写真=本人提供/Laundry Box

「フェムテック元年」と呼ばれた2020年から早3年。日本もフェムケアの選択肢が実に増えたな〜、と日々実感する。

吸水ショーツは身近なメーカーからも発売されるようになったし、ドラッグストアでも月経カップを置く店舗が目につくようになった。

生理については別に誰しもがオープンにする必要はまったくないけれど、それでも以前よりずっとカジュアルに話題にできるようになり、2021年9月から都立学校全校の女子トイレには生理用品が配備された。

OiTr(オイテル)」のようなナプキンを常備し無料で提供するサービスを導入する商業施設や公共施設、オフィス、学校なども増えていてやはりムード作りは大事なのだな〜と身に染みる。

いままでほとんど目にすることのなかった更年期についての特集記事やプロダクトも増えて可視化されてきたと思うし、デザイン性が高くて思わず手に取りたくなるセルフプレジャーグッズも次々と登場している。

フェムテック及びフェムケアブームの波は、確実に押し寄せてきている。

「使っていない人が悪い」と自己責任で済まされるリスク

昨年末、私は明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンターが主催するシンポジウムにお声がけいただき登壇した。

テーマは「アイドルから考える『フェムテック』〜若年女性の健康管理とそのテクノロジー化をめぐって〜」。

拙著『アイドル保健体育』で扱った女性アイドルの健康課題や、なぜ彼女たちの運動量がここまで増えたのか、日本のアイドルダンス史半世紀分を振り返りながら話をさせてもらった。

写真=本人提供

その後登壇されたもうひとりのパネリスト、実践女子大学人間社会学部准教授・標葉靖子氏の講演や、学生たちとのフロアトークで挙がったトピックは近年の“フェムテックバブル”のその先を冷静に見据えたもので、当時私が抱えていたわずかなモヤモヤを言語化してくれた。

シンポジウムから2カ月以上経ったいまでもふと思い出しては、その課題にどう向き合えばいいか考えあぐねている。

それは、このブームが「フェムケアの選択肢が広がることで、逆に社会が抱える課題は置き去りにされるかもしれないリスク」をはらんでいる点だ。

女性の健康課題を解決する方法が増えること自体は喜ばしい。しかし個人で色々と対策をとれるようになると、今度は対策をしていない人たちが自己責任論を押し付けられる可能性が出てこないだろうか。

ピルで便利になる一方で、本当の課題は「生理痛で気軽に休めない社会」

たとえば低用量ピル(※こちらはフェムテックではなく医療用医薬品だが)は月経困難症やPMSの軽減に有効だと、以前に比べ認知が広がってきた。

ただ「重い生理痛=ピルの服用が当たり前」の世の中になると、同時に生理痛でパフォーマンスが落ちる人に「ピルを処方してもらっていないほうが悪い」という視線が向けられることも考えられる。

でもこの場合、本当の問題は「生理痛で気軽に休むことのできない環境」のほうにあるはずだ。

一見、自己責任に思えることのほとんどは、実は社会が抱える課題なのだと思う。

「誰もが当たり前に自分のタイミングでトイレに行ける環境」作りが置き去りにされていないか

私自身フェムケアについて取材を受け、「愛用中でおすすめのフェムテックプロダクトは?」と聞かれることがある。

「月経カップは振付師という職業柄、重宝しています。ナプキンのようにズレる心配がなく、多い日は吸水ショーツだけだと心もとないので助かりますね。それにナプキンよりも替える間隔が長いので、なかなか自分のタイミングでトイレに行けない職業や立場の人にもおすすめです。たとえば保育士や美容師、小さい子どもを育児中の友人もそうだと聞くので試してみる価値はあるかもしれません」などと、もっともらしいことを答える。

ただ、そう言いながら思うのだ。

本当はまず、誰もが当たり前に自分のタイミングでトイレに行ける環境のほうがいいに決まっていると。

じゃあなぜ現状はそうなっているかと考えれば、保育士の場合は人数が足りていないからだし、母親(及び生理のある育児中の人)はワンオペだからだし、なぜワンオペかと言えばまだまだ男性が育休を取りづらいムードだからにある。

結局これらの問題はどれもこれも社会のバグから起きているのだ。

個人でできることは「ムード作り」

では具体的にはどのように行動していけばいいのか。

この質問を先述の講演会で学生から投げかけられたとき、登壇していた私たちは頭を抱えてしまった。おそらく、現段階ですべてがたちまち解決するような魔法は存在しない。

写真=本人提供

こんなときに私はよく、「人はルールよりもムードに弱い」という言葉を思い出す。

確かに、ルールを厳密に守るよりも、世の中の雰囲気になんとなく倣う、という人はとても多い。さらに法整備するには膨大な時間を要するとしても、ムード作りなら個人ですぐに取り掛かれる。

ではその“ムード”とは、一体どのように作っていけばいいのか。

ムード作りで私が実践している2つのこと

私が実践しているのは以下の二点だ。

①個人での解決法と社会の抱える課題をセットで発信する

ありがたいことにさまざまな媒体で発言する機会が増えているので、単純にフェムテックプロダクトを紹介するだけではなく、それに付随する社会課題についても触れるようにしている。

自己責任論を生まないためにも「これを使えば便利」と「使わない選択も同じくらい尊重されるべき」は併せて伝えていきたい。

②考えることをやめない

地道ではあるが、実は大切なことだと思っている。多くの問題には明確な解決策などなかなかない。それでも考えることすら諦めてしまったら、それは一生変わらないだろうしその間に事態はもっと悪化することすらあるだろう。

「ピルで生理痛が軽減できるのは良いけど、そもそももっとカジュアルに生理休暇をとれる世の中になればいいのに」そうぼやくことも、社会のムードを変える一端を担っていると思うのだ。

女性の健康課題を解決するフェムテック。ブームで終わらせないために

ひと昔前の2010年代初頭くらいまで、女性誌で取り扱う体にまつわるテーマはどちらかといえばオーガニック系なものが流行していたように思う。「布ナプキンで体を温めよう(※医学的根拠はないそうです)」「自宅出産で自然なお産をしよう(*医療介入がないため、リスクを伴います)」そういった見出しを見かけることがたびたびあった。

現在はその対極ともいえる、「いかに合理的に負担を減らすか」に焦点を当てたプロダクトやサービスがさまざま紹介されるようになった上、あの頃とは比にならないほどの情報量が飛び交っている。

つまり一過性のブームになって終わってしまわないか、という心配の声も上がっているのだ。

女性の健康課題を一時的なビジネスターゲットとして搾取しないためにも、フェムケア市場の盛り上がりと同時に社会の在り方を考え続けていきたい。

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