「挿入障害」という言葉をご存知ですか?
挿入障害は、女性性機能障害の一種で“腟に男性器を挿れられない状態”のことをいいます。
挿入障害の要因はさまざまですが、挿入への強い恐怖や拒否感など心理的要因のほか、処女膜が閉じていたり、生まれつき処女膜が厚くて破れにくかったりする症状が原因とされています。
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今回は、そんな「挿入障害」を抱えながら結婚をした女性のインタビューをお届けします。
お話を聞かせてもらったのは、アニメ制作会社で働くみうをさん(28歳)。長いこと処女であることに悩んできましたが、現在の夫と出会い、同棲を経て性交渉がないまま結婚しました。
性嫌悪や挿入障害に悩みながら数々の出会いを経て、現在のパートナーである夫と出会ったみうをさんは、これまでの経験を「貫通日記」というタイトルのエッセイにまとめ、フリーマーケットや即売会などで頒布しています。
そんなみうをさんのこれまでの悩みや、夫に出会ってからの変化などを聞いてみました。
恋愛はセックスありきの「ギブ&テイク」な関係?
ーーいまも処女ということですが、結婚相手に出会うまで、恋愛や交際経験はありましたか?
恋愛体質だったので、交際経験は多いと思います。でもすべてプラトニックな関係でした。
10代の頃はセックスがなくてもお互いが若かったから大丈夫でしたが、20代になってからはセックスがないと関係が続かなくて…。別れてはゼロからやり直すということを繰り返していました。
そうやって出会いと別れを繰り返していくうちに、恋愛には「ギブ&テイク」の関係性があると感じるようになってしまったんです。
ーー みうをさんが感じる“ギブ&テイク”とはどういうことですか?
たとえば関係性を続けていく中で、好意をもらったら、セックスで返さなきゃいけないみたいな感じですね。自分は相手から好意をもらってもセックスで返せないので、それが焦りや満たされないことにつながっていったと思います。
自分はこのギブができないことで、関係性が長続きせず、どんどん自己肯定感が下がっていきました。
ーー 一緒に過ごす時間の中でハグやキスをしたいという感情はあったんですか?
そうですね。
わかりやすくいうと、私は性的な行為がない少女漫画的な関係を望んでいました。それはハグだったりキスだったり。セックスのない関係において、普通にドキドキして恋愛をしていました。
でも、相手はその先に進みたいと感じますよね。自分はそれに応えることができない。どうしてもセックスの雰囲気になると、「うっ」と怖くなってしまって。
できなくても、最初は相手も「いいよいいよ〜」という感じなのですが、いつの間にかセックスできないことですれ違いが生まれて、相手の恋愛感情が冷めていき、別れてしまうという感じでした。
ーー みうをさんは挿入を伴うセックスの行為に、なぜ嫌悪感を抱くようになったのですか?
中学生の頃、婦人科にかかったことがきっかけです。私は生理が重たかったので、母が留学前に婦人科に連れて行ってくれて。どんな診察をするのかもわからないまま、いきなり内診を受けることになったんです。
性体験もない状態で内診台にあがり、器具を挿入されてとてもショックでした。自分の体内に異物が侵入してくる感覚がとにかく嫌でしたね。これがきっかけで挿入に対する嫌悪感が生まれてしまいました。
母は私のことを気遣って婦人科に連れて行ったのに、結果的にこんなことに……。
それ以来、挿入を伴うセックスができずにいます。だから、挿入せずに愛情が育めたらいいな、そういう関係が続けられたらいいなと、ずっと思っていました。挿入を伴うセックスでしか愛が育めない、という考えには、今でも疑問があります。
セックスなしで続かない関係に悩む日々
ーー 性に関しての興味はいつ頃から持つようになりましたか?
初めての彼氏ができた中学2年生くらいの時ですね。相手は高校生だったので、セックスに興味はあったと思いますが。キスしたり、ハグしたりというのはあったけど、お互い踏み切れず。最後まではしませんでしたが、お互いの身体を触り合うことはあったかもしれないです。
ですが結局セックスはしないまま、彼は受験シーズンに入ったので自然消滅をしました。
ーー 今まで処女で悩んでいたことはありますか?
とくに自分の心と身体のちぐはぐさには混乱していました。相手のことが好きだから体を委ねたいけど、性嫌悪から身体は開かない、という感じです。
身体は受け付けないけど相手のことは好きなので、セックスなしでどうやったら愛情を伝えられるのか、かなり悩みましたし、困惑もしました。
あとは、性経験がないことで、不安や未熟さを漠然と感じてしまい、自己肯定感も下がっていたと思います。
ーー 相手には愛情はあるけど行為ができないことの葛藤をどのように伝えていましたか?
もちろん、言葉ではちゃんと愛情を伝えていました。とくに関係性を真剣に考えている相手には、婦人科でのトラウマのことや、交際経験があってもセックスに至らなかったことも話しました。
これまでにお付き合いした相手も最初は「(セックスしなくても)いいよ」と言ってくれるのですが、時間が経つと「俺がダメだから身体を開いてくれないんだ」と言われてしまうこともありました。どんなに事情を話しても、男性はセックスできないと愛情を信じてくれなくて悲しかったです。
せっかくいい関係になっても、セックスができないと続かない。男性は「好き=セックスできる」と思っている人が多いようで、「セックスできない=好きじゃない」となってしまうのですね。
したくてもできない場面を繰り返すうちに私への気持ちがどんどん離れていってしまう。それに気づいてしまうことが悲しくて辛かったです。
私は愛情とセックスは切り離せると思っていますが、出会ってきた男性はそうではなかったようです。
経験のない私を受け入れてくれた夫との出会い
ーー 処女であることで悩んでいたことは、解消されましたか?
経験がないことで、今でも漠然とまだ未熟なのだ、という意識はあります。でも今の夫と出会ったことで自分自身のことを知り、性嫌悪にも向き合えるようになりました。
もちろん、夫のことは好きなので、セックスをしたいという気持ちはありますが、以前のようなセックスができないことへの後ろめたさはなくなったと思います。
ーー 夫さんと出会ったことで解消されたのですね。どのように出会ったんですか?
恋活アプリで出会いました。交際して2年で同棲を開始して、3年目で結婚しました。
6年間アプリでたくさんの人に出会って、交際にまで至った人もいました。でも、先ほどお話しした通り、すごく好きでもセックスの壁が乗り越えられず…。
夫は唯一、その壁を乗り越えられた人だったんです。
ーー 処女であることを彼(現在の夫)にどう伝えましたか?
付き合ってすぐに伝えたと思います。彼の家に行った時に、セックスの雰囲気になりかけて、その時に切り出しました。
ーー その時の反応はどうでしたか?
「そうなんだ〜」って感じで受け止めてくれましたね。それでも関係性を無理に進めることもありませんでした。
カミングアウト後もチャレンジはしましたが、「今回はダメだったけど、次できればいっか〜」みたいな感じだったんです。だから彼とは気楽な関係でいられました。
ーー 旦那さんと出会って性嫌悪に向き合えるようになったとのことですが、今も処女なのですよね?
はい。現在も処女のままですね。
夫とは性機能外来に通院したり、膣ダイレーター(挿入障害がある女性のためのケアグッズ)を使って練習したりしていました。でも、本物の男性器とダイレーターは違うので、限界があるんですね。
「ふれあいを大切にしたい」という夫の提案もあって、できるだけ彼自身を受け入れられるようにと練習しています。完全に閉じていた状態から、少しずつ開いていっている感じです。
まだ完全に貫通はしていないですが、そのうちいけるかな?そうなるといいな、と思っています。
必ずしも挿入を伴わなくてもいいと思えるようになった
ーー旦那さんとはセックスについてどんな話をしていますか?
基本的なスタンスとしては「挿入しなくても、心が通い合ってハグとか肌が触れ合えればいいよね」という感じですね。
あとは、フェムテックに出会えたことがよかったと思っています。挿入障害のための医療用ダイレーターや、セルフプレジャーグッズ、カップルで使えるラブグッズなどもいろいろあるので、お互いの関係性を考える幅が広がったと思います。
ーー素敵な関係ですね!出会ってからセックス観についての変化はありましたか?
性機能外来に夫と通院していますが、会話を重ねていくうちに、セックスは必ずしも挿入を伴うものでなくてもいいと思えるようになりました。セックスがあろうがなかろうが、お互いが信頼して仲良くできればいいと考えられるようになったのは大きな変化ですね。
夫とは、ハグするだけとか肌に触れるだけでも安心するので、それが大切だと思うようになりました。
結婚する前から性機能外来には通っていたのですが、彼は私の問題を自分ごととして考えてくれるような人です。彼はどちらかというと性欲は強い方だと思うのですが、私がセックスできない状況を理解して、性欲を抑えてくれています。もしかしたら、発散する方法が彼にはあるのかもしれませんが(笑)
今はダイレーターによる練習をやめていますが、いつか自分たちの力で最後までできるようになりたいと考えています。
ーーおふたりで挿入障害を乗り越えたいと思っているんですね。
はい。ちょっとずつトライしながらできるようにと考えていますが、「入らなくても大丈夫。でも、いつかはね」という感じで焦ってはいないです。
今は、ふたりで家で小難しい話をしたり、ふざけ合ったりと、ふたりだけの生活を楽しんでいます。その中で、「いつかできたらいいね」とセックスできることに希望を持って、焦らずにゆっくり進んでいきたいと思っています。
その先にいつか子どもが持てたらいいね、と話していますが、今すぐには求めていないです。
夫とは「未完」ではなく「補完」し合う関係
ーーいまも自分が処女であることについてどう思いますか?
以前は、自分が処女であることで未熟だと思っていたのですが、その時のようなコンプレックスは少なくなりました。
不思議ですが、セックスができないことを乗り越えることで、夫との絆は強くなっていっていると思います。セックスがうまくいかなかったから、今があるという感じでしょうか。
帰宅したら一緒にご飯を食べる相手がいてよかったと思いますし、良き理解者に出会えて幸せだなとしみじみ感じます。
あと、夫は自分がどれだけ私のことを思っているのかを語ってくれるんです。「仕事の悩みを一人で抱えきれないから、(みうをさんが)家にいてくれてよかった」と言葉で伝えてくれます。彼からの愛情を感じられて本当に幸せです。
“愛とは何か”ということを考えるきっかけになりましたし、結婚して本当によかったと思いますね。
ーーみうをさんは本当に素敵なパートナーに出会ったんですね! 最後に処女であることに悩んでいる人にメッセージをもらえますか?
たぶん、「自分だけがセックスできていないのでは」と悩みを抱えている人は多いと思うのですが、一人ではないですし、同じ悩みを抱えている人は意外と多いので大丈夫だと伝えたいです。
世界は自分が思っているよりもずっと優しいですから、そんな状況を受け入れてくれます。
私の場合は、経験がないことが恥ずかしいから、経験する相手がいないから、性そのものに抵抗があるから…と、なぜ自分が悩んでいるのかを考え、紐解いていく作業をしました。それは辛く苦しい作業でしたが、考えていくうちに解決や自分を救うことに繋がりました。
そして、処女である私を受け入れてくれる夫に出会い、結婚することができました。だから、セックスの経験がないことは恥ずかしいことでは決してないんです。
セックスをするのが「普通」という風潮がありますが、周囲を見回せば「普通」なんてあってないようなものなんですね。私のようにセックスをしないまま結婚できるし、それを受け入れてくれる男性もいるんです。
私たち夫婦のような関係を世間一般では「未完成婚(婚姻関係を結びながら、さまざまな事情があり夫婦間での“挿入行為のある性交渉”が一度もない状態のこと)」なんて言われますが、本当は「未完」ではなく、「補完」しあっている関係なんです。
セックスがなくても、お互いを補完しあっていくというのも、夫婦という形のひとつだと思います。
私は自分の克服までの経験をまとめて「貫通日記」という本にしました。まだ“貫通”を達成する途中ですが、同じような境遇で寂しさを抱えている人がいれば、私の経験を共有することで、誰かひとりでも救うことができれば嬉しいです。
