10代の頃から、「パートナーとのセックスが痛い」という悩みを抱えていたIさん(28)。指を一本入れるだけでも激痛が走り、婦人科の内診でも、痛みに耐えて背中にじっとり脂汗をかくほど。しかし、医師にも「気持ちの問題」と言われ、原因も解決策もわからずにいました。

「同じ悩みを抱えた仲間が見つかるかも」とあえて友人たちに悩みを口に出してみたら、「他の人と試したら?」、「たくさんすれば慣れるよ」と言われてしまい、次第に誰にも悩みを話せなくなったといいます。

そんな中、SNSで性交痛に悩むコミュニティを見つけ、情報交換ができるようになったIさんは、現在悩みを相談できる病院を見つけ、新幹線で通院しながら治療を続けています。

今でも身近な人に悩みを相談できる人はおらず、孤独を感じているというIさん。「同じ悩みを抱えている人に届いてほしい」という想いから性交痛に悩んできたこれまでを話してくれました。

セックスが痛いのは「気持ちの問題」なの?原因がわからず一人で悩んだ10〜20代前半

Photo by Zou Meng on Unsplash

ーーIさんは、性交痛にずっと悩んでいるのですね。

はい。10代の頃からずっと痛みに悩んでいます。もともと生理不順で婦人科に通っていましたが、内診で器具を入れるのがすごく痛かったんです。

医師に「痛い」と伝えても「気持ちの問題」だと言われてしまって。当時はなにもわからなかったので、「医師が言うならそういうものなんだ」と思っていました。

ーーセックスをするときも、痛みがあったんですか?

そうです。当時付き合っていた彼氏がいましたが、指を一本入れるだけでも痛くて、一年以上セックスを最後までできませんでした。

彼氏と「なんでできないんだろう」「お互い初めてだからなのかな?」と一緒に悩んで、 「間隔をあけずにすれば慣れるんじゃないか」と思いトレーニングのようにほぼ毎日ホテルに行って試してみました。

最終的に、ベッドのへりに頭をぶつけながら、なんとか膣内に挿入しましたが、セックスはずっと痛いままでした。

ーー初めて同士な上に、病院で「気持ちの問題」と言われているとどうしていいかわからず不安ですよね。

今でも忘れられないのが、そのときの彼に「拒絶された気がする」と言われたことです。

彼のことが嫌いだから痛いわけじゃないし、いちゃいちゃするのは好き。セックスだって本心ではしたいけれど、痛いからできなかっただけなのに、彼の言葉を聞いて私までも「もしかしたら、本当に好きじゃないから痛くなってしまうの?」と落ち込みました。

セックスだけが原因ではありませんが、当時の彼とは結局別れてしまいました。それからはセックスができないことを引け目に感じてしまい恋愛ができず、その後は恋人ができたことはありません。

ーーセックスがうまくいかないことで気が引けてしまうのですね。

当時、彼とのセックスのことを友達に相談しても理解してもらえないこともつらかったです。

「たくさんすれば慣れるよ」とか、「相性が悪いんじゃない?」、「他の人と試したら?」なんて言われてしまい、落ち込みました。

「私も初めは一回じゃできなかったよ」と言われるのすら、「でも今はできている」とマウンティングに聞こえてしまって。

友達に悪気がないのはわかるんです。きっと、アドバイスのつもりで言ってくれているのだと思います。悪気がないからこそ、その言葉を素直に受け止められないのがつらかったです。

ーーただでさえセンシティブな悩みなのに、「他の人としたら?」なんて言われたら傷ついてしまいますよね……。

彼氏と別れてから、「回数をこなそう、チャラい人と遊べばいいんだ」と思っていた時期もありました。

マッチングアプリを使って、いわゆる「ヤリモク」の人を探して会ってみたんですが、次第に「これはお互いのニーズにあっていない」とわかってやめました。

ーー「ニーズに合っていない」とはどういうことですか?

私は、経験豊富な人なら「セックスが痛くてできない」悩みをなんとかしてくれると思っていたんです。でも、彼らは「今日セックスができる人を探している」ので、悩みを打ち明けると戸惑われてしまって。

実際にセックスを試みても、結局痛いままでしたし、「こんなに痛がる子は初めて」と言われました。友達が言うみたいに相手を変えたり、セックスの回数を増やせばできるようになるんじゃないんだとわかっただけでしたね。

ーー最初にお話してくれた、「気持ちの問題だよ」と発言した医師以外にも、いくつか病院に相談したことはありましたか?

生理不順でいくつかの婦人科にかかりましたが、そこでは性交痛の相談はしていません。

でも、どの病院も問診票に「内診が痛い」と書いても、「性交経験がある」にチェックをしているからと、希望を無視して内診がおこなわれました。エコーや内診で痛みを伝えると変な顔をされたり、「ちゃんと子宮頸がん検診受けてくださいね」と言われたりしました。

ーー痛みに寄り添ってくれないとつらいですね……。他に、痛みを軽減するために試してみたことはありますか?

濡れづらいせいかな?と思い、潤滑ゼリーも試しましたが、私には効果がなかったです。

ダイレーターについても調べましたが、私は「入らない」わけではなく「入るけれどすごく痛い」ので、挿入に慣れるための器具を使うのも違うなと。

ダイレーターの医師インタビューはこちら

セックスが痛い、怖いを助ける「ダイレーター」の使い方。婦人科医に聞きました。

同じ悩みを抱えるコミュニティを見つけて、情報交換ができるように

Photo by Mihai Surdu on Unsplash

ーー自分なりに調べていろいろ試してみても、原因がわからないままだったのですね。

リアルの交友関係では悩みを共有できる人がいなかったので、どこかに仲間はいないのかと思いSNSやインターネットで「セックス 痛い」と検索しては泣いていました。

でもある日、SNSで「未完成婚」というセックスがつらい同士が集まったクローズドのコミュニティを見つけたので、そのためのアカウントを作りました。

ーー「未完成婚」?

結婚しているけれど、セックスができないから「未完成」ということみたいです。ひどい言い方ですよね。でも、このコミュニティを見つけたおかげで、痛みの解決の糸口がやっと見つかったんです。

ーー同じ悩みを共有できる仲間が見つかったのですね。どんな情報が得られたのですか?

コミュニティ内では、性交痛の治療ができる病院の情報交換がされていたんです。

自分が住んでいるエリアからは遠かったのですが、婦人科と泌尿器科が一緒になった病院があると教えてもらい、「なんとかなるかもしれない」と望みをかけて新幹線に乗って病院へ行きました。

ーー新幹線で!そこでの診察は、これまでの婦人科とは違いましたか?

その医師は泌尿器科が専門でした。自分の症状に当てはまる疾患の診断を伝えられました。

私の痛みと悩みをわかってくれる医師が見つかって嬉しかったです。

今は一年くらい通院していて、レーザーとホルモン剤による治療をしています。通い始めた頃に比べるとだいぶ良くなってきて、痛みで背中からお尻に脂汗をかくようなことはなくなったので、器具を膣内に入れる子宮頸がん検診を受けられるくらいに改善が見られました。

しかし、まだ痛む部分も残っています。私は完治を目指したいので、先生と相談しながら、他の治療法を試すことも含めて、さらなる解決策を模索中です。

ーー信頼できる医師に出会えて、具体的な治療をする段階に進めたんですね。

どれくらい治療をすれば、痛みが気にならなくなるのかはわかりません。

それでも、痛みを相談できる場所があるのは大きいです。安心して話せて、相談したことに対して解決策を持っている専門家に巡り会えたのはラッキーだなと思っています。

もし同じ症状で悩んでいる人がいるのなら「一人じゃないよ」と伝えたい

Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash

ーー誰にも相談できない頃よりましとはいえ、終わりが見えない状況ではあるわけですね。

休みの日を使って新幹線で通院している上に、治療費も自費ですから、金銭的にも時間的にもつらいです。親に支援してもらってはいるけれど、毎回親に症状を説明するのもつらいです。

みんながお金をかけずにできているセックスに、どうして私は数十万円をかけないといけないんだろうと思いますし、「セックスができない」ことで、自己肯定感が下がってしまいます。

私は今28歳で、婚活をしています。将来的には子どもも欲しいと思っています。

性交痛に理解をしてもらえたとしても、痛みのあるセックスを続けるのはつらいし、そもそも理解のある相手を見つけるにも時間がかかる。であれば、治療を進めて、無理なく交際できる体になりたいんです。

これは、猥談じゃないし、エロでもなんでもないですよ。身体の不調を治したい、それだけなんです。

ーー身体の痛みはもちろん、金銭面や精神面など、多方面で負担が大きい悩みですよね……。

周りに相談できる人はいまだにいなくて、今でも孤独だなと思うことがあります。

学生の頃は、周りにもきっと同じ症状で悩んでいる人がいるはずだと思って、ありのままに「私、セックスが痛いんだ」と話していたんです。でも、誰もわかってくれなかったし傷ついただけでした。

信頼できる医療機関が増え、治療の選択肢も増えてほしい

Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash

ーー「人に話すのはやめよう」と思っていた中で、今回のインタビューに応じてくれたのはどうしてですか?

悩んでいる人たちはきっと情報が欲しいはず。私はずっと情報がなくて困っていたので、同じ状況の人に、「一人じゃない」ということと、「病院を探す」という選択肢があると伝えたくてインタビューを受けました。

私が悩みはじめた大学生の頃は今よりも情報がありませんでした。当時はネットで「セックス 痛い」と調べても何も出てこなかった。

昔より情報がある今でも、性交痛の原因は精神的なものや体質的なものなど、何種類かあると言われています。婦人科医の中にも、精神疾患と言っている医師もいれば、粘膜や体の構造と言っている医師もいる。

私も、病院によってまったく違う診断をされて困惑しました。今は、自分が納得のいく説明をしてくれる医師が見つかり、幸いにもレーザー治療がある程度効いていますが、これが最善かどうかはわかりません。

ーー医学が進んでいる中でも、性交痛の治療はまだ研究や治療法が確立されていない分野ですよね。

そもそも、私みたいに「セックスが痛い」人は、「いない」ことにされているように感じます。

せっかくフェムテックが注目されてきて、セルフプレジャーやデリケートゾーンの悩みがケアされても、「入らない、痛い」側の人たちはそもそもその段階にいけない。

同じ女性からしても、私たちって「いない」んだなと感じます。

信頼して相談ができる病院が増えてほしいし、治療の選択肢も増えてほしいです。「痛い」「入らない」症状があると知ってほしい。

そのためには私たちが「いる」ことを認めてもらうことから始めないといけない。その一助になればと思い、お話しました。

性交痛の悩みは、まだ大声では言えない現状があります。それでも、少しでも多くの人に声が届き、性交痛で悩む人が減ってほしいと思っています。

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