ケニアの首都・ナイロビにある、アフリカ最大級のスラム街「キベラ」。ここで暮らす女性の多くは、貧困のために生理用ナプキンを買えず、不衛生な古い布や、毛布の端切れなどを代用している。

それは子どもたちも同じだ。

吸収力のない布の端切れでは、経血が漏れて制服が汚れてしまったり、授業中ににおいが漂ってしまったりする。そのため、生理期間中は学校に“通えない”生徒がほとんどだ。

キベラのこうした状況を知った、『エリエール』ブランドを抱える大王製紙は2018年10月、世界の女性たちの生理に伴う不安・不快を取り除くことを目指すプロジェクト「ハートサポート」を立ち上げた。SNSを使ったアクション数に合わせて生理用品を届ける企画では、開始後すぐに多くの賛同者を集め、支援上限200万件分の生理用ナプキンを、キベラなどにある孤児・貧困児童の通う学校や医療施設に贈っている。

Photo by 大王製紙

このプロジェクトを通じて知った現地の生理事情や、プロジェクトの手応え、2年目となる今回の取り組みについて、大王製紙のハートサポートプロジェクトチームに聞いた。

Laundry Box

▲大王製紙「ハートサポート」プロジェクトチーム

生きるために、生理用品は後回し

—「ハートサポート」プロジェクトを立ち上げた経緯を教えてください。

昨秋、ハートをモチーフにした生理用ナプキン「エリス コンパクトガード」を新発売しました。2019年には『エリエール』ブランドの誕生40周年が控えていたため、これらにあわせて企画しました。

「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」という当社の経営理念と、「前を向く、女性のそばに。」というエリスのブランド理念をもとに、CSR活動として、途上国の女性たちを支援することを決めました。多くの方にご協力いただきながら、当社の生理用ナプキンがお役に立てる地域として、まず、キベラを支援先に選定しました。

―キベラにおける生理用品まわりの環境を教えてください。

キベラは、食べるものに困るくらい貧しい人たちが多い地域です。

家族がごはんを食べることが最も重要なので、生理用品は二の次になってしまいます。「生理用品がなくても、女の子が生理期間中に学校に行かなければいいだけ」になってしまうんです。そのため、生理用ナプキンを使ったことのない子どもがほとんどです。
一般的には、スラム街に売られている使い古された汚い布を、ほどよいサイズに切って下着に付けて使っている子が多い。ただ、布では吸収力が弱いので、取り替えることを考えると、学校には行きづらいんです。

先生方によれば、狭い教室にたくさんの生徒が密着して授業を受けているので、においが漂ってしまうと、からかわられたり、それがきっかけでいじめが始まったりする場合もあるようです。

学年によってクラスの人数は異なりますが、日本の小・中学校にあたる「プライマリースクール」の8学年全体で500〜550人、多い学校では600人が通っています。その約半分は男の子。多感な時期だからこそ、生理中の約1週間は学校を休む子どもが多いようです。

―今回は大王製紙さんがサポートする形で生理用品を贈りましたが、現地で生理用品を寄付する仕組みはないのでしょうか。

残念ながら現状では整っていません。

ケニア全体では、生理用品を無償で配ろうという議論が始まってはいます。しかし、配布するようになったとして、スラム街に行き渡るのは一番最後だと思います。ほかの地域の学校でもまだ配布は始まっていないので、しばらく時間がかかると考えています。

―生理用品自体が買えない環境だと思うのですが、学校で初潮教育はしているのでしょうか。

女の子に対して初潮教育は行われています。ただ、日本も似ているのかもしれませんが、男の子はあまり理解していない状況だと思います。生理期間中に学校に通えなくなる一因もそこにあるのかもしれません。

―日本では、初潮教育で生理用ナプキンの使い方を教えてもらった記憶があります。

キベラでは、学校として「布を使いましょう」とは言いづらいので、清潔にしましょう、という話しかできないのが現状です。生理用ナプキンの代わりに布を使う場合にも、洗っていない布をみんな使ってしまうので、感染症や破傷風、膀胱炎などにかかる子が多くいます。

先生方もご自身の生活が苦しく、いつでも簡単に生理用ナプキンを分けてあげられるわけではないんです。

予想を上回る「いいね」に支援先を拡大

—2018年10月にプロジェクトが始まって、上限である200万件の「いいね」を集めました。

もともと100万件を見込んでいたのですが、反響が非常に大きかったため、上限を200万件に設け直しました。

内訳として、生理用ナプキン200万枚のうち、受け入れ可能な量の127万6782枚をキべラに届けています。残りの72万3218枚は、ほかにお役に立てる地域がないかを探し、同じアフリカの別地域で調整しています。

—プロジェクトに参加した方からはどのような反響がありましたか。

このキャンペーンはテレビCMなどで告知していなかったので、当初上限として定めていた100万件は目標が高すぎるかな……と心配していましたが、多くの方に知っていただき、ご支援いただくことができました。

好意的なご感想が大半で、「アフリカのスラム街に生理用ナプキンが買えない女の子がいることに対して衝撃を受けた」という声が多くありました。また、こうした活動をしているなら当社の「エリス」ブランドを応援していきたい、というお声もいただいています。

―支援先であるキべラの女の子たちは、この取り組みをどのように受け入れていますか。

実際に生理用ナプキンが届いた時、歌って踊るくらい喜んでくれました。何度か現地に足を運んでいますが、こんなにも女の子たちが喜ぶ姿を見たことはありません。これが最上位の喜びなんだろうな……と思えるくらいに強い喜びが伝わってきました。

何よりも、「これで男の子と同じ様に毎日学校に行ける」「自信になる」と女の子たちに言っていただけたのが印象的でした。

Photo by 大王製紙

―「200万枚」あれば、およそ何人がどのくらいの期間、生理用品を使えるのでしょうか。

およそ8000人が1年間使える量です。現在はキベラにあるプライマリースクールとセカンダリースクール(日本の小学校〜高校にあたります)あわせて12校と、産婦人科をはじめとした複数の医療クリニックでの配布を実施しています。

支援先がもっと広がっていくと、2年もすれば無くなってしまう数ではあります。

Photo by 大王製紙

「負の連鎖を断ち切る」のが最終目標

―2年目となる今回は、生理用ナプキンではないものを届ける形になっていますね

昨年の「ハートサポート2018」で生理用ナプキンは一旦お届けできているのと、配り終わらないうちに追加で送ってしまっても在庫がたまってしまうと思い、このような形にしています。

▲今年の支援内容(Photo by 大王製紙)

基本的に、「生理に近いもの」から支援させていただく計画です。プロジェクトを進める中で、「下着」に問題がある女の子がいることもわかりました。生理用品を使いたくても、それを付ける下着がなかったり、下着を持っていても破れていたり、ゴムが伸びていて内股で歩かないといけなかったりする子がいます。

それに「石鹸」。生理中は身体をきれいにしたいと思うけれど、洗濯用石鹸しか持っていない家庭が多いんです。当然、洗濯用石鹸は身体を洗うためのものではないので、肌が荒れてしまったり、鼻水が止まらなくなったり、目が充血してしまったりします。でも、身体を清潔にしたいと思い使ってしまう子もたくさんいるのが実情です。

「トイレットペーパー」も大切です。現地の皆さんは古新聞を揉んで、用を足した後にそれを使っています。でも古新聞は汚れていて、決して清潔ではありません。

物資での支援としては、このような理由でお届けするものをセレクトしています。

Photo by 大王製紙

▲トイレットペーパーがないため古新聞を揉んで柔らかくして使用している
 
―物資以外の支援として気になったのが「ファッションショー」です。

昨年から支援先させていただいている学校に「マゴソスクール」があります。孤児や元ストリートチルドレン、虐待を受けた子、強制労働をさせられていた子のための学校です。この学校では、先生方が手作りした服を着てランウェイを歩くファッションショーを、毎年1回開催しています。

スラム街で暮らす子どもたちは、新品の服を着ることがほとんどないんです。人生で初めてきれいな服を着るのがそのファッションショーであることも多いのですが、きれいな服を着てランウェイを歩くと、本当に、人が変わったかのように自己肯定感が上がることが先生方の経験上、わかっているそうです。

でも、ファッションショーと生理が重なると、先生方が用意してくれた服が汚れてしまいます。そうした事情を踏まえて、昨年のプロジェクトでお届けした生理用ナプキンを使っていただくことで、より多くの女の子が自信を持ってランウェイを歩けるだろうという話をして、ファッションショーの運営費用に関しても支援の対象にさせていただきました。

―服は先生方の手作りなんですね。

はい。女性の先生方は、普段から身ぎれいにしていることで生徒たちの見本になる、とおっしゃっています。先生方もキベラにお住まいなので、金銭面は苦しいけれど、工夫をしてきれいな服を着ています。

子どもたちの周りには、アルコール中毒だったり、やむを得ず売春婦として生計を立てている大人も多い。そんな中で、身ぎれいにして、ほかの選択肢があることを見せられる大人がいることが重要だとおっしゃっています。

▲普段から身なりを整えている先生たち (Photo by 大王製紙)▲ファッションショーでは先生お手製の新しい服を着てランウェイを歩く(Photo by 大王製紙)

―サポート内容として、「女性教諭の雇用」もありました。

先生の数が足りていないわけではないのですが、男性教諭が割合として多い中、女性教諭のほうが相談しやすい実情があります。それは、ケニアの古い価値観として「女の人は男の人に話しかけるべからず」といった考え方があるからです。

最近の若い人たちの考え方は少しずつ変わってきているようですが、授業中は別として、男女問わず生徒が個人的な悩みを相談したい時に、男性教諭に自分から話しかけるのが難しいそうです。そのため、女性教諭が増えたほうが、生徒の悩みを吸い上げる機会が増えると考えています。

—「ハートサポート」プロジェクトの最終目標を教えてください。

プロジェクト開始時に「負の連鎖をなくしたい」という思いがありました。

生理になっても生理用品がない、生理用品を買いたいけどお金がない、学校に行きたいけど学校に行けない、結果として、将来の就職や経済的自立が不利になってしまう——。でもそうなってしまったら、その女の子たちの子どもが、また同じ悩みを抱えて、同じことを繰り返してしまうかもしれない。その「負の連鎖」をどうにかして断ち切りたい思いがあります。

ナプキンをはじめとする物資で支援していく一方、「ファッションショー」で自信をつけてもらったり、「職業訓練プログラム」で働き方を考えてもらったりするなど、物資以外の面でもサポートすることで、「連鎖」をより良いものに変えていきたいと考えています。

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取材・文:西本美沙、糸屋の娘

 

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