『39歳からのボクの不妊治療アドベンチャー』、この連載では7回にわたって僕と妻・りえちゃんの不妊治療奮闘記をお届けしてきました。

32歳で400万円もの借金をこさえた僕に、それでも「あなたの子どもが産みたいの」と言ってくれたりえちゃんと結婚。しかし7年間子どもを授かることはなく、39歳から不妊治療を始めました。

同い年のりえちゃんは、卵子の老化に怯え苦しみ、2度の流産という悲しみを経て、42歳になる年に第一子となる男の子を産んでくれたのでした。

これまでは、その紆余曲折の物語をお伝えしてきましたが、最終回となる今回は「僕がどんなことを思い、考え、不妊治療に臨んだのか」について書いてみたいと思います。

いま不妊治療に悩んでいる誰かの参考になれば幸いです。

一喜一憂してはいけない

まず不妊治療で絶対にしてはいけないのは、「一喜一憂」すること。連載本編でも繰り返し書きましたが、僕たちは妊娠への道のりが驚くほど遠く感じました。

Photo by Angela Compagnone on Unsplash

例えば体外受精なら、採卵から受精卵凍結に至るまで「分割確認」など3つの関所をクリアしなければなりません。

そして胚移植に成功すると、今度は「ホルモン値確認」や「着床判定」、最終的な「心拍確認」などの関所がある。その都度、クリニックから告げられる合否に、いちいち「やったー!」「今回は残念だった」などと心を震わせていては身が持ちません。

ですから「合格です」と言われるたびに、「ほーん」「でも次でダメになるんでしょ……」くらいのテンションで過度に喜ぶことをやめます。なぜなら期待しすぎたゆえ悲しい結果に終わると、メンタルがズタズタになるから。

とはいえ、関所をクリアし次のステップに進めたのに「でも次ダメなんでしょ……知ってる……」としか思えなくなると、それはそれで何のために不妊治療をやってるのかワケがわからなくなってしまいました。

そんな状況から僕がどう脱したかというと、「妊活をたしなむ」という心持ちに変えたことです。それからは心を持ち直すことに成功しました。「お華をたしなんでまして」といった具合に「妊活をたしなんでまして」とすれば、だいぶ心が軽くなるはずです。

真っ暗なトンネルを、ふたりで歩いていくために

僕ら夫婦は結果的に約2年半の妊活の末、子どもを授かることができました。しかし神様から「あんたら2年半後にできるで。ほな、頑張って」と言われたわけではありません。ですからその2年半間というのは出口の見えない真っ暗なトンネルのなかを、夫婦ふたりでとぼとぼと歩いている感覚でした。

真っ暗なトンネルですから、ふたりの歩幅がずれてしまうと、相手を見失い、いつの間にか別々にトンネルを歩いている状況に陥ってしまいます。これはとても危険です。

最初は「ふたりで頑張ろう」と入ったトンネルなのに、「夫が協力的でない」「妻はいつも不機嫌」とバラバラになってしまったら、それこそ「妊活離婚」にもつながりかねません。

不妊治療という真っ暗なトンネルのなか、ふたりが離れ離れにならないためにも、互いに手を取りあう必要があるのです。

Photo by Dương Hữu on Unsplash

男にできることは、山ほどある

「妊活において男にできることはない」と考える男性もいます。これは半分は当たっているかもしれませんが、半分は間違っていると僕は思います。そりゃ「治療」に限っていえば、よきタイミングに元気な精子を提供する以外、男にできることはありません。

しかし妊活とは、治療のみならず生活全般を含むのだと僕は理解しました。現在は自営業の妻ですが、不妊治療をしていた当時は会社員だったため、勤務時間のあいだを縫ってクリニックに通っていました。時間の調整が本当に大変そうでした。

さらに、ホルモン注射を自分で打つなど肉体的な負担も大きい。さまざまな努力を積み重ねた末に、流産したこともありました。

僕は妻の負担をできるだけ軽くするために、炊事・掃除・洗濯などほとんどの家事を担ってきました。毎回クリニックに行く必要もなかったのですが、必ず一緒に行って待ち時間には彼女を笑わせました。

このように「治療以外」の部分で、男にできることは山ほどあると思っています。

Photo by Annie Spratt on Unsplash

どっちに転んでも、大好きな人に恨まれて死ぬのだけは避けたい

なぜ僕がそこまでできたかというと、単純に妻のりえちゃんが大好きだから。大好きな人が「妊活を頑張る」というのなら、それを精一杯支えたいと思っていました。

「この人は妊活に協力してくれなかった」とりえちゃんに恨まれて人生を終える、それだけは絶対に避けたいところ。

変な話、男が妊活に非協力的だったとしても無事に授かれば、結果オーライ。「協力的でない」ことがそこまでクローズアップされないでしょう。でも最終的に子どもができなかったら……。

パートナーが協力しない、しかも妊娠もできなかった。こうなったらもう最悪です。一生恨まれるかもしれません。

たとえ子どもができないまま妊活が終わったとしても、「あのとき彼はご飯を作って支えてくれた」という記憶が残れば「子どもがいなくても、この人とならふたりで生きていける」と思ってもらえるんじゃないか。

Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash

「どっちに転んだとしても、りえちゃんに嫌われるのだけは避けたい」——それが僕の本音でした。

妊活中のすべての人へ。ふたりで歩めば悪いことばかりではない

妊活は、夫婦の愛情を推し量るリトマス試験紙でもあるように感じます。不妊治療はふたりで歩む治療であって、その負担を女性ひとりが背負うのは絶対に間違っています。

もしつらいと感じているのであれば、パートナーに気持ちを素直に伝えてみてください。ご自身の気持ちを最優先に。

ふたりが笑顔で妊活を乗り超えられることを祈っています。

妊活はアドベンチャー。悪いことばかりじゃないですよ。

村橋ゴローさんの連載全8回はこちら

夫婦ふたりの幼少期とふたりの間に生まれた赤ちゃん(写真:本人提供)

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