妊娠・出産を経て、体が変わってしまうことで、性行為の満足度は下がってしまうの?そもそも、いつからセックスやセルフプレジャーを再開していいの?
今回は、産前・産後のセックスや性行為について、産婦人科医師・池田裕美枝先生に聞きました。
ーー 妊娠中の性行為で気をつけることがあれば教えてください。
妊娠中も、性行為して大丈夫です。
オーガズムに達すると、オキシトシンが出るので、子宮収縮があります。ただ、この子宮収縮は、陣痛に繋がらないものなので、妊娠中でも安定した状態であればセックスをしても問題ありません。
ただし、切迫早産の可能性がある人の場合は異なります。
切迫早産の要因は、子宮が収縮しやすい、子宮口付近に炎症がある、陣痛などの下腹部痛はないが子宮頸管が開いてきてしまう子宮頸管無力症など、さまざまです。
切迫早産で、少しでも子宮収縮をしないほうが良い場合には、オーガズムを得る性交渉や自慰行為は控えましょう。
まずは主治医に相談してください。
ーー 産後のセックスはいかがでしょう?
産後は、悪露(おろ)がありますが、それが少なくなっていれば基本的には大丈夫です。
わたしの場合は1カ月検診のときに、「性交渉していいですよ」と伝えています。全ての医師が伝えているかはわかりませんが、気になる場合は主治医にきいてみてください。
これは、帝王切開と経膣分娩も同じ。帝王切開と経膣分娩で産後にやっていいこと、やらないほうがいいことは、基本的には同じです。
それから産後であれば、腰痛や骨盤底筋痛の問題もあります。
ーー 骨盤底筋痛ですか。
私の場合も産後しばらくセックスをした後に痛みがありました。当時、原因がわからなかったけれど、うずくまるほど痛かった。
パートナーと互いに理由もわからなかったので、しばらくやめておこうと話し合ったんですが、後に理学療法の講習会で、それが骨盤底筋痛だったことがわかったんです。
普段から痛みがあったはずなのに痛みが慢性化していたので気づいていなかった。講習で医師に言われて、そうだ私痛かったんだと認識したんですよね。
ちゃんと診察されないとわからない、気づけないこともあると実感しました。
私の場合は、その講習会で理学療法を受けて直してもらったのですが、もし痛みを感じたときに相談できる先生が近くにいたら、「痛いです」と伝えられていたら、もっと早く直してもらえていたのかもしれません。
ーー 帝王切開の痛みについてはいかがでしょうか?
お腹の創部、傷の痛みですね。実はこの痛みが1年経っても2割の方が「しょっちゅう痛む」と回答しているというデータがあります。ただ、これも諸外国ではリハビリの先生がいて、傷の癒着を防ぐ、かたく拘縮しないようなケアをしてもらえます。
ーー 日本ではなぜそのようなリハビリがないのでしょうか?
いいえ、国内でもリハビリ自体はありますし、技術もありますが、医療保険の関係で医師からは提案ができない状態です。
例えば帝王切開でお腹に傷ができますが、子宮全摘出手術も開腹手術であれば傷ができます。その後のひきつれの痛みが残っている方がいる。
そういう痛みも本来は治していけるものなので、痛みがあるなら主治医や医療従事者に相談してみるといいと思います。
大半の方は月日の経過で痛みが和らぎ、徐々に治りますが、実は、うまく痛みのケアに強い先生につながると、治るまでが短くなるかもしれません。
ーー 知らなかったです。痛みや不快感を我慢するだけでなく、選択肢をもっと知れるといいですよね。諸外国とは考え方や情報も違いそうです。
海外では、日本より痛みに敏感で、セックスの痛みがあるときには傷み止めを飲んでからセックスすることなどは一般的な気がします。
海外では経膣分娩によって骨盤底筋が緩んで、セックスの満足度が下がるなら、帝王切開にしてほしいという人たちもいますが、学術的には経膣分娩をしても影響はありません。
確かに膣内の筋肉の緊張や収縮力は下がるかもしれませんが、それとセックスの満足度が比例するわけではありません。
産後のセックスレス。原因はなに?
ーー 産後のセックスレスが不安という声も。身体的にどのような要因があるのでしょうか?
母乳をつくるのに欠かせないプロラクチンというホルモンの影響で、産後は性欲が落ちやすくなりますし、乳房の張りの不快感もあります。
また授乳をしていなくても、赤ちゃんと毎日触れ合ってオキシトシンが分泌されるので、これ以上人と肌を触れ合う気分にならない人もいます。
同時に、赤ちゃんのお世話で眠れず、体も疲れているので、性欲が高まりにくい時期ではあります。
そうなるとだんだん夫婦で触れ合うことをしなくなっていき、セックスレスになっていく傾向にあります。
ーー そうですよね…よくそのようなお話を聞きます。
日本のセックスは画一的、と指摘している研究者がいますが、セックスがパターン化しているカップルは多いようです。
例えば、「ハグが合図」となったら、ハグをしたら、あとは性行為の画一的なレールに乗って進んでいく。そうすると、挿入が嫌だからハグもしません、となってしまう。
そうしているうちに、肩を揉まれるのすら嫌だ…ということも。
挿入しないセックス、いろんなセックスがあって当たり前の文化圏にいれば、挿入して射精だけがゴールではない性交渉ができるので、「今は挿入はしんどいけれど、これならできるよ」と話せる。
産前と同じような画一的なセックスを求めるのであれば、産後のセックスは難しいことも多いと思います。
ーー セックスにもいろんなカタチや選択肢があることを知ったり、相談できる場所があるといいですよね。
まずは、相談して欲しいですね。そして、大事なのは、相手がどう感じるかより、自分がどう感じるかどうかです。
ーー 先生のクリニックでも、産後のセックスの痛みなどの相談をうけるのですか?
もちろんです。
私自身が骨盤低筋痛で悩んでいたとき、医療の恩恵を受けた1人なので、この情報や治療を他の人にも還元していきたいと思っています。私たちのクリニックでは他にも、痛い部位や傷んだ場所を同定して治療していきます。
気軽に相談してもらえたらと思っています。
ーー
後編では、子宮全摘出など婦人科疾患の手術後の性生活についてお聞きします。
後編:子宮全摘出など手術後のセックスは、いつからできる? 痛みの原因や注意点を医師が解説
執筆:nana 聞き手:Misa Nishimoto