セックス時の挿入が痛い…そう感じている女性は少なくないのでは?

潤滑ゼリーを使ったりもするけれど、痛みが治らないという方もいます。

今回は、痛みを軽減しやすい体位について、咲江レディスクリニック院長・丹羽咲江先生に聞きました。

セックスは二人でするものだからこそ、お互いが少しでも心地よくなれるように体位も工夫してみてはいかがでしょうか?

咲江レディスクリニック院長 丹羽咲江先生

ーー 丹羽先生のクリニックにはセックスが痛いという方も多く来院されています。なかでも多い、性交痛の原因について教えてください。

性交痛の原因はさまざまありますが、性交痛でクリニックにお越しになる方は、「セックスの挿入時に痛い」という人が多いです。

セックスのときに痛い……「性交痛」の原因はなに? 原因と対処法を解説します(医師監修)

膣前庭炎という、膣の入り口の粘膜が荒れていて、触っただけでも痛いという方もいます。その場合は、男性の指が入った時点で、体が強く緊張して膣を閉じてしまう。

結果的に、挿入できないため処女膜強靭症なのかと思ってしまう方も多いです。

参考:

タンポンが入らない、挿入が痛い。もしかしたら「処女膜強靭症」かもしれません(医師監修)

でも、実際に診察すると処女膜が伸びる方も多く、膣の入り口のところの粘膜が荒れている膣前庭炎の方が多い印象です。

ただ、50歳を越えて閉経直前、閉経以降にかけては、女性ホルモンが足りずに膣が萎縮する「萎縮性膣炎」が増えてきます。閉経に至る前までの年齢だと、膣前庭炎の方が多いですね。

もちろん、なかには本当に処女膜強靭症の方もいて、手術が必要になる方、手術をしたほうが挿入が早くできるようになる方もいます。

ーーー 性交痛の治療法はどのようなものがあるのでしょうか?

原因にあわせて治療法もさまざまです。女性ホルモンが足りなくて膣や外陰部が萎縮している人もいます。炎症があるといっても、感染による炎症の場合は感染源をなくさないといけません。

抗生物質を使って感染源をなくす必要がありますが、感染がなくなっても膣前庭に炎症が残って赤みがある人は、基本的にレーザー治療やヒアルロン酸を噴霧する治療がおすすめです。

若い方で、膣前庭炎がある人にも、閉経後の萎縮性で膣外部の炎症がある人にも、赤みが出ている人には一様に効きます。

他の方法ですと、萎縮性の膣炎や閉経後の女性の場合は、女性ホルモンの膣座薬や内服薬、外用薬、保湿用のマッサージオイルでのマッサージ、あとは男性ホルモンの塗り薬もあります。

これらでも、ある程度改善はしていくんですけど、女性ホルモンの減少が痛みの原因ではない若い人の場合はお薬等で補充をしても治りにくいこともあります。

「セックスが痛い」を軽減する体位とは?

ーー丹羽先生は治療だけでなく、性行為の指導もされていますよね。

セックスは、物理的に痛い場所を治せば解決するかというとそうとは限りません。セックスの仕方もすごく重要なので、体位についても説明をしています。潤滑剤の工夫も同様です。

セックス時に痛みや緊張で力が入ってしまう場合は、認知行動療法を採用します。

セックスの挿入が怖くて仕方がないという人は、挿入時にグッと力が入って膣が収縮してしまいます。そこで「膣ダイレーター」という器具を膣内に挿入していくことで、膣内への挿入に慣れさせ怖さをなくしていきます。

その場合は、前戯の最中から、先にダイレーターを膣内に入れておき、実際にペニスを入れるときにダイレーターを抜いてペニスと入れ替える方法もあります。

そうすると、膣内の筋肉が弛緩しているので、膣に力を入れようにも、ぱかっと開いた状態になりペニスが入りやすくなります。

色々な切り口で工夫をすることで、痛みなく挿入ができるという目標に近づきます。

セックスが痛い、怖いを助ける「ダイレーター」の使い方。婦人科医に聞きました。

ーーー セックスの仕方も重要とのことですが、性交痛がある方におすすめの体位はありますか?

性交痛を和らげるおすすめの体位を5つご紹介します。

1.時雨茶臼(騎乗位)

仰向けになった男性に女性が脚を開いてしゃがんだ状態で挿入をする体位です。女性はスクワットのような動きをすると男性により快感を与えることが可能になります。男性は女性の腰やお尻をもってサポートしましょう。

2.百閉(騎乗位)

仰向けになった男性の上に女性が跨り挿入をする体位です。ペニスがクリトリスに当たりやすく、女性は強い快感を得られます。動きのポイントは、クリトリスをペニスに押し付けながら腰を前後に動かすことです。

3.手がけ

男女同じ方向を向き、腰を掛けた男性の上に女性が座って挿入を行う背面座位。男性は腰を掛けている状態のため、下からの動き以外が難しくなります。女性がリードし積極的に動くことがポイントになってきます。男性は女性の腰をもってアシストすることで女性の動きをサポートすることが可能になります。

4.抱き地蔵

椅子などに座った男性の上に女性が跨るように上から腰を下ろして挿入をする体位です。女性の方も脚や膝を男性の座っている椅子につきながら行います。男女双方にとって座位の中では動きやすい体位です。男性は下から突き上げ、女性は腰を回したり上下運動もできたり、愛撫も可能なので自由度が高いです。

5.達磨返し

女性の脛(すね)と太腿部分をひっかけるように縄で縛り、さらにその下半身を男性が持ち上げて挿入する体位です。女性が動きを制限され完全な受け身になります。その上、持ち上げられたことによって膣口が丸見えになるので、羞恥心も刺激される体位になります。男性側は女性が感じるポイントを探りつつ挿入していきましょう。

ーーー おすすめの体位を見ると、女性が上になるパターンの体位が多いんですね。

そうですね、女性の場合は、挿入の導入編として騎乗位が1番おすすめです。騎乗位は、女性側で深さや当たる場所を調整できます。

騎乗位の深さは、スクワットみたいにしゃがんだり、床面に膝をついて座ったり、いろんな形で深さの調整ができます。

それに、女性が体の上半身をパートナーに近づけたり、90度にしたり、反らせることで、女性側で女性器のこすれる位置、当たる位置を調整できます。

場合によっては、女性自身で痛いところを手で避けて、ペニスを持ち上げて入れたりもできますよね。まず騎乗位で入れてみて、騎乗位でしばらく大丈夫かなとか思えたら、いろんな体位に変えていくといいと思います。

「セックスの痛み」は2人で解決するもの

ーーー 先生が体位について伝えるようになったきっかけは何かあったのでしょうか?

以前、セックスに不慣れなご夫婦が、いつも2人で仲良く通院されていました。男性側の悩みとして、どのように挿入したらいいか分からないと。

そのときに診察室の床で、こういう体位がいいんじゃないか?とあれこれ伝えて、結果的に二人は痛みなくセックスができるようになり、子どももできました。

クリニックとして、物理的に女性の体だけを治療したとしても、セックス自体ができないとどうしようもないと思ったのがきっかけです。

ーーー しっかりご夫婦で実践された結果ですね。

そうですね。セックスの課題は、医師が話して治るわけではありませんし、患者が悩みを共有すれば良くなるものでもありません。

なので、私のクリニックでは、性交痛の患者さんは基本的に全員きちんと内診をしてもらうことにしています。心の問題が大きい場合は心療内科で診てもらう必要もあります。

原因を把握した上で、対処法を実践する必要があります。挿入が怖くて力んでしまうのであれば、力を抜く練習や怖さを取り除く練習が必要です。

練習のコツを伝えて、基本的には患者さん達に自宅でやってきてもらい、できなかったことや、まだ怖かったことを教えてもらい、次にする内容を決めていきます。

ーー セックスは二人でするものだからこそですね。

セックスは、痛いのを我慢して、泣きながらするものじゃないです。私は学校での性教育も熱心にしていますが、セックスの位置づけはコミュニケーションの1つの方法です。

話をして相手を理解する、見つめ合う、手をつなぐ、そのような段階を経たもの同志が最終段階として膣内挿入をすると考えています。

つまり、日頃からきちんとコミュニケーションができていて、お互いを理解し、十分に意思を伝えられる二人がセックスをする権利がある。

そして、セックスはコミュニケーションの方法ですから、互いに「安心、安全、心地いい」じゃないといけないと思っています。

女の人がかろうじてなんとかできるようなものじゃなくて、パートナーにも協力してもらって、こうしてほしいとか、ああしてほしいということを言える関係性が必要です。

ーーー 痛いセックスなんて、本当はしたくないですもんね…。

昭和のアダルトビデオでは女性が「やめて」「嫌」と言いながらも、無理やりセックスをして、そのうち女性が気持ちよくなるというのがありますが、それは現実は違いますよね。

女性も自発的に気持ちよくなる権利がありますし、気持ちよくなっていいという認識をしてもらうべきだと思っています。なので、私のクリニックでは「お互いに気持ちよくなろう」という発信をしています。

セックスで大切なのは「お互い様」と思えること

ーー 主体的に性を楽しむために伝えていることはあるのでしょうか?

患者さんにはよくマスターベーションはきちんとしましょうと伝えています。膣の中に入れるのが怖くても、クリトリスを触るのは怖くはない患者さんがいたら、セックストイなどでクリトリスを刺激して、まずは気持ちいいというのを学習してもらいます。そこからトレーニングをしましょうと。

ダイレーターを使うときも、絶望的な気持ちで実践すると、セックスそのものも絶望的な気持ちになってしまうので、マスターベーションをして、ちょっと気持ちいいなと思ってからダイレーターを入れましょうと指導をしています。

ーーー義務的になっちゃうとテンションが上がらないですもんね…。

義務で頑張ったのにできなかったときの敗北感を感じやすくなってしまいますよね。

自己肯定感にも影響したり、このままセックスができなかったら、一生男性と付き合えないんじゃないか、結婚できないんじゃないか、子どもを産めないんじゃないかと考えてしまう人もいる。

結婚している場合だと、夫婦関係がうまくいかなくなるのではとびくびくしながら、相手に何も言えずに痛いのを我慢する。

それはセックスのあるべき姿じゃありません。

人間は365日、100年間、ずっと健康なわけではありません。自分が調子が悪いこともあれば、パートナーが突然EDになったり調子が悪くなることもある。お互い病気になることもある。

自分が痛ければ、それをちゃんと伝えて、2人で理解をして努力をする。「お互い様」という言葉がすごく大事です。

そのなかで、セックスができないから女じゃないとか、外で女をつくるというようなこと言われたら、それは付き合う相手ではありません。

だから、正直に言えばいいんです。ただし、全てが嫌というのではなくて、できる範囲で努力をしたり、今の状況を相手にも分かりやすく伝えることが大切ですよね。

ーー 伝えた上で、挿入だけが正解でもないですもんね。

そうです。別に抱き合うだけでもいい。男性の場合、射精をしないと終了した感じにならないなら手ですることもできるし、TENGAなど射精を促すアイテムもあります。

私とセックスをしたいのは、私とコミュニケーションがとりたいからしたいわけで、絶対に膣の中で射精をしないといけないというわけではないんです。

ただ、それが本人としては、嫌だと感じたり、悲しいと感じるから、それぞれ皆さん努力している。

でもやっぱり、もうちょっと気楽に考えてもいいんです。「セックスができなくても、自分には価値がある」という自信をもってほしいですね。

お話を聞いた方

産婦人科医

丹羽咲江

1991年、国立名古屋病院(現国立病院機構名古屋医療センター)勤務。主に婦人科悪性腫瘍に携わる。1996年、名古屋市立城北病院(現名古屋市立大学医学部附属西部医療センター)勤務。名古屋市内から搬送されるハイリスク妊娠、分娩などに携わる。2002年、患者さんの話をじっくり聞きながら悩みを解消したいと考え、丹羽咲江レディスクリニックを開院。性交痛の治療にも力を入れている。2010年より、クリニックに思春期外来も開設。その他、中学校・高校・大学や少年院で性教育、一般女性を対象にした「女性の健康」の講演活動に取り組んでいる。

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