株式会社グレイスグループは、2021年1月18日(月)より一般向けの、選択的卵子凍結保存サービス「Grace Bank」の提供を開始した。提携している複数のクリニックで採卵・凍結を行うほか、株式会社ステムセル研究所との協業で、卵子の輸送・保管を行うという。
卵子凍結とは?
卵子凍結とは、将来の体外受精を見すえて未受精卵を凍結する技術。もともとは悪性腫瘍や白血病等で抗がん剤治療や放射線療法を受ける女性患者に対し、治療前に卵子や卵巣を凍結保存しておくことで治療後の生殖能力を維持するために行われてきた。
2012年、凍結融解卵子由来で生まれた子どもに染色体異常、先天異常、および発育障害のリスクが増大することはないという見解を米国生殖医学会が発表。2014年にはFacebookがいち早く女性社員の卵子凍結費用を上限2万ドルまで補助する福利厚生制度を導入し、Apple、Google、Netflix、Uberなど数多くのテクノロジー企業、投資銀行、アメリカ国防総省などでも同様の制度の導入が進んでいる。米国生殖補助医療学会の統計によると、米国での卵子凍結の症例数は2014年の6,090件から4年間で2018年には13,275件までに急増している。
日本でも日本生殖医学会が2013年にガイドラインを発表し、健康な女性が将来の妊娠に備えて卵子凍結を行うことを認めている。
“選択的卵子凍結”とは
「選択的卵子凍結」とは、医学的な理由から妊孕性(子どもを持つ能力)の喪失が差し迫っている状況ではない女性が、将来のライフプラン実現のために実施する卵子凍結のことを指す。女性にとって妊娠・出産は規範ではないこと、またそのような風潮を醸成してはならないことを前提に、Grace Bankは英語で一般的に”Social Egg Freezing”と表記されるものを、Socialの直訳「社会的」という用語ではなく、「選択的」という女性の意志を尊重した言葉を使用している(ホームページより)。
年齢と妊孕性
採卵時の年齢により、融解・受精後の妊娠率は大きく異なるとされている。日本産科婦人科学会のデータによると、卵子融解後に卵子が生存・受精(顕微授精)して良好な受精卵が確保できた場合の1個あたりの妊娠率は以下の通りだ。
30歳以下・・・45%程度
31~34歳・・・35%程度
35~37歳・・・30%程度
38~39歳・・・20%程度
40歳以上・・・15%以下
こうした結果から凍結卵子の融解後の生存率、受精率、妊娠率を考慮した場合、Grace Bankは凍結卵子保存に際して「最低でも5個以上、できれば10個以上」を推奨している。
「Grace Bank」の利用手順
1、Grace Bankウェブサイトから申し込む。
2、Grace Bank提携クリニックで月経の1周期をかけて採卵を行う。*
3、凍結させた卵子を保管庫に輸送し、来るべき不妊治療の時まで保管。
*Grace Bankホームページによると、通例として通院の合計回数は初診で1回、卵巣の刺激を開始してから採卵日の決定までに2~3回、採卵で1回、採卵後の状態確認と結果説明で1回、合計で5~6回の通院が必要となっている。
Grace Bank提携クリニック(内定を含む、五十音順)
・杉山産婦人科 新宿(東京都新宿区)
・杉山産婦人科 丸の内(東京都千代田区)
・空の森クリニック(沖縄県島尻郡)
・はなおかIVFクリニック品川(東京都品川区)
・英ウィメンズクリニック(さんのみやクリニック)(兵庫県神戸市)
・松本レディース リプロダクションオフィス(東京都豊島区)
「Grace Bank」の利用にかかる費用
凍結卵子使用にかかる費用
・保管庫からクリニックへの液体窒素を使ったドライシッパーによる輸送費の実費。
凍結卵子の融解~受精~胚移植にかかる費用
・1周期当たり35~50万円程度(クリニックにより異なる)
凍結卵保管にかかる費用
・初期費用が10万円(税別)、毎年発生する保管費用が3万円(税別、15個まで)。
現在、収入に応じて国および地方自治体から条件付きの不妊治療補助金制度がある。また政府が2021年4月に不妊治療への保険適用の実現を進めているため、不妊治療に関する自己負担額は大幅に軽減される見通し。なお、現在のところ卵子凍結は助成、保険適用の対象にはなっていない。
「自分らしい生き方」と両立できる妊娠・出産へ
2021年には日本国内の年間出生数が80万人を割り込むと予測されるなど、年々深刻化している少子化問題。このGrace Bank事業は「年間出生数100万人の回復を目指すとともに、女性の医学的機能を理解し向き合う社会の実現を目指すもの」だとしています。
出産に対する社会的なプレッシャーや、「出産リミット」など加齢にともなう妊孕性への危惧が少なくなれば、女性の選択肢も広がるのではないだろうか。