閉経して楽になったといえば楽になった。
白い服を着ても何の心配もないし、妊娠の心配をすることなくセックスができる。旅行の予定も好きなように組めるし、重苦しい痛みや、どうにもならない眠気、だるさ、ああいう不調とはもう無縁なのだと思うとこの先の人生はバラ色だ。
そう言いたいところだが、女性ホルモンの分泌が少なくなると、あちこちに不調が出る。そして悲しいのは体中の水分量と、性欲が減退することだ。
あちこちが乾く、閉経後の身体
閉経してから5年、年々体中の水分量が減少している。
とにかくあちこちが乾燥する。肌の乾燥はもちろん、喉が乾いて(渇いて、ではなく)食べ物が飲み込みづらくなり、餅を喉につまらせて死ぬ自分を具体的にイメージできるようになった。
鼻の穴も乾き、夏の暑い日は呼吸がなんとなく苦しくなる。目はドライアイに悩まされ、肛門も乾くので便秘がひどくなる。そして膣や外陰部も乾いている。
2018年にグランプリを受賞した「東京女子エロ画祭」のプレゼンで、私はバルトリン腺液(*)の分泌が少なくなったことを話したが、振り返るとあのころはまだよかった。たった3年でバルトリン腺液の分泌はさらに激減していると感じるのである。
*バルトリン腺液…性交時に潤滑油の働きをする分泌液
バルトリン腺液の激減とともに、性欲も減退している。
30代、40代のころは、性欲がたぎっていて、毎日でもセックスしたいほどだったのに、この頃はと言えば、とても静かな気分で、人は生きながら涅槃(ねはん)にたどり着けるのではないかとさえ思ってしまうほどである。
濡れにくい身体でのセックスは重労働
エロをテーマに制作をしている作家にとって、性欲の減退が制作に影響を及ぼすような気がして、毎日不安にかられている。性欲の減退とともに、脳内からエロが消えているような気がしてしまうのだ。
若い作家の、愛だの恋だのにセックスが絡んだ作品を見ていると、たぎる生命力が羨ましい。理屈抜きに、宇能鴻一郎作品のヒロインのように「アソコがじゅん」となってしまうような感覚を取り戻したいと日々苦悩している。
脳内のエロが消えてしまわないよう、夫とは定期的にセックスをしている。
なくなりそうな女性ホルモンにしがみついて、なんとか脳内をエロで満たそうと頑張るのだが、濡れにくい身体でのセックスは若い頃に比べると負担が大きく、毎回結構な労力が必要になる。
乾いた膣と外陰部はまるで掘削機を受け入れない岩盤のようで、黒四ダムのトンネル工事を思い浮かべてしまう。
黒部第四ダム(通称:黒四ダム)の建設工事は、歴史に名を残す難工事だった。とりわけ、資材運搬用の関電トンネルの工事現場は苛烈を極めた。その記録をもとに小説が出版され、映画にもなり、昭和の男たちが困難と戦いながらさまざまなプロジェクトを成功させたことを紹介するドキュメンタリー番組でも取り上げられた。
岩盤の前で掘削機が阻まれるたびに、私の脳内ではその番組の主題歌がループする。
昴や銀河、ペガサスやヴィーナスが見送られることなくみんなどこかへ行ってしまう。つばめよ、教えておくれ。痴情の星はそこにあるのか。
女性ホルモンとともに消えてしまいそうな痴情の星に今日も私は祈る。
できるだけ長く、女でいられますように。
死ぬまでエロが脳内から消えてしまいませんように、と。