支援する職業になりたいと産婦人科医を専攻する。 総合医療雑誌J-COSMO編集委員を務め、主な著者に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)。産婦人科ポケットガイド(金芳堂、2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社、2021)。明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社、2022)。