夫婦の5割は性的な行為が1カ月以上ないという調査もあり、「セックスレス大国」と呼ばれて久しい日本(「【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ 2020」より)。
婚姻関係がある夫婦に限らず、付き合いが長いカップルの間でもマンネリや不和、「なんとなく」などさまざまな理由でセックスレスになるケースは多いのではないでしょうか。一方で、性的志向にはグラデーションがあり、「付き合っている=セックスをする」という価値観は見直されつつあります。
付き合って4年目を迎えるMさん(女性)・Sさん(男性)カップルは、交際3年目にセックスレス状態に。そこからお互いの価値観やセックスへの固定観念を見つめ直しました。ふたりがどのように歩み寄っていったのか、話し合いの過程を聞きました。
「寂しい」「問題に向き合いたくない」セックスレスで感じていたモヤモヤ
—いつ頃からセックスレスだと感じていましたか?
Mさん:去年くらいからですね。付き合って3年目で同棲中でした。彼は当時の仕事がすごく忙しく、お互いの生活リズムがずれたり疲れたりしていて、物理的にも体調面でもできない時期が続いたんです。
—当時はどんな心境でしたか。
Mさん:忙しいから仕方ないと思いつつも、私としてはセックスがないのは寂しかったです。実は前のパートナーともセックスレスになった経験があるので、「私に性的な魅力が足りないからいけないんじゃないか」とも思っていました。
—自分を責めてしまう気持ちもあったんですね…。
Mさん:なにかしら解決のヒントが欲しくて、ネットでいろいろ調べてみました。すると、「パートナーへの恋愛感情は、数年経つと家族としての愛情に変わるもの」「性的欲求が少なくなるのは自然なこと」といった内容の記事をよく見かけて。
セックスレスになってしまうのはある意味仕方ないのかな…と、どこか納得するというか、安心するような気持ちも生まれたんですよね。ただ、それでもやっぱり寂しさは埋まりませんでした。
—パートナーであるSさんは、当時の状況についてどう感じていましたか?
Sさん:セックスレスだという自覚はありました。セックスをしない期間が長引くにつれて、彼女がつらい思いをしているのも伝わってきました。
だけど、申し訳ないと思いつつ、最初は見て見ぬフリをしていましたね。夜はくたくたになっているので寝てしまい、朝になると自分が責められているように感じてしまって…。
仕事が忙しいという理由ももちろんありましたが、当時はその問題に向き合いたくない気持ちが強くありました。
「最後までしなきゃ」セックスへの固定観念に気づいた
—その状況から、お互いどのように歩み寄っていったのでしょうか。
Mさん:自分の素直な気持ちや、調べた情報をすべて彼に伝えました。セックスレスなのは私に責任があるんじゃないかとか、付き合いが長いから一般論として性欲が減退するのは仕方がない部分もあるよね、とか。その上で「あなたとセックスができると幸せを感じられるから、これからもしたいと思っている」「どうすればいいか一緒に考えたい」と話したんです。
Sさん:彼女が自らを責めていると知って、そんな気持ちにさせてしまったことが悔しかったですね。僕はむしろ自分自身のせいだと思っていたので。
でも、お互いの痛みを共有できて、初めてセックスレスを「ふたりごと」と捉えられた気がします。
彼女が、セックスに前向きではない僕の心境も理解しようとしてくれたのも救われましたね。そのとき、彼女と一緒にこの問題に向き合える環境が整ったと感じられたんです。
—お互いの悩みや不安を共有するところから始まったんですね。それからはどのように話し合いをしましたか。
Mさん:まずはスキンシップをとろうと提案しました。裸になって肌と肌を重ね合わせるだけでも心が満たされるから、最後までしなくてもいいよねって。セックスレスの期間が長引くと、セックスそのものに対するハードルがすごく上がってしまうと思ったんです。
Sさん:彼女からそう提案してもらって、すごく気が楽になりました。同時に、自分の中に「セックスで最後の射精までいかないと、男として恥ずかしい」という思い込みがあったと気づいて。
仕事で疲れているときは「今日は最後までできるだろうか」と不安も相まって、その場から逃げたくなってしまっていたんですよね。
—たしかに、セックスに対する固定観念ってたくさんありそうです。
Mさん:男性が「そういう雰囲気」をつくらなきゃとか、リードしなきゃとか。そういう囚われってありますよね。でも、性欲って人間に備わっている三大欲求の一つでもあるし、女性がもっとオープンになってもいいはず。長く付き合ってると雰囲気づくりも今さら恥ずかしいけれど、男性だけが頑張るんじゃなくて、ふたりでつくっていくものだと思います。
Sさん:男性はAVをセックスの参考にすることも多いから、順番とか「こうあるべき」みたいなものが知らず知らずのうちにインプットされている感じはありますね。
Mさん:挿入よりも前戯のほうが好きって女性も多いと思うな。だから、絶対に最後までしなきゃってものではないですよね。
お互いに我慢しないで、話し合う
—セックスの固定観念を見つめ直して、率直に話し合っていった様子が伝わります。
Sさん:最後まで至らなくても、だんだんスキンシップを重ねる機会が増えました。
Mさん:途中で終わっても、やっぱりお互いがセックスレスに向き合って、行動するようになれたのが嬉しいんです。だから、彼に対して毎回「ありがとう」って思いますし、伝えています。
あとは食事の栄養バランスに気をつけたり、自分たちに合うコンドームを探したり、コミュニケ―ション以外でも工夫していたら、徐々に改善に向かいました。
Sさん:「ありがとう」と言ってもらえると、やっぱり嬉しいし安心します。コンドームも一緒に選んで買うようになったよね。
—おふたりは、今までもセックスに限らずお互いの身体についてよく話していましたか。
Mさん:生理についてもオープンに共有していますね。彼は周期も把握してくれているので、「もうすぐつらい時期だよね」と声をかけてくれたり、率先して家事を担ってくれたり。ひとりで乗り切るのではなく、彼に支えてもらっているなと感じます。
Sさん:彼女がきちんと言葉で伝えてくれるので、女性の身体的な負担についてはすごく理解が深まりましたね。知識としては持っていたつもりだったけど、実際の彼女の痛みにもっと一緒に向き合わなければならないなって。それを知ろうとしないままでは、「一緒に幸せになる」って難しいんじゃないかと思います。
—素敵な考え方です。日々話し合う中で、関係性に変化はありましたか?
Sさん:彼女と一緒にいるのがいい意味で楽になりました。僕は性格上、見栄っ張りな面があります。でも自分がストレスに感じていること、悩んでいることを話して相手にわかってもらえると、心理的な安心感が生まれてよかった。
Mさん:彼が以前「自分が責められている気持ちになった」ように、やっぱりお互いの悩みがわからないとひとりで抱え込んでしまいがちですよね。だから私の気持ちや状況をきちんと知ってもらえるように、今まで以上に何にモヤモヤしているのか、困っているのかを話すようになりました。
Sさん:お互いに、「我慢しない」という共通ルールができたよね。
Mさん:嫌なときは嫌って言えるようになったよね。私からセックスを誘ったとき、断られるにしても「今日は体調がすぐれないから、明日にしない?」と具体的に言ってもらえて、相手の状況が理解できるので助かっています。
Sさん:人間なので、やっぱり体調にも感情にも波がある。それを受け入れてもらえると、相手の話を聞く余裕が生まれて、何かあっても話し合いで解決できるようになりました。
今までは、その余裕がなくてシャットアウトしてしまっていましたね。お互いにネガティブなことも打ち明けて、理解し合えると関係が深まるなって思います。
セックスの価値観を共有できると、関係性も深まる
—最後に、おふたりにとってセックスは必要ですか? お互いの考えるセックスとはなんでしょう。
Mさん:私にとっては、必要なものです。シンプルに、「好きな人と触れ合いたい」という気持ちが生まれるので。もちろん、セックスを必要ではないと考える人もいると思います。お酒が好きとか、甘いものが好きとか、そういった嗜好と同じで、人それぞれですもんね。私はやっぱりセックスがあると心が満たされるし、より豊かな気持ちになれます。
Sさん:難しい質問ですね。一緒に生活しているから、「自分にとって必要か」というより「ふたりにとって必要か」で考えてしまうかも。でも、またセックスをするようになってから心が潤う感じはしますね。
なにより、セックスの価値観を共有できたことによって、ふたりがさらに近づけたと思います。お互いが受け入れられている、認められている肯定感が生まれますね。これからも、こうやって話し合っていけたらいいなと思います。
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「セックスって必要ですか?」
セックスレス大国とも言われ、深刻な少子化も問題視されている日本。コロナの影響を受け、人とのふれあいにも変化があったのではないでしょうか。
仕事、恋愛、家族、育児…それぞれの社会の中で生きるわたしたち。あなたにとって、セックスは必要ですか?
本特集では、みなさんからたくさんの意見が寄せられました。
セックスをしたい人・したくない人、必要な人・必要でない人、どんな人も、世間の当たり前に囚われることなく、自分らしい選択ができる社会になることを願っています。