令和4年にもなって「ミルク育児をしています」と表明するときの、一抹の後ろめたさは何なのだろう。

実際に子どもを育てていて「母乳か否か」の質問をされても、そこで「うちはミルクです」と答えて非難されたことは一度もない。

聞く側も何気ない世間話として聞いているだけなのだろう。

ただ、私が勝手にそのあとに付け足してしまうのだ。「働いてるもので…」と。

そして「あぁ、それは仕方ないよね」と言われるとどこかホッとする。「この人はやむを得ずミルク育児をする理由がありますよ」と免罪符を手に入れたような気持ちになる。

本当はそんなもの、必要ないはずなのに。

粉ミルクのパッケージに母乳推奨の言葉。後ろめたさを感じてしまう人も多いだろう

ここ1〜2年子育てをしている体感では「母乳神話に振り回されすぎる必要はない」という価値観は徐々に浸透しつつあるように思う。

「母乳をあげなければ愛情不足」と言う人もひと昔前に比べれば減ってきている気はする(あるところにはまだまだ残る文化だと思うが)。

なにより、そういう発言や考え方を母親に押し付けることを良しとしない世間のムードの変化がいちばんの救いではないだろうか。

ミルク育児を実践して立派に子どもを育てあげてきた親たちのレポートも現代ではSNSにたくさん上がっている。実に頼もしいと思う。

それならば私は一体、何に言い訳をしているのだろう。

なぜ「うちは完ミ(注)です」と言うときに、ほんの少しでも気が引けるのだろう。

注:ミルクだけで育てること。完全ミルクの略。

そう考えていたら、わが家にあるキューブ状の粉ミルクの箱が目に留まり、腑に落ちた。

「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」

この一文だ。これが調乳時、一日に何度も目に入るたびに責められているような気持ちになってしまう人は案外多いのではないだろうか。

ましてや産後しばらくはホルモンの変動で精神的に不安定な母親は少なくない。「自分は最良の栄養をあげられていない」と思ってしまっても、無理はない。

写真=本人提供

半世紀近く前の出来事が、現代のパッケージに反映されている

おそらく母乳代替品を販売する際の義務なのだろうが、そもそもなぜこの表示は必要なものと判断されたのだろう。

調べてみると、1960〜70年代にメーカーが途上国に粉ミルクを大々的に宣伝し発売したところ、規定以上の量の水で薄めたり、不衛生な水で溶かしたりといったことが起こったそうだ。そしてそのミルクを飲んだ赤ちゃんが栄養失調に陥って亡くなる事故が相次いだのだという。

そこでWHOでは再発を防ぐために1981年、粉ミルクのマーケティングを規制して「母乳育児の利点を説明し、人工栄養のリスクを説明しなければならない」と定めたのだそうだ。

それは当時の子どもたちを守るために必要なことだったと思うが、それからすでに半世紀近くが経っている。

母乳にはミルクにはない免疫物質や成長因子が含まれていて感染予防効果が高いなど、母乳の利点は今の日本では充分認知されていると思う。そして育児をする人たちのライフスタイルも大きく変化した。そもそも人工乳そのものだって当時からかなり進化しているだろう。

果たしてこの表示は、現代においてもまだ必要なのだろうか。

これについては2019年に日本でも液体ミルクが発売開始された際に「この文章…要る?」という内容のツイートが拡散され多くの人が共感しネット上では議論となったが、3年経った現在でも規定に変化はない。

クタクタの育児の合間、授乳時にテレビをぼーっと眺めることくらい許してほしい

ほかにも、私がじわじわとミルク育児が心やましくなるきっかけは日常の中に潜んでいる。

たとえば育児アプリ。ある日の「今日のひとこと」欄にはこう書かれていた。

「母乳での授乳は赤ちゃんとの密着度が高まり親密になれる大切なコミュニケーションの時間。ぜひテレビやスマホは見ずに赤ちゃんに優しく声がけしてあげて下さい」

授乳経験のある人なら分かることだが、哺乳瓶でも母乳を直接あげても物理的な密着度はそう変わらない。むしろ哺乳瓶だと向かい合わせで授乳できるので、子どもの顔はそっちのほうが見やすい場合もある。

写真=本人提供

なぜ親密度を母乳の場合のみに限定するのかがよく分からない。というかクタクタの育児の合間、授乳時にちょっとテレビをぼーっと眺めることくらい許してほしい…。

母乳推奨なのであれば、その理由の適切な説明が必要だと思う

そして乳幼児突然死症候群(SIDS)に関する注意喚起。厚生労働省のHPにはこう記されている。

「できるだけ母乳で育てましょう」

母乳で育てられている赤ちゃんは、人工乳(粉ミルク)で育てられている子に比べてSIDSの発症率が低いと報告されているのだそうだ。ただしSIDSは原因不明で起こるもので、人工乳がSIDSを引き起こすわけではないらしい。でもこの項では「できるだけ母乳を与えましょう」という言葉で締めくくられている。

この説明だけでは人工乳とSIDSの因果関係がまったく分からない。環境や体質によって母乳を与えたくても与えられない人も大勢いるのに、ただ不安だけが押し寄せる。

また、母子手帳にも同様に「できるだけ母乳で育てましょう」とだけあった。

写真=本人提供

私なりに調べたところ、SIDSでは赤ちゃんの温めすぎが良くないという説があるらしい。アメリカの小児科学会ではSIDS対策を含めた安全な睡眠のために推奨されているポイントのひとつに「温めすぎ、頭を覆うのは避けること」とある。

つまり母乳に比べて熱湯で溶いてから飲める温度にまで冷ます粉ミルクの方が「温かい場合が多い」のが、発症率に関係してるのではないかと言われているのだ。しかし現代では常温で飲める液体ミルクもある。

そのほかに「ミルクに比べ母乳の方が腹もちが悪く夜泣きが増えるので結果、夜中に赤ちゃんをチェックする機会が増えるから安全」という見解もあるそうだ。

どちらにしても、ミルク育児が引き起こすその可能性までを書いてほしい。「SIDSを防ぎたかったらとにかく母乳で育てて」という説明では、あまりにもいろいろな背景の人たちを取りこぼしてしまっている気がするのだ。

こうやって書き連ねてみると、自分の中にある後ろめたさの理由がはっきりしてきた。

「働いているから」「母乳が出ない体質だから」以外にも「母親以外の人間も授乳できるようにしたいから」「痛みを避けたいから」など、さまざまな理由でミルク育児を気兼ねなく選択できるムード作りをしていきたい。

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ここからは、ミルク育児をしている私が使ってみてよかったプロダクトを紹介したい。

①浄水型ウォーターサーバー

写真=本人提供

私が使用しているのは、水道水を汲んで使用するウォーターサーバー。浄水された水道水で、冷たい水と温かいお湯がすぐに使える。

正直これがないと生きていけないほど私のミルク育児には必須アイテムだ。

ミネラルウォーターによっては赤ちゃんのミルクを溶かすのに向いていないとされている「硬水」のものもある。浄水であればほとんどの水がミルクに使える上、ウォーターサーバーなら即時熱湯と冷水が出る。

わが家の場合、現在は一度に200cc飲むため、まず100ccのお湯で粉ミルクを溶かしてから、もう100ccの冷水で湯冷ましすれば赤ちゃんがすぐに飲める温度になるのだ。

編集部注:浄水器や赤ちゃんの状況によっては、煮沸をしてから使用するほうが良い場合もあります。また、雑菌の繁殖を防ぐために、作ったミルクをなるべく早く消費することが推奨されています。

写真=本人提供

さらに通常のウォーターサーバーだと、ストック置き場と片付け場所に困るウォータータンクが必要ないことも嬉しい。

②ハニカムカバー

その名の通り蜂の巣状のシリコンカバー。これに哺乳瓶を入れると子どもが自分で持つことができるのだ。

わが子の場合は手がおぼつかないうちから哺乳瓶を自分で持ちたがっていたので、これを装着すると指を引っ掛けて自力でミルクを飲むようになった。それだけでつらい腱鞘炎からかなり解放された。

写真=本人提供

③ボトルの色が変わる哺乳瓶

育児して間もない頃はミルクの適切な温度がいまいち分からなくて不安な人もいる。そこで調乳後、乳児が安全に飲めると言われている36〜40度になるとボトルの色が変化しひと目で分かるという哺乳瓶があるのだ。

私自身は使用したことはないが、調乳慣れしていない家族や知人に子どもを任せるような機会のある人には、特に親切な機能だなと思った。

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