性に関するさまざまなニュースを目にするなか、それらがなぜ問題なのか、議論し改善するべきなのか。すべては、セクシュアル・リプロダクティブ・ ヘルス/ライツ(SRHR=Sexual and Reproductive Health/Rights)と地続きであるように感じます。

SRHRは、「性」に関することや、妊娠・出産・中絶など「生殖」に関わる全てのことを自分で決められる権利。妊娠したい、妊娠したくない、産む、産まないに関して、本人の意思に反して他人が阻害することはあってはいけません。

セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは?

セクシュアル・リプロダクティブ・. ヘルス/ライツ(SRHR=Sexual and Reproductive Health/Rights)とは、性や生殖に関して、人々が身体的・精神的に健康でいられる権利のこと。日本語では「性と生殖に関する健康と権利」と訳されます。

WHOをはじめとする国際機関が提唱している考え方で、日本でも内閣府 男女共同参画局の施策として公式に推進されています。

SRHRの概念は、生理、不妊治療、性感染症、HIV/エイズ、性暴力、中絶など、さまざまな問題を含んでいます。関連するいくつかのニュースをピックアップして紹介します。

緊急避妊薬が薬局で買えない日本

Photo by Reproductive Health Supplies Coalition on Unsplash

「コンドームが破れた」、「避妊できなかった」、「同意のない性行為を無理やりされた」などの後に、望まない妊娠を防ぐために使われる「緊急避妊薬(アフターピル)」の市販薬化をめぐり厚労省が検討会を開いています。

日本では、諸外国と比べて緊急避妊薬を入手するハードルが高く、必要とするすべての女性に届いていないのが現状です。

  • 婦人科を受診して処方してもらう必要がある(薬局で購入できない)
  • 価格が高い(5000円〜2万円)

緊急避妊薬は性行為後、72時間以内に服用する必要があります。服用が早ければ早いほど避妊効果が高いとされていますが、日本では入手のハードルが高い現状にあるため、SRHRの観点から見ても、改善が急務であると考えます。

高いハードルを感じた実体験

ここからは筆者の実体験。書くことを躊躇ったけど、書くことにします。

筆者自身も以前、性交渉中に避妊具が外れてしまうトラブルがあり、緊急避妊薬を利用した経験があります。緊急避妊薬の存在をうっすら知っていた程度だったため、すぐにネットで検索し、処方してもらえるクリニックを調べました。

Photo by Jonas Leupe on Unsplash

翌日、会社に午前半休を申請してクリニックへ。受付や問診でも、とくに理由などの詳細を聞かれることもなく、ピルの説明を受けたあと「すぐに飲んでくださいね」と女性の医師から言われました。時間にして1〜2分程度だったと思います。

費用は1万円強くらいかかりました。これはまだ20代だった当時の私にとってはなかなか大きな金額だったし、当時のパートナーに相談しても、一切負担してくれませんでした(その後、速やかにお別れしました)。

私は処方してもらえる場所をすぐに調べ、会社を休むなどの判断をして、ことなきを得ました。しかし「仕事を休む判断ができない」、「性暴力被害者になり、心身ともに傷ついている」などさまざまな事情で、適切な対処ができない人も多くいるのではないでしょうか?

たとえば、(本来、年齢にかかわらずですが)まだ10代で知識も経済力もない女性が、親に相談することもできず、ひとりで産婦人科に出向き、1万円以上もする緊急避妊薬を処方してもらうことができるでしょうか。かなり高いハードルがあると思います。

女性の「性と生殖に関する健康と権利」を守るため、薬局で安価に購入できる環境を整える必要があります。望まぬ妊娠を誰にも言えないまま、ひとりで出産し、母親が乳児を遺棄してしまう事象も発生しています。それらをすべてを、背負ってしまった女性だけが罪に問われる現状は、SRHRが守られているとはいえません。

緊急避妊薬の市販薬化は、医師会や厚労省で議論が進んでいて、早ければ年内に実現できるかもしれません。ですが、産婦人科医会が実施したアンケートの調査結果に歪曲があったことが発覚したり(BuzzFeed Japanの独自取材より)、「性教育の充実が先」という理由で反対する医師もいたりと、一筋縄にはいかないようです。今後も注目していきたいと思います。

経口中絶薬の国内承認へ

Photo by freestocks on Unsplash

望まぬ妊娠をしてしまったとき、私たちには中絶する選択肢が与えられています(日本では婚姻関係にある場合、配偶者の同意書が必要)。日本で中絶といえば、子宮に器具を入れて、胎児や胎盤をかき出す「そうは法」または「吸引法」、そして両方を併用する人工妊娠中絶手術が行われています。

しかし、WHOは「そうは法」について「母体を傷つけるおそれがある」として推奨していません。諸外国、約70カ国で、母体の安全性の面から「経口中絶薬」の利用が認められ、WHOもこれを推奨しています。

日本の一般的な人工妊娠中絶手術は、おおよそ10〜20万円(妊娠週数や麻酔の種類、病院により異なる)ほどかかりますが、諸外国で処方されている経口中絶薬は4〜12ドルほどの価格だといいます。

日本ではまだ経口中絶薬は承認されていない現状がありますが、2021年4月、国内でも治験が進み、産婦人科学会は、有効性と安全性が確認されたと報じられました(NHKより)

より健康的で安全な方法で中絶可能にすることも、SRHRの観点で重要なこと。近い将来、日本でも承認されるかもしれません。その時の価格設定はどうなるのか…?今後、注目していきたいニュースです。

「産まない」選択も、あなたが決めていい

Photo by Roberto Nickson on Unsplash

ところで、こんな話を耳にしたことはないでしょうか。

  • 「早く結婚して子どもを産みなさい」と親に言われた
  • 女の子を出産したら「次は男の子を産んでね」と両親や義両親に言われた
  • 「子どもは3人以上ほしいからよろしく」と夫に言われた

こうした日常にありそうな話も、家族同士のコミュニケーションや倫理的な問題を脇に置いておいたとしても、SRHRの観点でいえばアウトです。なぜなら「性」に関することや、妊娠・出産・中絶など「生殖」に関わる全てのことを自分で決められる権利があることを、WHOや日本政府も推進しているのだから。

5年ほど前、ある俳優がインタビューで「子どもを産まない選択をした」と語ったことがニュースになり、ネット上で賛否両論が起きました。

人の出産や生き方に、他人が賛否をあれこれ言うことではないし、それがニュースになることもない。そんな社会になるのはいつでしょう。2021年10月現在、社会はそうなりつつあるのだと信じたいです。

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〈各種相談窓口〉

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター一覧(内閣府 男女共同参画局)
全国の児童相談所一覧-通話無料(厚生労働省)
子どもの人権110番-通話無料(法務省)



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