「恋愛ってしなきゃだめ?」、「つきあったらセックスしなくちゃいけないの?」、「セルフプレジャー、毎日やってもいいですか?」——人には相談しづらいかもしれない性に関する悩みに寄り添う、高校生向けの性教育パンフレットが2021年5月に公開された。

「#つながるBOOK」は、「恋愛編」「SEX編」「月経編」「妊娠編」「性感染症(STI)編」の項目別に情報が得られるほか、いざというときに匿名で相談できる窓口の連絡先や、よりくわしい情報へのアクセスも紹介されている。

「#つながるBOOK」より

<なお本書は令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)により制作されたもの>

また、自分の性に関することについて自分で決められる権利「SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利)」に基づいて作られたそう。

公式ウェブサイトではWeb版を閲覧できるほか、PDF版を無料でダウンロードできる。

「#つながるBOOK」はいかにして生まれたのか。制作者のひとりで、本書を監修した産婦人科医の高橋幸子先生に話を聞いた。

高橋幸子先生

1人で悩みを抱えるすべての人が、欲しい情報に手を伸ばせるように

ーー#つながるBOOKのタイトル「つながる」に込めた想いを教えてください。

困ったことがあったら、誰でもいいから、誰かには「つながって」ほしい、という想いです。インターネット上の情報は玉石混交です。そんな中でも、信頼できる情報源につながってほしい。困ったときは周りの人につながってほしい。

つながる相手は、必ずしも大人でなくてもいい、友だち同士でもいいんです。一人ひとりが正しい知識を持っておくことで、困ったときに助けてあげられると思っています。だから表紙のイラストの吹き出しの中にも、つながってほしいものとして、友だちも入れました。

「#つながるBOOK」より

ーー限られたページ数の中に、実践的で役立つ情報がぎっしりと詰まっていて驚きました。構成はどのように決められたのでしょう?

今回はコロナ禍における高校生の妊娠に対する不安と、性知識の少なさに対応するためのパンフレットというコンセプトで作成しました。

思春期の子たちから電話相談を受けている助産師の櫻井裕子さんから、今の若者が抱えている問題点を挙げてもらい、「セックスに至るまでの段階」についてのページを大きく割きました。

さらに、養護教諭を養成する久保田美穂先生が、養護教諭を目指す大学生の目線も活かして、避妊のみならず、「意図しない妊娠に出会った時に知っておきたいこと」をくわしく紹介しました。

もちろん性教育のパンフレットなので、避妊と性感染症の話題もありますが、性感染症について扱っているのは、ほんの1ページです。

作成の過程では医師・助産師・養護教諭・教育学の多職種のメンバー同士が意見をバンバンぶつけ合いました。

とくに教育学者であり、国際セクシュアリティ教育ガイダンスの翻訳者でもある田代美江子さんの視点から、包括的な内容にブラッシュアップされ、その議論の過程は録音して世に出したかったと思うほど、我々にとっての学びの時間でもありました。

文言ひとつをとっても多様性を取り入れた言葉選び、イラストの表現など、細部にまでこだわりました。

ーー#つながるBOOKの対象を高校生向けに絞ったのはなぜですか?

単純に、扱っている内容が中学校の学習指導要領の範囲を超えるからです。

今から20年以上前に、「思春期のためのラブ&ボディBOOK」という、幻の性教育教材が中学校で配布されましたが、ピルの副作用に関する記載が漏れていたため、回収されてしまったことがありました。

「#つながるBOOK」はすべての高校に配布されてほしいと強く願っています。実は私が中学校で講演する際には、そもそも学習指導要領を超えた内容を講演内でお話しており、#つながるBOOKの内容とも一致しているため、校長先生の許可をいただいて、中学3年生にも配布しています。

「#つながるBOOK」より

自分のカラダに関することは「選び取っていいんだよ」

ーー現在の高校生の性教育に足りていないと思う項目は何でしょうか?

高校の保健の教科書では、避妊の話は出てきますが「性的同意」や「性の多様性」、「妊娠したときにどうすればよいか」などはまったく扱われていません。これらはどれもとても大切な項目だと考えます。

ーー本書は性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の概念に基づいて作られているとのこと。現代の日本では制度面や医療面でなかなか浸透していないと指摘されることも多いSRHRですが、性教育の面ではどのように扱っていますか?

外部講師として中・高・大学生に性教育のお話をするときには、まずSRHRの概念について簡単に触れて「みんなには選び取る権利があるんだよ!」と伝えます。

参加した生徒たちから寄せられる感想の中に「選び取る権利があることが分かった。そのためには、どんな選択肢があるのかを知っておくことが必要で、だから知識が必要なんだとわかった。もっと勉強したい」というものがあり、嬉しくなりました。

「#つながるBOOK」より

すべての高校生に配布できる社会を目指して

ーー紙の冊子ではなくデジタルで展開されていますが、どのように活用してもらいたいですか?

学校で印刷配布していただいたり、タブレットを使っている学校では、学校のタブレットにダウンロードしてもらうのでもいいかと思います。Web版のリンクをお子さんのLINEに送ってみることも推奨しています。

ーー今後のプランや展望などがあれば教えてください。

無料公開とはいえ閲覧可能な状態にしておくだけでは、性に関する問題意識が高く、情報感度の高い子しか見てくれないのではないかと思います。私たちの想いとしては、やはり紙のBOOKでひとり一冊を高校生に手渡したい。

1番いいのは、今回研究で作成した厚労省から文科省に印刷配布をお願いできることです。今のところそのめどは立っておらず、各地方自治体での印刷を検討していただいている状況です。

しかし現在、2つの政令指定都市と2つの自治体で、全高校生に配布する計画が進んでいます。今後は配布する範囲をより広げていけたらと思っています。

1万部印刷すれば1冊20円でできるものが、100部だけの印刷になると1冊あたり350円ほどかかってしまう。ぜひ自治体でまとめて印刷して、一斉に高校生に配布してほしいです。

日本全国で高校生の年代は約360万人なので、一人20円として、たったの7000万円です。

高校生に、若者に、お金を使ってくれる政治のあり方を望みます。

また、100冊単位でほしいという人や学校にも対応できるように、こちらでまとめて印刷して、実費を負担していただいて入手する方法も検討しているところです。

「保護者からの要望」が学校の性教育を動かすもっとも簡単な方法だと言われています。

保護者の皆さまから地元の教育委員会や男女共同参画局、学校などに「生徒に#つながるBOOKを配布してほしい」と声を上げてみませんか。子どもたちの健やかな未来のために。

(構成:神山かおり)

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