セックスが痛い。痛みが怖くて挿入を避けてしまう。どうしたらいいのか、誰に相談したらいいのかわからず悩んでいる……。
さまざまな原因がある性交痛。ランドリーボックスのアンケートでも、痛みに悩んでいる方の声が多く上がっています。
今回は、膣内への挿入に慣れていくためのアイテム「ダイレーター」について解説します。
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「挿入に慣れていくことよりも、まずはじっくり時間をかけて自分の気持ちや怖いイメージを少しでも取り除いていくことが大切」
こう話すのは、産婦人科医の早乙女智子先生。
ダイレーターの使用方法、パートナーと一緒に使う方法、内診での実際のケースも交えて話を聞きました。
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ダイレーターとは?
ーーダイレーターとはどういうものなのか教えてください。
早乙女先生:膣ダイレーターは、ワギニスムス(膣けいれん)や性交痛に対する腟周囲筋のリラクセーション法の習得などのために用いるものです。
クリニックにおいては、医療者の指導のもと患者自身が使用する器具の一つです。婦人科で医師が処方するものや、オンラインストア等でご自身で購入できるものもあります。
細いものから太いものまで種類があり、少しずつ膣を拡張していくことで挿入障害を克服していく仕組みです。
女性の膣自体、10代の前半はまだそれほど広くはないのですが、10代後半から20代になっていくと、基本的には広くはなっていきます。挿入がうまくいかない場合にこういった器具を使って自主トレをしていくわけです。
ーー膣ダイレーターには種類があるんでしょうか?
はい、ポリエチレン素材のしっかりとした硬さがあるものから、シリコン性の柔らかめのもの、少しカーブがついている形状のものなどさまざまなタイプがあるので、ご自分に合うものを選んでいただければと思います。
ダイレーターはどのタイミングで使いはじめるの?挿入の怖さを取り除くには?
ーー早乙女先生は、性交痛のどの段階でダイレーターの使用を勧めているんですか?
「性交痛」というくくりの中に、「性嫌悪症」という症状が紛れ込んでいる場合があるんです。性嫌悪症は、性的なことすべてが嫌と感じる症状です。
そうなると、「痛い」以前に「いや」なので、一番細いダイレーターでも、「挿入する」という行為自体が無理になってしまう。
ですから、まず膣内に挿入すること自体が可能かどうかを確認する段階があります。
「嫌悪」までいかなくても、「痛いというより怖い」という人もいるので、その場合も、性行為に取り組む前に「挿入することに対する怖さ」を取り除いていくことが先になります。
ーー怖さを取り除くには、どのようにすればいいのでしょう?
「痛いから怖い」のか、「怖いから痛い」なのかを判別するところからですね。
何かが入ってくる、侵入される感じがすごくいや、という方がいらっしゃるので、そういう方には「少しくぼんだところに何かを当てることはできますか?」という話をするんです。
ーー例えば、手のひらに指を押し込む、などの行為でしょうか?
そうですね。身体的な感覚というより、脳の方で何か鋭いもので突き通される感覚のイメージが強いと、それだけでも拒否反応が出てしまう。
私たちが患者さんに触れる時も、触れ方によっては平気な場合が多いです。なので、器具を挿入するのではなく、まずは触れるところから始めていきます。
ーーなるほど。性交痛といっても、症状や段階がいろいろあるんですね。
膣内部が狭くて物理的に入らなかったり、すごく頑張ったけれど入らなかったり、どこが入り口かよくわかっていなかったり、挿入で痛い思いをしたことがあるから怖いなど、人によって理由はさまざまなんです。
なので、「細いダイレーターから始めましょうね」で済む場合と、それより遥か手前の、「挿入」や「挿れる」という言葉自体がNGな場合もあります。
カウンセリング中に「気持ちが悪いです」とめまいや吐き気などの不調で倒れてしまう方もいる。段階の差はとても深いです。
まずはリラックス。次に身体の構造を理解して
ーー少なくとも挿入まで頑張ってみようという段階の方に対してダイレーターがおすすめということですね。
挿入の怖さは、太さではなく、感覚の問題なんです。みなさん、そこまで考えてセックスをしていないと思うんです。
でも、すごく繊細かつ難しい状況に陥っているからこそ、ちょっとでもいやな要素を省いていかないと進まない。
自分の指は無理だけど、誰かの指だったら大丈夫という人もいますし、逆に器具なら入るという方もいます。
ダイレーターを使う場合は、太さの段階があるので一番細いものから順番に慣らしていくかたちになりますが、使用にあたっても、クリアするポイントがいくつかあります。
ーー細いものから挿入すればいい、というわけではないんですね。
そうです。まずは力が抜けるかどうか。そして、力が抜けた状態で膣の入口が見つかるかどうかですね。
小陰唇が長くてしっかり閉じている方だと、まず小陰唇を開き、どのあたりに挿れるのかを見ないといけません。挿れるところがわかっても、どの方向に挿入すればいいかでつまずくケースもあります。
ーー 挿入の角度って習わないですよね。まずは構造を理解するところから始めるんですね。
膣も、人によっていろんな向きをしているので真っ直ぐなわけではないんです。
少し曲がっていたりとか、土手のように超えなければならない部分がある方もいらっしゃいます。
ダイレーターはある程度硬いので、押し込んでいけば入りますが、少し角度をつけてどこに向かって押すのかを試してみないといけません。
ーー 挿入角度がわからない場合は、婦人科で教えてもらうこともできるんですか?
そうですね、そのような相談を受けた場合は、産婦人科医として診察させていただいて、「あなたの場合はこっち向きだから、ここからこう挿れていきましょうね」とアドバイスをしながら進めていきます。
ーー 内診をして角度を見るということでしょうか?
そうです。でも、その内診をする際に、内診台に上がってもらえる人と、もらえない人がいます。
それだけで泣いてしまう方もいらっしゃるので、その場合は内診台ではなくベッド上で膝を立ててもらって力抜いてもらって、ゆっくり触らせていただいて、力を抜いてリラックスができる状態になったらそっと指を入れて内診をしていきます。
先ほどお伝えしたように、嫌悪までいかなくても恐怖のある方だと、太ももの内側に触れただけで怯えてしまうので、じっくり進めていきます。
ーー 性的なことを連想してしまうことが、すべて嫌だという方もいらっしゃるのでしょうか。
はい。理由は医師では確認しきれない部分もありますが、過去の嫌な体験も起因します。
ですから、そのあたりはあまり掘り起こさずに診療を進めていくことが多いです。思い出せないのであれば、思い出さなくていいし、むしろ思い出さない方がいい。
ただ、せっかくいいパートナーと出会って、なんとかしたいと思っているわけだから、自分一人でというよりは二人で一緒に前向きにしていけたらいいよねということで、自主練案と二人でのトレーニングをお勧めしています。
ダイレーターの使い方は?挿入後は、動かすよりも開かせた状態でキープすることが大事
ーー 一人で使用する場合、ダイレーターはどのように使えばいいのでしょうか?
まずはベッドや布団の上などで、ご自身が楽な体勢になりましょう。お風呂やトイレの方が落ち着く、やりやすいという方もいるでしょう。
明るさ、部屋の広さ、音楽やアロマなどでリラックスできる雰囲気を作ることも大事です。仰向けで膝を開くのか座って覗き込むのか、姿勢も工夫してみましょう。
基本的には、一度ダイレーターを膣に挿入したら10分ぐらいそのまま置いておいて、少し開かせた状態でキープができるかどうかが大事です。入れてすぐに抜いてしまうとまた閉じてしまうので、挿入したまま様子を見てもらいます。
ーー 慣れるまではダイレーターが挿入しづらいこともありそうです。滑りやすくするために、水溶性のジェル等を併用した方がいいんでしょうか。
そうですね。緊張すると、それだけで膣内が乾いてしまうので、潤滑剤を使いつつ、できれば自分が性的に興奮できるような妄想、セクシャルファンタジーなんかを思い浮かべながら使っていただきたいです。
ーー 挿入する際は膣の奥まで挿れた方がいいんですか?
膣の奥の方というのは、放っておけば伸びるところなので基本的には問題がないという方が多いです。なので、奥まで挿れる必要はまったくありません。
一番挿入しにくいと感じるのは膣の入り口から1〜3cmの部分ですね。大事なのは、いわゆる処女膜といわれる小陰唇の内側の部分です。
膣の中にダイレーターを挿れて、上げたり下げたり角度をつけてみて、入り口が開いていくかをみるのが一番いいですね。「処女膜強靭症」といって、処女膜が伸びにくい人の場合、まずこの動作が痛いんです。
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「この程度入れば十分です」
ーーまずは入り口が開くかどうかをみるんですね。
そうです。いきなり動かさなくていいので、まずは10分ほどいれたままにしてから、角度をつけて入り口が開くかをみる。それから、可能であればピストン運動をしてみる。それが大丈夫になったら、次の太さを試す、そしてまたキープするという流れです。
ーーダイレーターを入れてみて、あまりに痛かったら病院での処置になる場合もあるんですか?
処女膜というのは完全に円形なわけではなくて、ヒダのようになっているので、基本的には少しずつ伸ばしていけば伸びます。
まずは、怖くないイメージ作りがもっとも重要で、2番目がその構造と自分の性質を理解することですね。
ただ、稀に綺麗な円形の方がいて、その円形のサイズ以上はどうしても入らないという場合は、病院で輪状処女膜切開手術で切れ込みを入れる処置が必要な方もいます。この手術は保険適応です。
トレーニングをするタイミングはいつ?しなければいけないと思わないで
ーー 人にもよりますが、どれくらいの頻度でトレーニングを進めたらいいんですか?
頻度が高ければ高いほど早くは進みますが、実際に使用する方々はもともと性的なことが 苦手な人が多いので、週末だけなんとか頑張っています、という方もいます。理想を言えば月2回以上は使わないと効果が感じづらいです。
でも、よく患者さんにお話しているのが、「お仕事にしないでね」ということです。
ーーしなければいけない義務だと思わずに使って欲しいということですか?
そうです。「お家で使ってみてね」と伝えると、日本人は真面目な方が多いから、「やらなきゃって思ったけど、できませんでした」と落ち込んでしまう方が結構いらっしゃるんです。
「やらなきゃ」と思ったらできないんですよ。でも、できないままでは進まないので、外来で私の小指が入るところまでいったら、「ダイレーターも同じ太さだから、自分でもしてみてね。できるところまででいいよ」とお話をします。
ーー 生理中など避けた方がいい時はありますか?
生理の終わりかけは、生理の血で膣内も濡れているので挿れやすいんですよ。血が出て嫌だと思わなければ使用しても問題ありません。
ダイレーターを二人で試す場合も、焦らずプロセスごと楽しんで
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ーー 二人で使用する時にはどう使えばいいんでしょうか。
二人で使うときこそ、業務みたいになってしまうとよくないので、なるべく二人でハグやキスなどのスキンシップで盛り上がったところで、濡れてくるようであればさらに潤滑剤をつかってダイレーターを挿入してみる、というのがいいですね。
ーーパートナーの方がダイレーターを持って挿入してみるということでしょうか。
そうです。その方が、パートナーも実際に挿入する際の挿入角度がわかってくるようになります。
セックスが痛いというのは、お互いがつらいですよね。もちろん痛みがある人の方がつらいわけですが、相手も痛くしようと思っているわけじゃないですから。
そういう状況で「痛い」と言われるとすぐにやめる男性も多いんですよ。
ーーお二人で外来に来られる場合もあるんですか?
ありますね。お一人のときと同様、挿入が怖くないか、挿入角度の付け方等を一緒にお伝えします。
カップルの場合だと、どちらかが改善にすごく積極的になると反対側が引いてしまうケースもあります。
ーーなるほど……。すれ違いが起きてしまうんですね。
例えば、「先生にいろいろ聞いてきたし頑張ろう」と毎日のように頑張っているパートナーを見ると、相手が萎えてしまう。
二人でセックスがしたくて頑張っているのに、頑張っているところが裏目にでてしまうことも。なので、2人で進める場合は、闇雲に頑張ればいいということではなく、相手の反応も見ながら歩幅を合わせて進めていくことも大切です。
ーー太いダイレーターにだいぶ慣れてきたら、次は男性器で試すのがいいのでしょうか?
それも、決めてしまうと身構えてしまうことがあります。
私は、男性側には、「挿れるよ」の声かけはしないようにと言うんですが、声をかけてしまう方が多いですね。そうすると、女性側が挿入を意識してしまい、身体にキューっと力が入ってしまって挿入ができない場合も多いです。
なので、声かけをするよりは、ダイレーターの挿入の流れで、自然と男性器を挿入してもらえると挿れやすいかもしれません。
ーー 気持ちの状態が大事なんですね。
そうです。あくまで、気持ちやイメージのケアをしつつのダイレーターなので、ダイレーターを出し入れすればうまくいく、というわけではないんですよ。
挿入できなかった期間が長かったり、一度も気持ちいいと思ったことがない方もいます。それを解いていくのは、例えば5年苦しんだなら5年かかると考えておいてほしいです。
それが3年に縮まってよかったねくらいの感覚でいた方が気持ちも楽かと思います。
実際にはそんなにかからないですが、そのくらいのつもりでゆっくりやっていただければと。
ーー 焦らず長い時間をかけていく必要があるんですね。
どうやってセックスを楽しんでいこうかとか、今の状態でできることはなんだろうかとか、じっくり取り組んで欲しいですね。
2人でするには月1〜2回しか時間を取れないけど、あとは自主練をしようね、とか。
セックスは「体遊び」と思って。コンプリートしなくてもいい
ーー そこまでコミュニケーションを取りながら進めていけば、仮にどうしても挿入ができなかったとしても違う形でのセックスにたどり着きそうですね。
そうですね。挿入にこだわらないというのも一つの考え方です。他の性感帯を刺激することもできますよね。
例えば、ダイレーターを使う際も、クリトリスで先に女性がイってからダイレーターを挿入するという方法もあります。
イくというのは体が緩んだということですから、それから挿入する方が入りやすくなります。
ーーいろんなカタチがあっていいということですね。
セックスは、コンプリートしなくてもいいんですよ。途中リタイアでいい。
「今日はここまでしかできなかった」という考え方をしちゃうと、失敗体験としてカウントしてしまうので、「今日はここまでできたね」と潔く終了することも大切です。
ただ、その状況を変えたいという場合には、もう一歩だけ進める努力が必要になってくるんですが。
ーー 痛みがあるからこそ、もう一歩進めることに勇気が必要だったりしますよね。
そうですね。内診の場合は、こまめに声かけをして、ひたすら気持ちの準備ができるまで待ちます。
まずは内診台に座って呼吸していただいて、落ち着いたら横になってもらう。そこからさらに「準備ができたら台上げるから言ってね」と声をかけます。
台に上がるまで何分もかかることもありますし、「今日は無理です」とそのまま帰る人もいます。
ーーまずは、「準備ができた」とか「今日は無理」と言える段階まで持っていってあげるんですね。
そうです。まずはその練習をしていくことで、だんだん「自分はOKを出せるんだ」とか、
「ここは大丈夫」とわかり、意思表示ができるようになる。
その段階をクリアできれば、「一番細いダイレーターはできるようになったから、次はいつから太い方にいこうか」というのが自分で決められるようになります。
自分で決めることに自信がついたら、「そこは痛いからやめて」とか、「こういう風にしてもらいたい」とも言えるようになり、進みやすくなります。
ーー 本当にメンタルの部分が大きいんですね。
だからこそ、2人でコミュニケーションしながらできるとなおいいですね。
女性側も必ずしも受け身になる必要はなくて、いやだったら断ればいいし、今日はしたいなと思ったら自分から言えばいい。
ただ、自分の構造や感覚を掴みきれない部分もあるので、自分の指でもいいし、ダイレーターやパートナーの指、他の道具など、そのときの気分で試してみたらいいと思います。
ーー「しなきゃいけない」と気負わずに、あくまで自分がしたいと思える段階までいけるかどうかなんですね。
仕事と遊び、という言い方をしたらよくないかもしれませんが、セックスは「体遊び」なんですよ。それくらいの気持ちになってもらえたらいいですね。
自分の体がどんなふうに反応するのかチェックするメンテナンスでもありますよね。
必ずしもダイレーターを使わなければいけないわけではなくて、挿入に慣れていけたらいいよね。こういった器具を上手に使用しながら、自分とお互いの体に向き合っていってほしいです。
執筆:風音
取材:西本美沙